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【創作】UMBRELLAS

「赤い傘がマリーで、あっちのアニメ柄の小さな傘がダニエルだ。そして僕はこの家の中で1番使い勝手の良い傘のジョンだ。よろしくね、新人さん」

ジョンは頼んでもいないのに勝手に周りの傘たちを紹介し始めた。

「あそこに大きな傘があるだろ。彼はこの家の旦那さん専用のビル。よく会社に忘れられる可哀そうなヤツさ(笑)。他にも和柄のご婦人が千代子さん。お婆さんの大のお気に入りで僕らがここに来る前から使われてるらしい。そして最近仲間入りしたのが日傘のクラウディア。彼女は僕らとは違って晴れた日に使われるだけあって明るくて楽しいレディだよ。どの傘もみんな個性的で素晴らしい仲間さ!」

どうやらジョンは傘であることに誇りを持っているようだった。いかに自分たちが役立っているか、そして他の雨具が劣っているかを饒舌に語り出した。

「僕らの他にも雨具はあるけれど、やっぱり僕は雨の日には傘が1番役に立つと思うんだよね。長靴兄弟のシュウとズウはダニエルと仲が良いみたいだけど足元を守るしか脳がない。最近ではレインコートのケイトがお母さんに気に入られてよく使われてるね。でもレインコートなんて洒落た名前で呼ばれて調子に乗っているけど一昔前はカッパだからね。違う違う、河童じゃなくてカタカナの方のカッパね。洗濯機で泳ぐ方じゃないよ(笑)」

そう言ってジョンは透明な体をクルクルさせながらバサバサと笑った。最近の雨に日に使われたのか、その勢いで体についていた数粒の水滴が舞った。
ジョンは体をつぼめるとこちらを向いて「ところで君はどんな傘なのかな?」と聞いてきた。

「……へえ、君は折り畳み傘なのか。今年から高校生になった長男君用としてここに来たわけだ。なるほど、じゃあ君はいつも肌身離さず持ち歩いてもらえるのか。僕らのように玄関先に無造作に置かれる雨具とは立場が違うってことか!いいご身分だね!
ふん、でもこれだけは言っておくぞ。折り畳み傘は確かにいつもカバンに入れてもらえるかもしれないけど、いざって時にその存在が忘れられガチで結局使われないことが多いからね!前にいた折り畳み傘もそうだった。高飛車でいけ好かないヤツだったけど、結局使われないままお払い箱さ!だから君も気をつけた方がいい。折り畳み傘は便利なようで面倒な存在だと自覚した方がいいよ!」

そう、鼻息荒く主張していたビニール傘のジョンはある日忽然と姿を消した。どうやらコンビニで盗まれたみたいだ。ろくに探してもらえず、すぐに新しい別のビニール傘が家にやってきた。

使い勝手の良いのも大変だ。


おしまい(1053文字)

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