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配信裏話『「スプラは有利な側が異常に強いゲームだ」という話』


 配信中に時折言っている「スプラは有利な側が異常に強いゲームだ」という話。これは人数有利の性質とスプラの根幹要素である塗りの性質上発生する避けようのない、そして遊ぶ上で理解しておかないとしんどくなる要素なので、自分のためにもこれからスプラを遊んでみよう人のためにも、そして最近全然勝てなくてスプラがきついという人のためにも、一度文章化しておこうという試みである。
 立ち回りやブキ解説のような個別の深堀はしない、あくまでスプラというゲーム(特にガチルール)の概論という趣だが個々人のゲーム理解の助けとなれば幸いである。

1.人数有利


 様々なプロプレイヤーの配信やコーチングなどを見る人ならば必ず聞いたことがある単語が『人数有利』という単語だろう。この人数有利を語るうえで切っても切れない関係にある理論が存在するのを知っているだろうか。
 『ランチェスター第二法則』。実際の戦争において兵器の性能と人数の差が戦闘力にどのように影響を与えるのかを分析した理論であり、今回使う結論だけを述べるのであれば、「戦闘力は人数の2乗に比例する」という大変身も蓋もない結論である。
 正確には、射程のある戦闘員が確率で敵戦闘員を殺傷しうる現代戦においては、戦闘力=兵器性能×人数^2となる、という理論なのだが、今回は話を単純にするために敵味方の人数差の話に絞りたいと思う(敵味方全員が96ガロンあたりを使っているという想定でイメージしてほしい)。
 では実際に戦闘力差を比べていこう。
 敵味方全員が生存している時は「4^2:4^2」、つまり「16:16」で拮抗しているのだが、この状態から最初の1キルがどこかで発生すると「16:9」となり、なんと戦闘力差はほぼ2倍まで広がってしまう。4vs2では「16:4」で4倍、仮に相打ちに持ち込めたとしても3vs2でも「9:4」で2倍以上の戦闘力差がついたままなのが理解できるだろうか。
 これがスプラ最大の負け筋を作る「打開」の難しさを跳ね上げている最大の要因である。
 『最初に運悪く死んでしまい、味方も耐えられずに全滅。「さあこれから打開するぞ」という時に進んでいくカウントに焦って前に出て敵に囲まれ、なんとか相打ち。自分は1キルは獲ったのだから、なんとか出来ない味方が悪い』。感情としては大いに分かるのだが、この試合の敗北を作ったのはこのプレイヤーである。
 人間は感覚で累乗を理解できない生き物なので、相打ちは1:1交換がとれている、という認識になりがちなのだが、実際の戦闘力差の推移は以下の通りとなる。
 まず初動での自身の1デスで戦力差は「16:9」。味方が全滅するまでの間に誰かが奮戦して1キルもぎ取っていたとして、一番最初に死んだ自分が復帰した時の差が「9:1」。突撃して相打ちで「4:0」。2番目に死んだ味方と最初に味方がキルした敵がリスポーンして人数は3vs1、戦力差「9:1」。
 この1人のプレイヤーは味方が復帰するまでの間、9倍の戦力差に曝されて生き残らなければならず、もう1人復帰したとしての戦力差は「9:4」。3人目が復帰してくるまでの間にこの2人のプレイヤーが2倍以上の戦闘力差に耐えられなければ、このループが継続する。
 これが悪名高い「人数不利ループ」である。
 もっと単純化して考えても、人数不利状態で発生した相打ちは4vs3の状態からなら戦力差が約1.8倍から約2.3倍に、3vs2の状態からなら約2.3倍から4倍に広がる事態なのである。


 2.塗りと索敵


 話を数字からスプラに戻そう。スプラ最大の要素として「塗り」という行動がある。シューティングに慣れていない人でも塗りで試合に貢献できる、という触れ込みで初心者向けだとされる本シリーズだが、これは実際には合っているようで間違っていると思っている。
 正確には「塗りで有利がとれている状態では初心者でさえ上級者を倒しうるほどの有利がつく」ゲーム。これが本作の良いところであり、また悪いところでもあると考えている。
 というのも本作を含むシューティングでは「索敵」という行為が極めて重要になる。これは全体の試合の流れを把握するだけでなく、ひとつひとつの対面においても先手を取って先に攻撃し始めた側が圧倒的に有利であるという端的な事実に基づくものである。
 ここで本作の塗りの仕様を思い出してみてほしい。「自分の色の中を敵は泳げない」「自分の色の中で身を隠すことができる」「自分の色で塗るためには基本的に身体を晒す必要がある」。当たり前のようだが重要な事として、「敵はこちらのインクの中にはいない」のである。
 つまるところ塗りで有利が取れている状況では索敵という行為を意識せずとも、少ない敵のインクだけを見ていれば自ずと敵を発見でき、先に敵を発見できれば先手がとれ、なおかつ敵は少ないインクの中でしか動けないため選択肢が少ない、という状況に勝手になっている。これはシューティング初心者にシューティング上級者の動きを自然とさせるということに他ならない。
 そういう意味でスプラというゲームは間違いなく初心者に優しいシューティングゲームである。


 3.塗りと包囲
 対して塗りで不利を負っている側の目線で考えてみることにする。再度塗りの仕様を確認しよう「敵の色の中を自分は泳げない」「敵のインクの中には敵が潜んでいる可能性がある」「自分の色で塗るためには基本的に身体を晒す必要がある」。これは言い換えれば「必ず後手になる」と言っているのに近い。
 遮蔽の裏など視界の通っていない場所を索敵すればいい他のシューティングと異なり、敵のインクはその全てが敵の潜伏しているかもしれない空間であり予め敵の位置を予測してエイムを置いておくことが難しく、待ち伏せをクリアリングするためにはサブにしろメインにしろ身体を晒してインクを吐き出す以外の選択肢がほぼ存在しない、これは相手に自分の位置という極めて重要な情報をタダで渡すに等しい行為であり、結局は先手を取られないためのクリアリングが相手に先手を渡す行為に変わってしまう。かつ「敵の色の中を自分は泳げない」ために敵に先手を取られた場合に一度移動して五分五分の状態に仕切りなおすという選択肢も取りにくいのだ。
 ここに先ほどの人数差による極めて大きな戦力差も圧し掛かってくることになる。これがこのゲームの「有利な側が異常に強い」所以である。



 4.スペシャルの重要性


 ここまでの話の流れの中で、このゲームにおける「打開」という行為がいかに難しいことなのかは凡そ分かって貰えたかと思う。それでもこのゲームは4vs4の対人ゲームであり、味方のミスや敵のウデマエによって、自分がいかに最適な行為を行っていたとしても打開を行わなければならない場面が必ずあるということはもはや語るまでもないことだと思う。
 この時に人数差による戦力差や塗りでの不利の中でも人数差を逆転できるほどキルが取れる、という事態が発生しているのであれば少なくとも自分の適正ランク帯で戦っていないのだろう。新しくこのゲームを始めた新規プレイヤーたちのためにもささっと勝ち進んで適正ランクまで進んでほしい。
 問題は相手と自分のウデマエが拮抗している時に、どう打開するか、である。
 結論からいえばスペシャルに頼ることになる。
 一言にスペシャルと言ってもいろいろな種類があるのは言うまでもないが、マルチミサイルのように相手の場所を確定させ移動させる「索敵の不利を返せる」スペシャルや、アメフラシやホップソナーのように0.5人分として働くことで「人数を追加できる」スペシャル、ウルトラショットやカニタンクのように無理やりキルをとることで「人数差を作る」スペシャルなど、これまでの前提を踏まえたうえでこれらの強力なスペシャルなくして戦力差を埋めることは難しいというのが結論なのである。
 というのも、不利状態の最大の要因である人数不利を埋める最良の選択肢は『味方の復帰を待つ』ことである。前述のとおり人数不利時に2倍以上の戦力差に晒されながら必死にとった相打ちは戦力差を広げる結果になるが、味方が復活してくるまでの7.5秒待つだけで少なくとも人数不利は無くなるのである。
 極論ではあるが、打開時にデスするくらいなら味方が復活してくるまでイカスポーンの上でぼーっと眺めている方が遥かにマシ、という事である。
 とはいえ不利は人数差だけではなく塗り状況にもついており、味方が復活してくるまでの時間を無駄にするというのも勿体ない。であれば安全な位置でスペシャルを溜めながら味方を待っている方が有意義、ということである。
 カニタンクやウルトラショットのような理不尽なキルが狙えるスペシャルであっても、味方が復帰する前であれば2キル以上取らなければ人数不利が埋まらないのに対して、人数が4vs4になっていればどこかで1キル入るだけで打開が完了するほどの有利がつくため必要な最低値がかなり低くなるのがわかるだろう。
 ただし、この時にスペシャルゲージ欲しさに敵のインクを塗りに行くのは前述の通り、相手に先手を譲るだけの行為になり特に短射程のブキでは人数不利ループの原因、つまり負けの原因となりかねないため、自陣の塗りが余っているならこちらを使うことがベターな選択だろう。
 あくまで「塗りの不利はスペシャルで返す」のである。



 5.残念ながら……


 このように「打開にはスペシャルだ」という話をしてきたのだが、このゲームの非常に残念な側面にも触れなければならない。それは「打開の役に立たないスペシャルも存在する」ということである。現状で言えばサメライドやキューインキなどがそれに当たるのだが、これらのスペシャルは状況を選ぶスペシャルである。が、前述のとおり打開におけるスペシャルとはのっぴきならない状況でもこちらの選択肢を無理やり拡大できることが重要であるため、ゲーム性に嚙み合っていないのである。
 こうなると打開時に出来ることは最低限味方の復帰まで死なないようにし、味方を人数不利にしないようにするという一点だけであり、しかも味方の復帰後に本来使えるはずのスペシャルは状況が噛み合わない、塗りの不利を対面力で返すほかないため、自分を含む味方の死亡率が上がり人数不利ループに陥りやすくなる。という極めて厳しい状況になる。
 当然ながら打開時に死に続ける味方が1人でもいると、カニやウルショにある連キルからの無理やり打開のワンチャンスすらない為、ノックアウトで負けるか、残りの試合時間の間ずっと苦しいと言い続けることになってしまうというのが実情である。
 このような事情から打開に使えないスペシャルをもっている武器は、状況が不利になる前に自分で最初の1キルを取り盤面を有利に傾けたうえで、強い状況を選んでスペシャルを使うことで相手に打開させずそのまま勝ち切ってしまう、というのが求められるのだが、カニやウルショ、ナイスダマ、テイオウイカといった強スペシャルでの打開を封殺できるほどの性能は流石になく(もし仮にそれが出来てしまうと最初にデスするプレイヤー、つまり8人の中で1番弱い人がいたチームの負け、という最悪のギスギスゲームと化すわけだが)、サブとスペシャルがブキセットとして固定されている関係上プレイヤーに自由度がないのも相まって、これらのスペシャルがついているブキを使うのは残念ながら厳しい、と言わざるを得ないゲーム性となっている。


 ここまで「スプラは有利な側が異常に強いゲームだ」という話をしてきたのだが実の所これは悪い話ばかりではないのだ。つまる所これらの要素はゲームや戦略についての理解度が低くとも膨大な有利に下駄を履かせてもらえる、ということであり、初心者でもなんとなく味方についていって目に付いた相手にインクをかけていたら勝てた、という成功体験の元にもなっている。
 裏を返せばゲームが上手くなってきて中級者の仲間入りをしても理不尽に負ける試合が多く、成長を実感できないという難点にもつながっており、特にスペシャルの格差が酷かったスプラ2をとんでもないストレスゲーにしていた根幹でもあるこのゲーム性だが、多くの人が遊ぶビッグタイトルになれた要因の1つでもあるのだと思う。


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