私の北海道

 午前零時近く、朝四時起きの目に映るエクセルの数字がぼやけ始める。
  明日の朝も早く起きなければならないんだと今更思い出し、パソコンの電源を落とし、部屋の電気を消し、そこで初めて、外の明るさに気付く。
雪が降っていたのかとブラインドの隙間から外を見て、止みそうも無いわさわさと降る雪のその様に、げんなりする。
 明日、一時間早く起きて雪かきをするか、それとも寝るのを一時間遅らせ、今夜のうちに目処をつけておくか。そう考える前にヤッケをはおり、帽子を被る。
(朝の三時に起きてられっかっての。俺っちゃ漁師じゃねえっての)
  手袋をはめ、長靴に足を入れながら、こちらに越して来た頃のことを考える。
 こっちはあっちより雪が少ないから楽だよと、地元の奴らが口裏を合わせたかのように同じことを言っていたが、それは今年の風邪はしつこいよと、毎年馬鹿の一つ覚えのように同じことを言っているようなものだ。
(あっちもこっちも同じだ、このクソ田舎者どもが)
俺はいつかの誰かを罵りながら、雪をかき続ける。
 音もなく雪が降る夜は、思いのほか気温が高い。雪かきを始めて十分もすれば薄手のヤッケの首元から湯気が立ち上る。毛糸の帽子の隙間からも湯気は出ているのだろう。ならば、シャワーを浴びてから寝なければならない。寝る時間をこれ以上削られないようにと気ばかりが急く。
 両手用のスノープッシャーで大まかに雪を集める。片手用のスノープッシャーでこぼれた雪を集める。集めた雪をスノーダンプで畑に寄せる。
 一通りの動きをし、同じ動きをもう一度終わらせた頃に雪が止んだことに気付く。
汗と雪に濡れた眼鏡を拭き、洟をかみ、煙草を一服点けながら、やっぱりこっちは雪が少ないのかもなと笑う。
 今夜は思っていたより早く寝られる。そして、明くる朝には何も終わっていなかったかのような雪が降り積もっている夢を見るのだ。さらにその夢は往々にして正夢になるのだ。