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ボイスドラマ台本 『間抜けな怪盗の冒険譚』

■概要

主要人数:3人
時間:10分

■ジャンル

ハートフルコメディ、中世ヨーロッパ、怪盗モノ

■登場キャラ

ジョン (5歳) 天才犬、尊大なシェパード
マルコ (28歳) 経営難の保護犬施設の店主
スティーブン(29歳)マルコの親友、発明家
※ジョンの声は二人に聞こえない

■台本

〈▼本文〉

〇シーン1
/マルコの住む古い家。
扉を開けてやってきたスティーブンをマルコが出迎える。

【マルコ】
「やあスティーブン……来てくれて感謝するよ。早速だが……お前も、あの噂、聞いたよな?」
【スティーブン】
「もちろんさ。わが友、マルコ。……例の廃屋敷の噂だろ?」
【マルコ】
「あぁ、そうだ。やっぱり、お前の耳にも入ってたか……なら話は早い。今回の件、俺と組まないか?」
【スティーブン】
「そう言うと思って、すでに準備済みだよ。今すぐにでもいけるさ」
【マルコ】
「はは、 やっぱりお前は最高だよ。スティーブン」
【スティーブン】
「なぁに。他でもない友である君のためさ。礼はいらないよ」
【マルコ】
「そういってくれると助かる……最近どうしても金が必要でな……今回はお前の頭脳を貸して欲しい」
【スティーブン】
「ふっふっふ。任してくれよ。私がいれば怖いものなしさ」
【マルコ】
「ああ、その通りだ。……それじゃあ、さっそく行くとするか」
【スティーブン】
「ふっ、この年で宝探しとはね……人生なにがあるか分からないものだよ」

/二人は外へ去っていく。

〇シーン2

/ソファーの隙間から這い出てきたジョン。
犬でありながら溜息を洩らす。

【ジョン】
「ふぅ、やれやれ……マルコはいつも変なことに首を突っ込むな」
【ジョン】
「まったく……尻ぬぐいするこちらのことも考えてほしいものだ」
【ジョン】
「ふん……だがそれを言ったところで、どうにもならないか」
【ジョン】
「それに……元より私の言葉を向こうは理解できないしな」
【ジョン】
「はっ、これではどちらが飼い主か分からぬではないか……」
(少し柔らかい口調で)
【ジョン】
「だが……それでもマルコには拾い、育ててもらった恩がある」
【ジョン】
「いくら愚昧な主とはいえ、このまま見捨てるのも流石に気の毒というもの」
(ここまで)
【ジョン】
「はぁ……面倒だが、また助けてやるとするか」
(小バカにするように)
【ジョン】
「ま、私が助けに行くまでにあの二人が捕まってなかったら……の話だがな」
(ここまで)

〇シーン3
/人通りのない夜道。
マルコたちは屋敷の前に到着する

【マルコ】
「ここが噂の屋敷か……うっ、流石に夜に来ると気味が悪いな」
【スティーブン】
「同感だね。けれど、こういった雰囲気の方が宝探には好ましいよ。……違うかい?」
【マルコ】
「たしかに、この雰囲気ならお宝が眠ってるってのも納得だ。……それじゃあ早速、入るとするか」
【スティーブン】
「開錠は任せ給え」

/スティーブンが懐から機械を取り出し、錠前を壊す。
錠前は地面に落ち、錆びた金属の扉が開いた。

【マルコ】
「噂によると、かつて住んでいた貴族が、脱税の証拠を消すために屋敷のどこかに財産を隠した……って話らしい」
【マルコ】
「ま、確かにこれだけ広かったら見つけられないのも納得だけどな。というか俺たちも見つけられるかどうか……」
【スティーブン】
「ふっふっふ。心配しないでくれ、友よ。さっき私は言ったじゃないか。準備はできてると」
【マルコ】
「それじゃあ」

/スティーブンが再び懐から探索機を取り出す。

【スティーブン】
「これを見てくれ!」
【マルコ】
「……なんだそれ?」
【スティーブン】
「これは私が開発した宝石や財宝を自動で探してくれる機械だよ。これさえあれば、すぐにでも隠し財産を見つけ出せるだろう」
【マルコ】
「おお、でかしたぜスティーブン! それじゃあ早速、その機械を使ってみてくれよ!」
【スティーブン】
「ああ、もちろんだとも」

/機械が作動する。
数秒して、反応が出る。

【スティーブン】
「む! さっそく反応があったみたいだ」
【マルコ】
「本当か!? それじゃあ、さっそく行ってみると…………は?」
【スティーブン】
「おや? どうかしたのかい?」

/数秒の沈黙

【マルコ】
「…………なぁ、スティーブン……その機械、もしかして壊れてるんじゃないか?」
【スティーブン】
「そんなまさか! なんせこの私が設計したんだ。そんなことありえるはずが」
【マルコ】
「……反応したの、これだぞ?」
【スティーブン】
「なんだいそれ……布?」
【マルコ】
「違う、下着だ。……それも男用の」

/冷たい風が二人の間を吹き抜ける。

【スティーブン】
「……た、たまたまのミスだよ。次こそはきっと……!」
【マルコ】
「お、おう。そうだよな! お前は発明の天才だ。きっと上手くいくに決まってる!」

〇シーン4

/屋敷内。
何度も探索機械を試したが、反応は全てガラクタばかり。
肩を落とすスティーブン。

【スティーブン】
「はあ……はあ……なぜだ。なぜ上手くいかない!」
【マルコ】
「なあ、スティーブン。やっぱりその機械、壊れてるんじゃ……」
【スティーブン】
「うっ……うぅ……ばかな」
【マルコ】
「そう落ち込むなって。誰にでも失敗は……って、おわっ!?」

/マルコが下を見ると、そこにはジョンがいた。

【マルコ】
「ジョン!? お前、どうしてこんな所に……」
【スティーブン】
「マルコ? 何かあったのかい?」
【マルコ】
「いや、それがジョンのやつがここに……って、何を咥えてるんだ?」

/ジョンが咥えている紙を取りあげ、広げてみる。
そこにはメモ書きが書かれていた。

【マルコ】
「おいおい……こいつは、まさか財産のありかが書かれた手紙じゃねぇか!?」
【スティーブン】
「な、なんだって!?」
【マルコ】
「ジョン……お前、どこでこいつを……?」

/窓からカンテラの光が見える。
そこには数人の武装した自警団が見えた。

【スティーブン】
「マルコ、まずいぞ! 自警団が我々の不法侵入に気づいたようだ!」
【マルコ】
「なんだって!? くそっ、まだ財産を手に入れてないってのに」
【スティーブン】
「だが、このままだと捕まるのは時間の問題だ! 早く逃げなければ」
【マルコ】
「……ちくしょう! もうちょっとだっていうのに……」
【ジョン】
「……やれやれ、嫌な予感が当たったな。まあ、最初から分かっていたことだが……」
【ジョン】
「本当に手間のかかる飼い主だ……この借りは、肉付き棒一本じゃ済まないぞ!」

/ジョンが自警団の方に走りさっていく

【マルコ】
「ジョン……? お前、どこに行く気だ!? おい! そっちはダメだ! 行くな! 戻ってこい!」

/それを見て慌てて止めようとするマルコ。だがスティーブンに制止される。

【スティーブン】
「マルコ! ……残念だが、ジョンは置いていくしかない。それに犬なら捕まることもないだろう」
【マルコ】
「ぐっ……だが!」
【スティーブン】
「早く!」
【マルコ】
「すまない……ジョン」

〇シーン5

/マルコの家。
マルコは肩を落とし、力なくソファーにすわる。

【マルコ】
「はぁ……最悪だ。ジョンを見捨てて、帰ってくるなんて」
【スティーブン】
「私は君の選択は正しかったと思うよ」
【マルコ】
「だけどよぅ……俺は」

/扉が叩かれる。

【マルコ】
「ったく……誰だよ、こんな時間に」

/マルコがしぶしぶ扉を開ける。そして、息を呑む。

【マルコ】
「ま、まさか……」
【ジョン】
「まったく……何をメソメソしているのんだ、我が主は」
【マルコ】
「ジ、ジョン! 戻ってこれたのか!?」
【ジョン】
「当たり前だろ。誰に言っている」
【マルコ】
「あぁ、よかった! 本当によかった! お前が無事で!」
【ジョン】
「おい! そんなに抱きつくな! ちっ……相変わらず鬱陶しい飼い主だ」

/マルコはジョンが戻ってきたことに喜ぶが、再び肩を落とす。

【マルコ】
「だが……悪い。本当なら今回の財産を、お前たちの餌代に当てるつもりだったんだが……」
【スティーブン】
「今の時代、犬の保護施設はどこも零細だからね。私も少しでも力になれたらと思ったが……すまない」
【マルコ】
「いや、いいんだ。……元はと言えば俺が……」

/ジョンが足元にある麻袋を叩く。沢山の金貨が擦れる音がした。

【ジョン】
「ふん。……まったく、世話のかかる飼い主共だ。……」
「【スティーブン」
「うん?……マルコ、ジョンの足元にある麻袋は一体……」

/マルコが落ちてある麻袋を広い、中を確認する。

【マルコ」
「こ、これは! 中にあるのは全部金貨じゃないか! まさか、これって、隠し財産か!?」
【スティーブン】
「うむ。どうやら、そうと見て間違いないみたいだね」
【マルコ】
「でかしたぞジョン! これでお前たちの飯を買える!」

/騒ぐ主人たちを見守りながら、ジョンは呟く

【ジョン】「まったく、呆れた飼い主だよ、マルコ……」
【ジョン】「だが、まあ……そんなお前が嫌いじゃない私自身も呆れた犬かもしれんがな」

〈完〉


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