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こっちゃん ステージに立つ

こっちゃんは名前を「琴絵」という。

これから「琴絵」という名前を出すまでのあれやこれやを書いていけたらと思っている。

こっちゃんには、幼い頃連れて行ってもらった家族旅行で、とても忘れられない出来事があるらしい。

今日はその話をしていきたいと思う。


* * * * * * * *


みなさんはご存じだろうか…
熱海が日本のハワイと言われていたことを。
昭和の時代、熱海はみなが憧れ、こぞって新婚旅行、社員旅行に訪れる観光地だったということを。

* * * * * * * *

こっちゃんのお父さんは張り切った。
年に1度の家族旅行、あの熱海に行こう!
どうせなら、その熱海でいちばん有名な高級ホテルに泊まろうではないか!と。

※ こっちゃんを語るうえで、“こそあど言葉”(古すぎて知らない人は調べてね♡)は欠かせません。たびたび登場しますので、ご注意下さい。

いちばん有名だったのかは知らないが、300人を収容できるという巨大ローマ風呂(熱海でローマ!)のある、超大型ホテルを予約したのだった。。。

お父さんが張り切ったのは、それそれで良かった。
だが、時はお盆の真っただ中。
絶賛オンシーズンである。

熱海の駅を降りた時から、すでに人は多かったのだが、宿泊するホテルの中は、どこもかしこも人でごった返していた。
ホテルの目玉である大浴場(熱海なのにローマのお風呂ね!)も、泳ぎ回る子供たちとそれを追いかける大人たちで入り乱れ、混沌とした様相を呈していたという…

そんなこんなで夕食の時間になった。
食事は、大きいホールのような会場にビュッフェ形式で用意されていた。
その会場にはステージがあり、そこでは、バンドがハワイアンミュージックなどを演奏して、南国ムードを醸し出していた。

宿泊客が多かったためであろう。
食事の時間は細かく区切られ、入替制となっており、こっちゃんの家族も限られた時間内で急いで食事をすることとなった。

会場内は、食事を取りに行く人、走る子供たち、バンドの演奏に合わせて踊る人などで、こちらも混沌とした様相を呈していたそうだ…

その中で、こっちゃんのお母さんは、この短時間で子供たちにしっかり食べさせ、なおかつ自分たち大人も食事を満喫すべく奮闘していたのである。

が、その時であった!

アロハシャツを着た若大将風(うっすら日に焼けてて爽やかに微笑んでいたらみんなそうなる)のバンドのボーカルをしていた人が、

「生演奏で歌を歌ってみたいという方はいらっしゃいませんか?」

と言ったのであーる!

おじさんたちは色めき立った!!!

時は、8トラックが家庭にも普及し、カラオケなるものが庶民の娯楽として流行りだした、まさにその頃のこと!
生のバンド演奏をバックに、人前で歌を歌うなどという絶好の機会を世の『歌好き』が放っておくはずもない。

すぐさま何人かが手を上げ、自分の得意な曲をバンドへリクエストし、順番にステージに立った。
デュエットをしてる人もいて、その2人に口笛を吹いたり、ムード歌謡曲に合わせてチークダンス(!)を踊ったり、宿泊客同士で大盛り上がりである。

ここで、ステージの方に注力する人とビュッフェの方に注力する人とで、勢力が真っ二つに分かれた。
もちろん、こっちゃんのお母さんは後者であった。

「他に歌われる方はいらっしゃいませんか?」

次々と手を挙げるおじさんたちがいるなか、ステージの前に立ち、若大将風のボーカルの人を見つめ、すっと手を挙げた子供がいた。


 ....

こっちゃんである!!!


こっちゃんのお母さんはびっくらこいた。
まさか、こっちゃんが出ていくとは!
今、まさに、食事の最後の追い上げをしなくてはならない時なのに!

その時のこっちゃんは、世界名作劇場の『あらいぐまラスカル』(こちらも知らない人は調べてね♡)が大大大好きであった。
毎週日曜日、ラスカルに会えるのを楽しみにしていた。
主題歌が流れる時には、大きな声で一緒に歌っていたのだ。
時には、自分なりに抑揚をつけたり、感情をこめて歌っていたりもしていたのだ。

ラスカルの歌を歌いたい!


こっちゃんの頭はラスカルのことでいっぱいになった。
とにかく、ラスカルの歌を歌うためにお願いをしに行かなければ。

若大将風ボーカル(呼び方!)は快くこっちゃんを指名してくれた。
おじさんたちを差し置いて、物心つかない幼い妹を道連れに、こっちゃんはステージに立った。

幼い妹はまだ歌えないから(なぜ連れて行ったのだ?!)、こっちゃんが頑張らなければ。

ボーカルの人が歌う前に紹介をしてくれた。
「あらいぐまラスカルの歌だそうです。では、どうぞ!」

 しろつめくさの♪ 花が咲いたら♪ 
 さあ、行こう♪ ラスカール♪


しかし、こっちゃんが好きなラスカルの歌を
バンドの人たちは知らなかった。。。

知らないのだから、演奏なんてできるはずもなく、結局、こっちゃんはアカペラで1人歌いきった。。

歌った後のことは、こっちゃんは、これっぽっちも覚えていないらしい。。。


あれ?
こっちゃん、緊張してなくない?
自ら歌いに行きませんでした?
好きなことはできるんじゃ?


そんなこんななこっちゃん話ですが、もう少しお付き合いいただけましたら幸いです。



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