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「STOCK持っていますか?」「え?どのSTOCKのことですか?」

7月末、こんな報道がありました。


「農林水産省は30日、6月末時点のコメの民間在庫量が前年同月より41万トン少ない156万トンで、比較可能な1999年以降で最も少なかったと発表した。昨夏の猛暑の影響で市場に出回る量が減った一方、訪日外国人の増加による外食需要などで消費は増えたという(以下略)」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240730-OYT1T50200/

8月に入って、つい先日こんな記事が。


「週末2日のニューヨーク株式相場は、低調な雇用統計を受けて米景気を巡る懸念が高まり、大幅続落した。優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比610.71ドル安の3万9737.26ドルで終了(以下略)」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024080300177&g=int

これら2つのニュースを英語で考えると、カギとなる言葉が共通です。

今回投稿の題名からお気づきだと思いますが、stockです。

①に関して時事通信が出した英文記事を引用します。

「Japan's private-sector rice stocks totaled 1.56 million tons at the end of June, the lowest since records began in 1999, a preliminary agriculture ministry report showed Tuesday.
(日本の民間部門における米の在庫量は6月末で合計156万トン、西暦1999年に記録を取り始めて以来最低量であると、農林水産省による予備的報告書が火曜日に明らかにした)
The rice stocks dropped 410,000 tons from a year before, reflecting sluggish rice production last year due to scorching heat, a surge in demand from foreign tourists, and an increase in consumption as rice prices rose more slowly than bread and noodle prices.(以下略)
(米の在庫量は1年前より41万トン下落したがこれは、猛暑によってコメの生産が昨年不振だったこと、外国からの旅行客による需要が急増したこと、米価の上昇がパンや麺の価格よりも緩やかで米消費が増えたこと、を反映している)」
https://sp.m.jiji.com/english/show/34580#:~:text=private%2Dsector%20rice-,stocks,-totaled%201.56%20million

次に②と同じ日のロイターの記事を。

「Surprisingly weak U.S. employment data on Friday stoked fears of a recession ahead, prompting investors to dump stocks and turn to safe-haven bonds.(中略)
(金曜日発表された合衆国の雇傭データが驚くほど弱弱しいものだったので、この先景気後退が待ち受けているとの恐怖が搔き立てられ、投資家達は株式を投げ売りして危険からの安全な避難先である債券へと方向転換することを促された)
The Dow Jones Industrial Average (.DJI), fell 610.71 points, or 1.51%, to 39,737.26(以下略).
(ダウ・ジョウンズ工業平均は610.71ポイント、すなわち1.51パーセント下落し、3万9737.26となった)」
https://www.reuters.com/markets/global-markets-wrapup-1-2024-08-02/#:~:text=investors%20to%20dump-,stocks,-and%20turn%20to

「在庫」と「株式」とは、日本語としてはかなり距離があり、1つの概念としてまとめて捉えるのが難しいペアですし、この2つの意味の他にも、英和辞典を引けば様々な訳語が載っています。

逆に英語人の観点からは、そういった様々な意味合いを包括する1つのイメージがstockに有るのかもしれません。

小学館プログレッシブ英和中辞典がその辺りをまとめてくれています。

「1 植物の幹
2 系統,家系
3 在庫
4 資本金,株式

◆「幹」は木の根幹で,
「家系」の根幹.
また「在庫」は商取引の根幹で,
「資本金」は事業の根幹」

この4つの分類に則って見ていきましょう。

植物の幹

この分類にくくられるもので、「木の幹」以外にはこんなものがあります。

農業や園芸をする方にはお馴染みの「接ぎ木」(英語ではgrafting)という手法。

「接ぎ木(つぎき)とは、2個以上の植物体を、人為的に作った切断面で接着して、1つの個体とすることである。このとき、上部にする植物体を穂木(接穂、継穂、ほぎ、つぎほ)、下部にする植物体を台木という」
ウィキペディア

「穂木」を英語ではscionサイアンと、「台木(だいぎ)」をrootstock、あるいは単にstockと呼びます。

「graft a vine onto a disease-resistant rootstock
ブドウの木を病気に強い台木に接ぎ木する」
(研究社新英和中辞典)

これと「台」の感覚が共通するものが、器具・機械の「台座」などです。

「the stock of an anvil
かなとこの台」
(研究社新英和中辞典)

鉄砧(かなとこ)とは、熱した材料をハンマーで叩いて加工するのに使う金属製の作業「台」です。

造船業界にも「台」があります。

「造船時の「船台」は、水面に対して2-3度程度ゆるく傾斜した陸上の広い斜面に組み上げられた船の台座のことである。船は通常、水面に対して後ろ向きに組み立てられ、船体の完成後はあらかじめ滑るように作られた台座の上を滑走して斜面に続く水面に勢い良く進水する」
ウィキペディア

「船台(せんだい)」(あるいは「造船台」)は英語では複数形stocksで表現します。

「Stocks are an external framework in a shipyard used to support construction of (usually) wooden ships. They are normally associated with a slipway to allow the ship to slide down into the water.
(船台とは、(大概)木造船の建造を支えるために用いられる、造船所内の屋外足場である。船台といえば通例、建造している船が水に滑り降りられるようにする台座を連想する)」
ウィキペディア

実際に船台から新造船が滑り降りて進水する模様がこちら。

『【ドローンで撮影しました!】尾道造船進水式第二弾!!』
https://www.youtube.com/watch?v=h0NvcoUJZsE

「ゆるく傾斜した陸上の広い斜面に組み上げられた船の台座」という様子が判ります。

船が船台に載っている状態は前置詞onを使い、「on the stocks」と表現できます。

「The huge passenger ferry that sank over the weekend was still on the stocks just a day before it set sail on its doomed first voyage.
(週末に沈没したその巨大な旅客フェリーは、不運な最初の航行に出たわずか1日前はまだ船台にいた)」
(Farlex Dictionary of Idioms)

これは文字通りの用法ですが、比喩的に物事が「進行中である」こともon the stocksで表すことができます。

「a play on the stocks
上演中の芝居」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「台」から離れて「幹」に戻りますが、人間の脚を「幹」に見立てたことが由来となった、という説のある言葉がstockingです。

「in one's stockings」あるいは「in one's stocking feet」で「(靴を履かずに)靴下着用のみで」という意味合いになります。

「She stands six feet in her stockings [stocking feet].
彼女は靴を脱いで 6 フィートある」
(研究社新英和中辞典)

「whipping post」という言葉があります。

その昔罪人を鞭打ちの刑に処すために縛り付けた柱のことを言うのですが、これのことを「whipping-stock」とも呼びます。

それの類似で、やはりstockを基にして作られた単語が「laughingstock」で、「物笑いの種」「嘲笑の的」を意味します。

「He was [made himself] the laughingstock of the office.
彼は会社のもの笑いの種だった[になった]」
(研究社新英和中辞典)

家系

「家系」「血統」での使用例をご覧ください。

「He comes of good stock.
彼はよい家柄の出だ」
(研究社新英和中辞典)

「The Ottoman Empire maintained close relations with the neighbouring Italian city states in the 16th and 17th century. Yacub Pasha (1425-1481), personal physician of Mehmed II the Conqueror, was an Italian Jew who advanced to the title of pasha and vizier.(中略)
Nuh bin Abd al-Mennab (1627-1707), also of Italian stock, was the Chief Physician of the Ottoman Empire, who translated a pharmacopoeia into Turkish.
(オスマン帝国は西暦16・17世紀において、隣接するイタリアの諸都市国家と緊密な関係を維持していた。「征服者」と呼ばれたメフメト2世の個人医師であるYacub Pashahaは、パシャヴェジールという高官の称号を与えられるまでに昇進したイタリア系ユダヤ人だった。
Nuh bin Abd al-Mennabもイタリア系であり、オスマン帝国の主席医師だったが、彼は薬局方をトルコ語に翻訳した)」
(Murat YurdakokとLuigi Cataldiによる『Italian contributions to Turkish paediatrics during the Ottoman Empire』という論文より)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24304113/#:~:text=1627%2D1707)%2C%20also-,of%20Italian%20stock,-%2C%20was%20the%20Chief

在庫

冒頭で引用した米の在庫の記事に加え、次のような例文をご紹介します。

「We have a huge stock of quality carpets on sale.
(当店には販売中の高級絨毯の在庫が大量にあります)
I’m sorry, that swimsuit is completely out of stock in your size.
(申し訳ございませんが、その水着はお客様のサイズについては完全に品切れになっております)」
(ロングマン現代英英辞典)

2例目で「be out of stock」が「品切れである」ことを述べていることから察しが付くと思いますが、「在庫がある」「入荷している」なら「be in stock」で表現できます。

stockを動詞として使えばこんな感じになります。

「That bookstore stocks a great variety of new books.
あの本屋は実にさまざまな新刊書を置いている
They stocked the shop with winter goods.
彼らは店に冬物を仕入れた」
(研究社新英和中辞典)

1例目では在庫品が直接目的語になっています。

一方2例目の直接目的語は「在庫を持たせる店」であり、在庫品はwithの句が述べています。

この辺りの状況は、意味の似ている動詞storeでも見られます。

「store (up) fuel for the winter
冬に備えて燃料を蓄える
store a ship with provisions
船に食料を積み込む」(同)

この分類のstockには、訳語が「備蓄」になるものもあります。

「an oil stock
石油備蓄」(同)

そして「非常時に備える大量の備蓄」の意味で、stockを要素に含む複合的な単語stockpileというのがあります。

我が国で行われている石油の備蓄は3つの種類を組み合わせたもので、それらは国家備蓄、民間備蓄、そして産油国共同備蓄です。

「産油国共同備蓄とは、政府の支援の下、日本国内の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に貸与し、平時は当該社が東アジア向けの中継・備蓄基地として利用してもらい、我が国への原油供給が不足する際は、当該原油タンクの在庫を国内向けに優先供給するものである」
ウィキペディア

次に引用する英文は、国家備蓄の基地を管理しているエネルギー・金属鉱物資源機構(英語名の略であるJOGMECジョグメックで呼ばれることがあります)のサイトに載っているものです。

「The three programs have a combined stockpile of approximately 80 million kiloliters of petroleum (equivalent to approximately 208 days of domestic consumption, as of the end of March 2017).
(その3つの計画で合わせて約8千万キロリットルの石油の備蓄を持っています(西暦2017年3月現在で、国内石油消費量約208日分に相当))」
https://www.jogmec.go.jp/english/stockpiling/stockpiling_10_000002.html#:~:text=have%20a%20combined-,stockpile,-of%20approximately%2080

株式

株価のニュースに人々が敏感になるのは上昇よりも下落したときではないでしょうか。

「be down」「go down」といった、至って普通な表現以外でstockと組み合わせて使われる「下落」の動詞をご紹介します。

「Stocks dropped on Tuesday after hotter-than-expected inflation data for January spiked Treasury yields and raised doubts that the Federal Reserve would be able to cut rates several times this year(中略)
(1月のインフレに関するデータが予想よりもやっかいなものだったことで長期国債の利回りが急上昇し、連邦準備制度理事会が今年数回利下げを行うことができるだろうとの疑いが起こったので株価が下落した)
The Dow Jones Industrial Average lost 524.63 points, or 1.35%, to close at 38,272.75(中略).
ダウ・ジョウンズ工業平均は524.63ポイント、すなわち1.35%下がって3万8272.75で引けた)
At its lows, the 30-stock index sunk 757.52 points, or 1.95%.
(その日最も下がった時点ではダウ・ジョウンズ工業平均は757.52ポイント、すなわち1.95%下落した)
The S&P 500 slid 1.37% to close at 4,953.17, while the Nasdaq Composite fell 1.8% to settle at 15,655.60.
スタンダード・アンド・プアーズ500は1.37%下落して4953.17ポイントとなり、一方ナスダック総合は1.8%下落して1万5655.60となった)」
https://www.cnbc.com/2024/02/12/stock-market-today-live-updates.html

1つの記事の隣接した文の数々に、「下落」を表す様々な動詞が使われています。1文目以外はstockを主語にするものではありませんが、株価指数の名称が主語になっているので同じように考えてよいでしょう。

drop/lose/sink/slide/fallですが、dropとfall以外はなかなか思いつきにくいかもしれません。

更に、「急激な下落」を表す動詞も。

「Stock prices plunged.
株価が暴落した」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「Stock prices have plummeted.
株価ががた落ちした」
(研究社新和英中辞典)

plungeもplummetも、どちらも「鉛(なまり)」を表すラテン語plumbumに由来します。

鉛で出来た錘(おもり)がズドンと落ちていくイメージでしょうか。

その他

家畜

stockには「家畜」を集合的に表す使い方もあります。

「fat stock
食肉用家畜」
(研究社新英和中辞典)

stockを要素に含むlivestockライヴストックという単語も同様の意味です。

「Grain and livestock markets are quite strong at the moment.
(穀物市場と家畜市場は今ちょうど、かなり活況を呈している)」
(ロングマンビジネス辞典)

liveの対義語であるdeadを使ったdead stockとなると、一義的には「農具」のことですが、「売れ残り品」のことも言います。

我が国でもカタカナ語として「デッドストック」が使われることがあります。

以下はリサイクル店の「コメ兵」のサイトにある説明文です。

「主にファッション業界で使われており、倉庫で保管されたままのものや、店頭に一度は並んだものの売れずに倉庫へ逆戻りしたものがデッドストックと呼ばれます。デッドストックは、長く倉庫で保存されていたアイテムのため、流行遅れの商品が多いのが特徴です」
https://komehyo.jp/komeru/976

さて、stockの家畜関連の動詞用法はこんな感じです。

「stock a farm
農場に家畜を入れる」
(研究社新英和中辞典)

「在庫」の時の「They stocked the shop with winter goods.」の例文と同じように、stockの直接目的語は「入れ込み先の場」に当たる言葉が来ています。

それは以下の例文でも同じ状況です。

「stock a lake with fish
湖に魚を放流する
stock a pasture with clover
牧場にクローバーの種子をまく」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

煮汁

スープ専門店である「スープストックトーキョー」。

この「ストック」を「在庫」とか「株式」と考えると訳が分からなくなります。

stockには「煮出し汁」「スープの素」といった意味もあるわけです。

「This is cooked in good stock.
出しが効いている」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「チョーク」?

一昨年のニュースです。

「日本航空(JAL)は、羽田神社(東京都大田区)とのコラボ企画として、羽田空港で使っていた航空機の車輪止め「チョーク」を有効活用した「合格祈願御守り」とオリジナルデザインの「御朱印帳」の取り扱いを開始しました。
合格祈願御守りは、羽田空港内で航空機の車輪が“滑らない”ように車輪止めとして使われていた使用済みの「チョーク」を活用したお守り(以下略)」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2212/24/news050.html

記事の中の3枚目の写真に実際のチョークが写っています。

このように飛行機に使うものもそうですし、身近なところではトラックが駐車しているときに車輪に嚙ましている楔(くさび)形の道具もそうです。

ところで、「チョーク」と言われてしまうと「白墨」をまず思い出し、chalkとつづるのかなと考えてしまいます。

しかし実際のつづりはchockであり、そしてつづりから想像できるように英語としての本当の発音は[tʃάk]ですから、カタカナ書きするときには「チョック」あるいは「チャック」にするのが妥当だと思います。

chockはstockと語源的つながりのある言葉で、「楔」「輪留め」という名詞用法も、「楔で止める」という動詞用法もあります。

Wheel chocks (or chocks) are wedges of sturdy material placed closely against a vehicle's wheels to prevent accidental movement.(中略)
(輪留めとは、偶然動き出すのを防ぐために車輛の車輪に対して密接に置く、頑丈な材料でできた楔である)
If the rear axle is jacked off the ground with only the parking brake set, the vehicle may roll on the front wheels and fall. Chocking the front wheels prevents this mishap.
(後輪の車軸が、パーキング・ブレーキのみ掛けられた状態でジャッキを使って地面から持ち上げられている場合、その車輛は前輪で転がって落ちるかもしれない。前輪に輪留めを掛けることでこの事故を防ぐことができる)」
ウィキペディア

前半に名詞用法が、後半に動詞用法が登場しています。

お読みいただきありがとうございました。

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