推し全肯定の風潮と推しを天狗にすること

色々考えてしまいました。

昨今、SNSの普及に伴い匿名の悪意にさらされて傷つく芸能人が増えていることから、「推し全肯定」の風潮があります。

「何でも好きにしていいよ。貴方の思うがまま振舞ってくれたら私たち何でも黙ってついていくからね」という風潮です。
もちろん心ない言葉で傷ついて命を絶ってしまったりするのは嫌なので、大好きなアイドルに心身ともに健康でいてもらいたいから一切推しの言うことには反対しない、「最高」「かっこいい」ありがとう」しか言わないって言うのも一つの考えだと思います。
心から推しを全肯定できたらそれに越したことはない。

しかし一方で、推しも人ですから、時にはおかしい方向にいってしまったり問題発言を繰り返したりすることもあります。例えば、メンバーに対して本気で嫌がっているようないじめ(本人にとっては弄り)をしたり、太っていたり美人でなかったりする女性芸人を馬鹿にしたり(ルッキズム)、政治的に問題のある発言をしたり(極端な右もしくは左っぽい発言、特定の民族を貶めるような発言)、女性を男性の性欲を満たすための道具と見做してその人の意思を無視したり(ミソジニー)ね。

こういう時は心の底から肯定することは難しいです。特にルッキズムとミソジニーはきつい。男性アイドルのファンは、今のところ大多数女性で、女性はミソジニーやルッキズムと戦いながら、或いは耐え忍びながら生きていますから。

こういう、明らかに推しがやばい発言をしている時も、ファンというのは推しを肯定すべきなんでしょうか?これで「見損なった」と発言することは非難されるべきなのでしょうか?

私は心から肯定できない場合は肯定すべきでない、という考えです。
というのは過剰な猫可愛がりは相手を損なうから。

人間関係って誠意でできてると思うんですよ。もちろん我々ファンとアイドルとの間に直接的な人間関係はない(ここで言っているのはメジャーアイドルです。所謂ジャニーズとかK-POPの大手事務所に所属しているような、アイドルがファンの名前や顔を把握できない規模のアイドルです)。それでも無理に媚びる必要はないと思います。何しろどんなに綺麗な言葉で飾ったところでアイドルとファンの関係はサービス業とその消費者なので。提供されるサービスが気に食わなければ離れていい。奴隷王朝の王と奴隷でもないし。

誠意ってはいはい言って肯定することだけじゃないと思うんですよね。仕事のことを考えても、必要な場面では注意したりアドバイスしたりしてくれる人がいないと失敗します。言い方はソフトであってほしいですけど、間違っているのがわかっているのに誰も言ってくれないと気づかない、直らないものです。そしてこっちも本当に相手のことを思っている時は注意しますよね。

例を挙げると、例えば本当に好きな彼氏なら、飲食店で店員さんに対して口の利き方が横柄だな、と思った時に注意するでしょう。悪気がなかった彼はなおしてくれるだろうし、注意されたこと自体に腹を立てて直さないような彼ならその程度の男だっというわけです。多分この2人はうまくいかない。
でもこれが例えばマッチングアプリで出会った初対面の男だったりしたら「うわ〜、店員さんにそういう話し方するんだ。引く!」と思って、でも指摘はしない。ただ二度目に会いはしません。そしてマッチングアプリの彼はずっと直さないんでしょう。だって気が付いていないから。

だから注意する、指摘するっていうのは愛の一種だと思うんですよね。もちろん言い方はありますよ。でも「かっこいい!店員さんに『オイ』とか『お勘定』とか言うの男らしくてSっぽくて素敵!」「店員さんに失礼とか言ってる人はアンチです。意味がわかりません」とか言い出すのは違うと思いますね。

最近勘違いしているアイドルちょいちょい見かけるな、と思うんですよ。

「俺のファンなら見てくれるよ」とか「俺のファンならついてこいよ」とか。

あなた方、ファンって何だと思ってます?あなたと事務所とレコード会社なんかが協力して売っているサービスや商品品を買っているだけの人ですよ。だから気に食わなければ他の商品を買うんです。しかも別に歌だのダンスだのって生活必需品じゃない。娯楽で嗜好品です。あったほうが楽しいけれどなくたって生きていけるし他の娯楽も嗜好品もある。だからあまり偉そうにしていると足元掬われるんですよ。

アーティストなんて呼ばれたりして自分では偉くて交換不可能な何かだと思い上がっているんでしょうけれど、結局は別にあってもなくてもいいものなんですよね。電気とか水道とかスーパーとか農家の人とか行政サービスとかそういうものじゃない。どんなに人気のあるアーティストでも、死んでも引退しても特にそれで生活に困るわけではないじゃないですか。熱狂的な人が後追いしたりすることもありますけれど、でもジョン・レノンが死んだって別にみんな普通に生活できた。それでなぜ半端なアイドルの貴方がそんなに偉そうにできるのか。団扇見せられたら勘違いしちゃうのかな〜。でも結構みんな掛け持ちとかしてますけどね。別のコンサートでは別の人に団扇見せてキャーキャー言ってるわけです。

だから自分のサービスの消費者にあまりに無神経な言動を繰り返していると、そのうち離れていくんですよね。苦言を呈しているうちはまだマシです。未練があるからいうんですよ。でもそれでも変わらず勘違い天狗発言が続くとみんなスーッと他に移っていく。
例えば「Mくんはミソジニーで見てられないから後輩GのRくんだけにするわ」とか「Tくんは自己中がやばくて今や炎上系YouTuberだから二次元のアイドルゲームにするわ」とか。そして二次元アイドルは問題発言はしないし歳も取らないんだよなぁ。二次元アイドルコンテンツってライバルとして怖いですよね。

アイドルって所詮、ファンがいないと成り立たない職業なんですよ。だって歌もダンスもなくたってファンは生きていけるから。でもアイドルはファンがいないとそもそも生きていけない。転職すれば別ですけどね。歌って踊って生きていきたいと思うなら、それにお金を出してくれるファンは蔑ろにできないわけです。アイドルの家賃も食費も、ファンが電車を動かしたり、電力を供給したり、そうやって働いたお金をもらってアイドルは払っている。アイドルが歌ったり踊ったりしてもそれだけではお金はもらえない。誰かがいいと思ってお金を払ってくれないと。
こいつはクソ野郎だ、と思われたら誰もお金を払ってくれないです。他にも歌ったり踊ったりする人はいますから。芸能の人は好かれないとやっていけない。

お笑い芸人の不倫を関係ない人が責めるなっていうのありましたけど、責めてもいいと思うんですよね。過剰なのはアレかもしれませんけど、別にお笑いとか話芸ってそんなに偉いものでも大層なものでもない。なければないで構わない。世界にお笑い芸人がたった1人しか存在しなくて、お笑いがなければ日本国民が飢える、とかだったら多分誰も責めないんでしょうけど、実際には消費者/視聴者は選ぶ立場なわけです。そうしたら妻を裏切って不倫をしたAという芸人と特に何の噂もないBという芸人、Bを選ぶに決まっています。視聴者の中には妻の立場の人もいますし、父親が不倫をして母や家族を苦しめていた、みたいな経験をして育っている人もいる。どう考えてもBが選ばれる。おまけに次々新しい人が出てきているのです。

芸を磨くって言ったって、いくら磨いても芸は所詮芸。生活必需品ではない。素晴らしくても他にも素晴らしい人はいます。極端な例を挙げますけど、歌がものすごく上手い歌手がいたとして、でもその人が赤ちゃんをレイプしていたとしたら、誰がその歌手の歌を聞きます?どんなに美しい歌声でもどうしても苦しんでいる赤ちゃんが頭をよぎって気持ち悪くて聞けたものではない。

芸能系の仕事を選ぶ時点で、プライベートと発言の自由についてはある程度制限しないと望むだけの収入は得られないってことは覚悟しておいたほうがいいんじゃないかと思います。もちろん自宅で内輪の仲間と話す時には好きなだけルッキズムに満ちた発言をしてもいいし差別的な発言をしたって自由です。でも消費者に知られるようなところでそれをしたら、それは仕事に影響が出るだろうし批判もされるでしょう。それを批判しないでくれ、芸能人も人なんだからっていうのはいくら何でも虫が良すぎる。

そう思うと自担、自分の推しが天狗になってやばい王様になる前に、「お前やべーよ」って伝えてあげることは、私は必要だと思います。エゴサをしているアイドルなら目に入るでしょうし、入った瞬間首を吊ったりなんてしないでしょう。落ち込んだりムカついたり傷ついたりするかもしれませんが、そこで自分の発言がまずかったことに気がつけば顧客を失う前に軌道修正できます。そうしたければ。そこで「ミソジニーって何だよ、ブスとおばさんのヒステリー。俺は若い美人のファンが沢山いるからブスと30女がいなくなっても十分やっていける。無視無視」と思う人ならそのまま突き進むでしょう。それはその人の選ぶ道です。

あと全肯定ファンって頭悪そうな人多くありません?

苦言を呈しているファンの意図を理解できないで「自担にひどいこと言わないで!なんで鍵かけないでいうの?」とかね。そりゃ、何も悪いことしてないのに容姿を貶したりしているのはただのアンチで悪意でしょう。でもミソジニー発言に「それはミソジニーだ。がっかりした。ファンを辞める」と言うのは悪意でもアンチでもないでしょう。

不用意な悪意にアイドルを晒したくない。でも何も考えない全肯定で馬鹿な天狗にしたくもない。難しいですね。

事務所が言うからいいんだよって言う人もいますけど、芸能界自体が感覚おかしいところありますからファンが言っていくべきだと思うんですよね。そう言うところはK–POPのファンはいいなと思います。