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ガ イ 1

■登場人物■

●レイ(二九)…情報大学二年生の女子学生でゴッホ准教授の助手

●イチ(二五)…役がなくてぶらついている役者

●ゴッホ准教授(不明)…謎の数学者

●タオ  (不明)…ダンボールを被った謎の男

●オペラ  (二六) …学生

●スコア  (二四) …レイの学友 兼 小説家

●エン   (三二) …レイの兄

●呂亥淡〈ろ いたん〉(三〇)…中国の留学生

●ピアノ (二三) …イチの恋人

●マリア (不明)…謎の画家

●ニーナ (二八)  …タイ人でイチと同じアパートの住人

●男刑事

●女刑事

●屋台の亭主

●ナレーター

●軟派野郎

●フィアンセ(ピアノの婚約者)

●座長(イチの恩師)

● 黒いピーターパン  (アニメ)

●マタハリ(アニメ)









プロローグ/電精子
               

※まるでテーマパークのイベントのように映像と舞台(演劇)で その場の人々(観客)を 異次元体験の世界へと導く…体感型「演劇イベント(演劇のカタチを借りたテクノロジーのアートイベント)」のはじまり はじまり~

 暗闇に電話が鳴る。

SE(効果音): ぷるるるるる…、ぷるるるるる…

 電話は繋がり「女性」の声で留守番電話が応対する。

SV(声)1: はい、田中です。本人は只今でかけております。 発信音が鳴りましたら、そのあとに お名前、ご用件、コールバックの希望の方は電話番号をおいれください。 後ほどこちらからかけなおします。 なお、無言電話だけはやめてくださいねぇ!。

    〈ピィーッ( 発信音)〉

   発信音が鳴り響き「我々」は段々その音の中に引き込まれるような感じをうける。そう、まるで電子の中にでも入っていくように…。



 舞台にはスクリーンがあり、そこには映像が流れる(※以下●のところは映像の脚本)。 スクリーンにアニメで「黒いピーターパン(ピータ)」登場。

SV1「ピーター ピーター もうすぐ世界が終わるんだって…」

ピータ「だったら見に行こう… 世界の最後の姿を…この『舟』に乗って…」

SV2「ピーター ピーター 連れてって 電子の世界へ… 情報の中のもうひとつのピーターパン・ストーリーの中へ…」

●アニメの「黒いピーターパン」しゃべる。

●ピータ「いいよ」

●「黒いピーターパン」画面から消える。



 今度は舞台に「レイ」登場。

                                      

レ イ「情報で創られた『街』。 しかし、その下に本当の『街』が眠っているのです。 それは古き時代の物語。 子供の頃『かくれんぼ』をしている『子供の声』『豆腐屋のラッパの音』『下駄の音』。 夕暮れの街にその日一日の『別れ』と夜との『出会い』が始まる時間に、誰もがもっている子供の『記憶』が埋もれているのです。 人々はこの『街』にいつの間にか集う。 それは忘れていたものを取り戻すために。 そして人々はいつの間にかこの『街』から別れる。 それは多くの人々と『出会う』ことを取り戻すために…」

 「レイ」、「数学者ゴッホ」を探しはじめる。 「ゴッホ」登場。

レ イ「准教授、准教授。 ゴッホ准教授」

                                    ゴッホ「レイ君、レイ君、その准教授の『准』を強調して呼ぶのはやめてれないか」

レ イ「でも、ジュン・教授でしょ…」

ゴッホ「確かに、私はまだ教授にはなっていない。 助教授と呼ばれていたころから准教授暦ももう長い。 しかし、この論文さえできれば、私も教授になれる。 その時は君を正式な助手として迎えてあげてもいいぞ」

レ イ「その前に私は大学院をでないと…」

ゴッホ「そうか」

レ イ「ところで、准教授。 今日は、暗号解読と情報伝達に使われるデジタルを詳しく教えてもらう約束でしたね」

ゴッホ「おう、そうだ、そうだ。 君は今、情報伝達論を勉強していたのだったな」

レ イ「はい、アナログ・データをデジタル・データに変換する法則を調べたり、それに通じる情報ハイウエイをいろいろ勉強しているんです。 将来はその方面へといきたいと思っていますから」

ゴッホ「なるほど…」

レ イ「私がお聞きしたいのは、情報の歴史的背景です。 准教授はまずは昔のスパイの方法を調べるといいと言いましたね」

ゴッホ「あぁ、言ったよ。 昔のスパイは秘密の情報を先ず暗号にして信号で本国に送る。 本国はその暗号信号を再びきちっとした文章に変換する。 今はこれを1と0にするだけで伝えることができるようになった。 レイ君、どんなものも歴史の積み重ねだよ。 まず歴史的背景を分析してどうしてこのような方法が生まれたかを知る。 それが手っとり早い方法だと私は思ったから、君達に言ったのだよ。」

レ イ「だから、准教授は『情報を知るならスパイを知れ』と」

ゴッホ「そうだそれから『電信電話』や『通信衛生』『光ファイバー網』などによるところや『サイバースペース』と呼ばれる『未来世界』を…」

レ イ「准教授。 あんまり難しいことを並べると、誰もついていきませんよ。只でさえ、准教授の話は難しいというお叱りをうけているんですから…」

ゴッホ「あっ、そうだね、まぁ、今回の話のポイントは『情報』ということだったね」

レ イ「それで、スパイですか」

ゴッホ「そうそう。だからこの論文が鍵となるのだよ」

レ イ「論文ですか? スパイの論文ですか? 」

ゴッホ「いや、私は今、大事な『方程式』を解こうとしているんだよ」

レ イ「方程式ですか」

ゴッホ「そうだ。 『音の黄金分割』をな」

レ イ「音の黄金分割?」

ゴッホ「そう、すべてのものを記号として導こうとしているのだよ。 全てのものは公式であらわせる、それは『アインシュタイン』の解く絶対なる『ゴッド』」

レ イ「ゴッド?…神?」

ゴッホ「いや、『ゴドー』だよ。」

レ イ「ゴドー? 神もどき…の?」

ゴッホ「そう、神とも呼ばれたり、神にもなれる未知なるモノ。 まあ、おおげさだが、記号は我々にとっては『神』にもまさるということだよ」

レ イ「はぁ、また、わけのわからんことを…」

ゴッホ「方程式で音の黄金分割を解こうする天才数学者『ヴィンセント・ブァン・ゴッホ』。彼の方程式が音に変わるとき『宇宙』の音が聞こえてくる」

レ イ「こんどは宇宙ですか」

ゴッホ「そうだよ。 このように…」


 「ゴッホ」が手を「グー」にして振り上げると「言葉」が聞こえてくる


SE: ピーッ〈 発信音〉 … (言葉)あ、え、い、う、え、お、あ、お…

レ イ「言葉ですよ。それ…」

ゴッホ「そう、言葉」


 「ゴッホ」が今度は手を「チョキ」にして振り上げると「音階」が聞こえてくる。

                                       

SE: ピーッ〈発信音) …  (音階)ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド…

レ イ「音階ですよ。それ…」

ゴッホ「そう、音階」


 「ゴッホ」が今度は手を「パー」にして振り上げると「数字」が聞こえてくる。

                                       

SE: ピーッ〈発信音) … (数字)二二が四、二三が六、二四が八…

レ イ「数字ですよ。それ…」

ゴッホ「そう、数字。 これがこの方程式を解く鍵」

レ イ「グー、チョキ、パー…、まるで『じゃんけん』じゃん」

ゴッホ「そう、じゃんけーん、ぽん」


 ふたり「じゃんけん」をする。 「レイ」は「パー」で「ゴッホ」は「グー」


レ イ「勝った」

ゴッホ「負けた、まだまだだなぁ。 しかし、これも『方程式』の途中の証拠」

レ イ「まだ、やるんですか…」

ゴッホ「順調に『方程式』は解けているんだな。 そしてこれが解けると…」

レ イ「解けると…?」

ゴッホ「残るんだ…。 パンドラの箱のように…」

レ イ「残る?」

ゴッホ「そう、これが…」


 「ゴッホ」ゆっくり手を開く、それを覗き込む「レイ」


ゴッホ「わっ(脅かす)」

レ イ「わっ!」

ゴッホ「驚いた」

レ イ「准教授」

ゴッホ「ははははは、騙された、はははは」

レ イ「もう、あんたの言葉を信じない」

ゴッホ「見えないから信じなくていいけど…」


 「ゴッホ」透明な望遠鏡をみるように…。


ゴッホ「でも、ほら、この望遠鏡をみてごらん」

レ イ「望遠鏡なんてないでしょ」

ゴッホ「見えないから、見えるんだよ」

レ イ「また、また」

ゴッホ「見えないものが聞こえ、聞こえないものが見える…。ほら…これ…、発信音が聞こえるだろ…」


 「ゴッホ」「レイ」耳をすませる。


ゴッホ「ほら、まるで留守番電話に録音するときに最初に聞こえるあの『ピィーツ』っという音だよ」

レ イ「…」

ゴッホ「その音が見えてこないか。 ほら音が形になっていく。 方程式の公式どおりに…」

レ イ「あっ、光…それもいくつも。まるで『街の灯』のように…」

ゴッホ「そうだよ『街』だよ。 あの『街』だよ。 音よ、あれが街の灯だ」

レ イ「えっ?」

ゴッホ「あれは『イメージの街』。 過去や現在に存在する『街』」

レ イ「街?」

ゴッホ「狂気の夢を見ている街。 私はあの『街』をスケッチしたい」

レ イ「准教授」

ゴッホ「あの『狂気』を描きたい…、今度はあの『街』を描きにいこう」


 暗 転。


 舞台のスクリーンに、映像が映る。

●高速道路(夜)/高速の風景(静岡あたり)。 バイクが一台突進してくる。

●部屋(夜)/女が男とベットの上で戯れている(実写)

●高速道路(夜)/車のヘッドライト、バックライト。 「東京まであと三百キロ」という看板。

●部屋(夜)/段々激しく二人(実写)

●高速道路(夜)/トンネルを抜けると、そこは工業地帯の灯が現れる。 横浜、川崎。機械文明の象徴を現す街の灯。

●部屋(夜)/激しく乱れる二人。(二人の姿はアニメになっていく)

●高速道路(夜)/ インターチェンジをおり「環八」に入る。

●部屋(夜)/二人は絶頂に達する(アニメ)

●道路(夜)/新宿の妖しいネオンの灯。渋谷の人ゴミの灯。 「国際地区六本木へようこそ」の看板。

●部屋(夜)/女はベッドに倒れ込む(アニメ)

●道路(夜)/バイクはCGで描かれた架空の街「水鏡町」に入る(アニメ)

●タイトル「ガイ 街は狂気の夢を見る」

●水鏡町の歩道( 夜)/ (CGアニメで創った街)架空の地域「水鏡町」は、不思議な色のネオンがしている。 そして最後に再び文字が映る。

●文字/「ようこそ 水鏡町へ…」(アニメ)








第一幕/シフトするDNA情報      

      

●街には女の子を軟派している男がいる(アニメ) 待合場所の石のところで本を読んでいる女性「マタハリ」がいる。 「軟派野郎」は、彼女に声をかける。(壁には「キャプテン・フック」の似顔絵の落書きが描いてあり、そして「黒いピーター・パンに気をつけろ!」と落書きしてある) 

                                      

●軟派「ねぇねぇ、かのじょ。ねぇ、ひ・と・り。ねぇ、誰か待ってるの?」

●「マタハリ」「軟派」を無視して本を読み続ける(アニメ)

●軟派「彼氏いる?…しかとしちゃって、かわいい。そんなに面白いその本」

●マタハリ「本を読んでいるのではないのです」

●軟派「えっ?」

●マタハリ「本に読まれているんです」

●軟 派「ははははは、何言ってるのかと思ったら…」

●「マタハリ」の姿はすっと…「軟派」の目の前から消える(アニメ) まるで「本」の中に 吸い込まれるように…

●軟派「あっ?。 ねぇ、彼女、あれ?…名前くらい聞かせてくれたって…」

●「軟派野郎」「マタハリ」を探す。

●スクリーンには再び「マタハリ」らしき「女」が歩いている。





 舞台では ダンボールをかぶって顔が見えない不気味な男…まるで「影」のような男「タオ」が登場、スクリーンの「女(マタハリ)」を睨むように立っている。目だけは見える不気味な眼光。

●「女(マタハリ)」も「タオ」を睨む。。

マタハリ「この街に読まれているんです」

●「女(マタハリ)」はまた歩きだす。


 「タオ」も歩きだす(退場)。


●スクリーンに(アニメ)ビルのクレパス群が映る。 騒がしい街の中… 性を協調した看板やネオンの街。 (アニメ)

● 交差点/青信号をわたる人達(実写) シャッターを閉めている店。ネオンや看板の灯が消えているクラブ。 その店の前に止まっている仕入れや酒屋のトラック。 まだ人通りも夜ほど でもない通り。 料理人が店の裏で煙草をすってる光景。 (実写)

●日は沈みはじめ、東京タワーに灯が灯る。日が沈み、街のビルに灯がともる。 制服を着替える女たち。ネオン・看板などにも灯がともる(アニメ)

●鏡の前で「イチ」が洋服を着替えている。 ズボンと白いシャツを着る。 シャツの一番上のボタンをはずしている。 ネクタイを締めるが最後まできちっと締めない。ギャングのような 帽子をかぶる。帽子で鏡に写る自分に挨拶し、部屋を出る(アニメ)


 舞台脇から鏡の前で「イチ」が登場(アニメの映像が終わると同時に)。 留守番電話の発信音と同時に録音されたものが再生される。


SE: ピィーーーーー.ツ( 発信音)

イ チ「ふたつの顔をもつ仮面の街。昼間はサラリーマンや仕事中の人でご ったがいだ。 男や女、子供や老人、誰もがここを通り、そして過ぎ去っていく。 待ち合わせに使う時計の下や喫茶店の前。 平凡かに見えるこの街も夕日の光が変色になり、地下鉄のホームに滑り込む時、制服の子供たちはどこかへいき、モデルへと変身していく。 ヘッドライトやテールランプの色がこの街を好色へと誘う。 通りすぎる女たちは男たちにウインクをし、男たちはその妖しさに魅了されるでも、この街の路地に入れば、静けさの中、永遠の闇の中へと入っていく。 そこにあるのはひとつの電灯、僕はその下で踊りを踊りたい気分になる。 そこは僕をたった一度のヒーローにしてくれる舞台裏。 自分だけを照らしてくれるスポットライトのように感じるからだ。 仮面の街の『六本木』。 昼と夜が違う顔を持つ街。だけど、人々は集って来る。 いつもと違う自分に変わりたいために…。 誰もが持っているもうひとつの仮面を脱ぎ捨てるために…」


●電車がホームに入ってくる。ドアが開く。人がどっと出てくる(アニメ) 階段をのぼる。 渋滞の車の列。 ヘッドライトや赤のテールランプが重なってスポットライトのように見える。 路上に集まる男たち女たち。 街を歩くモデルのような外人たち。

 路上(舞台)にはテーブルがあり「ピアノ」が待っている。 「イチ」はその席に腰掛ける。

イ チ「ひさしぶりだなぁ。ピアノ」

ピアノ「そうね。 イチ」

イ チ「東京にいたのか」

ピアノ「えぇ、今、うちの劇団2~3カ月はここでやるから」

イ チ「ちゃんとやってるか」

ピアノ「やってるよ。誰かさんとちがって」

イ チ「よくここがわかったなぁ」

ピアノ「毎度のことでしょ、多少むしゃくしゃしてここらへんに来るんじゃないかと思ったのよ」

イチ「めずらしいものかよ」

ピアノ「いきなり、出ていってどうしたのよ。 みんな、寂しがってるよ。 どうしてやめたの…役者になるのを…」

イ チ「後で話すよ。 気持ちが落ちついたら…」


 ふたりは立ち上がり、歩きだす。騒がしくなる街


ピアノ「これからどうするのよ」

イ チ「はぁーっ、何だって」

ピアノ「これからどうすんだよ( 今度は大声で) 」

イ チ「前に歩くだけさ」

ピアノ「そうじゃなくて仕事のことよ」

イ チ「まぁ、食える程度のことはやるよ」


 騒がしくて「ピアノ」の質問に「イチ」の答えが会ってない。

 

 「イチ」が歩いていると前から女性がくる。 (人が多くて) よけられない。 ふたりの両手が重なり そして離れる。女は「イチ」にウインクをする。 「イチ」も女にウインクを返す。 再び別の女と正面からぶつかりそうになるがさっきのようにかわす。 そしてまた次へと…。

 数人の男女(ダンサー)が出てくる。 路上は舞踏会の会場のように 社交ダンスがはじます(軽いダンスシーン)

 (ダンスが終わった頃)「イチ」の後をついてくる「ピアノ」登場。





 二人は人もまったくいない静かで電灯もない所にでる。


イ チ「このにぎやかな街にもこんな静かなところがあるんだなぁ」

ピアノ「まったく、劇団やめちまって、舞台を降りて、観客からはなれて…」

イ チ「この静けさ、舞台から見えるみえない観客の視線に似ていないか」

ピアノ「えっ? 」

イ チ「あの緊迫の静けさに…」


 「ピアノ」退場する。

 「イチ」の前から「ニーナ」がやっくる。


●「イチ」のアパート前/スクリーンにアパートの映像(アニメ)


 「イチ」出かけようとする「ニーナ」に出会う。


ニーナ「おかえり、イチ」

イ チ「こんにちわ、ニーナ」

ニーナ「レイ。今、あなたの部屋に男の人、いるよ」

イ チ「えっ? 」

ニーナ「あなたにとてもよく似た人ね」

イ チ「俺に? 誰かな? 」


 「ニーナ」退場。


●「イチ」の部屋/スクリーンに部屋の映像(アニメ)


 「イチ」部屋にはいる。 そこには兄の「エン」が待っている(エン」登場)。


エ ン「よう、元気か」

イ チ「兄貴か。 なんだよ、今日は…」

エ ン「我が弟に、これを持ってきた」

イ チ「ん?」


  「イチ」に封筒をわたす「エン」。 封筒の中には現金が入っている。


イ チ「兄貴すまねえ」

エ ン「俺からじゃない、おふくろからだ」

イ チ「いやーっ 助かった。おかあさん、一生忘れません」

エ ン「おやじやおふくろ、心配しとるぞ。 ちゃんと暮らしているのか。 悪やつらにひっかかってないかって…」

イ チ「大丈夫。 ここはええとこや。 みんないいやつらさ」

エ ン「それが心配なんや。 ここにいる連中日本人やないだろ。環境的にもよくない、ここは出たほうがいい」

イ チ「心配すんな、みんないいやつなんだ」

エ ン「おまえは、お坊っちゃんなんだ。 世の中(MACHI)の恐ろしさを知らないんだよ。 おやじやおふくろが心配するのもわかる、俺も弟のことが心配でこうして…」

イ チ「そうか、本当は出世のことが心配じゃないのか。 こんな俺が弟でいると兄貴の出世に影響するからじゃないのか」

エ ン「なに…」

イ チ「ごめん、ごめん、本気にした。 冗談や。 確かにここは外国の人が多いがみんないいやつらや、こいつらはいい仲間さ。」

エ ン「もういい」

イ チ「兄貴、俺はいまはここが居心地いいんだよ」

エ ン「そうか。 ところでおまえ、これからどうするんだ」

イ チ「どうするって」

エ ン「このまま自分のやりたいことをつづけてもどうしようもないだろう」

イ チ「大学を退学したからって…」

エ ン「歳を考えろ。このままやったからってどうしようもないだろ」

イ チ「いま、面白いんや」

エ ン「そんなことで、まともな職にありつけるのかよ」

イ チ「俺は役者に燃えているんや」

エ ン「おまえはどうも、役者というより、社会の逃げ道としてそこを利用しているように思えるんだが…」

イ チ「兄貴、いっていいことと悪いことがあるぜ」

エ ン「イチ。 親父やおふくろもお前がかえってくるのを楽しみにしている。 早く帰ってこい」

イ チ「ここはやれせてくれ…」

エ ン「プロじゃなくてもいいだろう。仕事をしながら、どこかのセミプロ

   劇団でも…いいだろう」

イ チ「もう少しいたいんや…ここに…」


 「エン」退場。

 「ピアノ」登場。「イチ」と「ピアノ」は携帯電話で話をしている。


ピアノ「…で、マジシャンのタオから何かがでてきたの?」

イ チ「何もなかったよ。 いつものトリックさ」

ピアノ「そうなの…。 でも『愛』が出てきたなんてのは素敵じゃない」

イ チ「馬鹿らしい」

ピアノ「どうしてよ」

イ チ「そんなロマンチックなことが起こるかよ」

ピアノ「まぁ、そう」

イ チ「パンドラの箱じゃあるまいし、『希望』が残っているのか」

ピアノ「でも、私は『愛』を信じたいな」

イ チ「そうか」

ピアノ「あなたには『愛』がないの…」

イ チ「愛か…何をもって『愛』なんだろうなぁ…」

ピアノ「あなたは好きな女性はいないの…」

イ チ「いるぜ」

ピアノ「えっ?」

イ チ「何驚いているんだ。 俺にだって好きな女くらいいるぜ」


 「ピアノ」少し「イチ」から離れてこわごわ聞く。


ピアノ「それは、誰?私の知っている女性」

イ チ「多分、知らないよ。 なんせ、俺も知らないから…」

ピアノ「何よ、ばかにしているの…」

イ チ「そうじゃないよ。 俺には好きな女性はいるがまだ会っていないんだ」

ピアノ「なによ、それ?」

イ チ「なんていうかなぁ、そう、デジャ・ヴュというかな。 夢の中で未来をみることができる能力があるのかもしれないけど、自分の中で結婚する女性の姿がおぼろげながら有るんだ。 だから、多分俺その娘といっしょになるんだなぁと、思っているんだ」

ピアノ「なんか、SF小説ね」

イ チ「直観で、会った瞬間に『わかる』っていう話があるだろう。 それといっしょだよ。 俺はまっているんだ、そういうやつをねぇ」

ピアノ「そう」


 うつむく「ピアノ」


イ チ「まぁ、ピアノとは、中学からの長いつきあいだから、話たんだぜ」

ピアノ「ねぇ、イチ。 私たちってそれだけ」

イ チ「えっ?、それだけって…」

ピアノ「単なる友達」

イ チ「同級生だし、幼なじみだし…」

ピアノ「一〇年近くいっしょにいて鈍いやつ」

イ チ「まさか…? 俺に…」

ピアノ「そんなわけないでしょ。 あんたなんて好きか嫌いかっていったら 嫌いの方よ」

イ チ「あっ、じゃあ、なんなんだよ、いったい」

ピアノ「私たちって、恋愛感も生まれないほど、長いつきあいなのね」

イ チ「あぁ、そうだなぁ」

ピアノ「親友なんてのはどう…:」

イ チ「男女に友情はないっていうぜ…」

ピアノ「じゃあ、心の友と書いて…『心友(しんゆう)』ってのは…」

イ チ「心友…か。 女は…始めてだな。」

ピアノ「決めた。 私にとって始めての男の心友。 あなたにとっても私は始めての女の心友」

イ チ「まっ、いいか。 お前になら、なんでも話せるからな…」

ピアノ「ありがとう」


 電話は切れる。


SE: プッ、プッ、プッ…


 「ピアノ」はその音と同時に退場。 「イチ」ひとりになる。


SE: ピィ............ッ( 発信音)


●発信音と同時に「イチ」の後ろから一人の「女(マタハリ)」が登場。

 (スクリーンの画像にアニメで女性が現れる)。

 「女(マタハリ)」は着物て紅傘をさしてやって来る(アニメ)。 「女(マタハリ)」の顔は見えないが、その口元だけは見え、どこか色っぽい。(アニメ)


イ チ「あっ、君は…」

●マタハリ「ふふふふ…」

●「女(マタハリ)」は画面の前を通り過ぎる(アニメ)。


 そこへ「声」(タオ登場)がする。





タ オ「おにいさん、今、あのべっぴんさんの口に惚れましたね」

イ チ「えっ? 」


 「イチ」は当たりを見回すが、だれもいない。ただ、隅にダンボールがあるだけだった。 しかし、「声」はそこから聞こえてくるようだった。


タ オ「そうですよ。私が言ったんですよ」

イ チ「ダンボール…。 に誰かいるのか? 」

タ オ「はい、私の名は『タオ』」

イ チ「タオ?。 まるで『ダンボール』のような顔…」

タ オ「そう、これが本当の『ポーカーフェイス』…」


 沈黙。


タ オ「そ、そんなことどうでもいいじゃないですか。 それより、あの女を追わなくていいんですかい」

イ チ「どうして…? 」

タ オ「だって、あの女があんたの求めていた女性かもしれないんですぜ」

イ チ「えっ? 」  


 「イチ」は(スクリーンの映像の)「女(マタハリ)」を見る。





●「女(マタハリ)」は「イチ」の方を向いて、にっこり笑う。 しかし相変わらず口もとしか見えない、それが妙にエロチックだった。


イ チ「どうして…」

タ オ「私はこうしてダンボールに入ってもう、かれこれ三年になりますかね」

イ チ「三年…」

タ オ「そうですよ。 いがいといいもんですよ。 こうしてダンボールに入ってみると、世間もまんざら悪いもんじゃないもんですよ。 私は、平凡な人生を送っていたものなんですが、あるとき、こうしてダンボールに入ってみて、いろいろな人達を眺めていて、もう一つの人生を発見したんですよ」

イ チ「人生…」

タ オ「そうですよ。 だから分かるんです。 あなたもそのもう一つの人生の中にいる人だということを…」

イ チ「俺は…」

タ オ「女を追っているんでしょ」

イ チ「あぁ、でも…」

タ オ「その女は『マタハリ』って言うんでしょ」

イ チ「あぁ」

タ オ「でも、名前だけで誰だかわからない」

イ チ「そう、どうして…」

タ オ「でも、その名前の女の子がやけに気になる、もしかしたら、自分の未来に何か関係がある女性。 自分は予知能力か、デジャ・ヴュを見ているのかも」

イ チ「そうなんだ」

タ オ「ははは、だから、君はあの『女』を追えばいいんだよ」

イ チ「女」

タ オ「そう、あの女が鍵を握っている」

イ チ「どうして…」

タ オ「長年ここに入っていると、分かるんだよ。 何せ、いままでとは違う角度でものが見えてくるから…」

イ チ「俺も、そこに入ったら、そうなれるかなぁ…」

タ オ「さぁ」

イ チ「さぁって…」


 「タオ」、立ち上がり去っていく。 「イチ」の後ろから「ちんどん屋」がやってくる。 その列に加わる「タオ」退場。


イ チ「おい、待てよ。 まだ、話があるんだよ。 待てよ、おい…」


 幻覚からもどる「イチ」が一人たっている。


イ チ「待てよ、おい…」

 

●「イチ」の前に「マタハリ」が亡霊のように〈スクリーン〉現れる(アニメ) ぼーっとして暗闇を見つめる「イチ」。

●「マタハリ」もぼーっと「イチ」を見つめている(アニメ)


イ チ「何かあった瞬間に感じたんだ。 君だって…。 俺には分かるんだ。 もしかしたら…」


 「マタハリ」はそこから歩き出し、遠ざかっていく。

 暗 転 。



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