営業・マーケティングの新たなトレンド「ROP(Revenue Orchestration Platforms)」とは
ここ数年、特に海外のB2B営業では「レベニュー(Revenue:収益)への統合」が大きなトレンドになっています。
例を挙げると、私が昨年参加したカンファレンスのタイトルには「CRO」という言葉が使われていました。これは、「Chief Revenue Officer(最高収益責任者)」を省略したもので、営業やマーケティング、カスタマーサクセスといった部署を統合する存在として、CROという上位の役割が求められているというもの。収益(レベニュー)という1つの目標に向かって、タコツボ化してしまいがちな営業/マーケティング/カスタマーサクセスなどの組織・業務を連携させようという意味合いで、「レベニューへの統合」が強く訴えられていました。
そしてこの「レベニューへの統合」を象徴する新たなトレンドが起こっています。それは営業やマーケティングで使われる各種テクノロジーを、APIなどを経由せずに1つのプラットフォーム上に統合し、AIを活用し、より効率的で使いやすく、顧客にとってもスムーズな購買体験ができるようにしようというもの。「レベニュー・オーケストレーション・プラットフォーム(Revenue Orchestration Platforms、以下『ROP』)」と呼ばれるこのトレンド。数年後には日本にも訪れるであろうROPについて、一緒に見ていきましょう。
テクノロジーの急拡大はもう終わり?ROPで統合の時代がやってくる
日本でもマイナンバーカードの普及によって、さまざまな公的手続きがデジタル化されています。ただ、まだまだシステムが縦割りで、操作の途中で違うサイトにつながったり、何度もパスワードを入力しなければならなかったりと、シームレスとは言い難いことが沢山あります。そこでちょっとイライラした経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
もちろんそれでも役所の受付で長時間並ばされた過去と比べると、隔世の感ではあるのですが、それをもっと進化させて、よりスムーズな顧客体験を実現させようというのが、 ROP(レベニュー・オーケストレーション・プラットフォーム)なのです。
営業およびマーケティング関連のテクノロジーは、コロナ禍の少し前から爆発的に成長してきました。ナンシー・ナーディン氏が精力的にまとめてきた営業テクノロジーのカオスマップ(一覧表)として「Sales Technology Landscape」というものがあります。2017年版に掲載されていたテクノロジーの数は400程度、その後2018年版では500、2019年版は600と増え続け、2021年以降は1,000以上のテクノロジーが掲載されています。
その機能領域はどんどん拡大し、各社は独自性を出すためにアレコレ詰め込んだものを出してきているのですが、どうしても「部分最適」になりがちです。そこに「本当に必要なものに絞ってもっと上手くやろうよ」と出てきたコンセプトがROPなのです。
これは必要なものを1つのプラットフォームに統合することで、より安価なコストで、より効率的で使いやすく、そして顧客にとってもスムーズな購買体験ができるようにすることを目的としています。全米有数の調査会社であるForrester社が今年の自社主催カンファレンスの目玉の1つとして打ち出しています。
ROPによるメリットとして、SFAにある顧客の属性情報や商談履歴といった情報と、EメールやWeb会議などでの顧客とのやり取り、Web上で得られる顧客企業や業界のニュースなどを組み合わせて分析することで、どのようなアクションを取るのが最適なのかをAIがサポートしてくれるようになるというようなことが想定されます。
単に統合するだけでなく、そこにAIを組み合わせることで、顧客にとっても、企業にとってもよりよい状態を目指すというものだと思います。
ROPに求められる4つの機能
では、Forrester社は世の中に1,000以上もあるテクノロジーの中から、どんな機能を「本当に有効なもの」としてROPの中に含めているのでしょうか。ROPに含まれるテクノロジーは、以下の4つの機能です。
確かにどの機能も営業活動の効率化に欠かせない、最大公約数的なテクノロジーの組合せになっていると思います。
AI技術の進化が可能にした4つの機能の連携・統合
とはいえ、この4つの機能が1つにまとまったプラットフォームは存在するのでしょうか。また、それらを連携・統合することは可能なのでしょうか。これらの疑問に対して、Forrester社は以下のように答えています。
つまり、昨年から話題になっている生成AIを含むAI技術の進化が一因となって、顧客エンゲージメント/データキャプチャ/分析/最適化という4つの機能を連携させられるようになったというのです。生成AIの登場がこんなところでも影響しているのですね。
ROPに早くも賛同・称賛する企業が出てきていて、今後のトレンドになる可能性も
Forrester社がこの内容を自社主催のカンファレンスおよびそれに先行するレポートで発表したことを受け、SalesloftやGongといった大手テクノロジー企業がこの流れに乗ろうとして、ROPを絶賛し自社のサービスがROPそのものだとするブログを発表しています。
まずはGong社のブログ記事を見てみましょう。
続けて、Salesloft社のブログ記事から抜粋します。
このようにForrester社の記事は、自社のテクノロジーはROPのような統合型へと進化していると自負しているテクノロジー企業から、手放しで称賛されています。この輪が広がっていくことで、雨後の筍のように爆発的に成長・拡大してきた営業/マーケティングテクノロジーが、収斂・統合していくというトレンドが今後主流になる可能性が十分にあります。
と、ここまでROP(レベニュー・オーケストレーション・プラットフォーム)がどのようなもので、なぜ今重要視されているのかについて見てみました。このROPというトレンドが私たちB2B営業/マーケティングの世界にどのような影響をもたらそうとしているかについて、もう少しだけ補足します。
ROPが営業/マーケティングにもたらす影響①「タコツボ化/断片化されている業務やツールの統合」
まず、これは冒頭でも述べた、営業やマーケティングといったタコツボ化/断片化されている業務やツールを「レベニューへ統合」させようという、大きなトレンドの一部だということです。
海外では営業組織とマーケティング組織を統括するChief Revenue Officer(最高収益責任者)が置かれるようになっていますし、セールス・イネーブルメントの領域をマーケティングやカスタマーサクセスにまで拡張した「レベニュー・イネーブルメント」を提唱する専門家や企業も登場しています。これらと同様に、様々な分野で営業やマーケティングがレベニューの名のもとに統合されていく可能性があるのです。
ROPが営業/マーケティングにもたらす影響②「機能が絞り込まれ、テクノロジー淘汰&集約の時代に」
そしてもう1つのポイントは、これまで多岐にわたって広がり過ぎていた営業およびマーケティングのテクノロジー/機能のうち、本当に有効でどの営業組織にも欠かせない機能が「顧客エンゲージメント」「データキャプチャ」「分析」「最適化」の4つに絞り込まれたということ。
これによって、多くの営業/マーケティングテクノロジーが、これまでの自社の強みを残しつつ、これら4つの機能をカバーするように進化していくはずです。つまり、よりスムーズに連携・統合しAIによる利便性を感じられるテクノロジーだけが勝ち残ることができる、厳しい淘汰の時代が訪れるということなのです。
日本の営業/マーケティングにも影響を及ぼす可能性あるROPについて継続してウォッチしていきます
今回ご紹介したROPというコンセプトによって、近い将来、日本で私たちが使用する営業/マーケティングテクノロジーも大きく変化する可能性があります。数多くのテクノロジーの収斂・統合が進んでいくのか、トライツブログでは引き続きこのROPというトレンドをウォッチしていきます。
参考:
「A New Supergroup For Revenue Technology Emerges: Revenue Orchestration Platforms」(Anthony McPartlin & Seth Marrs, Forrester Research, Inc., April 5, 2024)
「Revenue Orchestration Platforms Are Reshaping the Future of B2B Revenue Generation」(Salesloft, Inc., April 12, 2024)
「Forrester report shows the benefits of revenue tech stack consolidation」(Eilon Reshef, Gong.io Inc., April 15, 2024)