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その人に返さなくてもいいもの

借りたものは、いつか返さなくてはいけない。返さなかったら、「借りパク」になる。

しかし、もらっても、なかなか返せないものがある。愛である。

たいていの場合、愛をくれる人っていうのは自分より一歩か、もしくはずっと先を歩いている人だ。その人にすぐに愛を返せない、この無力さを皆さんは味わったことがあるだろうか。

そう、私たちは時に本当に無力だ。どれだけその人に感謝していても、愛を伝えたくても、自分の持ち合わせでは、その人になにも与えられないことがある。

私の母に言われた言葉で、大事にしている言葉がある。母は、私の今の価値観を作ってくれた大切な人だ。

「もらった愛をその人に返そうと思わなくていいの。あなたが与えられる人に、もらった愛を渡せばいいの」

その言葉を聞いた時、幼心に「申し訳ない」という感情を抱いたことを覚えている。その申し訳なさは大人になるにつれ、不器用さと相まって、自分の心のなかにいつも渦巻いている。

母だけではない、今まで関わってきたほとんど全ての人に、大なり小なり愛をもらってきた人生である。今更、連絡をとることもない昔の友達。もう亡くなってしまった人もいる。もどかしい気持ちで心はいつもチクチクしている。

だから人に優しくできる。私は最近そう思う。世の中にはけっこう疲れている人が多い。そういうなかで、私にできることってなんだろうと思ったときに、機転をきかせてちょっとの癒しを届けることだと思って、生きていたりする。そんな高尚なものではないが。

それは、自分との距離が遠い人ほど簡単で上手くいく。クスッと笑わせてあげたり、そんくらい大丈夫よ〜と言ってあげるだけでいい。

だけど、本当に大切な人に私はちゃんと愛を渡せているかと聞かれると、ほんとうに自信がない。人間、不器用にもほどがある。至極簡単なことなのに、いろんな社会の仕組みだったり、自分の中のつまらないプライドや恐れが邪魔をする。

それでも時々たまに、素直になれたとき、愛を渡せることがある。そうすると渡したはずなのに、すごく幸せな気持ちになっているのだから、まったく愛は無限で、愛にはかなわないなと笑ってしまうのであった。

エチカ



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