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【創作】ハッピーマンデー

「海の日を誕生日だと思っていたんですけどね。今は変わってしまいました」

7月20日ですと言った後、彼女は少し悲しげ表情でそう付け加えた。


同僚が開いた飲み会にたまたま人数合わせに呼ばれた僕の隣にたまたま彼女は座った。盛り上がる周囲に馴染めない僕と彼女は時折お互いをチラチラと見ながらお酒をチビチビと飲んだ。なんとなく気まずい雰囲気に耐えられなくなった僕は「誕生日はいつですか?」と唐突な質問を彼女に投げかけたのだった。

それがまるでダメなことのように苦笑いを浮かべる彼女に、僕はなんと愚かな質問をしてしまったのかと自分を責めた。彼女を悲しい気持ちのままにしておくわけにはいかなかった。彼女の誕生日をなんとか正当化させたかった。

「実はうちの両親の結婚記念日が10月10日で、母親が『せっかく祝日にしたのに変わっちゃった!』と怒っていました」

僕の両親は語呂が良かったのと祝日だったことから10月10日を結婚記念日に選んでいた。しかしいつしかハッピマンデーの扱いとなり10月10日は祝日ではなくなってしまい、母親がひどく嘆いていたことをふと思い出して彼女に伝えた。同じハッピーマンデーの被害者がいることで少しでも彼女をフォローできればと思ったのだが、口に出してみて全然フォローになっていないことに気がついた。飲み会の席で初めて会った男の両親の結婚記念日なんぞに興味などあるはずがなかった。

事実彼女は僕の発言にグラスを手に持ったままポカンと口を開けて固まっている。10月10日に籍を入れたおめでたい両親を恨みつつ僕はその場を取り繕うように言葉を繋いだ。

「ハッピーマンデーって言うけど、ピンポイントでその日を記念日にしている人たちにとってはハッピーなんかじゃないですよね。むしろ腹が立ちますよね。ムッキーマンデー!なんつって」

ハハハと大袈裟に笑い声をあげてチラリと彼女に目をやる。彼女は真顔で僕を見つめたままだった。

「……って母親が言っていました」

盛大にスベったことを母親のせいにするという姑息な手段に出た僕だったが自分の体裁が守れるのなら何だってよかった。固まっていた彼女だったけど「フフ」と笑みをこぼすと手に持ったグラスをおいて口を開いた。


「でも私、お母さんと気が合うかも。気持ち分かりますもん」

そう言って彼女はとびっきりの笑顔を僕に向けた。10月10日に籍を入れた両親に僕は深く感謝をした。


この数年後に母親と彼女はこの話で盛り上がり本当に気が合うところを見せるのだが、彼女の笑顔で頭がいっぱいの今の僕にはそんなことは知る由もなかった。


おしまい(1062文字)


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こちらの企画に参加しています。

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