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死刑

 死刑になる夢を見た。
 
          ※
 
 死刑になるほどの罪を犯した覚えは無いのだが、俺はその判決を、こざっぱりとした気分で受け容れていた。
 
 いろいろと始末をしておきたいことがあったのを思い出し、どうにかならないものかと担当の看守に相談すると、死刑執行当日、午前中の数時間、外出が許された。
 看守は女性で、彼女には見覚えがあった。
 彼女は俺が好きだった女性だ。

 
 自宅に帰って、部屋の整理をする。
 そこへ妻が現れたので、オートバイを誰それにやってくれ、クラブの看板は誰それにやってくれ、と頼む。
 パソコンは誰それに……と言うと、それはもったいないからウチで使う、と言った。
 オートバイと看板はどうでもいいことなんだろうな。自転車も捨てるというし。
 それより、死亡保険金がきちんと出るというから、妻と息子に楽をさせてやれる。

 俺が生き続けているよりも暮らしは楽になる。
 
 俺の時間がなくなった。
 
 これは夢だなと気付いた。
 夢だから看守が外出させてくれたりする。
 別れの言葉も無く妻が消える。
 夢だから有り得ないことが起こるのに、それでも俺が死刑になることだけは変わらない。
 
 そうだ。
 夢の中でさえも、死刑になるような奴に奇跡は起こらないものなのだ。
 
 そうか。
 俺は《ツイていない双六》の《あがり》で、死刑になるんだ。
 
 疑問も解けてすっきりした気分で絞首台のようなところへ昇る。
 上に向かって暗い階段がずっと続いている。
 昇っているのに降りていく感覚だった。
 天国じゃなくて地獄に行くんだろうな、きっと。
  

          ※
 
 死ぬ前に、せめて息子に会いたかったと思ったところで目が覚めた。
 
 隣の布団に寝ている息子の手を握り、ああ、やっぱり夢だったんだなと思った。
 
 ただ、夢だったんだなと思っただけだった。


 了