【創作】推しへの手紙
始まりは僕のコメントからでしたね。
あの日偶然読んだ君の記事。
会社の先輩から小言を言われても仕事を頑張った自分に大好きなアロマで癒されて眠ります。と書かれていました。スマートフォンで撮ったであろうアロマオイルの画像が貼ってある特段珍しくもない記事には、“いいね”がたった2つしかついていませんでした。だけど僕はそんな君の記事がなんだかとても健気で応援したくなったのです。
僕の初めてのコメントに君は律儀に次の日には返事をくれました。
君の飾らない真面目な返事に素直で優しい人だと印象を持ちました。そして君はその日も記事を書いていましたね。先輩に怒られて落ち込む自分にアロマオイル。まるでデジャブのように君は前日と同じような記事を書いていました。
決して読み手の興味を引く事を意識せず自分の書きたいことだけを書くその姿勢に僕はますます君を応援したくなりました。
君の良さを分かるのはきっと僕だけだと思いました。君を支えることができるのは僕だけだとそう確信しました。
それから君との交流が始まりました。君の記事を読むのが僕の日々の楽しみになりました。記事を何度も読んでコメントをする。そして君からの返事を待ち侘びる時間がもどかしくも心を躍らせていました。
こうした君との会話が僕にとって本当に幸せでした。なんとなくだけど君は少しずつ明るくなっていったように思えます。
そのせいか、君の記事には僕以外もコメントをするようになりました。
君のことを何も分かっていない連中が勝手気ままなことを君に言います。でも君はそんな意見には惑わされないと思っていました。
優しい君のことだからきっとヤツらに話を合わせているんだと思っていました。本当の君はそんな野蛮なことなんてせず、ジッと堪えて地道に頑張るのだとそう信じていました。
そう君に何度も送りましたが君から返事は来なくなりました。
ルール違反なことは分かっていたけど、何かあったんじゃないかと心配でDMも送ってしまいました。
君から返事がくるどころか君の記事にアクセスできなくなりました。慌てて別のアカウントを作って君の記事を読みました。
誰からも見向きもされてなかった君をみつけたこの僕を、いつも励ましていたこの僕を、君をずっと支えてきたこの僕を、君は排除しました。
どうやらあの頃の素朴で優しかった君はもうどこにもいないようですね。
“君”を始めたのは僕です。だから終わらせるのも僕の役目だと思います。
これからそちらへ伺います。
最後に君の最期の記事にコメントを残しておきますね。
おしまい
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