見出し画像

ガイ 2


第二幕/思考する街

 舞台のスクリーンに画像が流れる。

● ビルのクレパス群。(アニメ)

 騒がしい街の中…看板やネオン街が映る。

 舞台に「イチ」登場。「イチ」は歩道を歩いている。



●そこへ女装した「軟派野郎」が(スクリーンから)「イチ」に声をかける。

●軟派「( 女声) ねぇ、エッチしない。 ねぇ、セックスしようよ。 病気なんてもってないから」

 突き放す「イチ」 

●軟派「もーっ、絶対やらしてやらないから、いーっだ。くそーっ」

 無視して去っていく「イチ」。

●地下鉄の改札口。(アニメ)

 改札口を出て行く人たちの靴の音がリズムをつくり、音楽を奏でる。



 それにあわせるように 数人の男女が舞台に現れ、ストリートダンスを踊りだす(ダンスシーン)

 ダンスがおわると男女のダンサーは舞台を去り、それと同時に 留守電の発信音と録音された声が再生される(聞こえてくる)

SE: ピィ............ツ( 発信音)

イ チ「歩きつづけ、そして走りつづけてきた中、何かを否定し、何かに背を向けてきた。 それが世の中とか、両親とか、権力とか、上の人とか、とにかく何もかもに反抗してきた僕の中になぜだろうか、心が疲れてきた。 なぜか魂が抵抗しはじめるんだ。 肉体が肉体として感じてくる。 心が心として感じてくる。 そしていつもなら感じることがないものを感じ、いつもならない見えないものが見えてくる。 見慣れた街『新宿』が突然見たこともないような表情をしはじめる。 魂が街に縛りつけられていく。 人々が沈黙の中を時が止まったことも気づかずに歩いていく。 色を見てはだめだ、色に騙されてはだめだ、眼を瞑れ、じっとしていろ、モノクロの方がまだ真実を見れるかもしれない。 耳を済ませてみれば、ほら聞こえてくるだろう。 捕らわれた魂の叫び声が…」

 リズムにのって階段をのぼる「イチ」、街の中へと消えていく。

 暗 転。



●「イチ」屋台のラーメン屋に入る。そこは、外人の客が多い。(アニメ)

 そして亭主はアメリカ人だ。流暢な日本語を話す「亭主」

●亭 主「イラッシャイ。 何ガイイデスカ」

●イ チ「みそ」

●亭 主「ヘイ」

●ラーメンが出てきて食べはじめる。(アニメ)

 そこへ「マタハリ」が妖しい雰囲気で登場する。

 何人かの男が彼女に絡む。

 何語かでまくしたてている。

 「亭主」にもわからないらしい。

  いきなりキスをしようとする男を「マタハリ」は平手打ち。

 「マタハリ」に抱きつき、彼女は助けを求めている。

 「イチ」男をいきなり、つかまえ、パンチをかます。


 暗 転。


●スクリーンには「黒いピーターパン」が映る。

 舞台には「ピアノ」が登場する。

●スクリーンは「黒いピーターパン」だが 声は「マタハリ」である。

ピアノ「いやー」

●マタハリ( 声)「知ってた」

ピアノ「やめて…」 

●マタハリ( 声)「この街にはもうひとつの人生をいく。 あなたがいることを…」

ピアノ「この街が…」

●マタハリ( 声)「そいつがあんたを…」

ピアノ「コピーする」

●マタハリ「犯す(コピーする)」


 暗 転。

 舞台は警察署の取り調べ室。 ひとりの優しそうな「女刑事」の前に出される「ピアノ」。 舞台半分ではひとりの怖そうな「男刑事」が「イチ」を取り調べている。 同時に取り調べは進行する。


【 「ピアノ」を取り調べている「女刑事」の場合 】

女刑事「女優さんですか」

ピアノ「はい」

 「女刑事」パソコンのキーボードを押してデータを呼び出す。 パソコンで登録を調べる。

女刑事「『PIANO』さんですね」

ピアノ「はい」

女刑事「こんな夜遅くまで、あんなところをふらふらしていてよくありませんね」

ピアノ「すみません」

女刑事「大人だけど、物騒ですからね」

ピアノ「でも、あいつらいきなり私にキスしようとしたんですよ」

女刑事「彼らはなんでも昨日いっしょに性行為をした仲だといっていたわ」

ピアノ「冗談でしょ」

女刑事「あなた売春の経験は…」

ピアノ「えっ?」

女刑事「お金を貰って寝ることよ」

ピアノ「売春?何ねぼけてるんですか。 私はそんな女ではないわよ」

女刑事「そうなの。 でも今の時代では別に特別ではないから。 別にやってると言って驚かないわよ。 女子校生でもやってる時代ですから。 女子高生の『テレクラ』なんてネットワークの進化の型。 女の子にネットワークのプラグが個人的にジャックインしたものだけだしね」

ピアノ「冗談じゃないわよ。人違いもいいところよ。 間違われた上に、こんな目にあうなんて…」

女刑事「わかった、わかった、そう騒がないの。 もう帰っていいわ。 でも、気をつけることね」

 出ていく「ピアノ」。 「女刑事」はパソコンをいじくっている。 「ピアノ」の「情報」を呼び出し、出力される、ゆっくり、コピーされる。


 【 「イチ」を取り調べ「男刑事」の場合 】

男刑事「どこから来た」

イ チ「西から…」

 「男刑事」パソコンのキーボードを押してデータを呼び出す。 パソコンで登録を調べる。

男刑事「ICHI」

イ チ「…」

男刑事「住所不定。 無職。 二五歳。 パーソナルコード3892-66839-DX」

イ チ「関係ないだろ」

男刑事「関係ないわけないだろ」

イ チ「今日ここについたから、これから探すんだよ…しごと」

男刑事「ついた早々喧嘩か」

イ チ「喧嘩。人助けですよ」

男刑事「相手は全治1カ月の重症なんだぜ」

イ チ「正当防衛だ」

男刑事「身元保証人がいない場合はここへ泊まってもらう。 後のことは考えよう」

イ チ「俺はどうなるんだよ」

男刑事「あいつらはおまえにひどくやられたといっているぜ」

イ チ「…」

男刑事「心配するな。正当防衛だよ。 証人はいっぱいいるから。 でも今日はここへ泊まれ」

 出ていこうとする「イチ」。 男刑事はパソコンをいじくっている。 「イチ」の「情報」を呼び出し、出力される、ゆっくり、コピーされる。

男刑事「ところで、この街には何しにきたんだ」

イ チ「女を探しに来たんだ」

男刑事「女か…。 どんな女だ」

イ チ「アリスのような…女だ」

男刑事「そうか、名前は…」

イ チ「マタハリ」

男刑事「パーソナルコードは…」

イ チ「無い」

男刑事「おいおい、それじゃ、分からんじゃないか」

イ チ「俺は『彼女』を知っている」

男刑事「そうか、でも余り無理すんな、自分を大事にしろ。女で溺れて自分を見失うんじゃない歳だろ」

イ チ「もう、おそいかもよ」

 呆れたような顔をする「男刑事」は哀れに「イチ」を見つめる。 「イチ」以外は退場。

●そしてスクリーンに「マタハリ」登場。

イ チ「マタハリ」

●マタハリ「イチ」

イ チ「どうしたんだ」

●マタハリ「ちょっと、チカンに…」

イ チ「大丈夫かよ。 警察から電話だなんていうからびっくりしたぜ」

●マタハリ「心配した」

イ チ「あたりまえだろう」

●マタハリ「ごめんなさい、心配かけて…」

イ チ「友達だからな」

●マタハリ「…。それだけ…」

イ チ「それだけって?」

●マタハリ「いいえ」

イ チ「その犯人はどうなったんだ」

●マタハリ「捕まったわ。 でも、なんでも私がその人達の知り合いに似ていて彼らはその人と間違えて私に声をかけたんですって…。」

イ チ「それで…」

●マタハリ「私、そんなこと知らないから大声で騒いで、大騒ぎになったっていうわけなの」

イ チ「なんだ。 たいしたことじゃなかったんだ」

●マタハリ「そんな言い方ないわよ。 怖かったんだから」

イ チ「ハハハハハ、すまん、すまん。」

●マタハリ「まったく」

イ チ「怒るなよ。謝っているじゃないかよ」

●マタハリ「心配しているっていって、全然そう思っていないじゃない」

イ チ「そんなことないよ。もし、俺がそこに居たらおまえに指一本触れさせないぜ」

●マタハリ「本当かどうか。 一発でのされてしまったと私は思うわ」

イ チ「からむなよ」

●マタハリ「でも誰なんだろう」

イ チ「えっ?」

●マタハリ「いや、誰なんだろうとおもってさ」

イ チ「何が…?」

●マタハリ「あいつらが間違えた…私ににたやつって…」

イ チ「世の中には、自分に似た人が三人はいるっていう話だよ」

●マタハリ「そのうちの一人が同じ街にいるってこと」

イ チ「そういうことになるなぁ」

●マタハリ「探してみようかな」

イ チ「やめとけ、やめとけ、街は広いんだ。見つからないよ」

●マタハリ「自分探しをするのも悪くないでしょう」


 夢から覚める「イチ」。 ぼーっとして暗闇を見つめる。


●「マタハリ」がぼーっと見つめている。

イ チ「今、俺の夢に入ってきたな」

●「マタハリ」はぼーっと見つめている。

イ チ「いるんだろ。 近くに…」

●「マタハリ」はそこから歩き出し、遠ざかっていく(「マタハリ」の画像は消え、「イチ」は退場)


 「レイ」登場。目覚める「レイ」

レ イ「いかん、もう時間だった」

 「レイ」テレビをつける (スクリーンにアニメが流れる)


● TVビデオでは、大学講師の授業がおこなわれている。


 その映像(アニメ)にそってナレーション(NA)が流れる。


●NA「近未来の大学の授業は 通信メディアをつかって、全国の生徒に授業をしているのです。 つまり生徒はわざわざ中央にでてこなくてもいいのです。 そして講師は時間のロスをしなくて、研究/開発に没頭できるのです。 メールやFAXでシートのやり取りをしているし、生徒は登録制の通信システムで授業を見ているだけでいいのです。 しかもこの授業内容のプログラムが観れる動画サイトを使用する方がアニメやCGを使用した資料をいっしょに見れてわかりやすいのです。 我々大学もいまのテレビ局のようになってきています。実際は教育機関とメディア局が共同に協力しあっているのです。 学内でも講義をやってますがどちらかというと、講演で本当に探究したい人だけ…」



●スクリーンが切り替わり画面に「ゴッホ」が現れる。

●ゴッホ「今日の講義内容は『DNA』です。 DNAというものは、この地球が生まれたときに、出現した。 極めて珍しいものでした。 何が珍しいかといいますと。 自分たちのコピーを作りだせるという点です。 しかもDNAはそのずれからおこる作業で次のコピーがそのままオリジナリティーを保てるとは限らないのです」

●「DNA」のわかりやすい進化の「アニメ」が出てくる。

●ゴッホ「『DNA』というものにとって乗物は何でもいいのです。 今は人間がいい乗物だと考えがちのようですね、DNAにとって。 でも、いずは、もっといいものを見つければ、そっちに乗り移るかもしれません。 これが博士の発表した『利己的な遺伝子』という考え方です。 まぁ、その次の乗り物が…『コンピュータ』…なんてのは、SFの世界の話でしょうが…」


 逆立ちをして見ている「レイ」。 番組の最後にはCMが入っている。


●NA「なお、きょうの講義に関しての答案は 0825番にて送信しています。 次回の講演日までに必ず当学院に返信してください。 次のお知らせは、大学当局で…。 ビンク講師のレクチャーがあります」


レ イ「単位には関係ないから、やめとこ。 こういうのは本当にその分野をやりたい奴らだけ行けばいいんだから」

 「レイ」パソコンの横にあるタブレットをいじくり(操作する)、自分の暗証番号を打ち込む。


●(スクリーン)画面には「暗証番号確認」という授業完了証明の画面が出てくる。


 「レイ」はタブレットで入録する。


●画面に 「1010001」という文字が写る。

●その次にインターフェイス(画面)に、答案が出てくる。


レ イ「今日の宿題は楽勝!」

 「レイ」は再びタブレットを操作。 その音が鳴り響く中 舞台は暗くなり、スクリーンに映像が浮かびあがる。


●(アニメ) 「水鏡町」の中央にそびえるモニュメントのようなビル。 その形 は街のコンピュータ。

●そこに「ゴッホ」がコンピュータで「DNA」の情報量を計算している。

●その「データ」が、校門の落書きされた、看板へとうつる。

●看板の下でサックスをふく学生。

●大学局内はまるで、TVかラジオ局のようだ。 そこは通信によるネットワークで日本全 国の生徒に授業を提供していた。

●ネットワークによるテキストの交換。

●講師の授業のビデオ制作現場。授業材料をつくっている現場といろいろ。


 (舞台には)授業のアシスタントをしている女学生「オペラ」がいる。 「レイ」がその近くを通りかかる。それを見ている「オペラ」。 「レイ」、「オペラ」に気がつく。

オペラ「レイ」

レ イ「あら オペラ。どうしたの、こんなところで…」

オペラ「いま、教授のアシスタントをしているのよ。 それで今度の教材をつくってるの」

レ イ「そう、…で、テーマは…」

オペラ「メディアセックスよ」


 「オペラ」雌豹のようなエロイ顔をする(舌なめなどしたりする)。


レ イ「へーっ、なにかいやらしいのでも創ってるの」

オペラ「それだったら、いいんだけどね。教授がうるさいから…」

レ イ「ところで、なんなの大事な用事って…」

オペラ「実は私…、今度、結婚するかも」

レ イ「えっ(あまり驚いていない)」

オペラ「父親のすすめで、この前お見合いしたんだ。断れなくて…」

レ イ「乗り気なの」

オペラ「まぁね」

レ イ「じゃあ、いまのカレ氏との仲は終わりってことね」

オペラ「そうでもないよ。今度の人がいいひとじゃなかったら、すぐ別れるから」

レ イ「はじめから、そんなんじゃ、うまくいきっこないよ」

オペラ「今はみんなこんなものよ結婚って。それにバツイチっていうのも、常識になってきたし」

レ イ「まぁ、よく考えることだね」

オペラ「ところでこれから今日はどうするの」

レ イ「『ブレイン』部にいってきます」

オペラ「あのへんなやつらの集まりの…」

レ イ「あんまり、人のこといえないよ、ここの連中は…」

オペラ「脳の研究をして、それをコンピュータに育成しようとするなんて、変だよ」

レ イ「メディアとセックスを結び付けようなんて考えてるのもどうかと思うけど…」

オペラ「いらんおせわよ」

レ イ「今日はこの前届いた第X(だいじゅう)世代型コンピュータを見せてもらうのよ」

オペラ「そう」


 外でふたり別れる。「オペラ」は「レイ」の後ろ姿を見ている。


オペラ「もう~ どうして 誰も『やめろって』言ってくれないのよ~」


 「ブレイン」部に入る「レイ」。(スクリーン画面にはその部屋のアニメ映っっている。)


●そこは情報のコントロールセンターといたような室内。


 そこには本を読んでいる「呂 亥淡」とその奥に「スコア」が通信システムをいじっていた。

レ イ「スコアさん、こんにちわ」

スコア 「おう、レイか。例のことだな」

レ イ「はい、どうです」

スコア 「ここは、大学局だからなぁ。 この街の人のデータを収集できても、膨大な資料になってしまったぜ。 これを調べるのに時間がかかるし、プライベートなものも入っているから警察にしれたらやばいぜ」

レ イ「じゃあ、どうしたらいいんでかしょう」

スコア 「だから、あいつを呼んでおいた」

 「スコア」「呂」を指さす。

レ イ「誰です。 あいつ…」

スコア 「まぁ、崩壊した古い大学のシステムから来たようなやつだけど」

レ イ「いまどき、本で情報をとろうなんて…」

スコア 「あいつは特別さ」

レ イ「特別? 」

スコア 「話してみればわかる」

 「レイ」「呂」に近づく。

レ イ「やあ」

呂  「コンニチワ」

レ イ「あっ」

呂  「私、呂亥淡です。 よろしく」

レ イ「日本の人じゃないのですか」

呂  「中国から来ました」

レ イ「あーっ、だから、『本』を読むのか」

呂  「最近の多くの人『本』読まない。 モニターやディスプレイがその代わりになっている。 でも、中国では、今でも多くの人が読んでる。 それはとても大切なことだし、文化だと思うね」

レ イ「そうですね、『漢字』の国の人は『本』の方が好きでしょう」

呂  「好きとか、嫌いとかではない。 文化ですよ。 人から人、子孫へと伝える大切なコミュニケーションね」

レ イ「そうですか」

呂  「それに私『本』読むの好きね」

 「呂」再び「本」を読みはじめる。

レ イ「ねえ、スコアさん、世の中変わった人がいるといいますけど、ほんとですね」

スコア 「そんなこというなよ、昔はああいう人が常識だった時代もあったし、他の国ではいまでも風習としてその文化を大切にしている国もあるということなんだぜ」

 「スコア」の携帯電話がなる(携帯の音楽は昔のアニメの主題歌とか…)

スコア 「あ~っ、びっくりした~」

レ イ「メールですか」

スコア 「あぁ」

 「スコア」メッセージを読む。

レ イ「誰ですか」。

 「スコア」小指をたてる。

レ イ「あぁ、そうですか」

スコア 「このまえの合コンで知り合いになったんだ」

レ イ「そうですか」

スコア 「1185」

レ イ「なんですか?」

スコア 「いい国<ハコ>つくろう鎌倉幕府…つまり『鎌倉に行こう』と誘っているんだよ。 返事を送ろうか」

レ イ「数字をおくっているのですか、昔のポケベルですか、暗号ですか…めんどくさくないですか…」

スコア「これが ふたりだけの暗号というか、ふたりだけが共有する秘密とというか 楽しいのよ… おまえにはわからんだろうなぁ」

 「スコア」携帯のボタンを押す。

スコア 「1919」

レ イ「わかった。『いくよ、いくよ』だ」

スコア 「ちょっとちがうな。『いくよ、いくよのベルサイユ』」

レ イ「駄洒落ですか、暗号で駄洒落を送るんですか… おやじですか」

スコア 「141016」

レ イ「今度は なんですか?」

スコア 「『愛している』って…」

レ イ「私、数学にがてですよ。 まったく、ここには「本」を読む人間と「数字」を読む人間と… めんどくさいですねぇ~」

 滑稽な様子が沈黙と続く。

レ イ「ところで、あの人と今度のこととはどう関係があるんです」

スコア 「彼は今、東洋のニュースを翻訳してアジアに流す仕事をしているんだ」

レ イ「へーっ」

スコア 「英語や日本語を漢文に変換してネットワークを使って本国に送っている。 その傍ら、わが大学で情報の勉強もしているという人なんだ」

レ イ「へーっ」

スコア 「その彼にこの『クロノX・垓(ガイ)』の漢文知識データをさせようと思うんだ」

レ イ「えっ『クロノX』に漢字を教えるんですか」

スコア 「そう、なんせこいつはメイド・イン・USAだから、英語圏には強いがアジアで使えるかどうか」

レ イ「あっ、そうそう、私もまだその『思考するコンピュータ』ってやつにお目にかかっていませんが」

スコア 「そうだったな」


●スクリーンに「クロノX・垓」登場(アニメ)


レ イ「これが…」

呂  「すごいね」

スコア「コンピュータでの犯罪が増える昨今。 その対応にコンピュータ自身が反応や判断できるように開発された『思考するコンピュータ』だ」

レ イ「まるで『脳』のようですね…」

スコア 「我々の学科は『コンピュータ』を人間の『脳』の進化の型ととらえているからこのデザインにしたんだ」

呂  「どうして水の中にいるのですか」

スコア 「いい質問だ。 これは防水になっていて、これ自体が水力エンジンなんだよ。 だから自分自身で水を分解してエネルギーを創って動いているんだ。 だからさぁ」

レ イ「まさに新たな生命…をかもしだす感じがする」

スコア 「我々は人間的なコンピュータではなく、コンピュータらしいコンピュータをめざしているのさ」

呂  「コンピュータらしいコンピュータ?」

 一つのカメラが三人を見ている。


●舞台上のスクリーンにはリアルタイムの三人の映像が流れる。 ※「クロノX・垓」の視点。「クロノX・垓」が三人を観察しているのだ。


スコア 「あぁ、今までは機械の延長線上の一として考えられてきたものだが、将来は犬や猫などの他の生命体との接し方に似てくるだろう。 これからの世代はコンピュータと対話しながら大きくなっていく世代が多くなる。 そして我々研究チームが目指すのは、その人間とコンピュータのフレンドリーシップを生み出すことだよ」

レ イ「でも、コンピュータが暴走して世界が破滅なんてことには…」

スコア 「それはSFの世界だよ。 実際には考えられないね」

呂  「どうしてですか」

スコア 「…信じたいからさ。そうならないことを…」


●不気味に水に浮かぶ「クロノX・垓」(アニメ) 。 ※しかしまだ彼らは「彼」に観察されていることを知らない。 そしてそれ以上恐ろしいことが起きていることも…。

 暗 転。





第三幕/脳化都市

                

 舞台は路上「イチ」登場。 そこへ写真をとっている外国の女性「マリア」が登場する。 「イチ」は留守電の発信音と同時に録音を再生する。

SE: ピィ...............ッ( 留守電の発信音)


イ チ「生きているものには色があります。 そして自然の中には生命の音があります。 自然の中には聞こえないものが聞こえ、見えない色が見える僕らそんなものを感じてきます。でもここには『海』はどこにあるのだろうか。 『山』はどこにあるんだろうか。 コンクリートのビルが生命の音を感じさせてくれるのだろうか。 連立するビルたちは僕らに生命の色を聞こえさせてくれるのだろか。 生命の色と呼ぶにはあまりにも寂しいものではないでしょうか。 僕らはそんな街『池袋』に生きていかなければならないのでしょうか。 人の創った街にただつまらない現実と物質とに守られていくことに苦痛は感じてないのでしょうか。 苦痛を感じなくなるほど、鈍感になってしまったのでしょうか。 『海』は…。 『山』は…。 『自然』を見るために車を走らせて、見られる『生命の色』はどこにあるのだろうか。」

 それを見ていて笑う「マリア」。 「イチ」のところへ来る。


マリア 「はーい」

イ チ「あっ、、、はぁぁぁい」

マリア 「こんにちわ」

イ チ「あっ、ちわっ」

マリア 「わたしのなまえ『マリア』。 アイアム フロム ジャーマニーおしごとはえかきさんね」

イ チ「あ、、僕の名前は『イチ』。 えーっと、あいあむ あ ああてぃすとでんねん」

マリア 「WHAT KIND OF ARTIST?」

イ チ「うーん、何のかなぁ」

マリア 「私は風景画を専門にしている画家です。 毎年、各地を旅から旅しています。 どこの国かは知りません。それは『イメージ』の街なのですから、この『街』のように…」

イ チ「この街…?」

マリア 「私は『未来』や『過去』に存在するあらゆる『街』をスケッチしてきています」

イ チ「へーっ すごい!」

マリア 「私にとって『街』は重要なテーマね。 『主人公』にはなれないまでもその『街』のパワーは、そこにいる人々の生活や行動に現れている。 だから、スケッチをしようと思ったのです。 その『街』の風景を描ながら、その『街』の『生命』に触れたいと思ったのです」

イ チ「へーっ、今までどんな『街』と出会ったんだい」

マリア 「いろいろな『街』よ」

 「イチ」にだんだん「マリア」は溶け込んでいく。 わからないでもわからない程度にふたりは息が合う。 二人退場。

 「スコア」登場。 彼はパソコン・ネットを使用している(キーボードをたたく)。 舞台のスクリーンには 彼のうった「文字」と相手の返事の「文字」が出ている。


●スコア (文字)「我輩は嘘が好きである。我輩は小さい頃は嘘をついていきてきた。 嘘には夢やロマンを相手に見せることができる。 でも、大人になったらそれがとても悪いことだというようになった。 だから我輩はそのまま『作家』になった。 素敵な嘘を創りだし人々を喜ばせる仕事は我輩にはぴったりだと思った。


  返事が来る(「Re:」とスクリーンに出てくる相手方の返信)


●Re: (文字)「素敵なことです」

スコア 「えっ?」(「スコア」のセリフと同時にスクリーンには文字も出る)

●Re: (文字)「あなたの今の文章とても感動しました」

スコア 「いやぁ、まいったなぁ」

●Re: (文字)「私も『嘘』が大好きです。」

スコア 「そうですか」

●Re: (文字) 「でも 私の場合は職業的に恵まれていなく、そんなことはできません」

スコア 「そうでしょう」

●Re: (文字)「あなたの才能がうらやましいなぁ」

スコア「てれるなぁ」

●Re: (文字)「でも、今の世の中、『嘘』が正統化されていると思います。」

スコア 「何故?」

●Re: (文字)「だって、テレビのワイドショーを見ても、どれが現実の話やら、私たちは遠い国の事件や全く知らない宇宙のことまであの箱は教えてくれる。でも、本当にそれが真実なのか」

スコア「まったく」

●Re: (文字)「もう、テレビという映像になった瞬間、事実は事実でなくなる。 それは架空を通した現実だと思うのです。」

スコア 「そうですよ。まったく、その通り」

●Re: (文字)「どこかに『嘘』が混じっても誰もわかりっこありません。」

スコア「公然と『嘘』がまかりとおっているというわけですね」

●Re:(文字)「 そうです」

スコア「まったく、面白い人だ。お名前は…」

●●Re: (文字)「マタハリといいます。」

スコア「マタハリさんかぁ…、素敵な名前だ」

●Re: (文字)「ありがとうございます。」

スコア「どこに,いるのです」

●Re: (文字)「情報の中です。」

スコア「文通をしませんか?」

●Re: (文字)「いいわね」

スコア「では、また」

●Re: (文字)「また…」


 「スコア」ネットから離れる。


スコア 「『マタハリ』…か。 会っていないけどわかる。情報の交換でなぜか、エクスタシーを感じてしまった。 僕はあの人の『虜』になってしまったようだ」

 舞台は暗くなり、一転してディスコ場となる。 DJをしているのは「レイ」。 そこへ「マリア」と「イチ」が登場する。  ほかの客はみんな舞台隅に行き、「イチ」と「レイ」の一騎討ちとなる。(ダンスシーン)。

 曲がおわり、まわりからの拍手。 その中で「イチ」と「レイ」は握手(ハイタッチをしてがっちりした腕相撲をするような感じで…)を交わす。 それをじっと見ている「マリア」に涙が…。

レ イ「じゃあ…」

イ チ「またこいよ」

 「イチ」「マリア」とふたりきりになる。

マリア 「きょうは、たのしかった」

イ チ「俺もこんなに踊ったのはひさしぶりだぜ、もう一度ダンサーを目指そうかな」

マリア 「わたしに、ダンスをおしえてくださいますか」

イ チ「OK」

 ステップをとるふたり。

マリア 「こうしていると。ピーターパンと踊っているみたい」

イ チ「そうかい、ウエンディー」

 「マリア」「イチ」に抱きつき、そっとキスをする(退場)。


●舞台のスクリーンに「黒いピーターパン」(アニメ)登場。 彼は「留守電」の再生スイッチを押す。


SV1「もしもしイッチャンお母さんですよ。 元気ですか…」

SV2「こんにちわ。 ようこです。 この前はどうも…」

SV3「もしもし俺だ、俺。 いるんだろう…ほんとうわ…」

SV4「こちらNTT電話料金所です。 先月分の電話料金がまだ未払いなので…」

SV5「…(無言)」


 暗 転。

 舞台は「ブレイン」部。 後ろのスクリーンには「ゴッホ」が講演をしているのが映っている。


●ゴッホ「アメリカでは、時代時代に大きなプロジェクトが行われました。 最初と『大陸横断鉄道』です。 あの大きな大陸を一つにまとめるというもとで、『鉄道』の編みを張りめぐらしたのです」


 「呂」が勉強しているところへ、「スコア」登場。

スコア 「おっ、呂さん」

呂  「コンニチワ、スコアさん」

スコア 「君はまじめだなぁ、大学校内で勉強しているのは君くらいじゃないのかい」

呂  「ここは勉強するところでしょ」

スコア 「まあねぇ、でも、最近じゃ、ネットワーク化が進んでみんな自宅でほとんど用事をすますから、だいたい講師の講演を聞きにくるくらいしかないんじゃない」

呂  「そうなんですか 日本 進んでますね」

スコア 「進んでいるんだか 退化しているんだか…。 だいたい、この講演も録画だし、最近の講師は自分の研究に没頭して、生徒相手はこの手ですましているらしいから、講師によってはその間海外にいっているのもいるとか。 そこからネットワークを使って海外で講演内容を流しているっていう噂だぜ。 先生によってはもう死んでいてデジタル合成されている講師がいるとか。 いるのかいなのか分かったもんじゃない」

呂  「そうなんですか 日本って 進みすぎてますね…」


●ゴッホ「次が『自動車ハイウエイ』。 高速道路による大陸の統合化。 より早く人が移動するために大陸全体に『高速道路網』を建設したのです」

スコア 「今度はノートを使っているのか。 紙がもったいないんじゃ」

呂  「僕はこの方がいいんです。デジタル・ノート(タブレット型端末)は使いづらいし、その方が…」

スコア 「文化的なんだろう」

呂  「そうです」


●ゴッホ「そして最後が『情報ハイウエイ』です。 光ハイバーケーブルや情報網をひいて世界を一つに繋げてしまうとうい構想です。 移動しなくても、多くの人といっしょにいられるのです。 乗物に乗らなくても、遠くの人とお話ができる。 ものによっては『電子』の中を通って遠くを移動できることが可能なのです。 そうなると肉体を必要としなくなるかも…、意識だけで『情報』を通って、過去や未来をタイムスリップ…。 なんちゃって…。 ん!?」


 「ゴッホ」飛び出して、ふたりの前に現れる。 (「ゴッホ」スクリーンから消え)舞台に出てくる。

ゴッホ「こら、いま人が真面目に話をしているのを聞かんか」

スコア 「うわ」

呂  「なんだ」

ゴッホ「ふふふ、おどろいたか、私はコンピュータ・グラフィックスで創られた3Dティーチャーだ」

スコア 「飛び出す絵本のようだ」

ゴッホ「いま、だいじな進化論の話をしている。聞きなさい」

呂  「これは、情報の発達の論文ではないのですか」

ゴッホ「いや、生命の新たな進化の話だ」

 「スコア」「呂」に(こいつ、おかしいかも)というしぐさをする。

スコア 「気をつけろ、あの先生はここでは『マッド・クレイジー・ドクター』っていうあだ名だから…」

呂 「どうして…」

スコア 「難しくて、わけがわかんないことをいうからさ」

ゴッホ「日本では、江戸時代の交通網を整備し、高速道路網、新幹線網…と発達し、そして情報網へと進化していきます」

呂  「すごいですね」

スコア 「難しいですね」

ゴッホ「それから通信網へと発達。通信から、情報、マルチメディア、ネットワークの世界、サイバースペースの誕生へと向かいました。 人類のネットワークはこのよう複数体をひとつのものへと統一していきました。 そのツール としても、ワープロ、コンピュータ、パソコンへ、ハイパープラグなど『情報』の世界は広がっていきました」

呂  「すごいですね」

スコア 「ぐー(居眠り)」

ゴッホ「では、この目的はなにか?」

呂  「なんですか」

ゴッホ「見てくれ、このネットワークの図をなにかに見えないか」

 スクリーンのネットワークのアニメが映る(「ゴッホ」のセリフにあわせ変化していく)


●ネットワーク図



呂  「えーっと」

ゴッホ「脳だよ、これは『脳』そのものだよ」



●ネットワーク図 脳のシナプスに変化する。



呂 「あっ」

ゴッホ「我々は『脳化した都市』を創りだそうとしているんだよ」

呂  「何故です」

ゴッホ「ひとつに意識を統一しようとしているんだよ」

呂  「意識」

ゴッホ「そう、多重人格した性格をひとつに戻したいと思っているからさ」

呂  「多重人格ですか。 誰がですか」

ゴッホ「この星がだ」

 ため息をする「呂」

ゴッホ「いま、この星が 全てを『知りたい』という欲で一杯だということに気がつかないか」

呂 「知りたい」

ゴッホ「どこかに『盗聴』が仕掛けられ、誰もが『スパイ』をしている」

呂  「スパイ」 

 「ゴッホ」「留守電」を取り出して再生ボタンを押す。 すると、前回(前の幕)の「呂」と「スコア」の会話が出てくる。

呂  「あっ、それは…」

ゴッホ「君達のことは全て盗聴させていただいた」

呂  「何故、そんなことを…」

ゴッホ「別に… 『知りたい』からさ」

呂  「そんなことが…」

ゴッホ「いままでは、偉い人やスターの秘密や全てを『知りたい』という欲が、段々普通の人にまで普及した」

呂  「そんな」

ゴッホ「それは『個性』がなくなってきたことに等しい、全てが平均化された。 全てがフォーマット化されはじめたのだよ」

呂  「…」

ゴッホ「だれもが『知る』権利がある。 スターも政治家もとなりの人も…。何故なら、それは自分自身のことだからさ」

呂  「狂っている」

ゴッホ「正常だよ。 こうして、『音の黄金分割』を解くと…」

 「ゴッホ」数字を解きだす。 「ゴッホ」めちゃくちゃに方程式を書きつづける。 「ゴッホ」数字でエクスタシーを感じる。

ゴッホ「宇宙の音が聞こえてくるんだ…。 エクスタシーを感じるんだ。あーっ。 快感」

 目覚める「スコア」。 「ゴッホ」のエクスタシーに共鳴する。

スコア 「あーっ、だめだ。 いいアイディアがでない。 うーっ、悪夢だ」

 苦しみのたうち回る「スコア」。

 「オペラ」登場。 ビデオカメラを設置して、「スコア」の様子を盗撮する。 その様子をみる「オペラ」「呂」「ゴッホ」の三人。「スコア」またパソコン・ネットにアクセスをしている。 しかし今度はキーボードをたたかない。 意識でアクセスをしている。 悶える「スコア」の後(スクリーン)に彼らの「対話」が「文字」として出てくる。(「スコア」がしゃべるとスクリーンに文字がでる)

スコア 「あーっ、わが女神よ」

●Re:(文字)「どうしたの?」

スコア「最近、うまくいかないだ」

●Re:(文字)「うまくいかない?」

スコア「君だけが僕のよりどころだ」

●Re:(文字)「こんな私でよかったら あなたのお悩みを聞きますよ」

スコア「ありがとう。じゃあ、まず 君はどんな顔をしているんだ」

●Re:(文字)「まあ、いきなり… それはあなたの想像するとおりの顔よ」

スコア「じゃ、じゃあ、きっと美人だね」

●Re:(文字)「まあ、今度はナンパ」

スコア「君はどんなスタイルなんだい」

●Re:(文字)「あなたの想像するとおりのスタイルよ」

スコア「じゃあ、きっとモデルのようなんだね」

●Re:(文字)「そうよ。あなたに好きな情報をあたえ、創りだせる『あいどる(アバター)』よ」

スコア「なんて素敵なんだ」

●Re:(文字)「ありがとう」

スコア「こんど何処かで会わないか」

●Re:(文字)「…そうね」

スコア「どこがいい、どこが…」

●Re:(文字)「それより、私のところにこない」

スコア「えっ?、きみのところ…」

●Re:(文字)「あなたの意識をここにもってこさせるのよ」

スコア「そんなことができるのかい」

●Re:(文字)「できるわ。プラグを頭につければいいのよ」

スコア「プラグって…」

 「スコア」プラグを手に握っている。

スコア「これかい…」

●Re:(文字)「そうよ」

 「スコア」プラグを自分のペニスのようにしごきはじめる。

スコア 「あーっ、なんて気持ちいいんだ。あーっ、俺の意識が…」

 モニターを見ている「ゴッホ」「呂」

ゴッホ「これがこの男の日常。 これがこの男の意識の中。 この男はこうして夢の中で なにかを解放しようとしているのだよ」

呂  「これは『盗撮』では…」

ゴッホ「そういうもんだね」

呂  「犯罪では…」

ゴッホ「人は『知りたい』というものを欲情させているんだよ」

呂  「しかし…」

ゴッホ「この男の見ている夢はなんだろうな」

呂  「まさか、この人の意識の中まで『知りたい』なんて…」

ゴッホ「私はあんまり興味はないが…、でも、彼が…」

呂  「彼?」

ゴッホ「この街が…」

呂  「街?」

ゴッホ「この街はメディアシャワーの街。 『彼』にとってメディアは視聴覚の感覚器官」

呂  「メディア」

ゴッホ「メディアは『彼』の目/耳/鼻などのスパイなのだよ」

呂  「この街の人々はなんてひどいんだ。 なにも関係ない個人をスパイするなんて…」

ゴッホ「いや、この『街』自体が生命をもっているんだよ」

呂 「えっ?」

ゴッホ「この『街』は思考しているんだよ」

 「呂」退場。

 「スコア」再び騒ぎ始める。 お腹がふくれている。

スコア 「あーっ、でない、でない、原稿ができない。いい小説ができない」

●Re:(文字)「大丈夫。あなたならできる。あなたなら生めるわ」

 そのとき「スコア」は「卵」を産み落とす。 そしてその中から「原稿」が出てくる。

スコア 「これは…。 僕の考えていた『物語』。 こんな形で出てくるなんて…。 あーっ、なんてきもちいいんだ」

 暗 転。

 スクリーンの「スコア」の様子を見ている「ゴッホ」「レイ」。 その姿は博士とその助手といった雰囲気だ。

ゴッホ「あれが、彼の『エクスタシー』というう感覚だよ」

レ イ「はい、博士」

ゴッホ「彼はいま、偽の女子校生のテレクラメールに誘われて『意識』を『肉体』から解放し、エクスタシーを感じているのだよ」

レ イ「はい、見事な成果ですね」

ゴッホ「彼の日ごろのブログやつぶやきのデータが残っていたおかげだよ」

レ イ「『ネクスト・ツブヤッキー』ですか」

ゴッホ「我々が開発したそのソフトは 生前 彼/彼女らがつぶやいていた言葉やブログなどの言動をアプリが解析し、そして『次のつぶやき』を予測しことができる…というもの。 つまり将来 人がもうこの世に存在しなくとも ネット上などで話ができるということになるのだ。 今回はまだ生きている人を対象としたが、いずれは死んだ人とも同様のことができるようになるはず。 こうなると偉人でも可能かもれないしれない。 より多くの言葉や手紙、つぶやきを残した偉人などのデータで『ネクスト・ツブヤッキー』を使えば、坂本龍馬や徳川家康などと話ができたりするようになる」

レ イ「すごいですね」

ゴッホ「彼が話していた『マタハリ』なるものは 彼の次のつぶやくことを予測してつくられた『言葉』なのだ」

レ イ「じゃあ、彼はコンピュータと話していたのですか」

ゴッホ「いや、自分自身と話していたのだよ」

レ イ「自分自身?」

ゴッホ「コンピュータが作り出したとはいえ、そのデータの素は彼自身だかねぇ… つまり自分自身と対話をしていたのだよ…。 ところで彼の意識は…」

レ イ「デジタライズされました。すでに『クラウド』の中に…」

ゴッホ「そうか、『クモ』の中に入っていったか…」

レ イ「これから 彼の意識は クラウドシステムの中で デジタルされた続け、そしてその世界を本当の世界だと思って生きていくでしょう」

ゴッホ「そうか、きっと天国の気分だろうなぁ」

レ イ「もう、彼には肉体など必要ありません。意識がデジタル化され、この『サイバースペース』を本当の街(せかい)だと思って生きていきますから」

ゴッホ「この男の見る夢は『真夏の夜の夢』か…」

レ イ「それとも『狂気の夜の夢』」

 暗 転 。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?