ある宇宙人の話
これは、クソ暑い八月のこと。
ある宇宙人が、地球にやってきた。
神奈川県横浜市某駅に、一体だけ。
ポツンと、立っていた。
しかしこの宇宙人は、何かに寄生しないと、
生きていくことができない。
しかしこの宇宙人は幸運にも、寄生対象を見つけることができた。
宇宙人は改札から出てきた女に寄生した。
人間に寄生した宇宙人はその後、ある人間に話しかけられる。
その人間はゴミ箱をあさる宇宙人を見て、話しかけることを決意した。
宇宙人は、人間に拾われた。
その人間は「栗山栗男」という大学生だった。
栗山は宇宙人に、チェスを教えた。
理由は、なんとなく。
自分ができる遊びはこれとマリオだけだったから。
「この駒はこうやって動かす。こっちの駒は...」
一週間で宇宙人は、チェスができるようになった。
栗山は、この女が宇宙人であることに気づいていなかった。
親に捨てられた人間程度に思っていた。
しかし栗山は、ここで違和感を覚える。
明らかに人間の言葉を発していない。
栗山は日本語を教えることにした。
宇宙人は少しづつ、人間らしさを見出した。
言葉を教え始めて一ヶ月がたった頃のことだった。
「ぼく は こま」
宇宙人は、言葉を話した。
こまと名乗った。チェスの影響だろう。
その後もこまは、言葉を話し続けた。
さらに一ヶ月がたつと、読み書きができるようになった。
既に言葉は達者になり、それは人間にしか見えなかった。
栗山はこまに、古いスマホを与えた。
こまは三日間、この光る板の正体を考えていた。
栗山に使い方を教わり、LINEやYouTubeなどを知る。
YouTubeに投稿された、マリオの動画をみた。
自分もやってみたい!
マリオメーカー2やりたい!
栗山にスイッチを貸してもらい、マリオメーカー2をやった。
最初は難しく何もできなかったが、2時間でマリオメーカー2をマスターした。
十一月に入った頃、栗山はついに、こまに聞いた。
「お前はどこからきたの?」
こまは黙った。
「う」
「うちゅう」
こまは自分が人間ではないことを明かした。
「なんで言わなかったの?」
栗山はこまにきいた。
「ころされるかもしれないから」
「ぼくが宇宙人って知ったら、栗は僕を殺すかもしれないから」
栗山は「そんなことはしない」と言った。
こまは信じていない様子だった。
黒いパーカーには涙が染みていた。
栗山は、こまと一緒にマリオメーカー2をした。
こまは栗山に負けないくらい、マリオが上手くなっていた。
宇宙人だから、覚えるのが早かったのかもしれない。
こまはあらゆることを、一ヶ月で覚えていった。
人間の吸収力ではなかった。
「ぼく、コースを作るよ」
そう言って、こまは自分の部屋にこもった。
栗山は卒業論文を書いていたので
「六月になったら遊ぶよ」といった。
こまはスマホでnoteというサイトを見つけた。
そしてnoteをはじめた。
今は三月。
僕のコースを遊んでくれるまで、あと三ヶ月。
楽しみだなあ、六月二十八日が。