蛸焼物語
どうしてもたこ焼きが食べたい。
私は風の強い日の仕事終わり、ネイルサロンで施術中、ペコペコにお腹を空かせていた。
気づけばネイリストさんにも、たこ焼きが食べたいんですよねぇ、一度思いついた食べ物が頭から離れなくて、などとぼやいている始末。ネイリストさんはそんな私に共感してくれた上、駅近くに銀だこ酒場があることまで教えてくれた。これは行くしかない。
刷新された指元とともに、強風が吹き荒れる繁華街を小走りで通り過ぎる。駅に着き、改めて場所を調べてみると、最寄りの銀だこまで100mほど。普通であればなんて事無い距離だが、今日はあまりに寒くて風が強すぎる。これは諦めてセブンの銀だこか、と思い直して電車に乗った。
またも小走りで家路につき、家から目と鼻の先にあるセブンイレブンに足を向ける。ところが入口に面した硝子には、普段は見慣れない白いカーテンロールがかかっているではないか。よくよく覗いてみると商品棚は真っさら。車で入ってきた人も首を伸ばして様子を伺っている。扉には「当店は本日15時をもって閉店いたします」と張り紙が。こんなことってあるのか。たこ焼きが食べられない怒り半分、フランチャイズのオーナーが急病なのかな、などと要らぬ心配半分で帰宅した。結局冷凍の餃子、キャベツのアーリオオーリオ風味蒸し焼きを食べて満足し、長い1日は終わった。
翌日の仕事終わり、やはりたこ焼きのことが忘れられない自分がいた。よおし今日は昨日ほど寒くない、あそこの銀だこに行ってみようと考えながらGoogle Mapを開く。すると少し不可解なことに気づいた。評価が2.8…?さすがに低すぎやしないか…?だがそれでも、普通の居酒屋と同じように飲み食いすると高くつくだの、そもそもたこ焼きが高くなっただの、そこまで目立った悪評ではないし、何より私はたこ焼きが食べたいんだ、食べさせてくれという必死の思いが勝った。
そして辿り着いた銀だこ。店内は満席の文字が目に入ったが、そんなことでは動揺しない。中ではバイト兄さんがツーマン体制で焼きを転がしている様子。意を決してテイクアウト用に取り付けられている小窓を開けてみると一言。
今焼きが間に合ってなくて、またの機会にお願いしますー・・・
もうこうなればあれしかない。祈る思いですぐ近くのセブンに駆け込む。あった。冷凍の銀だこ。やけくそになって気づいたらすもも味のチャミスルも手に取っていた。その日食べたたこ焼きは、敗北の味がした。
それから数日後。いつものように親友と電話をしていると、彼女の口からタコパの3文字が。タコパタコパ。どうやら友達を家に招くらしい。思わず私もたこ焼きが食べたい、と伝えたところなんと快諾してくれた。そう、やっと私は念願のアツアツ揚げたてたこ焼きにありつける確約を得たのだった。
結果はご覧の通りである。幸せは其処にあった。
〜完〜
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