新しいビットマップ_イメージ_-_コピー

友人が何かを言っているのだ。

数字である。

「610、707、582位か。」
私に背中を見せながら、そんな言葉を友人が呟いている。
一体何を虚空に向かって呟いているんだい。

「位か」と言っているあたり、
何かを正確に測定している線は除外しよう。
裏付けとして友人の体に測定メーターの様な機器は見当たらないし。

友人は頬杖ついてガラス壁を向き、
視線はそのガラスを貫き階下の踊り場を見ている。
仮にも高低差三階分、
さぞかしこの休憩ルームから見たら人が小さく見えように。

友人の座っている位置からは、
思わず数字を呟きたくなる衝動に駆られる何かが見えるらしいが、
先程このルームに入ったばかりの私の位置からは何も見えないぞ。
一体何が見えるんだよそこから。

ちなみに部屋に入る際、足音は死んだ。
別に故意に殺した訳ではない。
カーペットが依頼しても無いのに私の足音を捻り殺したんだ。
私自身に無暗に殺生をする趣味は無い事を理解して頂きたい。

「542、369、730、425」

と、更に友人が呟く口調で気付いたが、
成る程、呟いているのは悪戯に数字、と言う訳では無くて、
三桁の数字か?

「334、215、777」

と、
悪戯心が張り切って、私が友人の声に被さるように、
彼の後ろから呟いた。
突然自分の声じゃ無い音が混じったからか、
友人は、がっ!と驚きで頭部を上下に震わせると、
見開いた眼を表に付けてこちらに顔を回した。早かった。

「うおおおおお」と、
口の前に紙を置いていたら吹き飛ぶに充分であろう声のでかさを聞かされ、
その後に「びっくりした!」と彼の心境を告白された。
そんな、急に思いを告白されるなんて。
いやだ、照れちゃう。

眼がしぼまり切らない友人の横にどかっと座り、
何を一体そんな三桁の数字ばっかり呟いていたんだ、
ナンバーズ3でも買うのか?と尋ねた結果、
「賭け事はやらないんだ」と真顔で返事が返ってきた。
冗談が判りにくい人間だったか、申し訳無い。

「ところでさっきから何を見てるんだ?」
「え?」
「さっきからブツブツ言ってるじゃん。
 なにみてんの?」

視線の高さは同じ。
首の傾きも同じに。
さーてこれで何を見て数字をぶつくさ言っていたのか。

「………。」

判る、

「………。」

筈……。

「………何見てたの?」
「ええ?(笑)」
「いや、三桁の数字を言いたくなるような代物。
 何処に転がってるんだよ?」
「いるよ、そこら中。」
「どこ?」
「そこ。」

友人が指さした。
階下にはスーツ姿の同じ会社に勤務している皆様方が、
踊り場を忙しそうに行き来している。

「……どれ?」
「沢山居るでしょ?」
「…ヒト?」
「そう。さーて休憩時間のおしまーい。」
「え?なんで三桁数字なんかブツブツ言ってたんだよ?」
「ちなみに、お前は412。なかなか高貴だよ。」
「高貴?」
「じゃ」
「まーてまてまてまて!
 412って数字で何が高貴と読み解けるんだよ?」
「あとでgoogleで調べな。
 だけどヒントを一つ教えてあげる。
 今日は金曜、ヒントの特売デー。
 さっきの数字の後に英小文字でエヌエムをつけて検索してみなさい。」

それで判るよ

なんて言われたもんだから検索するしかないでしょうもん。

412エヌエム。
それで検索しても、なーんか変なのしか引っかかってこない。
そこで気付いて今度は「412nm」で検索したら、
「光学」という言葉が出てきてピンときた。

人間の可視光領域はおよそ360nmから830nm。
412nmと言えば、その色は

「おい。」

次の日の朝。

「ん?」
「お前、一体何が見えてるの?」
「見えてる物が見えてる。調べた?412。」
「俺の肌の色?」
「違う。体から立ち上ってる湯気みたいなのが見える訳。
 それが412。」
「いつから?」
「子供の頃から。大体数字が判るようになったのは高校の頃。」
「覚えたのか?」
「数字って、なんか秘密の暗号っぽくってかっこいいじゃん?
 覚えるのも楽しかったし、うん、大体は覚えたね、感覚で。」
「で、俺は412?」
「そ、はい、答え合わせしようか。
 412は何色?」

波長412nmの色は紫。

まさに、高貴な色。

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