風の人、土の人。移住礼賛?の世で
「風の人、土の人」という言葉に出会ってはっとしたのは、縁あって読んでいた『衰退産業でも稼げます―「代替わりイノベーション」のセオリー』(藻谷ゆかり著)だった。
跡継ぎが家業を再生させたケースを主に分析した本の「おわりに」にこう綴られていた。
「風の人」とは新しい考えを運ぶ人、「土の人」とはその考えを育む人のことです。(中略)外から「風」を招くことによって、「土」で育まれるものの実りがより多くなる。(中略)「風」は変化を起こすイノベーションinnovationであり、「土」は基盤となるファンデーションfoundationとも言えます。
跡継ぎはゼロから事業を作ったわけではなく、外の世界を知る目で、もともとある事業の本質的な価値を見出して、違った展開を図ったことが再生につながったのだという。
元となるキーワードは、同じ長野在住の建築家が著した『住み継ぐ家の物語Ⅱ』(川上恵一 著)にあるこの言葉だと挙げていた。
「風」の人と「土」の人が交じり合って「風土」となる。
地域、地方の文脈でよく〝よそ者、若者、バカ者〟が大事という言い方がされる。それに移住、イノベーションもこのところ多く飛び交うキーワードだ。これらは「風」だろう。
そのなかで、ともすれば「旧態依然として変化の足を引っ張る」と非難されがちな「土」の人を対等に置いて、両方あってこその「風土」だと言っているところが新鮮だった。両方大事、相互作用が大事だというのだ。藻谷さんの言葉を借りれば、変化の〝種〟だけあっても、育む土壌がなければ実りはないということだろう。
川上さんの本では、風の人と土の人のことをこう綴っている。
風の人とは来たる人。たとえば結婚や転職を機に新たにそこに住み着いた人のことで、土の人とはもともと生まれ育った地に古くからいる人のことである。風の人はその地に移り住んで、好きも嫌いも、新鮮さと違和感を持ちながらそこを受け入れ、変化する柔軟性を秘めている。
土の人はもともとそこに居た人で、今までの暮らしが当たり前で、地元のことを自分が一番よく知っていると思い込んで、違和感なく過ごしている。風の人はまず最初に土の人を意識し、土の人は、最初はともかくやがて風の人を意識して、いつの間にかお互いがお互いを巻き込んで変化していく。
そういう同化という現象が古くて新しい文化を生み出し、新しい風土が出来ていくのだと思う。その地で生まれ育った子供は、やがて残る者と去る者に分かれる。去る者は別の地で風の人となり、残る者は土の人であり続ける。出会いと別れはどちらにも期待と寂しさを胸に生きていくことになろう。それが何世代も続くことによって、古くて新しい場が生まれる。『住み継ぐ家の物語Ⅱ』(24〜25ページ)
子供のことについて「残る者と去る者に分かれる」と述べているところもぐっときた。ともすれば地方活性化の文脈では、「地元で育った子供は残ってほしい」「都会人が移住で変化を持ち込む」と「風の人」「土の人」をぱっくり分けるような考え方に向かいがちのようにも思うけれど、世代を超えると入れ替わっていくというのもまた、「風」と「土」が同等だと思った。
イベントで川上さんのお話を伺う機会があったので、なぜこのような考えに至ったのかたずねてみた。川上さんご夫婦のことからだという。ご自身は「土」の人で、奥様が「風」の人。それはそれは衝突を経ての風土なのだと笑っておられた。
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