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あいドル$ 5
作/KONOMOTO Satoshi※この作品は、1992年に池袋小劇場で上演された脚本(+絵コンテ)を2014年版として追加手直ししたものです。
第八幕/WHEN YOU WISH A STAR. -星に願いを…-
「あき」と「亜紀」は日記を読みつづけている。
あき「八 月八 日( 火曜日) 曇り それは『物質』と『精神』が『ひとつ』だったのかもしれません。 しかし、いつの頃か『物質』は『精神』を『切り離』し『暴走』し そのギャップが、今の 『世界』を現しているかもしれません。 『物質』と『精神』は『ひとつ』になりたがっているのかも。 そしてそれをやれるのが『語り』なのかも、『人』から『人』へ伝えられる『かたりべ』の声。 我々はもう一度この『かたりべ』の言葉をつくる必要があるようです。 彼らの『未来』に語ってくれる『物』と『語り』の『物語』の世界を…。 僕は路地裏で『物語』を見つけました。 あなたの探し物は見つかりましたか。 僕の探し物は…もうすぐ『そこ』に…」
亜紀「それが、現場にあった日記の最後に書かれていた『言葉』でした。そして、これが『彼女』の『遺言』なのです」
あき「そうじゃない」
亜紀「えっ?」
あき「それは『遺言』じゃない」
亜紀「何? 」
あき「それは『遺産』よ」
亜紀「遺産? 」
あき「まだ知らない僕からまだ知らないきみに…」
亜紀「これは…」
あき「交換日記」
あき「こうかんにっき? 」
暗 転
その時、稲妻が「バベルの塔」に落ちる。崩れる「塔」
AS1「セイコ….千円安。アキナ…二千円安。マサヒコ…五千円安。エリ…四千円安……」
小人「どうしたんだ。この下がりようは…」
巨人「わからん。あいドル$達の株が下がっていく」
小人「おーっ、今度は『バンド』株があがるぞ」
AS1「リンドバーグ…千円高。プリプリ…五百円高…。」
AS2 「ソノコ….千円安…」
巨人「崩壊だ。バベルのあいドル$の崩壊だ」
小人「やはり、神の怒りに触れたのだ」
巨人「神おも恐れぬ所業だったんだ」
小人「それで塔に雷が。売れ、売れ、どんどん売れ。そして『バンド株』を買いまくれ」
巨人「売れ、売れ…」
小人「買え、買え…」
暗 転
「城内」登場。中央に歩き、そして立ち尽くす。
城内「私がある日、テレビを見ていたら『アイドルの一日』というものをやっていました。それはオーディションで合格した『ひとりの女の子』が『アイドル』となっていく姿を映したドキュメントでした。オーディションに合格して事務所の人が親に会い、懸命に親を説得して彼女は『アイドル』になるのでした。しかしそれはショックでもありました。そう以前、リンカーンの話で彼が初めて『奴隷売買』を見たとき酷いショックを感じたと聞きましたが。私もこの光景は恐いものを感じました。しかし、彼女は懸命に『アイドル』として頑張っていきました。売り込みをしたり、歌の練習をしたり。あの『涙』は感動的でした。なににもまして一生懸命の人は美しいものです。私も応援したくなりました。テレビでもちょこちょこ顔が見れると嬉しいものでした。でも、そうこの時期からです。『あいドル$』株があがり始めたのは。大量の素人の『あいドル$』株。大量の情報操作まるで『バベルの塔』のように『神のいる国』に向かって、神に手が届くと思っていたのか。それはあがり続けたのです。そしていつの間にかその『涙の君』は消えていました。あの涙はどこにいったのでしょうか? 」
舞台右端に「社長」、左端に「飛鳥」登場。
社長「どどどどどどどど、どうしたんだ」
飛鳥「あいドル$の崩壊ですよ」
社長「何故だ」
飛鳥「誰かが『王様は裸だ! 』と言ったからでしょう」
社長「裸の王様」
飛鳥「いや、それとも『HALL』の反乱」
社長「はる?赤垣葉流? 」
飛鳥「いや、コンピュータの『HALL』ですよ」
社長「コンピュータ」
飛鳥「二〇〇一年『HALL』の反乱」
社長「反乱だ、反乱だ、コンピュータの…」
飛鳥「あまりに素人を使いすぎたので、ここの市場は、めちゃくちゃになっ たんです。アイドルがアイドルでなくなった。アイドルとファンの距離は近いほどいい。クラスメート的アイドルが生まれる一方。その寿命も短い。特にそんなアイドルが多く生まれた。それなりの歌が歌え、演技ができればよかったからです。」
社長「飛鳥君。どうすれば…」
飛鳥「あーっ、沢山の『天使』達が落ちていく。翼を失った天使達が… まるで白い雪のようだ」
社長「飛鳥君…。あすかーーーーっ(悲鳴に近い)」
下がり続ける『あいドル$』株(映像) 。それを見つづけるふたり。
飛鳥「社長、いい話があります」
社長「何かね(期待をふくらませる)」
飛鳥「私はこれで辞めさせていただきます」
「飛鳥」舞台を去る。「社長」は追う。その後から「ルイ」が大きなスーツケースをもって登場。
ルイ「おめでたい奴らだ」
株式表示電光掲示板(映像)をを見る「ルイ」
ルイ「『あいドル$』株もお終いか。暴落する前に売っていてよかったぜ。さぁ、この金でどこにいこうかなぁ。とりあえず夢でも買いに行こうか。ゆっくり眠れるフロリダか、エーゲ海なんてのもいいかもね。さぁ夢見るように眠ろうか…」
映像には株取引所が映っている。テープが舞ったり、紙吹雪が飛んだりしていて、まるで、お祭りのようだ。『えんじゃないか』踊りを踊っているものもいる。それを見つめる「新人・類(ルイ)」
ルイ「まったく、おめでたい奴らだ」
「ルイ」去る。
「亜紀」と「あき」再び登場。ゆっくり椅子から立ち上がる。そして「亜紀」ゆっくり斜めに歩く。
亜紀「なんだか、大事なことを忘れていたみたい」
あき「……」
亜紀「なんだか、大事なことを思い出したみたい」
あき「……」
「あき」ゆっくりとななめに歩く。「亜紀」の歩いた軌跡に交差するように歩く。
亜紀「なんだか、あなたが誰だかどうでもいいような気がしてきた」
にっこり微笑む「あき」
あき「なぜ?」
亜紀「あなたは私の大切な友達だからよ」
あき「友達? 」
亜紀「そう、私を励まし、力づけてくれる。親友」
あき「ありがとう」
亜紀「えっ? 」
あき「とても大事なことを思い出させてくれて…」
亜紀「こちらこそ…」
あき「……」
亜紀「あなたは『サンタ』を信じる」
あき「えっ?」
亜紀「サンタクロースよ」
あき「……」
亜紀「心に『サンタ』を持ちつづけられる」
あき「人に何かを贈れってこと…」
亜紀「えっ?」
あき「おもちゃやお菓子を贈る親切心」
亜紀「……」
あき「それとも…」
亜紀「それとも?」
あき「多くの人に伝える『かたりべ』の心を贈るの」
亜紀「かたりべ? 」
あき「小さい事なのに、多くの人を繋げている」
亜紀「物語の力」
あき「あなたは僕の宝ものだよ。亜紀」
亜紀「ありがとう」
あき「僕はあなたが好き」
亜紀「えっ? 」
あき「歌を楽しんでいる亜紀が好き」
亜紀「私はただ歌が好きだった『私』。でも、私はいつの間にか、その歌の好きな『私』を捨ててしまった」
あき「そう、それが『私』」
亜紀「あなた…が? 」
あき「あなたがかつて捨てた『自分』」
亜紀「自分? 」
あき「あなたがかつて捨てた『友』」
亜紀「友? 」
あき「あなたがかつて捨てた『輝き』」
亜紀「か・が・や・き」
あき「そう」
亜紀「輝きたい」
あき「輝きなさい。力一杯に…」
暗 転
株式市場の異変の中でもひとつだけ下がらない「あいドル$」株がある。騒然とする市場。沈黙と静けさの中、彼らは大きく輝き始める「星…スター」を見つづける。
巨人「また『あいドル$』株の買いか」
小人「いや、ちがうぞ」
巨人「何故? 」
小人「なぜなら、今も『あいドル$』株は下がっているから」
巨人「じゃぁ」
小人「わからん? ただ一つ言えることは…」
巨人「何だ」
小人「その時代その時代のアイドルたちが、その時代その時代の人々を表しているんだということだよ」
巨人「どういうことだ」
小人「かつてのアイドルのパワーは貧困から立ち上がるパワーだった。しかし今 それは朦朧(もうろう)としている。そしてそれはアイドルだけでなく多くの人々がそうなんだよ。その象徴として彼ら/彼女らは存在したのだよ」
巨人「そうだなぁ。でも、今、新たなアイドルが誕生しようとしているんだな…」
小人「あぁ、自分自身をしっかりもった『新人・類』と呼ばれるアイドル」
巨人「『自立』する天使たちが…」
巨人/小人「ほら、今、交換日記を始める…」
「巨人」たちが見つめているのは、多くの人が本当の魂(じぶん)とつながり、「光り輝く」姿となった人々の光景(すがた)だった。
暗 転。
エピローグ/そばにいて…
暗闇に灯がさす。そこに「あき」が浮かび上がる。「あき」はゆっくり立ち上がる。
あき「八月一〇日(木曜日)晴れ。 人を感動させるのは感動を創るという技術ではなくて 人が人を想いやる中から生まれるものです。 感動は創るものではなく想いやるものである。 『愛がなくっちゃね。』 そして友よ、お前の為に死のう。 そして友よ、お前の為に生きよう。 僕の命、君に捧げよう......友よ。 僕は路地裏で自分を見つけました。 あなたの探し物は見つかりましたか。僕の探し物、それは……」
「あき」ゆっくり首だけ横を向く。「天」を見上げる。
あき「『IT』… 『それ』がいついたのか誰もしらない」
「あき」の灯が消え、次に「城内」と「吉川」が登場する。
城内「あの子には私が必要なのよ。あの子はアイドルじゃなく。天使や妖精にもなれる子だわ…ねぇ『亜紀』」
吉川「つまんない自分(せかい)なら面白くしようぜ。何かを見つけようぜ。何かを探そうぜ。これからは正直に生きたいんだ」
その横から「飛鳥」と「プロデューサーらしい男(この芝居のスタッフ特別出演)」のふたりが、悪者商人と悪代官のような話し方で出てくる。今度は「飛鳥」の方が腰が低い。
飛鳥「(本人の名前)○○ちゃん、○○ちゃん、いい企画があるんですよ」
プロデューサー「ほんとかなぁ、りょうちゃんはうまいからなぁ」
飛鳥「これからはCF…CFガールですよ。彼女らの中からゴクミやミヤザワなどが生まれてきています。そういう娘らに目をつけておくんですよ」
プロデューサー「ほーーーっ」
飛鳥「そういう娘を使ってひとつ番組でも創ってみませんか…」
プロデューサー「うん、いいねぇ」
飛鳥「でしょ」
「プロデューサー」と「飛鳥」去る。
「城内」「吉川」の灯も消えて暗くなろうとするところへ、「亜紀」と「あき」の灯が強くなり、ふたりは浮かび上がってくる。
あき「思えばあの時がそうでした。夢に向かって、無邪気に歌って あなたがいつの間にか社会やら現実やらに流されてしまい。それをあたりまえとしていたところから。『私』は『わたし』でなくなった。私は『もうひとりの私』を捨ててしまった。しょうがないとか、これが『現実』と言って…」
亜紀「思えばあの時がそうでした。夢を未来をつかんだと思っていました。人気や好きなことができて嬉しいと思っていました。忙しい暇のなさ。大人からの支配。そう『私』は『わたし』でなくなった。私は『もうひとりの私』を捨ててしまったのです。しょうがないとか、これが『現実』とか言って…。もう一度本当の『自分』を取り戻せたら…」
「あき」日記を閉じ、そして「亜紀」の方を向く。
あき「あなたはスターにもなれるわ」
亜紀「えっ? 」
あき「あなたはスターに…」
亜紀「輝きなさい。力一杯に…」
株式市場では「亜紀」の株価がどんどんあがっていく。
巨人「おーっ、亜紀の株があがっていくぞ」
小人「天上知らずだ」
巨人「いや、天上にあるやつだ」
巨人/ 小人「スターだ。スターだったんだ」
ルイ「あいドル$ではなくスターだったんだ」
映像には「星たち」が。その中にひときわ大きく輝くひとつの「星」がある。
亜紀/あき(同時に) 「本当にスターはいるのでしょうか?憧れや願い事があり、人は夜空の星に願いをかけたがります。でも一番のスター。それは『自分自身』。なのに人はいつもまわりに『スター』を探しています。『あなた』が輝く『力』をもっているのに…」
亜紀「もう一度本当の輝きを取り戻せたなら…」
あき「『輝きなさい』、力一杯に…」
亜紀「言われてみれば、知っていることなのに。言われるまでは気がつかなかった」
あき「お帰り『私』」
亜紀「もう一度『一』から始めよう…」
あき「いや、『誕生』するのよ」
「あき」は「亜紀」の方へゆっくり握手の手を差し出す。「亜紀」はその差し出された手に握手をしようとする。ふたりの『手』と『手』が触れようとするところで灯が消える。
暗 転
暗闇の中、「亜紀」の声だけがする。
亜紀「九 月八 日( 金曜日) 晴れ のち 秋 今日は私の誕生日。 まだ知らない『私』から。まだ知らない『あなた』に。 交換日記をしませんか。 何故って。 『あなた』の『物語』を残したいからです。 この『白紙』のページに『あなた』の『物語』を刻みたいのです。 そんな『あなた』と日記を交換したいなぁと思いました。 ここには『あなた』の『未来』が刻まれるのです。 『あなた』の『未来』への『遺産』の『物語』が… だから『交換日記』をしませんか?」
ゆっくり灯がつく。「亜紀」がひとりで立っている。椅子も何もない舞台。モノクロ写真のようなモノトーンの世界。映像は「満月」がいい。「亜紀」ゆっくり首だけ横を向く。「天」を見上げる。
亜紀「まだ、『あなた』はそばにいますか…」
立ち続ける「亜紀」。そこには「あき」らしい「影」が映っている。天使のような「羽」をもって …
完
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