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コメダ珈琲の定員さん

私は、1人でのんびりした時間を過ごすのが好きだ。休日は、一人でぷらっと美味しそうなご飯屋さんやカフェに行き、1人時間を楽しむ21歳。

「よく1人でいけるね」と言われることも多い。

それを言われ
「たしかにな〜いつから1人で色んなところに行くようになったのだろう?」
と考えてみる。

きっかけは、1人暮らしを始めてからだと思う。都会に出てみたいという気持ちから家を出た。新しい環境。と言っても、もともと2つ上の姉が福岡に住んでおり「お姉ちゃんがいるなら福岡行こう、就職はまだしたくないし、なんか資格を取っておこうかなぁ〜」と言うことで、宮崎の家を出た。しかし、そんな姉は、私と入れ違いで実家に戻った。理由は、「実家の環境の方が落ち着く」と。

内心

「えーーーー、あなた行っちゃうのですかー??私はどうすればいいのですかー???お姉ちゃんいるから実家離れたってのもあるのに」

と感じた。それは私が新しい環境に不安を感じており、姉がいた方が安心だと思ったからだ。
今思えば、高校は違うが、幼稚園、小学校、中学校と私の前には姉がいて、なんとなく姉が行った後の道を進むことに安心感があった。今回も、そんな姉に甘えようとしていたのかもしれない。

「姉様!帰ってしまうのですかーー!!!」😭

けど姉の気持ちも尊重したかった。なぜかと言うと、姉は統合失調症と言う精神疾患を持っている。見た目だけではいわゆる「普通」の女の人だが、ストレスがかかると、気分の落ち込みが酷く、ひどい時は幻覚が見えたり幻聴が聞こえることもあると言う。その病気が判明したのは姉が高校生の時。それでも資格を取りたいと挑戦した福岡の生活は、姉にとって苦しいものだったと思う。福岡で友達はできたものの、家に帰ったら1人で、孤独な環境になる。どんどん症状は悪化した。姉に聞いた話によると、寝る前に誰かに

「死ね、、、死ね、、、」と言われ続けると。

頭がぼーっとして、何もやる気が起きないと。そんな姉が救急に実家に帰省した。私の顔を見るなり、「怖かったよ、りんこー(りんことは姉が私を呼ぶときのあだ名)」と泣き叫びながらぎゅっと抱きついてきた姉の姿が忘れられない。こんなに辛い思いをしていたのだと感じると、よく頑張ったね、きつかったね、辛い中なにもできなかったね、ごめんねぇといろんな感情が出てきたのが忘れられない。その日は、運転していた母、私、3人で涙した。
そんなこんなで、姉に対して「実家帰らないでよ、一緒に福岡で過ごそうよ」なんて言葉はかけられなかった。というかかけてはいけなかった。
「大丈夫だよ!りんこ頑張るから!お姉ちゃんは家でゆっくりしてよ!たまには遊びに来てね!」と笑顔で見送る。

なんだか
今までなかった〝自立しないと〟という気持ちが強まった。
そうして始まった福岡生活。今まで家事も何もしたことなかった私。1人暮らし1日目。「洗濯機どうやって回すの?」とすかさず母に電話して笑いながらも心配そうな母の表情。電話を切ると孤独な夜。友達に電話したりはするものの、なんとも言えない不安感。孤独感。
専門学校に入学して友達はできたものの、なんとなく、家に帰ってからの時間、誰もいないことが悲しく、私はどんどん孤独を感じた。長い長いホームシックだ。
私は、その後バイトを始める。飲食店のバイトと、将来を見据えて、訪問介護のアルバイトだ。
しかし、何かをしている時間はいいが、やっぱり家に帰るとなんとも言えない孤独感に苛まれる。なにか不安で物足りない。考える時間だけが増え、もっと自立しなきゃ、お金を稼いで母の負担を減らさなきゃ、大人にならなきゃと自分が惨めに思え、自分がちっぽけな存在に感じた。
今の時代でいう「やみ期」この時はきつかった。何もしても何を成し遂げても満足できず、自分の欠点ばかり目についていた。

そんな中で、私の癒しとなっていたのがコメダ珈琲だ。学校行く前の訪問介護のアルバイト。朝早くに働き、学校に行くまで少し時間があったので、なんとなくコメダのモーニングを楽しんでいた。

コーヒーを頼むと、分厚いトーストに小豆か卵ペースト、ゆで卵がトッピングで選べる。コーヒーはいつもホットミルクコーヒー。暑い時はアイスにした。

バイト終わりということでの達成感。仕切られた席、流れるBGM、パソコンのタッピング音。新聞を読みながらくつろぐ人。
朝のその空間は、1人客が多く、ゆったりとした空間。なんとも言えない安心感があった。気づけば、コメダ珈琲には毎週2日は通っていた。

ある時、コメダ珈琲に新しい定員さんが増えた。年齢50代ほどの白髪混じりのスラっとした、か弱そうなおじさん。注文をすると、なれない手つきで「ホット、アイスコーヒーは、、、」と注文の品をリモコン?内から探す。その時、他の席からの「ピンポーン」というベル。ホールの人数も少なく、定員さんの「ホットコーヒー、んーー、」眉間にシワがより焦りが伝わる。店長らしき人ににコソッと注意されている姿も何回か見かけた。

正直「大丈夫かな?年齢も結構上そうだし、お客が入る店だしなぁ〜すぐ辞めそうな雰囲気」と思っていた。その日から週2回、その人の接客を受ける。失礼ながらその定員さんの上達は遅かった。しかし行くたびに定員さんの接客は少しずつ変わっていった。私が専門学校卒業するころには「いつもご利用いただきありがとうございます」と声をかけてくださる。なんとも言えない安心感が定員さんにはあった。
「なんだろう、、、」
不器用ながらに一生懸命業務を行い、お客さんと向き合う姿がとても輝いて見える。
その時、何もかもうまくいっていないように感じ、自分を過小評価していた私には

「頑張っていれば、いつかできるようになることもある。また、うまくできなくても周りの人がその頑張りを見てくれているかもしれないなあ」
とその姿を見て思わせてくれた定員さんだった。


専門学校を卒業し、私は社会人になった。そんな中、久しぶりにコメダ珈琲に立ち寄りたくなった。
ドアを開けて入ると席は満席だ。すかさず、定員さんが歩み寄り「おひとり様ですか?今すぐ席をお片付けしますので座ってお待ちください」と。

あの定員さんだ。

定員さん「お待たせしました、こちらへどうぞ」

私「なんだろう、、、なんか懐かしい感じ。」

注文をすると

定員さん「いつもありがとうございます」

と私のことを覚えてくれている様子。

なんだろうすっごくホッとする。

その日も、お馴染みのアイスコーヒーを頼み、1人時間を満喫した。
プライベートの時間を何も気にせずに楽しむ。たまにはこういう時間があることが、いつの間にか私の癒しになっていた。好きだなあこの時間。幸せだなぁ。

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