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ゲームシナリオ『ジュワ、ジュワ』

※このシナリオは終生列車に収録されたシナリオです。

■おおまかなストーリー


学校の帰り道、お気に入りの肉屋でコロッケを買うことが日課の主人公。ある日、いつも通りコロッケを貰買うと店主のおじさんが話しかけてくる。「お嬢ちゃんの好きな動物を教えてくれるかい?」
主人公の日常が徐々に壊れていく物語。

■キャラ


・主人公
女子中学生。学校帰りに商店街の外れにある肉屋でコロッケを買うのが日課。最近はお肉がついてきたと少し不安気味。

・おじさん
肉屋の店主。いつもオマケをくれる優しい店主だが、その本性は……

〈▼本文〉

×××タイトル表示

・BGM:小鳥のさえずり
・肉屋背景

【】
「おじさん、いつものくださーい!」

町の商店街の外れ。

人の気配がない静かな場所にそのお肉屋さんはあった。

あたしはその寂れた何ともいえない雰囲気が好きで、
よく学校帰りに足を運んでいた。

何て説明すればいいのかな?

こう、寂れた穴場スポットを見つけたような感じ?

とにかく、ここの肉屋があたしは好きだった。

実際、コロッケの味は普通。

だけど店主のおじさんも優しいし、かなり気に入っている。

コンビニのコロッケも美味しいけど、
やっぱり人の手作りが一番だ。

・日常BGM
・おじさん表示
・SE:袋を渡す

【おじさん】
「はいよ。いつもありがとね。お嬢ちゃん」

【おじさん】
「これは、サービスだよ」

・おじさん絵消去
・ナゲット絵表示

そう言っておじさんがくれたのはナゲットだ。

おじさんはいつも来るたびにこうやってオマケをくれる。

これも、あたしの中でポイントが高い理由の一つだ。

・SE:ネガティブな音

……最近はそのせいでお腹周りが少し心配だけど。

まぁ、まだ若いしこれくらいは平気だよね!

それに、せっかくもらったものを食べないのも悪いし。

そんな風に心の中で言い訳をしながら罪悪感に蓋をする。

・SE:齧った音
・ナゲット絵齧った差分

ナゲットを食べると、肉汁がジュワッとあふれ出た。

お肉の匂いが鼻を抜けていく。

・ナゲット消去
・おじさん表示

【】
「あ、これ美味しい!」

【おじさん】
「おお、そうかい。それはよかったよ」

【】
「あの、これって何のお肉を使ってるんですか?」

【】
「あんまり食べたことのない味なんですけど」

味付けはシンプルなので、その分素材の味がする。

あたしは馴染みのない肉の正体が気になった。

【おじさん】
「それはねぇ、キリンの肉さ」

【】
「へっ? キリン……ですか?」

・キリン絵表示

【】
「あの首の長い?」

・キリン絵消去

【おじさん】
「そうそう、そのキリンだよ。間違いない」

【】
「……おじさん、それ絶対に嘘でしょ」

【】
「キリンのお肉なんて聞いたことないよ?」

【おじさん】
「あはは、まあそうだろうね」

【おじさん】
「普通は買えないよ。スーパーでも、どこでも」

【おじさん】
「でも、ほらおじさんは肉屋だから」

【おじさん】
「ちょっとだけ特別にもらってるんだ。
 知り合いからおすそ分けでね」

【】
「えぇー、本当に?」

【おじさん】
「ああ、本当だとも」

【】
「ふぅん……」

疑いの眼差しを向けても、おじさんが怯む様子はなかった。

……優しいけど、たまに変なこと言うんだよねぇ。おじさん。

オマケをくれるから、このくらいのことは我慢するけどさ。

はぁ……。

機嫌を損ねるのも嫌だし、そろそろ帰ろうかなぁ。

・日常BGM停止

【おじさん】
「あぁ、そうだ。一つお嬢ちゃんに聞きたいことがあったんだ」

【】
「なんですか?」

【おじさん】
「お嬢ちゃんの好きな動物を教えてくれるかい?」

【】
「好きな動物?」

【】
「別にいいですけど……どうして急に」

【おじさん】
「いやぁね。
 もしかしたらお嬢ちゃんにいいものが見せられるかもしれないんだよ」

【おじさん】
「だから、おじさんに教えてくれないかい?」

【】
「は、はぁ……」

話が微妙に噛み合っていない気がする。

というか、理由の説明にもなってないし。

けど、このまま帰るのも感じ悪いしなぁ……

それに聞かれてるのは所詮、好きな動物のことだし、
……答えても平気だよね?

【】
「一番好きな動物は猫、かな」

【おじさん】
「へぇ、もっと珍しい動物じゃなくていいのかい?」

【おじさん】
「猫ならいつでも会えるだろうに」

【】
「だから、好きなんですよ」

【】
「動物園で飼ってるような動物もいいけど、私は町を歩いてる猫の方が好きなんです」

【】
「家でも飼ってるし」

【おじさん】
「あぁ、そうだったのかい」

おじさんは何度も首を縦に振った。

【おじさん】
「ふふ……それなら納得だ」

【】
「いいものが見られるって言ってたけど、何を見してくれるの?」

【おじさん】
「それはお楽しみだよ」

【おじさん】
「ふふふ、じゃあね。お嬢ちゃん」

【おじさん】
「また、明日」

おじさんはしきり頷きながら、店の奥に入っていく。

・SE:ドアを開ける2

途中で仕込みがどう、とか聞こえたけど大丈夫かな?

一体、何を見してくれるんだろう。

そんなことを考えながら買ったコロッケを齧る。

ホクホクのお肉の味を楽しみつつ、その日は家に帰った。

・SE:足音

×××

・暗転
・暗い肉屋の背景

【】
「あれ、閉まってる?」

――翌日

言われた通りお肉屋さんに来たもののシャッターが半分下りていた。

【】
「早く来すぎちゃったのかなぁ?」

時計に目をやる。

・スマホ持ち手表示

時刻は午後一時。

さすがにこの時間に開いてないのはおかしいよね。

ここに来る途中のお店も開いてたし。

……もしかして、おじさん。忘れてたりして?

【おじさん】
「おぉ、よく来てくれたね。お嬢ちゃん」

・スマホ持ち手消去
・おじさん絵表示

【】
「きゃあ!」

・尻餅

後ろから突然声を掛けられ、声を上げてしまった。

もう。心臓に悪いなぁ……

おじさんはこっちを見つめながら、手招きをしてきた。

【おじさん】
「こっちに来てごらん」

【おじさん】
「いいものを見せてあげるから」

・SE:ドア開ける2

そう言うとシャッターを押し上げ、中に入っていく。

少し戸惑いながらも後ろをついていった。

・SE:足音

・肉屋加工場、場背景表示
・おじさん立ち絵表示
・機械の環境音

出たのは店の裏側にある肉の加工場だ。

肉と油の混ざった臭いがする。

ぬめっとした不快な熱気に額から汗が流れ落ちた。

【】
「それで、いいものって?」

【おじさん】
「この後に見せてあげるよ」

【おじさん】
「その前に、はい。これ」

【】
「え? いいんですか?」

・コロッケ絵表示
・SE:コロッケ渡す

おじさんが渡してきたのは、いつも買っているコロッケだった。

ホクホクして、とても美味しそうだ。

【おじさん】
「ああ、もちろんだよ」

【おじさん】
「今日、来てくれたお礼さ」

【】
「えっと、それじゃあお言葉に甘えて……むっ!?」

・SE:咀嚼
・食べかけコロッケ表示

驚いた。

え、なにこれ? うっま!?

口に入れた瞬間、あまりの美味しさに衝撃が走る。

今まで食べたどんな食べ物よりも美味しい!

・SE:咀嚼2

噛めば噛むほど、肉汁がジュワッと溢れてくる。

ムシャムシャと一心不乱に食べ続ける。

他のことは頭から抜けていた。

やばいよこれ! 全然止まんない! 

・紙だけ差分

気づけば私はいつの間にかコロッケを完食していた。

・紙の絵消去

「あぁ。もうなくなっちゃった……」

肩を落として、手の平を見つめる。

そこでようやくあたしは、自分に起こった異変に気がついた。

・猫の手表示

【】
「………………なに、これ?」

見下ろした手。それは人間の手じゃなかった。

鋭い爪。フワフワした毛。桜色の肉球。

その手は完全に猫のものだった。

……意味が分からない。

・猫の手消去
・おじさん立ち絵表示

【おじさん】
「ふふふ、嬉しいだろ? お嬢ちゃん」

【おじさん】
「大好きな猫になれて幸せだろう?」

【おじさん】
「よかった。よかった」
     
【おじさん】
「あははは」

【おじさん】
「あはははははははははははは!」
     
おじさんの高笑いが混乱に拍車をかける。

……これ、おじさんがやったの?

……それに猫になれたって、まさか。

嫌な予感が確信に変わる。

近くにあった油の水溜まりに顔を映す。

すると、そこには

・スチル2表示

――猫になった自分の姿が映っていた。

【おじさん】
「よかったねぇ、お嬢ちゃん。幸せになれて」

【おじさん】
「それじゃあ次は、おじさんが幸せを貰う番だねぇ」

【おじさん】
「お裾分け、くれるよね? お嬢ちゃん」

【おじさん】
「どれ、猫の肉は美味しいかな?」

・背景消去
・黒背景
・赤く点滅
・画面をクエイク
・SE:刃物が刺さる音

ザクッ。

痛みの後に音が聞こえた。

背中の辺りが一気に冷たくなる。

視界が赤く染まり、平衡感覚がなくなっていく。

昨日食べたナゲットみたいに、血が流れた。

ジュワッ、と。

ジュワッ、ジュワッ。

ジュワッ、ジュワッ

ジュワッ、ジュワッ――……

〈了〉

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