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イルシャボタン終2014作品

十一FIN・未知との遭遇・イルシャボタン



真夜中、アルクの目が覚めました。

先が尖った天井に付いてる窓の下でアルクの地球儀がユラユラしています。

モモは天井から落ちてくる赤いピカピカを捕まえては口に入れています。

隣を見るとヒカルが自分で作ったシャボンと指シャベリしています。

シャボンたちが浮かびだすとヒカルが指で天井から階段を出してくれました。

ヤマアラシたちはちょっと心配そうです。

「ジュミョーキゲンじゃないだろニャー」

三人はいっしょにベッドの上で元気に起き上がります。

地球儀とシャボンたちが窓からすーっと消えるのが不思議で、そのあとをみんなが追いかけました。

くるくるラセンの階段を登り、そして天井の窓から屋根の上に出ました。

ヤマアラシもトドもミシンも心配そうに三人に付いて来て屋根の上に乗りました。

地球儀もシャボンたちも屋根の上。そこからは東に赤い星がいつもよりずっとずっと明るく輝いて見えます。

地球儀とシャボンたちがヘンタイになって浮かび始めると、ドオモの屋根もゆっくりと浮かんで行きます。

アルクは昔パパと始めて乗ったシナガワ島のヒタチエレベーターの気分を思い出します。耳がキュンとしてあっという間に三十階。それの緩ーい感じです。

それから屋根はフライトンになって明日の朝の赤い星に向かってゆっくりと動き出します。

「あっ、ハイパーベルトに乗れたんだ」

アルクはヒカルの手を握って自分の気分を伝えました。

やがて屋根フライトンは地上に降りて止まります。

太平洋をひとっ飛びしてそこはメキシコユカタン半島の南の端、グァテマラ高地の森の中。

夜明け前、一番星の下に見え始めた小さな点がだんだんと輝きを増し、二番目の三日月になって近づいて来ます。そして、ゆっくりとさらに丸く膨らんで近づいて来ます。

もっともっと膨らんで青白く光り始めた二番月はまるで茹で上がったお鍋のスープみたいに目や鼻や口をブクブクとさせ怒りだしています。

真正面に来て今度は口を開きベロを出しました。

怒って顔はすぐに真っ赤。ベロはますます大きくなって地上のアルクたちをひと舐めするように真上を通り過ぎて行きます。空を覆った二番月の顔からは目も飛び出して鼻は象のようでした。

屋根フライトンは身をかわしてまた高く浮かび上がりました。

月は顔をさらにしかめて西にゆっくり動いています。

それから屋根フライトンは地球の裏側を回って二番月の正面をもう一度迎えます。

大西洋をまたひとっ飛びしてアルプスを越えチベットの峰に辿り着きます。

東にはもう月の形がありません。飛び出した目や鼻は先で枝分かれしていて、たくさんの手足が生え、タコやカニのよう。
下界からは大蛇ようにも竜や火の鳥のようにも見えました。
稲妻も呼び寄せてバリバリゴオーゴオー、ヒマラヤにもこだましています。

放たれた怪物の雄叫びがしばらく大地を震わします。

怪物たちは一斉に西に向かって落ちて行きます。
そして体に蓄えていた砂も吐き散らして行きます。

もっと枝分かれしていった手や足はやがて水になって地球を回り始めました。大きな塊はそのまま高地と極地に氷河を積み上げました。

大西洋に落ちたバラバラの手足はさらに海を怒らせて津波を作り、大雨と組んで大洪水となって、再び地球を回りだし始めました。

地球の高地と極地を除いてあっという間にみんな水に浸かりました。


ユーラシアで飛び上がった巨体は再び丸い二番月になり地球から遠ざかっています。

その二番月に引かれるように屋根フライトンは西に向かって動きやがてエーゲ海の島の上に浮かびます。

アルクたちにもしばらく土砂降りの雨が襲いました。

「ヒカルのシャボンのかさのおかげだよ。ぬれないよ、アルクたち、みんな」

やがて、雨が止み、いつもの太陽が顔を出します。

海には大きなハンペンセンが浮かんでいます。

舟は浮かぶ動物園のようでした。屋根フライトンもゆっくりとハンペンセンに降り着きます。

海の水はどんどん引いて海に丘が顔を出します。

ハンペンセンの船長が屋根に近づいてきました。

白髭おじいさん船長の手の上には白黒マグパイがヤマモモの葉っぱをくわえながらピーピーと鳴いています。

船長はツノメットとサングラスをとって挨拶してくれました。

おでこが太陽でピカッと光りました。

見覚えのある顔が、聞き覚えのある声が。

「オハヨー、アルク。オハヨー、ヒカル。ハジメマシテ、モモ」

「えー、げーっ、シロージジ?」

            F     I     N

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https://note.com/kotan777/n/n350df6d0a06d

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