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その7:盈進流稽古法(3)

 8月のお盆休み明けからは防具を着用し、発声はしていないものの踏み込みやコロナ以前に行っていた「面に対する出端技と応じ技」、「小手に対する応じ技」の稽古を行っている。中には、「切り返しができるようになって稽古が楽しいです」と言う、切り返し好きな女性もいる。地稽古だけはやっていないが、ほぼ元の稽古形態に戻りつつあるといってよい。

 今年の3月以降稽古ができなくなり、剣道愛好家にとっては本当に厳しく残念な6ヶ月だった。しかし、思いもよらない稽古方法を思い付いて、思いもよらない成果を導き出すこともできた。それが各種古流の「形」から「技」を選び出し、木刀で素振りを行い、一方が打ち込んで来るのに対して、「抜き」・「返し」・「擦り上げる」という木刀による「技」の稽古だった。

 特に、「技」の稽古はかなり緊張感があった。手の内が甘い人や冴えのない人は相手の頭や腕を打ってしまうので、打っていく側は覚悟が要る。実際に頭を打たれた人がいてちょっと気の毒だった。私も何度か腕を打たれた。

 この稽古では大きな成果があったのではないだろうか。相手が打ち込んでくる面や小手に対して、「鎬の使い方」や「足捌き」の要領を会得したと思う。私自身、今まで疑問だったことが、「そういうことか」とハッとしたことが幾つもあった。内緒にしておこうと思ったが、折角皆さんが半年間一生懸命稽古していたので、一つだけ紹介しておこう。

 日本剣道形五本目の「擦り上げ面」だが、打太刀が諸手左上段に構え、仕太刀が剣先を打太刀の左拳に付けた時点で、すでに擦り上げの態勢にあるということだ。打太刀が面に打ち下ろした時、仕太刀は何もしないでそのまま振り上げれば、擦り上げているのである。

とすると、私が若い頃野間道場で小川忠太郎先生や山内冨雄先生に摺り上げられて面を打たれたのは、先生たちが剣先を私の正中線からずらして面が空いているよ、と見せていたのか。それを、私は攻められて苦しくなっているから、「今だ」と思って打ち込んで行って擦り上げられていたのか。うーん、今頃気が付いても遅い。先生たちは20年前、30年前に鬼籍に入られている。「小澤博はやっと気が付いたか」と笑っていることだろう。今度は私がそれをやる番だ。 

 事の良し悪しにかかわらず、これもコロナのお蔭と言えよう。また、沈思黙考のお蔭で、ある日突然閃いた。9月12日から、「日本剣道形素振り」と勝手に命名し、小学生でも無理なく「形」ができるようになるような素振りを行っている。工夫をすれば、マイナスをプラスに変えることもできるのである。


古流から選び出した「素振り」と「技」の稽古

*木刀による素振り

1. 正面素振り2. 小手―面素振り3. 小手―胴素振り4. 左右面素振り5. 左右胴素振り6. 開き足左右面素振り7. 面―擦り上げ面素振り(表鎬)8.     同上    (裏鎬)9. 面―擦り上げ小手素振り(裏鎬)10. 面―抜き胴素振り11. 面―返し胴素振り12. 小手―擦り上げ面素振り(裏鎬)13. 小手―擦り上げ小手素振り(裏鎬)

*木刀による「技」の稽古

1. 擦り上げ技① 面―擦り上げ面(剣道形五本目―一歩下がりながら擦り上げる)②   同上   (その場で摺り上げる)③   同上   (右斜め前に開きながら擦り上げる)④   同上   (左斜め前に開きながら擦り上げる)⑤ 面―擦り上げ小手(左に開きながら擦り上げる)⑥ 小手―擦り上げ面(その場で摺り上げる)⑦ 小手―擦り上げ小手(剣道形六本目―左に開いて擦り上げる)

2. 抜き技① 面―抜き胴(右斜め前に送り足)② 小手―抜き面(その場で抜く)

3. 返し技① 面―返し胴(右斜め前に送り足)② 小手―返し面(その場で返す)

4. 切り落とし① 面―切り落とし面

(重要事項)1. 鎬の使い方2. 足の捌き方3. 体の捌き方4. 後ろ足の引き付け5. 相手を想定すること

 コロナが終息して通常の稽古に戻った時、こんな稽古をしたなあと思い出してくれたら嬉しい。

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写真:令和2年(2020)5月30日撮影。
 緊急事態宣言解除後の稽古再開に備え、道場の清掃と「新しい稽古法」の予行演習を行った。


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