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映像伝送あれこれ(NDIとか)

この記事では、ライブ配信現場内で使えそうな映像伝送規格の紹介と関連するソフトウェアやデバイスを概観します。

最初はコンピュータの画面を伝送することを目的としたAirPlay、Chromecast、Miracastの規格について概観したあと、一般的な映像をネットワークで伝送するためのNDI規格について見てみます。

有線なHDMIとSDI

動画の収録やライブ配信の際に、複数の映像ソースをケーブルなどで集約して利用することがあります。

例えば、メインカメラ映像の他に、サブカメラ映像やパソコン画面などを組み合わせて利用するため、各機器のHDMI端子からHDMIケーブルを延ばして一つの機器に接続するような場合です。

複数の映像ソースを接続し束ねる機器が映像スイッチャーであり、個人向けとして登場した製品ATEM Miniシリーズは初代モデルが比較的安価であったこともあってヒットしました。

一般人にとって映像を伝送する方式としてHDMI(High-Definition Multimedia Interface)が有名ですが、他にも業務用の世界ではSDI(Serial Digital Interface)という規格があったりします。

これらは主にケーブルによる有線の映像伝送方式ですが、これをインターネット等のIPネットワークで映像伝送できるように考えられた方式もあります。まずはディスプレイ画面転送規格を見てみましょう。

ディスプレイ画面転送規格

- AirPlay

パソコン等のディスプレイ画面の映像を伝送するために利用されているものとしてApple社の「AirPlay」という技術があります。

Apple社としては自社のデバイス同士で画面伝送を可能にするために開発したもので、具体的にはiPhoneの画面をApple TVというデバイスに伝送して接続されている大画面テレビで表示できるというユースケースです。

- Chromecast

Google社も同社のブラウザやデバイスの画面を転送する規格「Chromecast」を用意しています。AndroidスマートフォンやChromebookから画面転送する場合に使います。

規格名が変わってきたり、デバイスの名前にも使われていたりと、名称の混乱を感じる時もあると思います。Google関連の製品で「キャスト」と書かれたものがあれば、この規格になります。

- Miracast

また、WiFiを使って伝送することを目的に開発された「Miracast」という規格もAirPlayやChromecastと同様な使い方ができます。Windows系はこの規格をサポートすることが多いです。

ディスプレイ画面転送規格 互換ソフト

AirPlay、Chromecast、Miracastの規格と互換性のある受信アプリや送信アプリも存在しています。

たとえば、パソコンで映像を受信するソフトウェアには次のものがあります。

これらはモバイルデバイスから送信された画面を受信してパソコン画面内に表示することができ、ものによって映像を録画や配信する機能を持っています。

また送出するためのソフトウェアもあります。通常は標準機能を使えばいいのですが、何かの理由で他の規格を使いたい時に利用します。

AirPlay出力する時に便利なアプリ

iPhoneやiPadのカメラ映像を画面に表示して、AirPlayで転送するとワイヤレス・カメラのように使えます。

しかし、標準のカメラアプリだと画面にシャッターボタンや各種切り替えボタンが標示され、それらもそのままAirPlayで転送されてしまいます。

ここで、iOS用の配信アプリを使ってみましょう。

それらは、iPhoneからYouTubeなどにライブ配信をするためのアプリですが、通常、AirPlayやHDMIの出力についてもサポートしているため、コントロールした通りの画面を(つまり、シャッターボタンや切り替えボタンのようなものが標示されないクリーンな画面も)出力することができます。

HDMIケーブルで有線接続して利用することもできますし、後ほど紹介する「ディスプレイ画面転送規格 互換デバイス」と組み合わせれば、ワイヤレスを介して映像スイッチャーにHDMI入力することができます。

- Airmix

Airmix(旧名 Live:Air Action)はiPad用の配信アプリ。これ自体でライブ配信が可能で、テロップ表示や複数カメラの切替えまでできます。そのiPhone版がAirmix Soloです。

ちなみに、これらのアプリと組み合わせて、iPhoneやiPadをサブカメラにするためのアプリがAirmix Remoteです。基本的にはAirmix同士の組み合わせで使う専用アプリということになります。

- Cinamaker Multicam Studio

Airmixと同様なアプリにCinamakerがあります。こちらもAirPlayやHDMI出力を制御できますが、残念ながらiPhone版はありません。

iPhoneをサブカメラにするためのアプリはあります。

- IPEVO Visualizer

配信アプリを利用する方法は、発展的な使い方ができる反面、カメラ映像を簡単にAirPlayで転送したい場合には画面に標示されているものが複雑で煩しく感じる方法でもあります。

単純にシャッターボタンや切替えボタンを消す(目立たなくする)方法でAirPlay転送したい場合には、次のようなアプリはどうでしょうか。

余計なボタン等の表示を隠してくれる全画面ボタンがあるので、それを使うとすっきりとした映像画面になります。ただし、全画面を解除するためのボタンが一つだけ片隅に残ります。

ディスプレイ画面転送規格 互換デバイス

AirPlay、Chromecast、Miracastの画像を受信するデバイスもいろいろあります。たとえば個別の規格用には以下のようなものです。

また、複数の規格を同時にサポートしているサードパーティー製の製品もあります。対応規格は製品やモデルごとに違う場合がありますので要確認です。

これらのデバイスはHDMI出力を持っているので、たとえばATEM MiniシリーズなどのHDMIスイッチャーやキャプチャー機器に接続すれば、転送された画面を扱うことができます。

HDMIケーブルで接続するのと違い、この方法だと画面転送する端末を切り替える際にケーブル差し換えが不要で、比較的手軽です。

映像伝送規格

AirPlay、Chromecast、Miracastはコンピュータ画面を伝送することを目的とした規格であり、どちらかというとワイヤレスで利用することを主に想定した規格でした(もちろん有線ネットワークでも利用できます)。

ここからは映像全般の伝送を想定した規格です。

- NDI規格

HDMIやSDIで伝送している一般的な映像をインターネット等のIPネットワークで伝送できるようにした規格の一つがNDI(Network Device Interface)です。

NDI規格には大きく2つあり、一つ目が「NDI」(Full NDI)と、二つ目が「NDI HX」(NDI バージョン4)です。NDI HXは2020年に入ってからリリースされたバージョンで、Full NDIのみ対応の機器では扱うことができません。

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後ほど紹介するように、NDI規格のツールやデバイスが様々存在しているので、私たちにも利用できる規格です。

- AIMS規格

業務用ビデオ機器向けにはAIMS(Alliance for IP Media Solutions Alliance)という規格もあります。しかし、私たちが利用できるツールなどは見当たりませんので紹介までとします。

NDI関連ソフトウェア

NDI規格はソフトウェアが用意されています。それらを利用して映像の送信や受信を行なうことができます。

フリーで配布されているNDI Toolsは、NDI関連のソフトウェアがたくさん詰まっていて便利ですが、送信と受信とモニターのソフトウェアさえ押さえておけば映像を自由に送り合えます。

送信が「NDI Scan Converte」、受信が「NDI Virtual Input」、モニターが「NDI Studio Monitor」です。

- PCからNDI出力する「NDI Scan Converter」

https://tricaster.jp/ndi-central/ndi-tools#scan_converter

- PCからNDI受信する「NDI Virtual Input」

- PCでNDIモニターする「NDI Studio Monitor」

https://tricaster.jp/ndi-central/ndi-tools#studio_monitor

- iOSからNDI出力するカメラアプリ「NDI HX Camera」

このアプリはiOS用のカメラアプリで、NDI HX対応の受信アプリや受信機器で映像を受け取ることができます。ただし、NDI HXなので、Full NDIのみ対応のアプリや機器では受信することができません。

- iOS画面をNDI出力するアプリ「NDI HX Capture」

こちらはiOSやiPad OSの標準機能である「画面収録」機能を利用して、iOSデバイスの画面をNDI出力するアプリです。

カメラ映像ではなくiOSアプリをNDI規格で転送したい場合に使います。つまりAirPlayと同じことをしたい場合に使うアプリです。

- Android版NDIアプリは無いのか?

iOS版のリリースからだいぶ待たされましたが、Android版のNDI HX Cameraも登場しました(20201203)。

頑張って開発していたようです。

過去の文章NDI HX規格(NDI バージョン4)が登場する前までは、NDI CamaraアプリのAndroid版が存在して販売されていましたが、バージョンアップしたのを機に販売を取り止めてしまいました。
まだAndroid版のNDI HX Cameraアプリは登場しておらず、開発されているのかも不明です。代替アプリもいまのところ心当たりあるものがないため、AndroidデバイスからのNDI利用は難しいと考えた方がよいと思います。
ちなみに過去のNDI Cameraを入手してある場合は、Full NDI規格のカメラとして利用することができます。

- ビデオ会議アプリからNDI出力する

ビデオ会議ソフト「Teams」は会議の映像をNDI出力できる機能を持っています。

この機能を動かすと、ビデオ会議でやり取りされている映像をNDI規格伝送映像として個別に利用できるようになります。

「個別に利用できる」という意味は、ビデオ会議アプリで見ている画面構成に縛られることなく、参加者一人一人の映像を自由に切り替えたりレイアウトして配信できるということです。

遠方の相手との対談や鼎談を収録や配信したい場合には大変便利と思います。

NDI規格対応カメラデバイス

直接NDI出力できるカメラ機器があります。いわゆるPTZコントロールカメラがほとんどです。

NDI対応ハードウェア

カメラ機器以外にもNDI規格を利用する様々な機器が販売されています。

NDI規格の元締めであるNewTek社がリリースしているNDI関連ハードウェアはこちらで紹介されています。

- HDMI入力を変換してNDI規格にする機器

NewTek社以外にもNDI規格に対応した機器を開発販売している企業は様々あります。いろんな企業が対応できるというのもNDI規格の利点です。

たとえば、HDMIに出力した映像をNDI規格に変換してネットワーク伝送したい場合は、次の製品が手ごろな価格で利用できると思います。

映像を様々な形式にエンコードでき、ストリーミングサーバーに送ることができる機器です。これを使えば、HDMIになっていれば、いろんな映像ソースをNDIで伝送できます。

- NDI規格の映像を変換してHDMI出力する機器

NDI規格で伝送されてきた映像を受信するには、PCならばNDI Toolsの中の「NDI Virtual Input」を利用することができます。ライブ配信に流す場合は、その方法でもよいと思います。

場合によってはNDI規格で伝送されてきた映像をそのままHDMI出力に変換してディスプレイやスイッチャーなどに接続したいというニーズもあります。ディスプレイ画面転送規格で紹介した様々な機器がやっていることをNDI規格でも同様にやりたい場合などです。

HDMI出力するNDIデコーダーはいくつかありますが、気をつけなければならないのはNDI規格のどのバージョンに対応しているのかです。

Full NDI規格に対応しているデコーダー機器は多いのですが、NDI HX規格に対応したデコーダー機器は限られているので、気をつけないとせっかく機器を導入してもiPhoneアプリ(NDI HX Camera)から送信した映像を受信できないことが起ったりします。

NDI HX規格に対応したデコーダー機器の一つとして次の製品があります。

ATEM Stream Bridge

ところで、冒頭に取り上げたATEM Miniシリーズは、ProモデルとPro ISOモデルにストリーミング機能が備わっています。

この機能はYouTubeやFacebookなどのライブ配信機能に対応していると同時に、設定次第で希望するストリーミングサーバーにRTMP配信できます。

そのうえで、Blackmagic Design社は専用の配信受信機器ATEM Streaming Bridgeという製品を提供しています。

ATEM Mini Proからの配信を直接受信してHDMI出力できるという機器です。NDI規格の伝送を受信してHDMI出力する機器と同じことをします。

ATEM専用といっても、利用しているのはRTMPといった一般的な配信技術なので他社の機器で代替しても同じことができます。

ただ、ATEMシリーズ同士なので、送信受信の設定情報を専用ソフトウェアを使って書き出し、読み込ませることで伝送が始められるというメリットがあるということです。

この機器はローカルの伝送にも使えますが、インターネットを利用したグローバルな伝送にも使えるという点がNDI規格による伝送と違うところです。

アイデア次第でいろいろ活用できると思います。

さいごに

今回は、映像伝送する規格とそれを支えるソフトウェアやデバイスをラフにまとめてみました。

こうした伝送では、どうしても遅延の問題が発生するため、実際のところ、どれくらいの実用性があるかは、各自の判断に委ねるしかありません。

ただでさえ機器同士を結ぶ様々なケーブルで混乱してしまいがちな収録配信現場において、コンピュータや一時的な映像ソースをどのように接続するのかは悩ましい問題です。また出力した映像ソースが特定の機器のみに占有されてしまうと都合が悪い、不便だという場合もあり、その場合どうやって分配するかが悩ましい時もあります。

そのような時に、こうした映像伝送規格を併用すると、柔軟に対応できる場合があったりします。工夫次第で面白い組み合わせもできるかも知れません。

以上

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