見出し画像

何てことない忍ぶの日常〜あなたとわたしの1ヶ月〜

子が我が家にやってきて1ヶ月が経った。

ようやく3200g。この体重でうまれてきてもおかしくなかったのに、小さなからだで1ヶ月間けんめいにのみ、ねむり、ここまでになった。

忍ぶは最近、毎日のように、子が生まれた日、看護師に撮影してもらった動画を見返している。
まだ目のあかない子が、小さくこえをあげながらうごいているようす。胎のなかにいるとおもっているのだろうか。ねむそうに右手を目のところにあてている。そうかと思えばおぼえたばかりの肺呼吸を使って大きな声で泣いてみせる。
知りうる限りいちばん小さな子を、今のようすとを見比べて、ほおがふっくらしているとか、まゆが濃くなったとか、そういった成長に感動したり安心したりしている。

おもえば、想像のなかの赤子というものは画一的なおめでたい存在であった。
生まれた瞬間に器用にお乳が吸えて、満足したらすよすよと眠る。やがてお腹が空いたら起き出すというような。

現実はちがった。赤子は乳首を吸う力が弱くなかなか母乳を吸えなかった。授乳は毎回いやがる赤子との格闘で、無理やり乳首を咥えさせようとすると、彼女の体躯からは想像できないような力で乳房を押し返す。哺乳という原始的な行為にすら、ちいさな、言葉を喋らぬ一個人との対話が始まっているのだと驚いた。
また、子は眠りたいのに眠れずに泣いていることもあるし、自分のくしゃみにおどろいて喚くこともある。ふとんのような平らなところではなく、腕の中で眠るのを好む。なんとも不器用な存在である。
生きることを始めたばかりで、生存のために得ている反射を駆使しながら、少しずつ胎の外の環境に適応しているのだ。
そんな子を見ると愛おしさが増す。

子へ
あなたがきてから、わたしたちはあなたの一挙手一投足にむちゅうだ。
こんなにも愛おしいいきものがいてよいのかと驚いている。
あなたのこえがかれたり、少しはながずぴずぴいったくらいで、まるで地球のおわりが近づいたかのように心配する。
あなたに危機がせまることを想像しただけでむねがくるしくなる。
あなたはなにをすきになってもいい。どろんこになってもいいしびしょぬれになってもいい。だからとにかく健康で、すくすくと成長してほしい。
生きていればたしょう人の悪意にさらされてもしょうがない。学校に行かないひがあってもいいし、友達とうまくいかずに悩んでもいい。人間関係の難しさをおおいに学べばいい。でも、つらいときには、わたしたちがいつでも守ってあげられることを覚えておいてほしい。
多様性があふれた世の中だから、これまでふつうとされていたことを選ばなくてもいい。同性を好きになってもいいし、子をうんでもうまなくてもいい。願わくば社会があなたの選択を祝福するものであってほしい。

さて、子の成長には大変目覚ましいものがあり驚きの連続だか、忍ぶ自身の変化についても綴っておきたい。
出産してからと言うもの、忍ぶは自分のからだに、別の次元、言うなれば「母体モード」が備わっていたことに驚いている。
主要な機能は母乳という特殊分泌物の生成であるが、個体によって分泌量はまばらで、出ないことでも出過ぎることでも苦悩がある。
増減にはコツのようなものがあるが、そういった知識は産院だけでは得られない場合があり、ネットやYoutubeでなどで得たそれをもとに、ミルク量や子の体重を見極めながら向き合う必要がある。
また、乳首には乳を与えるのに適した形というのがあり、これは忍ぶたちがこれまで気にしていた美観とは相容れないものである。母乳分泌のためのアドバイザーとして助産師という特殊技能者がいるが、彼女たちの前では、乳を惜しげもなくさらし、マッサージや搾乳を受けることになる。時には「授乳にむいている・いない」などといった外観の評価を得ることもある。

子が母乳をいくら哺乳したかははたからみて不明であるので、それがどのくらいかは哺乳の前後で体重を測ることにより(!)把握する。驚くほど原始的でシンプルな方法である。
(母乳は1g=1mlということだ)
産院で、帝王切開の傷の痛みに耐えながら暗い廊下のすみにあるスケールまで赤子をはこび、自身の母体モードの性能と向き合う時間を思い出すと、少し憂鬱な気分になる。増加がわずか「2g」とか「4g」とかいうとき(ちなみに0のときもある)には、まるで母体の機能に欠陥があるかのような気持ちにさせられる。
その時間は、短距離走のタイムを縮めるとか、タンギングの練習で少しずつテンポをあげるとか、そういう地味で粛々とした作業を彷彿とさせる。

現在の課題は、この体重および母乳量の増加である。
子は退院時に体重が2,450gまで減っており、体重増加についてたびたび指導を受けている。1ヶ月検診では日割の平均増加が29g(基準は30g以上らしい。)で、増えが悪いためフォローアップが必要となってしまった。
一方、混合栄養が面倒になりつつあるので、母乳育児に切り替えたいのだが(ミルクより経済的だからだ)、母乳の出がたいへんに悪いのでこれがなかなか難しい。母乳の供給が確保できないなか、ミルク量を減らすと体重減少に直結するため、小児科医には受け入れられないであろう。暇と気力があれば母乳を与えるという試みを行なっている最中である。

この記事が参加している募集

#育児日記

48,312件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?