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生類哀れみの令

会社の帰り道にケンタッキーのお店がありまして、よく奥さんから「○○君(息子)が好きだから買ってきて」と頼まれてドライブスルーで買って帰るんですが、どう見ても息子より奥さんの方が美味しそうに貪っているので多分自分が食べたいだけなんだなと最近になって気付いた次第です。#結婚11年目の真実

こんにちは、コッシーです。


さて、高齢者施設に入居し長い期間が経過すると身体機能や認知機能の低下も相まって行動範囲が狭まったり活動意欲が無くなってきたりすることがあります。

それをそのまま放っておくと生きる気力が失われていき、ますます身体機能や認知機能を低下させて場合によっては寝たきり状態になる可能性もあります。

そこでデイサービスを利用したりご家族とお出かけしたりなど定期的に活動をしてもらうことでそれらの機能低下を防いでいます。

また、それを防ぐ方法の一つとしてアニマルセラピーもあります。

犬や猫などの動物と触れ合うことで、自然に笑顔がこぼれたり穏やかな表情になったりなど、表情の変化や精神的な安定をもたらす効果が有ります。過去に犬を飼ったことのある方は昔のことを思い出して涙することもあり認知症の抑制にも繋がります。


うちの入居施設は残念ながら動物を館内に入室させることは出来ないため、施設内で動物と触れ合う機会はありませんが、たまにご家族がペットの犬や猫を連れてこられて玄関先や車の中などで触れ合ったりされることがあります。

先日も最近入居されたTさん(80代女性)のご家族がお家で飼われている犬を連れて訪問してくれました。

Tさんは穏やかで優しい方ですが、あまり笑顔を見せたり怒ったりせず、感情の起伏をこちらに対して見せません。もしかすると本人は「お世話をしてもらっている」という負い目から遠慮がちになっているのかもしれません。

こちらから積極的にコミュニケーションを取るのも良いですが、ただ本人がそれを望んでいない場合もありますので、今のところは無理に関わるのではなく様子を見させていただいている状況です。


そんなTさんですが、ご家族が連れてこられた犬と楽しそうに触れ合っておりました。館内には入れないため玄関先のスロープ付近で犬をナデナデしているTさんの顔は僕らには見せた事もない弾けるような笑顔でした。

動物というのは人間のように打算的ではなくとても純粋に慕ってくれます。嘘偽りのない自分への愛情を感じてTさんもきっと癒されたんだと思います。ご家族と犬が帰られてからもTさんはとても穏やかな顔をされていました。

純粋な動物と違って腹黒く不純人間の僕は、気持ちが穏やかになっている今こそTさんと仲良くなれるチャンスかもしれないと思いました。

犬と触れ合いたてのTさんに犬の話題を振ればきっと心を開いて話してくれるに違いないとこれまで数々の高齢者のハートを射止めてきた僕はシメシメと食堂でくつろいでいるTさんに声をかけました。

「Tさん、今日は…」

と言った瞬間にある疑問が湧いてきました。

それはTさんの家族が連れてきた犬のことを何て呼べばいいのかという疑問でした。

「Tさん、今日はが来て良かったね」と動物の名前で呼ぶのは可愛がってるペットに対してあまりに失礼な気がします。

かと言って「Tさん、今日はネコ目イヌ科イヌ属が来て良かったね」と学術名で呼ぶのはもはや意味が分かりません。

犬君?犬ちゃん?どちらもしっくりきません。

僕の脳内では『入居者が飼っていた犬を何て呼ぶべきか会議』が絶賛開催中でしたが、既にTさんに声をかけてしまっているので考える時間は残されていません。

どうしよう…これ以上Tさんを待たせるわけに行かないと焦った僕が出した答えはこれでした。


「Tさん、今日はお犬さんが来て良かったね」

僕の悩んで導き出した答えに対してTさんは一瞬怪訝な表情を浮かべましたがすぐに笑顔になり、「ああ、ワンちゃんね。会えて良かったわ」と言ってくれました。


なるほど…正解はワンちゃんだったか…


「お犬さんて(笑)」と側で聞いていたスタッフは大笑いしていました。それにつられたのかTさんも笑ってくれました。

「お犬さん」なんてまるで徳川綱吉が制定した生類憐みの令のように敬って呼んでしまい恥ずかしい思いをしたわけですが、それでもTさんが笑ってくれたのでこれからはペットの犬や猫を「お犬さん」「お猫さん」と呼びたいと思います。#嘘です


現場からは以上です。それではまた。

コッシー

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