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9/7 ハク・ハルクという男

今日は我らがハクさんのワンマン。ミュージシャンでも芸人でもなく、ただいつもマガユラに来てくれるお客さんというだけのハクさんが、落語やコント、DJ等を順番に弾丸でこなしていくワンマンライブ。次のやつ大丈夫かな…と思いながらハクさんを眺める、まるで障害物レースを観覧しているようなイベントだった。

今日の最後の演目は「即興ソング」、奴亦准というスーパーアコギタリストを引き連れ即興で演奏&歌うというもの。その1番最後の曲で「マガユラに来て新しい人生が始まった」的なことを歌っていた。今日のライブ終わり、その歌のことで「ハクさんってマガユラ来るまで友達いなかったんよね?」と誰かに聞かれると即答で「はい、そうですね」と無表情で答え、その数秒後、自分のワンマンに遊びに来ていた全お客さんを横目に「あ、じゃあ時間なんでそろそろ帰ります」と言って、何事もなくいつも通りそそくさと寝に帰った。

決してクオリティが高かった訳ではないが、いっぱい笑ったし僕にはしっかり刺ささったエモいワンマンだった。が、ライブ中にふと「この訳分からん男を俺はなんでこんなに好きなのだろう」と思った。今回のnoteは日記ではなく、僕(ら)とハクさんとの出会いから今までを順番に整理しながら、僕はなぜハクさんを好きなのか、なぜこの人のワンマンを観たいと思ったのか、そもそもこいつなんなんだ、というのを綴っていく。

約2年半前、シバさんが一人でマガユラをやっていたところに僕が参入し、3Fのイベントスペースの楽屋だった2Fを改装してBARとしてオープンさせようとしていた。まだ改装は終わり切ってはいないが営業はできる状態の時にプレオープンとして店を開け始め、3日目ぐらいの時に変なお兄さんが現れた。

「あー、なんか、新しく店できたなと思って…」と言いながら入ってきたこの男。ソフトドリンクを1杯頼み「こう見えて結構モテます」と言う初対面ではなんともツッコミづらい話を始めた。そして「今は僕太ってるんですけど、昔の写真見たらみんなかっこいいって言うんですよね」と言い出した。「マジですか、見せてくださいよ」と言うと「いや、でもこれは女の子を口説く際、いい感じになってきたところでダメ押しで使うので、あんまり簡単には見せないんですよね」と、なぜかずっともったいぶる。

ぶっちゃけ全く興味はなかったが、ちょっと面白くなってきたので「めっちゃ観たいです!」と乗せ続けると、しばらく推し問答を繰り返した後、マジシャンがトランプを置く時みたいな感じで人差し指と中指で自分の免許証をカウンターの上に置いてスライドさせてきた。

確かにちょっと痩せてるとはいえ普通の普通に普通、とりあえず面白かったので「イケメンですね、これは口説けますね!」とは言っておいた。そしてよくよく聞けば、ハクさんが「女の子にモテている」と言う話の中の女の子はほぼ全員がガールズバーの店員だったことが発覚。

大真面目に女の子にモテてると思い込んでいるぞ、こいつマジなのか、面白すぎるだろ……、これが僕のハクさんとの初対面だった。

ハクさんは家が近いのもあってか週5ぐらいでマガユラに現れるようになる。そして、今はいないマガユラのバーカンの女の子たちに順番にラインを聞いていた。「僕、割と女遊び激しいです」と語るハクさん、しかしよくよく話を聞くとハクさんの中では「連絡先を聞くこと=女遊び」みたいな構図になっていたようで、遊びどころかただの接客でしかなかった。

それからハクさんは電車に乗ったことがなかったらしい。理由は「必要なかった」とのこと。これも後の話だが、電車に乗れないせいで尼崎までタクシーで来たことがある。往復で¥6000近くになるはずなので、お金はそこそこ持っているようだ。

会って数回の時に気づいたのは、ハクさんは「変な人」ではあるがそれ以上に世間知らずというか、自分が属する学校や職場のごく限られたコミュニティでしか話したことがなく、色んなものをシャットダウン、もしくは触れる機会がなく過ごしてきたのではないだろうか、と思い始めた。僕はハクさんのことをこの時点でかなり好きになっていて、「この面白い人を俺の友達に会わせたい」と思い、また同時に「ハクさんは色んな人と会って、新しい感覚に触れて欲しい」と思うようになっていた。

それからすぐ、毎週月曜日に「マガユラ大喜利」がスタートした。事前にハクさんにも「毎週月曜日に大喜利大会やるから来て」と伝えており、「大喜利っていうのがなんなのか全く分からないですが、とりあえず行きます」と言ってくれていた。おもしろお兄さんお姉さんの錚々たる面々の中、大喜利の"お"の字も知らなければ人前に立ったことなどもないど素人が一人で放り込まれた形になってしまい、第一回マガユラ大喜利はスタートした。


ハクさんはまず様子見でみんなの回答を眺める。そしてある程度ハクさんの中で「大喜利というのはこういうものなのか」と整理をつけ、初めて出した回答がこちら。

めちゃくちゃ面白いかと言われればそうでもないが、とはいえ「面白い回答」をちゃんと狙って突いたいい回答だった。そしてそれ以降、自分のキャラの天然さで偶発的に出たクリティカルヒットをいくつか経て学んだ「普通のことを言う」という、大喜利をなんだと思っているのだろうみたいなスタイルを確立させていく。


ハクさんは毎週マガユラ大喜利に来てくれた(ちなみに現段階の最新、第89回まで唯一の無欠席)。そしてこのマガユラ大喜利を機に、ハクさんは徐々に変わっていったように僕は思う。

初めて来た頃、ハクさんの中ではハクさん自身がかなり無敵な感じに思えた。自分は仕事ができる、面白い、モテる。しかしなぜか人を見下している悪意のようなものがあまりにゼロだった。多分ひたすらにピュアで、今思うとそれが僕が感じたハクさんの1番の魅力であったようにも思う。

そんな中始まったマガユラ大喜利。回を重ねるごとにハクさんは「自分がモテる」「仕事ができる」みたいな話を少しずつしなくなって行く。そして誰かの回答に対して「なんでそんなに面白いんですか?」と聞いている姿も見た。ハクさんにとって初めての"めちゃくちゃ面白い人たち"との出会い、また"自分より面白い人たち"だったのではないだろうか、と僕は思う。徐々に大喜利の回答の中でもみんなのやり方を吸収して行った。ダジャレを混ぜる、言い方を変える、フリップの出すタイミングを貯める、どんどん小技を盗んでは身につけて行った。

大喜利も回数を重ね「マガユラ大喜利」と言う名前が馴染んできた頃、もう高飛車なことはほとんど言わなくなっていた。優しくて邪気がない、天然でいじりやすい、愛される要素ばかり詰まったハクさんはマガユラのマスコットとして定着する。イチゲンさんのお客さんともすぐ仲良くなる、出演するミュージシャンたちともすぐに仲良くなる、ハクさんがいない日は誰かの「あれ、今日ハクさんは?」という言葉も耳にするようになる、「ハクさん遊びに来て」と電話したらすぐ来てくれる。少し言い過ぎかもしれないが、もう「マガユラ」と言う店の一部になっていたようにも思う。

ハクさんはそれをわかっているようなわかっていないような、絶妙なのがまたよかった。「僕がいたらみんな盛り上がりますよね?」と言うことはあれど、ハクさんの計算通りに盛り上がっている絵面は一度も見たことがない。

そして、ハクさんはやれと言われたこと全てにノリノリで応じる気概もある男だった。ハクさんのためだけの番組「ハク道」もYouTubeに投稿し始めた。全く再生数は伸びないが僕はドツボ。ほんとにいじりがいがありすぎる……。


僕らとハクさんはばっちり友達になった。しかし長く一緒に過ごし始めると、僕らの種族全般(うるさ熱苦し男)の悪いクセなのだが、どうしてもハクさんに対して望んでしまうものがあった。『なんかやろうや』。少しずつ変わってきたハクさんを観ていると、何かに思いっきり打ち込んで突き詰めて向き合って欲しいと思うようになってしまった。

そして僕だったかシオン君だったかまつりちゃんだったかの話の流れは忘れたが、ハクさんが小説を書くことになった。「まぁ、頑張って書いてみます」と言いつつ、「ストーリーだけは考えてみたんですけど、聞きますか?」とマガユラに来ては何度も内容を話したそうにしていた、びっくりするぐらいノリノリだった。

ハクさんの小説は、昨年の8月に行ったマガユラをあげての大きなお祭り「マガユラファクトリー」当日から販売開始することになった。ハクさんは調子良く小説を書き進めるのだが、レイアウトや印刷が全くできないことが後に発覚。というかそもそもパソコンがろくに使えなかったため、まつりちゃんがボランティアで印刷用にレイアウトを行った。

小説が書き上がるのがかなりギリギリになり、まつりちゃんがマガユラファクトリーの前日から当日にかけて徹夜でレイアウトを終わらせてデータをハクさんに送った。マガユラファクトリーはお昼の14時からスタート、事前にハクさんには「小説の印刷の仕方も教えるし、当日どんな感じで売るかも話したいから、オープン前の12時か13時には来てください」と伝えていたのだが、ハクさんはオープンしてもスタートしても来なかった。

ハクさんが到着したのは確か17時ぐらい、「仕事休めなくて…」とのこと。ハクさんはどんなことがあっても仕事を休まない男だった。責任感なのか、それとも「休ませてください」と言えないぐらい遠慮しいなのか、上司が怖いのか。ともかくこの日に関しては「まつりちゃんに徹夜させといて!俺らイベント始まったら忙しいって言ってたぞ!自分で印刷できるんか!もう知らんぞ!それ一所懸命書いたんちゃうんか!その程度のもんなんか!」と言うような内容で僕は語気をあらげてしまった。

ハクさんはUSBメモリーを握りしめ、マガユラファクトリーの会場であるソーコアファクトリーから走ってファミマへ向かった。そしてしばらくすると走って戻ってきて、息をあらげつつ僕に数枚の紙を見せて「ほんとに、えっと分からなくて…えっと…横閉じ印刷で合ってますか…?」みたいなことを言った。印刷された紙を見ると、レイアウトがぐちゃぐちゃのひどい状態だった。

見たことも無い焦り方をしているハクさんを見て、「ほんとに昼から来たかったのに、ほんとに仕事が休めなかったんだな、適当にしてるわけじゃ無いんだな」と思って安心した。僕が口頭でできる限り細かく印刷方法を伝えると、「あぁ、わっっ……かりました」と言い、また走ってファミマに行った。次に帰ってきた時には、バッチリ出来上がった小説を大量に抱えていた。

初めてハクさんが一所懸命に表現したであろう小説「ゴミバンド」。これも決してめちゃくちゃ出来がいいと言うわけでは無いが、キャラクター個々の視点をハクさんなりに丁寧に描いていて、ハクさんの思うことがちゃんと文章に乗っかっていて、部分的にグッと来るものはあった。ちなみにハクさんを知る人たちみんなが「ハクさん頑張ったんだ、気になる、買ってみよう!」という感じで結構たくさん買ってもらっていた。

それから少しして僕らはハクさんに次回作をねだるようになる。シオンくんが言っていた「次の小説は自分が主人公で描いて欲しい、今の仕事の話とか」というのは僕も大賛成だった。とりあえず書いてみようの一作目はできた、ほんとにすごいことだった。だから次はもっと自分に向き合ったリアルなものを書いて欲しい、読みたい。

しかし、ハクさんはそれ以降小説は書いていない。枯渇してしまったのだろうか?それとも飽きた?


とはいえ、ハクさんは持ち前のハートの強さで色々なことに手を出していく。そもそも僕らはアーティストの集いであり、特に僕が遊びのある色んな創作活動の企画を行うため、色々な色々にハクさんも自動的に巻き込まれ続けていった。


お笑い、音楽、アート。色々に触れ色々を感じ、今ハクさんは何がしたいですか、何ができますか。そういう思いで僕は「ハクさん、ワンマンしませんか?」と提案した(嘘ではない)(悪ノリとかではない)(ほんまに)。

提案したのは確か開催の2ヶ月前を少し切ったタイミング。それ以降は会うたびに「モノマネみて欲しいんですけど」「BGMって」「落語にアドバイス欲しいです」といった感じでソワソワしていた。きっとずっと頭の中にこのワンマンのことがあったんだろうなと思う。

今までハクさんがやった"何か"のなかで、今日が1番しっかり出来てたと思う、観てて楽しかった。「何かをやり切ることが大事だと思った」と自分で言ってて、それは大事なことだし嘘じゃないと思うけど、ただ「なぜそう思ったか」は多分ハクさんには言語化できないと思う。だから次は何をやり切る?どこに向かう?を、これからも一緒に話せるといいな〜〜と思った。


これが僕がこの2年半、僕の視点で観測したハク・ハルクという男の話。ぜひ、ワンマンを終えてちょっと調子に乗ってるであろうハクさんに会いに来てください。


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