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ぱんな屋台

「俺、団体戦出ようかな」



正直に書こう。
中村さんがそんな事を言うものだから、俺は少し腹を立てたと思う。

(なんでなん。個人戦出場で申し分ないし、一緒に闘いたいのに!)

そんな心の声を言おうか言わまいか迷っていると

「お二人と出たら絶対思い出なると思うんよね」

お二人、とは大阪にいる「ふるふるさん」「おばちやんさん」の事だ。
俺は心の声を飲み込んだ。己のエゴや価値観を中村さんに押し付けてしまう所だった。
俺は個人戦で優勝したい。中村さんは皆と楽しくプレイしたい。スタートが違う。そしてどちらかが優れている、とかない。中村さんはずっっと俺の事を応援してくれていた。だから、ちゃんと応援しようと思った。


「チーム結成のオッケー貰えた!」
「チーム名どうしようか」
「クロビラマンチョスは?」
※全く意味のわからない造語だが、それだけはマズイと直感が叫ぶネーミングセンス。
「行くなら大阪予選やな」
「俺は絶対ゴメンは言わん。楽しみにいってるのに足引っ張ったとか罪悪感覚えるの最悪だし。なんなら俺が足引っ張りたい」
「虎は鍛えない」

ずっと楽しそう。終始勝ち負けの事は口にしない。
ほどなくしてチーム名は「ぱんな屋台」となる。

ぱんな屋台とは?
某県でイベントガール(?)として色んなパチンコホールへ屋台を出しにきたり実戦したりする女の子、ぱんなちゃんの屋台の事を差す。
このぱんなちゃんの熱烈なファンがおばちやんさん。
「ぱんなちゃんぱんなちゃん!可愛い可愛い!」
キャッキャッするおばちやんさんを見るふるふるさんの目はとても優しい。ワザワザ大阪から会いに行く程お熱で、ついにはチーム名にまでしてしまった。

さて、1人の成人女性を狂わす程ぱんなちゃんは魅力的なのか? そう!魅力的なのだ。


一部大変お見苦しい被写体が
一部大変(以下略)
一部(以下略)
アカネさんが「バンボロさんって言って」の無茶振りをした際のぱんなちゃん。心なしか目が死んでる気がする。気のせいだろうか。


ビジュアル、スタイル。そんな「側(ガワ)」の良い女の子はたくさんいるだろう。ぱんなちゃんはただの「側いい」とはワケが違う。客足らいも上手く、下手な「さしすせそ」を使っている所を見た事がない。
※さすが、知らなかった、すごーい、センスいいですね、そうなんですか。

夏の炎天下でもニコニコしながら焼きそばを焼いている。
①アイコンタクト◯
②笑顔◯
③受け渡し時、小指の先っちょがギリッギリ触れるか触れないかのタッチあり

休憩スペースで焼きそば食べながら「やるやん」と独りごちたものだ。

スーパーイベントガール。それがぱんなちゃんである。
中村さんや俺なんかは「小娘」と揶揄する事があるが、実際は照れてるだけかもしれない。いい年したおっさんがたかが小娘にトキメクわけないだろ?ん?


それはさておき。
大阪予選を優勝で突破し、椅子家で練習会を開く事になった。自称監督として可能な限り戦術を伝えるつもりだったが、中村さんがずっと床でゴロゴロしている。

「そんなん1リールだけなんに練習いらんやろ」
確かに。
「練習たくさんしたって気負うだけかもしれんやん」
確かに。
「俺が最後きめたらえぇねん」
確かに。

(天才かもな)

改めて中村さんをそう思うようになる。
なぜなら団体戦の戦略はつまる所

①どれだけ押し数を稼げるか
②精度アベレージを高めるか
③揃えろフラグの戦術
この3つに要約される。

中村さんは
①どれだけ押し数を稼げるか→一周前後で押すだけ
②精度アベレージを高めるか→充分高い
③揃えろフラグの戦術→全部俺がフィニッシャーやる

と言いたいのだ(と思う。合ってます?)
実際のところ、個人戦と同じ戦略は悪手となる。
個人戦の戦略は場面毎の分岐が多い。それらを反応、または反射によって処理していく。枝別れしている戦術をチョイスするのを一つの脳でやるから体現でき、数ある戦術の「これはやる」「これはやらない」「でもこのケースではやる」等を体系化した戦略を武器に闘う。
団体戦のように脳が三つあるケースでは戦術の引き出しが増えると枷となるのだ。

シンプルでいい。
考えなくてもその結論に至る中村さんは天才じゃない?
各自のリールに集中するだけ。揃えろは中左右で固定。
シンプルでしょ?

聡明なふるふるさん、おばちやんさんは練習に励みながらも中村さんを好きにさせていた。こんなチームワーク、面白いじゃん。

その日、俺はひっそりと自称監督を投げ捨てた。このチーム面白い。見てるだけが1番面白いかもな。だから監督なんていらんねん、と。


続く



以下大阪予選のハイライト

同胞のソウルブラザーズを倒して感極まるチーム
アカネさんに手を伸ばして気付いてもらえず、しょんぼりするふるふるさん
抱きつこうかどうか迷ってるおばちやんさん
強敵全ツッパチームを倒した時の中村さんの振る舞いは対戦相手への敬意に溢れていた。
伝説の一枚。W置物


大阪予選優勝、嬉しかったよ、心底。

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