三味線

歌撰恋之部 (その5)

「ねえ――」

 おとみは、座敷着と帯を抱えてきた長次に声をかけた。

「へえ、なにか?」

「いや、なんでもないよ」

 おとみは大きく息をついた。

 浅吉のように、長次を引っかけてみようかと思ったのだが、やめた。田舎から出てきた男をつかまえたところで、修羅場を演じるような恋ができるとは思えなかったのだ。こんな手軽なところで手を打ち、「いい旦那を持ったものだねえ」と、朋輩の芸者衆に嘲笑われるのは耐え難いし、第一、着替えまで手伝わせている長次を、男として見ることからできそうにない。

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