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PULSEにまつわる言葉のマトリクス

先日こんな報道がありました。

「デンソーの燃料ポンプ不具合、17回リコールで268万台に影響…走行中にエンストも
2023/11/03 19:31
 自動車部品大手デンソーが製造した燃料ポンプを搭載した車両について、自動車メーカー各社によるリコールの届け出が2020年以降、計268万台に上ることが国土交通省やデンソーへの取材でわかった。
燃料ポンプはガソリンタンク内の燃料をエンジンに送る部品。燃料ポンプの不具合でエンジンの始動不良・不能や加速不良などに加え、走行中のエンストも起きているが、事故の発生は確認されていないという。」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231103-OYT1T50139/

ここで、注目したい単語が出てきました。

「国交省の指示などを受けた各社の調査で、デンソー製の燃料ポンプ内の樹脂製インペラ(羽根車)が一定条件下で燃料を吸って膨らみ、作動不良を起こすことがわかった。」

「インペラ」がその単語で、英語のつづりはimpellerです。

これは分解すると「im+pell+er」であり、「接頭辞+核となる部分+接尾辞」という構造を持っています。

そうした言葉はこれまでの投稿で何度も登場してきました。前回のpresentなどもその一例です。

職人が工具本体に付けるアタッチメントを交換してそれぞれの用途に使うように、また、女児が人形を着せ替えして色々な趣向を楽しむように、接頭辞や接尾辞を付け替えることで様々な単語が生まれ、使われます。

この言葉を通して、その有様を見ていきましょう。

ラテン語pellere

最初に「核となる部分」の元であるラテン語の動詞pellereを確認します。

これは英語で言えばdrive(駆る/追い立てる)とかpush(押す/推す)などの意味になる動詞です。

(インペラは「ガソリンタンク内の燃料をエンジンに送る」装置の一部だそうですから、driveやpushの感覚を持つ言葉であるのもうなずけます)

pellereは動詞の基本形ですが、これの過去分詞はpulsusとなります。

この投稿でこれからimpellerの仲間たちを見ていくにあたり、登場するそれぞれの単語の核は基本形に由来する「pel(l)」か、過去分詞由来の「puls」の2種類があることをあらかじめ知っておいてください。

pulse

これは過去分詞由来の核を使った英単語であり、まずは「脈拍」という用法をご覧ください。

「The doctor listened to his breathing and checked his pulse.
(医師は彼の呼吸を聴き、脈を取った)」
(ロングマン現代英英辞典)

ポンプが燃料などを送る様子は、心臓が血液を押し出す様子と相似していますね。

以下の2例は動詞用法です。

Her heart pulsed with pleasure.
彼女の胸は喜びに打ち震えた
The exercise sent the blood pulsing through his veins.
その運動で血が彼の血管中で脈打った」
(研究社新英和中辞典)

ごく短時間の電気信号のことも、そのままカタカナ語として「パルス」と呼び習わしています。

「パルス・ジェネレータ」はそうしたパルスをgenerate発生させる機器ですが、その多岐にわたる用途の1つに心臓ペースメーカーがあります。

一定のパルスを発生させて一定のリズムを作り、それが心臓を刺戟(しげき)して正常に鼓動するように助けてくれる装置です。

また、地震に関連して「キラー・パルス」という言葉を耳にすることがあります。

「キラーパルスとは、地震の揺れの周期のうち、1〜2秒周期のやや短い震動のことを指します。(中略)
一般的に短周期の揺れは、たとえ小さな揺れであっても、建物・設備と共振することで建物への被害が大きくなると考えられています。なかでもキラーパルスに当たる“やや短周期”は、低層の家屋や木造住宅が被害を受けやすいとされているため、地震の際には特に警戒が必要です。」
株式会社LIFULLのサイトより)

接頭辞in-を付けて

基本形由来の核

さて例の「インペラ」ですが、その接尾辞は、例えば動詞playにつけると名詞playerになる、よく知られた-erですので、説明は不要でしょう。

それを取り除いた動詞impelを見ます。

「im + pel」という見た目ですが、im-は元々in-であり、後に続くpの影響を受けてim-に変化したものです(同化)。

pの音を出すときのことをイメージしていただきたいのですが、上下の唇を合わせたところから発音を開始しますね。

その形に円滑に進むことができるように、in-の方も、唇を合わせて発するmの音に調整してim-になってしまうわけです。

ラテン語としてのinは英語のinのみならず、onの意味になることもありますが、impelの場合は「前に」という方向性を示す用法のonのニュアンスをpelに付け加えているものと思われます。

「The strong wind impelled their boat to shore.
その強風で彼らのボートは岸まで押し流された」
(研究社新英和中辞典)

こうした物理的な話だけではなく、心理的な事柄にも使います。

「He was impelled by strong emotion.
彼は激しい感情にかられた
Poverty impelled him to commit this crime.
貧しさのあまり彼はこの罪を犯した」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

過去分詞由来の核

impulsionという言葉がありますが、「im + puls + ion」という構造をしていて、接尾辞の-ionは動作を表す名詞を作る働きを持っています。

impelの名詞形に相当しますが、前項の「ボート」の例文に対応する「推進」、「激しい感情」の例文に対応する「衝動」、「貧しさ」の例文に対応する「理由」といった意味合いの言葉です。

そのimpulsionより有名なのが接尾辞の無いimpulseですが、意味としては似たようなものです。

「react to an impulse
刺激に反応する」
(研究社新英和中辞典)

「He felt [controlled, resisted] an impulse to take her hands.
彼は彼女の手を握りたいという衝動にかられた[を抑えた]」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

尚、我が国でも固有名詞に取り入れられている例がいくつかあり、中でも知られているのはお笑い芸人コンビの「インパルス」や、航空自衛隊の「ブルーインパルス」でしょう。

3年前にブルーインパルスが都心上空を飛んだことがありました。「医療従事者等に対する敬意、感謝を示すため」に行われたものです。

普通私たちがそうした飛行を目にするのは「地上から見上げて」ということになりますが、その当時ブルーインパルスに随伴飛行した飛行機から撮影した「ほぼ同じ高さから目線」の映像が公開されています。

『令和2年5月29日 新型コロナウイルス感染症へ対応中の医療従事者等に対する敬意、感謝を示すためのブルーインパルスによる飛行』
https://www.youtube.com/watch?v=tP6CFDQTrVs

また、それよりももっと珍しいと思われるのは「上から見下ろす視点」での映像であり、報道各社が撮影したものが上記動画の関連動画で出てくると思います。

接頭辞ex-を付けて

それではアタッチメントをex-に付け替えましょう。

基本形由来の核

ex-は英語で言えばoutの意であり、先程申し上げたようにpelの方はdriveですから、(語順は変わりますが)「drive out追い出す」ということになります。

「expel air from the lungs
肺から空気を吐き出す
We managed to expel the enemy from their position.
どうやら敵を陣地から駆逐できた」
(研究社新英和中辞典)

こちらは物理的な話であり、次の例文は組織から追い出すという件です。

「His son was expelled from school for attacking teachers.
彼の息子は教師への暴行で放校された」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「追い出す」ですから「どこから追い出すのか」というのが話題に上りやすいわけで、それを述べるのがfromの句であり、上記3つの例にも見られます

3例目には加えて「何を理由に追い出すのか」を表す「for + ing形」が入っています。

過去分詞由来の核

expulsionという名詞形がそれで、やはりfromと結びつきやすいようです。

「the expulsion of a corrupt politician from his party
悪徳政治家の政党からの除名」
(研究社新英和中辞典)

動詞expelでは直接目的語だった「追い出される人」がこちらではofの句で示されていることに留意してください。

接頭辞dis-を付けて

基本形由来の核

dispelの接頭辞dis-は英語のawayに当たるもので、ということは「drive away追い払う」がそのココロになります。

「Light poured into the hall, dispelling the shadows.
(光が玄関に流れ込み、暗がりを追い払った)」
(ロングマン現代英英辞典)

より抽象的に、恐怖を「払う」ことや疑いを「晴らす」ことにも使います。

「His cheerful laughter dispelled her fears.
彼の陽気な笑い(声)が彼女の恐れを吹き飛ばした」
(研究社新英和中辞典)

「We want to dispel the myth that you cannot eat well in Britain.
(英国は飯がまずいという社会通念を我々は打ち払いたい)」
(ロングマン現代英英辞典)

接頭辞re-を付けて

基本形由来の核

repelの接頭辞re-は英語のbackに当たるので、「drive back追い返す」が原義です。

「The army was ready to repel an attack.
(軍は攻撃を撃退する準備ができていた)」(同)

「寄せ付けない」というニュアンスの例がこちらです。

「This cloth repels water.
この布は水をはじく」
(研究社新英和中辞典)

「a lotion that repels mosquitoes
(蚊を寄せ付けない水薬)」
(ロングマン現代英英辞典)

接尾辞entの付いた形「repellent」はこの流れの形容詞として使います。

「water-repellent cloth
防水生地」
(研究社新英和中辞典)

「a mosquito-repellent spray
(蚊よけのスプレー)」
(Merriam-Webster)

更に名詞にもなります。

「To protect people from being bitten they must be educated and persuaded to use insect repellents and mosquito nets.
(虫に刺されることから守るため、人々に教育を施して昆虫忌避剤や蚊帳を使うように説かなければならない)」
(Longman)

動詞repelには、「人以外のもの」を主語にして、それが直接目的語の「人」を「不快にさせる」という構造の使い方があります。

「The smell repelled him.
(その臭いは彼を不快にした)」(同)

ここにも形容詞repellentの出番が。

「Everything about him was repellent to her.
彼のことは何から何まで彼女にはいやだった」
(研究社新英和中辞典)

やはり「人以外のもの」が主語になっていて、不快な思いをする「人」はtoの句で表現されています。

過去分詞由来の核

repulsionがその流れの名詞形となります。

「My first feeling was one of repulsion.
私が最初に感じたのは嫌悪感だった」(同)

接頭辞com-を付けて

基本形由来の核

動詞compelの接頭辞com-は、この場合は「完全に」という含みを持っています。

「完全に押す」⇒「押し込む」⇒「強いる」といったニュアンスです。

「No one can compel【obedience】.
だれも人に服従を強要できるものではない」
(研究社新英和中辞典;カッコは引用者が付けた)

ここで直接目的語になっているものは、【何を強いるのか】です。

一方次のような構造の使い方もあります。

「compel《a person》to【submission】
人を服従させる」(同)

こちらでは直接目的語は《誰に知るのか》であり、【何を強いるのか】はtoの句で示されます。

【何を強いるのか】がto不定詞の場合もあります。

「Her illness compelled《her》to【give up her studies】.
彼女は病気のため勉強をやめなければならなくなった」(同)

この動詞の現在分詞に由来する形容詞compellingもついでに見ておきましょう。

「a compelling order
うむを言わさぬ命令」(同)

こうした否定的な「強制的な」といった意味合いの他、「人を動かさずにはおかない」「注目せずにいられない」などの良い意味合いで使う場合もあります。

「a compelling story
非常におもしろい話
compelling argument
説得力に富む議論」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

過去分詞由来の核

compellingと同じように「人をcompelするような」という意味の言葉を、形容詞を作る働きの接尾辞-iveで作ることもできます。

このcompulsiveは主に「何かに駆り立てられたような」「強迫観念にとらわれた」といった含みで使われます。

「a compulsive drinker
酒を飲まずにいられない人」(同)

名詞を作る接尾辞-ionを付ければcompulsionです。

そのものずばり「強制」を表す他、抑えがたい「衝動」をも意味します。

「Owners are under no compulsion to sell their land.
(地主たちは自らの土地を売却することを強制されてなどいない)
Leith felt an overwhelming compulsion to tell him the truth.
(リースは、彼に真実を言いたいという、抗しがたい衝動を覚えた)」
(ロングマン現代英英辞典)

「▲▲の性質がある」といった意味合いを付け加える働きを持つ接尾辞-oryを使った形容詞がcompulsoryです。

「compulsory execution
強制執行
compulsory measures [means]
強制手段」
(研究社新英和中辞典)

「義務教育」という言葉の持つ「義務的な」という性質も英語ではこの形容詞で表現します。

「Compulsory education was introduced in 1870.
(義務教育は西暦1870年に導入された)」
(Longman)

接頭辞pro-を付けて

基本形由来の核

動詞propelの接頭辞pro-は英語のforwardに当たるので、「前に押す」というのが原義となります。

「The ship is propelled by nuclear power.
その船は原子力で推進される」
(研究社新英和中辞典)

この動詞に-erを付け加えれば「推進させるもの」であるpropeller、すなわち「プロペラ」となりますね。

飛行機は「プロペラ機」と「ジェット機」に大別されますが、現代のたいていのプロペラ機もジェット機同様にガス・タービンを動力源としてプロペラを回しています。

turbineに由来する「turbo」と「propeller」を合成した言葉である「turbopropターボプロップ」というエンジンを搭載した飛行機のことを「ターボプロップ機」と呼びます。

動詞propelの話に戻しますと、より抽象的な「推進」である、人を「駆り立てる」という使い方も見られます。

「Company directors were propelled into action.
(企業の重役たちは行動へと駆り立てられた)」
(ロングマン現代英英辞典)

過去分詞由来の核

この核に接尾辞-ionを取り付ければpropelに名詞形「推進」に、-iveを取り付ければ形容詞形「推進力のある」になるのはご想像の通りです。

「jet propulsion
ジェット推進
propulsive force
推進力」

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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