見出し画像

超ディスクアッパー選手権2024その3

「当日予選1位! 椅子さん」

シンディにコールされて壇上へ向かう。
天井からダブルV。からのVVへドッキング。
※実は東京予選の前から練習してた。人差し指をピタっとくっ付けるのは案外難しいんだぞ。お蔵入りすることなく披露できて嬉しいです。元ネタはヒレル兄さんのサンダーVリボルトの4コマ滑り上段V停止の描写「天井からV降ってきた」


ライトが眩くて目を細める。焦がれた場所に立つ。
東京ビッグサイトのメインステージは多くの視線が集まるエキサイティングな舞台と化していた。
ギャラリーを見回しシンディ老婆さんが真っ先に見つかる。最前列で泣いてるのか笑っているのか分からない凄い顔をしていた。老婆さん緊張してはるぞ!めっちゃ気持ち入っとる!
右側にクリンさんと高木大佐を見つけた。皆緊張を孕んだ笑みと声援を寄越してくれた。
ありがとう。
他の観客の皆様からも笑顔が見える。楽しんでくれているだろうか。
ミナギッテくる。どうやら俺は皆の笑顔や声援が力になるようだ。
きっと見つけられないだけで他の仲間達も応援してくれているはずだ。
本当にありがとう。とても感謝している。

「意気込みをどうぞ」

スポンジさんが受け答えをしている。非常にシンプルで飾りのない言葉だった。余計な修飾をしないのはいつものスポンジさんな気がした。

俺の番が回ってくる。誰とあたってもいいように全てのファイナリストへのコメントを用意していた。

「Pスポーツというのが生まれて、ずっと歩いてきたんですけど、常に(俺に)背中をみせつけてきたプレイヤーなんですよ。スポンジさん、僕にとって神みたいな方なんですけど」

「今、肩並べてますよね」


会場が湧いた、気がした

「俺の名を言ってみろ!」
(やべ間違えた。今日俺は神を喰らう!だったのに)
観客を置いてきぼりにしたのを感じる。
やっちまった。まぁいいやw

「ディス イズ 椅子! 応援よろしく!」
届いただろうか、俺のライム。

振り向き競技機へ向かう前に俺は一歩退いた。


スポンジさんの背中が見たかったからだ。
俺だけが歩み続けてきたわけじゃない。
この競技の高みへ向かって歩き続けてきた背中は細くしなやかで美しい。
遅れて歩き出す。もう一度肩を並べる為に。


腰掛けヘッドホンの準備をする。今日初めて装着するツールだ。違和感のないようにセッティングしておきたい。コードの向きは右側が落ち着きそうだな、と運営の方にいくつか質問をしたのを覚えている。ものすごく的確かつ端的に質問に答えてくれたあの方にもこの場を借りてお礼をいいたい。
装着するとパッドの圧で眼鏡が浮いた。グッと眼鏡を押し込む。
内心「ふふ」となっていた。俺眼鏡押し込んだぞwと

不思議だ。少しも緊張してない。闘争心もない。鼓動も落ち着いているし手の震えもない。大阪予選のベスト8でうるふさんと対戦した時と似たようなでも少し違う境地にいると自覚する。
楽しい。
俺が俺に期待をしている。
準々決勝でくまさんと対戦したときにも芽生えた楽しいという感情をまた覚える。勝てばもっと楽しいぞ。



ヘッドホンをしていても案外周りの音は聞こえるもんだなと感じていた。
スポンジさんがWアップを引いた音や、MCの方の解説、歓声、どよめき。色んな情報が入ってくる。今まで経験したことのない高い集中をしていて、全ての情報を拾っていた。こういうのはトンネル視野というらしい。生存確率を上げる為に「視野を狭め」「聴覚が鋭く」なる。確かに、視野が狭くなってる感覚はあった。が、周辺視野で筐体を捉える事はできる。完璧な視野だったと振り返ってみて、思う。

トンネル視野に入り耳が異常なまでに聞こえる状態だった故にネガティブな情報もキャッチしてしまう。スコアが29900と表示されて(あと100点なんとかならんかったんか※30000点でレベル4へ移行)と思っていた時にひやまっちさんから「今1万点程離れていて」と聞こえたのだ。しかし、それでも悲観はしなかった。直後に引いたWアップを極めてクレバーに精度で寄せた。全力で闘っている。

反応
反射
手順構築
戦略の遂行
戦術の実行
スコアの進捗確認
攻守のリバランス

祈りの余地もない。全てが自分に依る。ここはいい。怯える暇もないし(そもそも怯えてない)、とにかく

「楽しいんだ」

研ぎ澄まされた感覚を楽しんでいた。
途中、致命的なリプ揃えをミスした時も次のGに備えてロジックを作っていた。過ぎ去った出来事はもういい。この瞬間ですら歩みの一部。


局面は終盤へ。
エクストラへ行く前に「揃えろフラグ」に備えたルーティンをこなしているとスポンジさんからエクストラを始める音が聞こえた。
(同時か)
ゆっくりで良い。速さは捨てろ。確実に拾っていけ。
相手がスポンジさんでも戦略は変えない。
必ずチャンスはくるし、スポンジさんとだけ闘っているわけじゃない。
己とも闘っているのだ。負けないぞ。特に俺に。

最終G 残り2.7秒。フラグ次第ではもう1G追加できる。
最速の青揃えに備えた空打ちをしてレバーを叩くと「赤を揃えろ」
瞬間的に左、中右2コマスライドで間に合うのは理解した。
が、手が動かなかった。道中ミスをしていなければ(エクストラは2ミスで強制終了)確実にチョイスした手順だったのだが・・・・・。
このエクストラのゲーム性はほんと良くできてるよ。
プレイヤーの心理面で大きく局面を変えてしまう。

次Gは諦めて丁寧に揃えることに集中する。中を押したあたりだったか、スポンジさんが終わった様子。
(終わりもほぼ同時か)

中を中段に押し損ねてしまったが丁寧に揃えて、回転するデジタルに注視する。スコア表示されるまでにモニターでスポンジさんのスコアを見ると

「87000」

ゆっくり立ち上がりスポンジさんと目が合う。歩み寄り握手とハグをする。
スポンジさんは真っ直ぐに向き合い、優しく応えてくれた。合わさった手も優しくて。

離れ際、僅かにスポンジさんの手に力が込められた。俺は少し驚き顔を見たと思う。マスク越しでも分かる素敵な笑顔だった。


はは。敵わねぇや。完全に勝者の顔だ。




以上、徹頭徹尾、椅子主観の超ディスクアッパー選手権2024でした。
ご精読、誠にありがとうございます。

この後あった3位決定戦や団体戦で喉を潰す気での応援、決勝戦などの描写は割愛します。シンディカップや学生団体戦に至ってはどの試合も見る事ができなくて何も書けません。
これは最初から最後まで俺主観の物語なのです。優勝以外は意味がない、というのが俺の考えなのでここで終わりになります(優勝以外意味がない、は他のプレイヤーを陥れるつもりの発言ではありません。スギさんが精一杯闘っている姿だってカッコよかったし、なおさんとの3位決定戦だって楽しかったです。でも俺の考えに則って物語はここでお終い)


最後に、この大会に関わった全ての皆様へ。
ありがとう。願わくばまたお会いしましょう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?