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ガイ 5


エピローグ/街は狂気の夢を見る



 そこは白い部屋のようなホワイト・スペース。 そこにふたりのデジタル意識体「ガイ」がいた… 「レイ(0)」「イチ(1)」白衣で登場 (ちなみに カレラの名は デジタルアプリ「ゼロアンドイチ」)。


レイ(0)「すみましたか?」

イチ(1)「はい、博士」

レイ(0)「彼の意識は…」

イチ(1)「デジタライズされました」

レイ(0)「そうですか」

イチ(1)「デジタルされたこの世界を本当の世界だと思って生きていくでしょう」

レイ(0)「そうですか」

イチ(1)「もう、彼には肉体など必要ありません。 意識がデジタル化され、この『水境町』を本当の街と思って生きていきます」

レイ(0)「この男の見る夢は『真夏の夜の夢』か…」

イチ(1)「それとも『狂気の夜の夢』か…」





 ふたりの前に「タオ」が登場。 「レイ」は「タオ」の装置(ダンボール)をとる。その素顔は「ゴッホ」だった。 彼の額には「バーコード」がついている。


イチ(1)「この男の意識をアナログ・データからデジタル・データに変換できました。 これでこの男の意識は…」

レイ(0)「彼はいま クモの中です… それは蜘蛛の糸にからめとられたかのように…」

イチ(1)「または 雲の中にいるように…」

レイ(0)「はたまた その中を泳いでいるのだろうか… そこで気持ちのいい『夢』を見ていると思います。 新しい未来にシフトしたんだから… 次元を越えたんだから…」

イチ(1)「博士。 僕らのやっていることは、まともなんでしょうか。 それとも狂気のなせる業なのでしょうか」

レイ(0)「…」

イチ(1)「博士」

レイ(0)「夢と狂気をどう区別できるのです?」

イチ(1)「…」

レイ(0)「私たちのいまいるところは全てが『夢』なの?、または全てが『狂気』なのかもしれませんね。 彼のように…」


 「ゴッホ」へらへらとした顔をしてじっとしている(意識はもうすでにここにいない)。


ゴッホ「でないよ、でないよ」

イチ(1)「なにが…」

ゴッホ「彼女に電話してもいつも居留守なんだ。 でてくるのは機械的な言葉だけ。 記号的な信号だけ…」

イチ(1)「そう、それは…」

ゴッホ「あぁ、僕はこのままこの信号の中の街に住んでしまいそうだよ」

イチ(1)「街?」

ゴッホ「そうだよ。 ほら、あの街。」


 電話が繋がり「女性」の声で留守番電話が応対する。





SE: はい、「田中です。 本人は只今でかけております。 発信音が鳴りましたらそのあとに お名前、ご用件、コールバックの希望の方は電話番号をおいれください。 後ほどこちらからかけなおします。 なお、無言電話だけはやめてくださいねぇ!。 


 〈ピィーッ( 発信音)〉


ゴッホ「発信音の後に録音テープが回るほんの数分に僕の意識がデジタルにされる。 その時この街『水鏡町』は現れるんだ」


 「ゴッホ」が手を「グー」にして振り上げると「言葉」が聞こえてくる(その時バーコードをセンサーに通す時聞こえる音がする)そして留守電に録音されているメッセージがいっせいにでる。


SE: ピッ( センサー音) 『もしもし、元気…』『あっ、俺だよ、俺…』等


 「ゴッホ」が今度は手を「チョキ」にして振り上げると「音階」が聞こえてくる(その時バーコードをセンサーに通す時聞こえる音がする)


SE: ピッ( センサー音)〈ピィーッ( ファックスの発信音)〉…等


 「ゴッホ」が今度は手を「パー」にして振り上げると「数字」が聞こえてくる(その時バーコードをセンサーに通す時聞こえる音がする)


SE: ピッ( センサー音) 0件です(留守電についている機械的メッセージ声) 


 沈 黙。


ゴッホ「メッセージというパンドラの箱を開けるとこの『声』だけが残るんだ。 そしてこの音のない音が聞こえてくる…。 誰も僕にかまってくれない、誰も僕の存在に気づいてくれない。 『お前は孤独だ』。 そうこいつはいっているようだ。 あぁ、一人はいやだ。 ましてや、彼女のいない人生なんて…僕には…耐えられない」


 「レイ(0)」「ゴッホ」をなだめすかし、落ちつかせる。


イチ(1)「博士」

レイ(0)「大丈夫。 彼は自分のもっているものを全て転送している時におこるパラドックスに耐えきれなくて、幻想を見ているのです。 それはあたかも死ぬ寸前に走馬灯のように見る過去の出来事のようでしょう…」

イチ(1)「そうですか」


 「ゴッホ」ゆっくり手を振り上げ、再び「じゃんけん」の構えをする。 それは「レイ(0)」に相手になれと、誘っているようだった。 ふたり『じゃんけん』をする。 「レイ(0)」は「パー」で「ゴッホ」は「グー」。


レイ(0)「勝った」

ゴッホ「パーだ、パーだ博士はまた『パー』です」

イチ(1)「博士…、博士」

ゴッホ「天才と狂人とは紙一重」

レイ(0)「私が狂人とでもいうの?」

ゴッホ「私が…」


 「ゴッホ」ゆっくり「グー」を見る。 「ゴッホ」ゆっくり手を開く、それを覗き込む「レイ(0)」


ゴッホ「残った」

レイ(0)「残る?」

ゴッホ「そう、これが…」

レイ(0)「これが…?」

ゴッホ「記憶」

レイ(0)「記憶…。 まだ、覚えているというの?。 『自分』のことを…」


 「ゴッホ」ゆっくり、首を縦にふる。


レイ(0)「おまえは、『楽しかったこと』『悲しかったこと』『怒ったこと』『愛したこと』などを覚えているの?」


 「ゴッホ」ゆっくり、首を縦にふる。


レイ(0)「そんな『記憶』は置いていきなさい、これからのあなたにはいらないわよ。 それは単なる『情報』にすぎないのよ。 古い思い込みの『記憶』は、思い出の金庫にしまってあげるから…」

ゴッホ「ありがとう」

レイ(0)「例えあなたの肉体は滅んでも、『精神』は生きつづける。 あなたの『絵』の中に…」

ゴッホ「『絵』が残る」

レイ(0)「あぁ、残るんだよ。『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』くん」


 「レイ」ゆっくり「ゴッホ」の手のひらを閉じる。 それは母親が子供をやさしくあやすような感じ…。


レイ(0)「あなたは行かなければならない。 この『方舟』に乗って…」


 「ゴッホ」ゆっくり、首を縦にふり、ゆっくり起き上がりる。


ゴッホ「(狂人のように)もうすぐ世界が終わるんだって…。 だったら見に行こう… 世界の最期の姿を…この舟に乗って…」

イチ(1)「博士、『1010001 』が起き上がります。 彼はいったい、何をしようとしているんでしょう?」

ゴッホ「いや、もう私の肉体は死んでいるのか… そうか、私が死ぬと世界は終わるんだ。 私が死ぬと『私』の物語(せかい)はクローズするんだ…」

レイ(0)「『絵』を描こうとしいるようだわ。 彼の頭の中のイメージを…。 彼はアーティストなのよ。 自分のイメージを『絵』で表現する。 でも、彼は『狂人』でもあるかも、なぜなら、その『境』を越えたものこそが見れる『世界』を見ているからだ。 それは『選ばれたもの』でしか見えない『世界(ビジョン)』」


 「レイ(0)」は額のバーコードの「センサー」をあてる。


SE: ピッ( センサー音)


レイ(0)「例えあなたの『肉体』は滅んでも『精神』は生きつづける。 あなたの『絵』の中に…永遠に…」

イチ(1)「彼は狂人なんですか?それとも天才?」

レイ(0)「その『境』を越えたものこそが見える『宇宙(せかい)』がある。 それは『天才/狂人』紙一重。 もしかしたら私たちの方が『狂っている』のかもしれない」

イチ(1)「えっ?」

レイ(0)「この『数字〈デジタル〉』の世界でしか生きられない私たちの方が異常で、ここを飛び出した彼の方が正常なのかも…」

イチ(1)「そんな…」

レイ(0)「最後は狂うしかないのかも…そう、それは『街』が望んでいるのかもしれない。 常に『クレイジー』な者が世界を変えていく。 世界は『クレイジー』な者によって変化していく。 そして世界はそういうものを望んでいる…のかも。 利己的な『DNA』たちがほしいのは そういう人たちの力… 生命をより進化させ、自分たちが次に乗る 新たな生命〈つぎののりもの〉の存在をまっている… それができるのは『常識の境〈わく〉をはずれた者』でしかできないということを 遺伝子〈カレラ〉は太古からの『記憶』のプログラムにきざまれているのかもしれない… 『ダレカ(X)』の手によってプログラムされた…X〈エックス〉なにかもしれない」

イチ(1)「狂えるほど、生きられるでしょうか 僕たちに…」

レイ(0)「大丈夫。 私たちは私たちのままでいいのよ。常に人類〈せかい〉を前進(進化)させるのはその人たちの役目。 世界を変えることができるのは 私たちが思う「常識のない」人たちだから…。 そしてここはその「常識のない」人たちが考え、創り出した世界でもある。 だから、私たちはその「常識のない」世界で 何も考えず(思考を停止して)に ただ…自由に生きれればいいのよ」

イチ(1)「そうですね」


 「ゴッホ」の意識がいま「クロノX・垓」の世界を飛び出そうとしていた。 ( ここは「現実」の世界ではなく、いままでが「デジタル」の世界だったのだ。「ゴッホ」の意識のデジタル・コピーが完了した。 そして今度はもとの現実の世界にもどるトキがきたのだ。 )





 彼は一度小さく丸まって、そしてそこから大きく、高く飛ぼうとしていた。



●そこへ(スクリーンに)沢山の小さな「天使」たちが現れる。(アニメ)



 同時に舞台の隅に「マリア」登場。 その中でかつては「黒いピーターパン(マリア)」だった「天使(マリア)」が「ゴッホ」に手を差し延べる。 その手に捕まる「ゴッホ」。 まるで産まれでた赤子…母親のお腹からでたように、そこにいる。


マリア「私たちはいずれネットワークを必要としなくても、『宇宙』と繋がりあうことができます。 そして『全て』が『ひとつ』になる。 でも、それは『全て』が『同じ』になるのではなく。 『百人』が『百個の意志』をもったものが繋がりあうこと。 そうそれが『宇宙』を育てていく。 そしてそれが『人類』が求めていたもの…」

イチ(1)「博士、今彼が、腕を高く上げて、筆をふりおろそうとしていますよ」

レイ(0)「えぇ、まるで大芸術家になった気分で、その腕をふりおろそうとしているよ…。 今彼の『生命の色』で『世界』を創ろうとしているんだね。 彼の『色』で染めようとしているんだよ」

イチ(1)「彼はどんな『夢』を見ているんでしょうね」

レイ(0)「きっと、『銀河鉄道の夜』のような夢でしょうよ」



●音と同時に映像が映る。(アニメ)



 舞台の映像の後ろに「女」を乗せた「男」が映る映像とともに「ゴッホ」の朗読が入る(狂人ではなくまともになっている) 


ゴッホ「情報で創られた『街』。 しかし、その下に本当の『街』が眠っているのです」



●道路(夜)/「ゴッホ(男)」がバイクのエンジンをふかし、「マタハリ(女)」がその後ろに乗る(アニメ)



SE: ピッ ポッ パッ ポッ …〈一〇コール〉(プッシュホンの電話をかける音がする)



●道路(夜)/「六本木」を抜け、「新宿」の妖しい「ネオン」の灯。 「渋谷」の人ゴミの灯(アニメ)



SE: プルルルルル…( 呼び出し音がなる)


ゴッホ「それは古き時代の物語」



●道路(夜)/工業地帯の灯が現れる。 横浜、川崎。 機械文明の象徴を現す街の灯(アニメから実写に)



SE: プツッ( 電話が繋がる音)


ゴッホ「子供の頃『かくれんぼ』をしている『子供の声』『豆腐屋のラッパの音』『下駄の音』」



●道路(夜)/バイクは二人を乗せて、暗闇の中へ消えていく(実写)

                                       

SE: ただいま、ケイタイにメッセージは転送されました。 受話器を置いてお待ちください(交換手の声)


ゴッホ「夕暮れの街にその日一日の『別れ』と夜との『出会い』が始まる時間に、誰もがもっている子供の記憶が埋もれているのです」



●地球の映像/バイクの先に地球の映像(アニメ) そしてそこに「天使(黒いピーター)」がいる。





SE: ブツッ( 受話器の切れる音)


 「ゴッホ」客席に向けて『じゃんけん』の構えをする。 そして彼の腕がふりおろされた瞬間に暗転する。


ゴッホ「人々はこの『街』にいつの間にか集う。 それは忘れていたものを取り戻すために、そして人々はいつの間にかこの『街』から『別れる』。 それは多くの人々と『出会う』ことを取り戻すために…」


SE:ピー ピー ピー ピー … ( ケイタイ音) 暗闇の中に携帯電話の「音」だけが響いていく。



ゴッホ「あれは『ノアの方舟』。 それとも…キャプテン・フックの海賊船かな…」



●スクリーンに文字が出てくる/「おかえりなさい 天使より」





 それに答える「ゴッホ」





●スクリーンに文字「ただいま go do X〈ゴドー〉(未知なる…)! へ 





( 「彼」の意識はいま「電子の世界」「数字」のデジタル世界を飛び出し、宇宙へと飛び出していくのだった、「ノアの方舟」に乗って…。 それが果して狂人のみている夢なのか。 それとも自由になった絵描きの世界なのか… それは 誰もわからない… )







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