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6月日記

いいから書け。

6/1
バイト先のご親族が亡くなった話を聞いていたら、下着を頂くことになった。遺品の整理をしていたら発見したらしい。大丈夫、使ってないしあなたならサイズが合うはずだからと、わざわざ2枚用意してくれたのだ。
本当なら別の人が身に着けるはずだった下着。
シャワーの後、その下着を身につけたとき、死者の目が自分の内側にあるのを感じた。


6/2
深みがない。無駄な手数が多い。


6/3
シャワーを浴びながら泣く癖がついている。


6/4
中学生にナルトの話をしようとしたら、ナルトを知っている中学生はもう絶滅していた。


6/5
ほんとのデブになってしまったので、5キロ走った。
お腹が重力に引っ張られている。
5年前にはハーフマラソンに出ていたのに。
ぶっ殺してやる、と心の中で何度も唱えながら走った。

6/6
走ったせいで膝がずっと痛い。
健康を損ねている。


6/7
自分自身に対して罵声を浴びせることができるのは元気になってきた証拠だと思う


6/8
ポッドキャストの収録をした。
何度も撮って聴いてみるが、つまらない。
面白い話ができる人は、そうしないと生き残れない、厳しい環境にいたからだという体験談を読んだ。
今からでも生き残りたいという気持ちを育むべきだ。


6/9
朝陽が登る前に走った。
鈍色をした川の中州に、オレンジ色のオオキンケイギクがいっぱい咲いていた。
あの花は繁殖力がとても強いから、川の周りにいる在来植物のすみかを奪って、自分のものにしてしまうらしい。
自らバズっている花。


6/10
マルチ商法がきっかけで3人と絶縁したため、マルチ商法を恨んでいる。
けど、個人事業主と何が違うのか?と聞かれると、よく分からない。
でも思い出がいやすぎて、だめだ、あれは。
ピザパーティーに誘ってくれたときは本当にうれしかったのに、着いて1時間後にはポイントシステムの説明を受けていた。ポイントという言葉も嫌になったし、マンションとかグアムとかゴルフとか夢とか高級車とかノマドとか嬉しそうに話すやつみんな全部嫌いじゃ。泣きたくなる。

6/11
紫陽花の咲く公園で俳句を考えていると、風に舞うバスタオルのようなふわふわドッグが駆けてきた。
そのまま自分の膝に前脚を乗せ、遊ぼうのポーズで誘ってくる。
生き物がこちらを見てくれているのがうれしくて、感動して固まっていると、飼い主が謝りながらやってきて、そのふわふわを持ち上げて行った。
そのあともふわふわは鼻を鳴らして誘いにきてくれたのに、また持ち上げられてしまった。

ふわふわや犬も七変化の薫る
(ふわふわの犬から七変化、つまり紫陽花が薫っている。ふわふわなことである。)


6/12
川沿いを蛍が飛んでいくのを見た。


6/13
取材を受けた。
髪を切っておけばよかった。

6/14
プランクをしたら死ぬほど衰えていることがわかった。
というか死んでいる。

6/15
俳句を1000句作るまで、コーヒーを断つことにした。


6/16
俳句の先輩と美術館に行った。
近くの喫茶店で実家のお昼ご飯みたいなオムライスを食べた。

6/17
プレゼンをした。
やや引かれていたので反省した。

6/18
仕事で使う実験器具を組んでみた。
化学のことが何も分からない人間である。
テキストを読んでも、まず部品の名前が分からない。

6/19
走る時のお腹の引っ張られ感は無くなってきた。

6/20
俳句の本を少し読む。
髪を切りたい。

6/21
100年前の女性の日記を読む。
誰かに読まれることを想定していない文章の美しさ。
そしてそれをまじまじと読んでいる自分の醜悪。


6/22
シャウエッセンのソーセージのパッケージが変更され、上部のひらひら部分がなくなる、というニュースを観た。
「”シャウ”断髪します」と言っていたが、正確な意味はよく分からない。
うちは”薫香”だから関係ないなぁと思っていたら、”薫香”のひらひらもなくなるらしい。
世の中が変わっていく。
みんなにとって良いほうへ。

6/23
初めて吟行に行かせてもらった。
褒められすぎて拍子抜けだった。
自分の感受性を折るほど砥いでくれるような人と一緒に居たい。
逃げないように、ヘラヘラしながら。
動物園のライオンがぼんやりとこちらを見ていた。
野性味はないけど、これが正常なのか。
社会を身につけるとこうなるのか。


6/24
実験のパーツサイズが合わず、お金を無駄にした。
と思ったら20年以上前のガラス器具が大量に出てきて助かった。
自分以上に無駄なパーツの買い方をする人がいたらしい。
使わせてもらうことにする。


6/25
俳句の添削をしてもらった。
圧倒的に語彙が足りない。


6/26
俳句や短歌を作って儲かることはない。
期待してはいけない。


6/27
月命日。
オンライン会議をしたら部屋が暗すぎると笑われた。
確かに。

梅雨半ばくらきお砂糖漬の瓶




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