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最後のワックス掛け

人によっては仕事を納めて既に休みに入っている方もいると思いますが、僕の仕事納めは1月5日になりそうです。#全然納めれてねぇ#年末年始も休まず営業

こんにちは、コッシーです。


さて、以前も記事にさせていただきましたが、うちの入居施設では年2回ワックス掛けをしています。清掃業者などに依頼するのではなく、『あえて』自分たちで行っています。

施設内の汚れ具合や建物の状態などを把握するためだったり、自らの手でキレイにしたことを入居者に自慢できるなど、さまざまな理由はありますが、1番の理由は単純に僕がワックス掛けが好きなだけだったりします。

みんなでワイワイ協力しながら、自分たちの施設を綺麗にするって楽しくないですか?もしかするとスタッフにとってはいい迷惑かもしれませんが、僕が好きなのでそこは我慢して毎度付き合ってもらっています。


そんなうちのワックス掛けを先頭に立って指揮をしてくれるのが用務員のⅠさんです。Ⅰさんは70代の男性で10年以上うちの施設の設備管理や清掃などをしてくれている大ベテランさんです。

口数は少なくいわゆる職人タイプのⅠさんですが、その仕事ぶりは本当に丁寧かつ正確でみんなから信頼されています。

施設の設備で分からないことがあれば僕よりもⅠさんに聞いた方が早いと言われるくらいで、このワックス掛けも僕ではなくⅠさんの指示に従って行います。

「コッシーさん!そこちゃんとワックスかけてないだろ!!」

なんてⅠさんから注意を受ける事もしばしばありますし、そんな時は「はい!すみませんでした!」と長官に敬礼する勢いで謝っています。#統括責任者の威厳とは


そして今年も暮れのワックス掛けの季節がやってきました。施設の床をピッカピカにしてやる気持ちでいっぱいでしたが、今年は例年以上の多忙ぶりでなかなか時間が取れにくい状態でした。

僕の都合に合わせているとどんどん先送りになってしまうため、非常に残念ですが今年は僕抜きでワックス掛けを行う事になりました。


「あんたの分もピカピカに磨いといてやるから。大丈夫だ」


そんな風にⅠさんは言ってくれましたが、何となく寂しそうな顔をしていました。毎年一緒に汗を流していたヘンテコ統括責任者がいないことを残念がってくれているのかもしれません。

「来年は絶対に一緒にやるから!」Ⅰさんにそう言って、泣く泣く今回のワックス掛けは参加しないつもりでした。


迎えたワックス掛け当日。

僕が不参加のままワックス掛けは始まりました。うちの入居施設は3階建てでめちゃくちゃ広いというわけではありませんが、かと言って狭いというわけではありません。

そこそこの広さがあるためワックス掛けは1日仕事になります。

僕は別の仕事しながらもやはりワックス掛けが気になっていました。「みんな僕がいなくても頑張ってるかなぁ…、もしかしたら『やっぱコッシーさんがいないとダメだわ!』なんて言って困ってるかもしれないなぁ…」なんて考えていました。

そう思うと居ても立っても居られなくなり、いつもよりもハイスピードで仕事をこなしました。そして予定よりも早く仕事を終わらせることができました。

これならワックス掛けに間に合うかもしれないと急いで向かいました。

「お待たせみんな!ここからが本番だぜ!」

やる気満々で現場に駆けつけると、


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綺麗サッパリ終わっていました。


数を重ねるごとに手際がかなり良くなっており、今年は僕の予想を上回るスピードでワックス掛けを終わることができたみたいです。

「ごめん、間に合わなかったね(笑)」

Ⅰさんにそう言ってバツ悪く謝ると、いつもは寡黙でめったに笑わないⅠさんがニコっと笑顔を見せました。


「最後の今年はあんたとやりたかったけどな。まぁしゃーないな(笑)」

「え?最後?どういうこと?」

一瞬、『今年最後』というつもりかと思いましたが意味深な様子だったので聞き返しました。


「…今年いっぱいで区切りをつけようと思ってな」

「それは辞めるってこと?どうして?」

Ⅰさんは70代という年齢だけにいつ仕事を引退されてもおかしくはありません。しかしその働きぶりはまだ全然現役で大丈夫だと思っていましたし、Ⅰさんからもそんなそぶりは全く無かったので正直この発言には驚きを隠せませんでした。


「実は息子から一緒に暮らさないかって前から言われててな。俺はまだ頑張るつもりだったけど、女房が息子と暮らしたいみたいで。まぁここらで俺もゆっくりさせてもらおうと思ってな」

少し照れ臭そうに、でも嬉しそうにⅠさんはそう言いました。


「そっか…寂しくなるけど息子さんと暮らせるのは良かったね」

「急でごめんな。なかなか言い出せなくてな」

「言ってくれたらワックス掛けに参加したのに!水臭いな!」

「あんたが無理すると思って言わんかったわ(笑)」


長年勤めてくれたⅠさんが辞めてしまうのはとても寂しいですが、年齢も考えると息子さんと一緒に暮らせるこの機会に辞めるのは非常に良いタイミングだと思いました。

寂しいようなでもホッとしたようなそんな複雑な気持ちでいると、Ⅰさんが急に真面目に話始めました。


「長年この施設のワックス掛けをやったが、一緒にやった責任者はあんたが初めてだったわ。最初は変なヤツだと思ったが…まぁ楽しかったわ。」

そして姿勢を正すと、

「長い間大変お世話になりました。」

そう言って深々と頭を下げました。

「いやいや!頭を上げてよ!お世話になったのはこっちだって!本当に今までありがとう!長い間助けてくれて感謝してる!」

いつも寡黙でぶっきらぼうなⅠさんがまさかそんな風に言ってくれるとは思っておらずめちゃくちゃ焦りましたが、とっても嬉しかったです。

明日がⅠさんの最後の出勤となる予定です。寂しいけどきっと笑顔でお別れができると思います。


未来永劫一緒に働ける人なんて存在はしません。誰であっても必ず別れは訪れます。その時に少しでも後悔しないような別れが出来れば良いなぁとワックスを掛けてピカピカになった床を眺めながらそんな風に思っていました。


それではまた。

コッシー

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