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松籟庵便り

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盈進義塾興武館ホームページで連載している、館長小澤博の風まかせ筆まかせ読み切り剣道コラムのアーカイブスです。
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#溝口派一刀流

はじめに:松籟庵(しょうらいあん)

 最近、私の若い頃を知る人には信じられないほど早起きになり、小野鵞堂先生の『三体千字文』を手本に手習いをしていた。その中にこんな文章があった。 「索居閑處 沈黙寂寥 求古尋論 散慮逍遥」(p.127) 訳すと以下の通りになる。 「自分からタイミングよく勇退した後、閑静なところに移り住み、毎日を物静かに暮らして世の中のことにあえて口に出さず、穏やかに過ごしている。古書を繙いて、昔の人の残したよい事をあれこれ論じたりして、煩わしい世事から心を解き放し、山野をさまよい歩きなが

その17:盈進流稽古法(4) 大いなる時代遅れは…

 刊行早々の宮城谷昌光著『孔丘』(文藝春秋)を一気に読んだ。名作と言われる小説の中には名言が書かれているものだと思う。たぶん作家の思いがその一言に込められているのだろう。感じ方は人それぞれ違うと思うが、私はこの一言にドキッとした。  「大いなる時代遅れは、かえって斬新なものだ」(pp.359)  興武館で稽古している古流の稽古は、今の「競技剣道」から見ればまさに「時代遅れ」そのものだからである。           *  30代の頃、父と食事をしている時によく古流の話

その1:盈進流稽古法

 盈進義塾興武館(以下、「興武館」)の会員で、現在新型コロナウイルス感染症対策分科会々長の尾身茂氏は今年一月から多忙のため稽古を休んでいる。読売新聞8月8日の朝刊第一面に、「感染状況4ステージ」という見出しと共に、西村経済再生相と並んで尾身氏が苦渋の表情を浮かべて(マスクをしていたが、その内側には苦渋の表情が見て取れる)写っていた。終息はいつのことになるのやら……。東京は8月初旬から連続4日間、400人を超える感染者が出ている矢先の新聞報道だった。           *