共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明

 2020年度より実施予定の大学入学共通テストについては、すでに「英語」の民間試験導入が延期されることになりました。しかし、「国語」と「数学」では、依然として記述問題が導入される予定です。現行案のまま導入することは、きわめて危険で大きな混乱を生じると考えます
 すでに指摘されているさまざまな制度的な不備があり、公平・公正な採点はもちろん期待できません。さらに問題漏洩、情報漏洩や受託業者による利益相反の危険性も高まります。他方、最大の受験者を抱える入学試験において、記述問題の長所を損なう悪しきモデルを掲げることは、大きな悪影響を残すでしょう。
 記述問題にはたしかにマークシート式にない意義や可能性があります。しかし、それは一定の規模のなかにおいてです。このような記述問題の導入はかえって逆効果となります。共通テストへのこのような形での記述問題の導入に反対し、中止を強く要求したいと思います。
 ぜひ下記の声明文をお読みいただき、ご賛同いただける方はご署名をお願いします。12月6日の提出予定です。わずか1週間のキャンペーンですが、教員、教員経験者、教員志望者、大学の研究者、大学生、大学院生、高校生、その保護者のみなさん、そしてかつて国語の授業にさまざまな思い出のある方たちに広く呼びかけます。

 賛同いただける方はこのフォーマットにご記入のうえ、お送りください。自動的に確認のメールが返信されます。                      

共通テスト「国語」における記述問題の導入中止を求める緊急声明
                             2019年12月6日
文部科学大臣 萩生田光一殿

                                                         国語教育に関わる教員・研究者等有志一同

  2020年度より実施予定の大学入学共通テストの「国語」では、依然として記述問題が導入される計画になっています。国語教育に関わり、入学試験にも携わってきた私たちは、もとよりマークシート式の問題に限界があり、記述問題にはマークシート式にない柔軟性や、思考力・表現力を問う可能性があることは理解しています。しかし、現行案のまま導入することに対しては、断固として反対します。制度的な不備とともに、記述問題の長所を損なう悪しきモデルを掲げることで、若い世代の自由な発想力や思考力、表現力をむしろ規制してしまうと考えるからです。以下に現行案の致命的な欠陥を指摘します。

1 採点における公正さを担保できません。
   記述問題の作成や採点に携わった経験のあるものは、この試験方式には物理的な限界があることを知っています。50万人以上が受験する大学入学共通テストで、採点基準を公正に維持することは不可能です。
2 採点の体制に信頼が置けません。
  受託業者は、適切な資格のある者を選抜すると主張していますが、検証ができません。また1月後半に約7千人もの採点要員を確保することも難しく、集めえたとしても、経験的に見て、採点基準の一致や精確な共有、見直し作業ができるとは思えません。
3 自己採点に混乱が生じます。
  受験生は自己採点によって二次試験への出願を決定していました。採点基準の曖昧な記述問題では、その出願に不安を抱えます。また文科省が国公立大学に対して記述部分の点数をいわゆる二段階選抜に使用しないよう要請するという報道がありましたが、それが事実であれば、記述問題を導入する意義も必要もないと考えます。
4   今後、質の悪い試験問題を記述問題の手本とすることになります。
  採点の揺らぎを減らそうとすれば、問題作成に制約を加えることになります。結果的にいくつもの条件をつけて解答を誘導することは、記述問題の長所を殺してしまいます。また、こうした試験問題をモデルとすることにより、思考や発想の定型化を推し進め、教育に悪影響を及ぼします。

 以上のように、共通テストへの記述問題の導入は、それによって得られるメリットがまったく存在しません。公平・公正な採点を期待できず、さらに問題漏洩、情報漏洩や受託業者による利益相反の危険性が高まります。これを強行すれば、多くの受験生から試験結果の開示請求を受け、混乱を避けることができないでしょう。記述問題の意義や可能性を認めるからこそ、私たちは共通テストへのこのような形での記述問題の導入に反対し、中止を強く要求します。

               発起人:木村小夜(福井県立大学教授)
                   紅野謙介(日本大学教授)
                   五味渕典嗣(早稲田大学教授)
                   島村輝(フェリス女学院大学教授)
                   竹内栄美子(明治大学教授)
                                                                                〔五十音順〕

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