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何てことない忍ぶの日常〜恋のお葬式〜

忍ぶは聞きたい。街ゆくみなさん、みなさんは終わってしまった恋をどこに埋めているの?

伝えられなかった気持ち、手も握れなかった学生時代の淡い思い出、向けられた好意を交わした日々。

忍ぶにとって過去の恋は苦々しいところだけが記憶に残っていて、時たま頭を抱えたくなるほど恥ずかしい。不器用でしかない過去の恋愛を、うまく埋められないままでいる。
少しだけ付き合った人、好意を向けられた人、告白を断られてしまった人たち。彼らとは、気まずくて顔を合わせられたものではない。

世の中には、こういう過去の恋のお葬式が上手い人がいる。元恋人と、多少バツの悪い思いをしながらも付き合える人が。そういう人は自分の思いとは裏腹に、ふたりの関係性を尊重できる人で、人間が出来ているよなぁと忍ぶはやや関心している。
小池くんもそうだ。

小池くんは、元恋人と二人きりで出かけることはないけれど、飲み会で居合わせてもあまり気にしない性質らしい。
ノリで肩組んじゃったよ〜と無邪気に忍ぶに報告までしてくる。

忍ぶには、たまったものではない。
自分の過去の恋すら消化しきれていない忍ぶには、小池くんのものまで背負う余裕 は無い。

そういう時、忍ぶは、お腹の底から沸騰したものがこみ上げてくるのがわかる。それを飲み込んで、精一杯笑顔を作る。そうなんだ?たのしかった?
流石に声までは隠しきれない。
言外に、なんでそんなことができるのよ、と小池くんを責めるのを忘れない。
わたしが腹を立てているのは、昔の恋人と飲み会に行ったことそのものではなくて、私の気持ちも考えずに呑気に報告してくるあんたのその気遣いの無さよ。
口をついて出てきそうな言葉を一生懸命押さえ込んで、どんな話したの?と掘り下げるのは忘れない。

でもやがては我慢ができず、涙がぽろぽろぽろぽろこぼれてくる。
小池くんは不思議そうに忍ぶを見る。

「おれが誰とも付き合ってなかったらよかったの?」
と忍ぶからしたら見当違いのことを言ったりする。

違う、そうじゃ無い。そんな極論を突きつけるのは酷い。と忍ぶは思う。
でもその思いは言葉にならず、言葉を見つけることもできず、忍ぶは力なく首を振ることしかできない。

こういう時、忍ぶは、自分が、人間的な大らかさが欠けていることを突きつけられるようで、かなり傷つく。
小池くんに全く他意は無いのに、その屈託のなさに、忍ぶの不器用さを詰られているようは気分になるのだ。

忍ぶはたまに仕返しに、男の人から向けられた好意の話をする。でも小池くんはどくふく風で、いいじゃん、食事に行ってくればいいじゃんと言う。そして最後に必ずこういうのだ。

「おれは、あなたのこと信じているから」

忍ぶはその全幅の信頼の言葉を聞くその度に、この人にはかなわないとそれはそれは悔しい思いをするのだった。

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