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『おろかものとおろかもの』

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平成版 打海文三『応化クロニクル』 ある程度書き溜めて投稿しますが、基本不定期連載小説。 同人的リブートとお考え下さい。 適宜改稿・加筆修正します。
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2019年2月の記事一覧

おろかものとおろかもの 29

月田桜子と椿子、佐々木海斗は訓練施設内のカーキ色のキャンプに戻った。 教育兼監視役の北朝鮮兵士が入口で待っていた。3人で話すのは目立つな、海斗は少し考えた。 月田姉妹は意に介せず、桜子を先頭に中に入っていく。 椿子が兵士に何かを渡した。そして蠱惑的な唇を兵士の耳元に近づけて、何事かを囁いた。 兵士は少し戸惑いつつも、嬉しさを隠せないように口角を上げながら、そそくさと入口から姿を消した。 「ドラッグを少し分けてやったんだよ。しばらく姿を消しておいてくれってな。」 椿子は何の気

おろかものとおろかもの 28

実は海斗はずっと、一番初めに月田姉妹に出会ったときにかけられた一言が心のどこかで引っかかっていた。 「ようやくつかえそうな子が来た」 桜子と椿子は、海斗の顔をしげしげと眺めながら、声をそろえるように確かにそういった。 突然の拉致から始まり、生命と尊厳を天秤に掛けられながら施されるテロリスト教育の中で、海斗はこの月田姉妹の考えだけが一番気になっていた。 回りの子供、大人たちはもっと単純だ。 脅されて怖がり、唯々諾々と従う子供たち。 狂信的な信念と恵まれた生活を享受してい

おろかものとおろかもの 27

月田桜子と椿子の横顔は、いつも人形の様であった。 表情が読み取れない、でも綺麗でずっと眺めていられるような。蠱惑的な笑顔も含めて。 しかし、真正面から顔を見て、彼女たちの本当の表情を垣間見るとその感想が一変する。 彼女たちはあくまで、上官として振る舞い、時には北朝鮮ゲリラ兵たちよりも厳しい訓練を同じ日本人である海斗達に課した。淡々と、機械のように。 かと思うと、訓練が終わってからは二人で大きな笑い声を上げながらはしゃぎまわり、忙しく食事を摂り、二人部屋の雑居房でおしゃべりをし