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「BANTC」で上手くいかないなら「MEDDIC」を試してみよう

商談の受注見込を判断する指標や、商談の中で収集すべき情報項目として、有名なのが「BANT」や「BANTC」。アルファベットが各指標/項目の頭文字となっていて、Bは予算(Budget)、Aは決裁権(Authority)、Nは必要性/課題(Needs)、Tは導入時期(Time frame)、そしてCは競合(Competitor)です。これらを使って商談の優先度合を見直すため、SFAの入力情報として設定している営業組織もあるのではないでしょうか。

このように営業では有名なBANT/BANTCですが、これに代わるものとして最近注目を集めているのが「MEDDIC」です。そこで、今回は近年注目の「MEDDIC」について、その内容とBANT/BANTCとの違い、そしてBANT/BANTCよりもMEDDICの方が適している営業について見ていきます。「MEDDICなんて知らない」という方も、「聞いたことはあるけど詳しくはわからない」方も、ぜひお読みください。

四半世紀以上前に開発され、近年注目を集めている「MEDDIC」

そもそもこのMEDDICの誕生は意外と古く、1996年にアメリカで開発されたもの。ですが、これを開発したメンバーが2020年ごろから複数の書籍※を発行したり、会社名がずばりそのままのMEDDICC社を立ち上げたりと、活発にこのMEDDICというコンセプトの普及活動を一気に進めたのです。その結果、海外特にアメリカではよく知られるコンセプトになっています。
※「MEDDICC: The ultimate guide to staying one step ahead in the complex sale」Andy Whyte, Dick Dunkel & Jack Napoli, Nielsen, November 25, 2020
 「The Qualified Sales Leader: Proven Lessons from a Five Time CRO」John McMahon, April 9, 2021

MEDDICの6文字は何を表している?

それでは、このMEDDICというアルファベット6文字が表している要素を見ていきましょう。

M:目標数値(Metrics)顧客は何を達成したいのか。
E:財務判断者(Economic Buyer)誰が購買の最終判断をするのか。いわゆる決裁者のことです。
D:意思決定基準(Decision Criteria)解決策を評価する際にどのような基準や要件が用いられるか。
D:意思決定プロセス(Decision Process)購買の意思決定はどのようなプロセスで進むのか、誰が関わるのか。
I:課題特定(Identify Pain)顧客にとっての課題や損失がどのようなものか。
C:自社の支持者(Champion)顧客の中での自社の最大の支持者は誰か。

1つめは「目標数値」。英語のmetricを辞書で引いても「メートル法の」という訳しか出てきませんが、ビジネスでは「計測基準」や「算定指標」という意味で使われます。そしてこのMEDDICでは、顧客の成功を測る数値目標という意味合いで使われていますので、英語が得意な人ほど要注意な項目です。「新商品の売上で10億円を達成したい」「コスト/工数を3割削減したい」など、顧客が何を達成したいと考えているのかを把握します。

2つめは「財務判断者」と書きましたが、BANT/BANTCの決裁権(Authority)、つまり「決裁者」のことだと思ってください。必ずしも個人とは限らず、役員会で最終承認される場合などは複数存在します。

3つめは「意思決定基準」。自社が提案する商品やソリューションを含め、複数の解決策の優劣を顧客がどのような基準で評価するかという、評価項目や要件を把握します。RFP(提案依頼書)の中で公開されている場合もありますし、顧客の関係者の中ですり合わせが必要な場合もあります。意思決定基準があるのか、それは関係者の中でどこまで合意されているのかを把握しようというものです。

4つめは「意思決定プロセス」。最近では「部長さんがポンと判子をついたら決裁完了」というのはほぼなくなりました。「稟議を作成して課内で決裁してから、部内決裁へ進み、最後は役員会承認」となったり、原料や部品の調達の場合は「試作品を作って試験評価を行って品質管理のチェックを受けてから正式に注文」となるなど、組織として購買を決定するまでのプロセスが存在しています。これらがどのようなもので、各工程でどのような役割の人が関わるのかを把握します。

5つめは「課題特定」。顧客にとっての課題や問題、現在発生している損失や不具合などを具体的に把握します。BANT/BANTCの課題(Needs)と同じです。

そして最後の6つめが「自社の支持者」。英語でChampionとありますが、これは顧客の中で優れた人という意味ではなく、自社のことを支持/擁護/肩入れしてくれている人のことです。

ちなみに、最初の方でご紹介したMEDDICC社にはCが2つありましたが、スペルミスではありません。2つめのCは「競合(Competitor)」のことで、BANTに競合(C)を追加してBANTCができたのと同じようなものだと思ってください。

BANT/BANTCとMEDDIC/MEDDICCは、何が違うのか

こうやって見てみると、BANTCとMEDDICCは「決裁者(BANTCのA、MEDDICCのE)」や「課題(BANTCのN、MEDDICCのI)」「競合(BANTC、MEDDICCともにC)」のように半分ほどは重複していますが、「目標数値」や「意思決定基準」「意思決定プロセス」「自社の支持者」といった新しい項目がMEDDICCに登場しています。

このようなBANT/BANTCとMEDDIC/MEDDICCとの違いは何を表しているのでしょうか。

私は、顧客の購買活動そして営業としての関わり方において、何を前提としているかの違いがこの2つにあると思っています。

顧客が自分で決められるシンプルな購買/営業向きのBANTと、複雑な購買/営業向きのMEDDIC

BANT/BANTCでは、「予算」や「導入時期」などが顧客の中で明確になっていることが前提となっています。顧客の中で課題が明確になり、いつの予算をいくら使うのかまでが顧客の中で決められ、その条件下で各社が営業活動を行うという世界です。

それに対し、MEDDIC/MEDDICCでは、「予算」や「導入時期」ではなく、それを生み出すもとになる「目標数値」「意思決定基準」や「意思決定プロセス」の方に注目しています。「これだけの目標を達成できて、投資対効果の基準を満たせるのなら○百万円までの予算を付けられる」「この意思決定プロセスを進めるには最低でも○か月は必要だから、今年度の下期導入を目指そう」というように、「予算」や「導入時期」を決める過程に営業として積極的に関わっていこうという意思が見られます。

簡単に言えば、予算や導入時期といった顧客が決めた条件/ルールのもとで営業を進めるのがBANT/BANTCで、顧客の意思決定プロセスを伴走しながら顧客と一緒にそれらの条件やルールを考えていくのがMEDDIC/MEDDICCだ、ということだと思うのです。

このように考えると、顧客の中で欲しいものが明確になっていて、予算や導入時期などを顧客の中で決められる、比較的シンプルな商品・サービスの営業に向いているのがBANT/BANTCだと言えるでしょう。

そうではなく、顧客の中で欲しいものが具体的になっていない/絞り込めていない場合や、意思決定のプロセスが長かったり関係者が多かったりと購買活動が複雑な場合には、MEDDIC/MEDDICCが適しています。

購買が複雑化している現代の営業にこそMEDDICは求められる

これまでのブログでもたびたび紹介しているように、現在の顧客の購買活動は複雑化しています。購買に関係するメンバーの数は増え、意思決定にかかる期間は長くなり、「海外で話題の営業本『ジョルト・エフェクト』から学ぶ!優柔不断な顧客を支援する『4つの処方箋』」にもあったように顧客の優柔不断が原因で、購買の意思決定そのものに至らないケースも増えてきています。

そのような顧客の購買活動を支援するために「顧客中心営業」や「コンサルティング営業」という考え方が登場し、日本でも知られるようになっています。しかし、商談を評価する観点はBANT/BANTCという、顧客が自分で欲しいものを明確にできて、予算や導入時期などを自分で決められて、意思決定できることが前提となっているもののままだという営業組織がまだまだ多いようです。

顧客が自ら購買活動を進めようとしているものの、購買活動が複雑化していてそれを支援する必要がある場合は、BANT/BANTCでは顧客の購買を後押しできません。MEDDIC/MEDDICCという考え方を取り入れて、これらの情報を集めるような営業のやり方に変える必要があるのです。

BANTではなくMEDDICを使うことで新しい営業のやり方/あり方に変えよう

ドイツの哲学者ハイデガーが「言葉は存在の家である。この住まいのうちに人間は住む」と書いたように、私たちが使っている言葉によって見えてくる世界が変わります。欲しいものや予算などを顧客が自分で明確化できる世界のBANT/BANTCから、顧客の購買プロセスを伴走しながら欲しいものや予算を一緒に決めていく世界のMEDDIC/MEDDICCという言葉に切り替えることで、もっと顧客の購買活動に関わる営業のやり方/あり方に変化するきっかけになるのではないかと思うのです。

参考:「Fast-Track Your B2B Sales: Navigate Complex Buying Journeys to Close More Deals」(SuperOffice, 25 March, 2024)