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お願いDJ! 1



あいどるシリーズ 第二弾/ 【あらすじ】この物語のコンセプトは『出会い』です。 多くの人はいろいろな人との『出会い』で『人生』を変えてきているのです。そして、それは『出会い』によって『相手の人生』をも変えてきていることとも言えます。いい方向に行けば、悪い方向にいってしまう人もいる。それは『相手』の責任でもあり、自分の責任だとも言える。そんな不思議な『人との出会い』をこの物語は語りたいのです。  ある時『紺野晴弥』のもとに『寿 太郎』という男が現れる。彼は『紺野』に新製品ゲームのモニターになってくれと頼むのだった。それが『仮想体験ゲーム・ビバリュウム』だ。それは『現実感のある仮想』がみれるものだった。『紺野』はそこでもう一度『高校生』を体験することになるのだが、彼の観る世界は只の高校生活でなく、高杉晋作や伊藤俊輔などの幕末の志士が登場する世界なのだ。『寿』の話では、それは『紺野』の中にある意識がこの装置を使って『形』となって現れてものだと言うのだ。  一方『現実』の世界ではもうひとつの物語が進行していた。それは『如月くみこ』というスターの話だ。彼女は芸能界にデビューしてあっと言う間にスターになった娘だった。しかし、彼女はいつも『自分』というものを見つめていた。彼女は何か違うものをいつも感じている女の子だったのだ。それが何なのかを探しているのだった。 しかし、いつも『紺野』と『如月』には不思議な声が聞こえてきたり、人との出会いが、彼らを導いてくれている。まるでラジオのDJのように・・・



■登場人物■
1.紺野晴弥(こんのはれるや) _主人公/28 才・作家 18才・仮想の中の学生
2.如月くみこ_芸能界の『スター』
3.寿 太郎_情報とソフト開発会社の技術者 ※ユニセックスの未来人『レプリカント』
4.高杉晋作_仮想の中の幕末の志士
5.飛鳥 涼_芸能界の有名人気作家
6.マスター_仮想の中の紺野たちの行きつけの喫茶店の主人
7.沢渡敦子_仮想の中の女学生
8.中岡慎太郎_仮想の中の幕末の志士
9.伊藤俊輔_仮想の中の幕末の志士
10. 刺客_志士たちを狙う殺し屋

●不良A/B/C(予定/飛鳥・中岡・伊藤)
●ソウルメイト・ボイス《言魂たち》(SVで省略)   
       男A/B/C(予定/飛鳥・中岡・伊藤)
   女A/B/C(予定/死客・沢渡・寿)
●奇兵隊(少人数)/(予定/ 飛鳥・マスター・中岡・伊藤) 
●DJとリスナーの声(舞台のところどころラジオDJ番組が流れる予定)







第一幕/ お願いDJ
 


 

 暗闇の中スポットライトが中央を照らす。中央にはポストカードの束がある。それを見つける男「紺野晴弥(こんのはれるや)」ポストカードを拾う。

紺野「一〇年前にみた夢は今の夢とは違います。 一〇年後にみた夢は昔の夢とは違います。 今、万感の想いを込めて君に捧げる。 今、万感の想いを込めてあの頃の僕に… DJより」

 舞台は明るくなる。 そして、それまでシリアスだった「紺野」の顔が陽気になる。

紺野「うわぁー、なつかしいなぁ、このカード。 確か『ベリーカード』っていったよなぁ。 学生時代よく海外の短波ラジオ放送に手紙をだしてもらってたやつだよ。 この頃はアマチュア無線の免許をとったり、ミニFMラジオをやったりしていて、よく考えてみるとあの頃の俺って…『電波少年』だったんだぁ。」

 カードを見はじめる「紺野」 
                                       
紺野「うーん、どのカードにも懐かしさがこびりついているよ。 僕の部屋の奥に捨てられない宝物があったんだなぁ。 なんの変哲もないものだけれど。 古代の化石を発見したっていう感じだよ。 うん、何々「HAPPY BIRTHDAY TO YOU!」だって…。 うぉーっ、うおーっ、うおーーーっ(絶叫)なんてこった…凄い。 偶然自分の誕生日にこのカードを発見するとは、死んだその日が誕生日だった次に凄いことではないだろうか」

 「紺野」ゆっくり大きな声で読み上げる。


紺野「お誕生日おめでとう。 今日君が二八回目の誕生日を迎えられたことを心より祝福します…DJより。 えっ? どうしてだ。 これは一〇年前手紙のはず。 一八の間違いでは…」

 ラジオのチューニングの音が響き。「寿 太郎」が登場する。



                                 
寿 「ツー、ツー、こちらTHIS IS コトブキ. ディス イズ 寿。」
紺野「えっ? 」
寿 「こちらD.I.S.U.K.I.-216メガヘルツ.オメガトライブ。 只今VRのテスト中、只今VRのテスト中」
紺野「ツー、ツー、THIS IS HARERUYA KONNO.」
寿 「おーっ、通じた。 通じたぞ。 助かったんだ。 やったーっ。 ねむっちゃだめだ」
紺野「どうしたんですか? 何か事故でも」
寿 「いや、ただ新しい放送の試験をしていたのですよ」
紺野「オーバーな。なんか大変なことにでもであったのかと思いましたよ」
寿 「そうですよ。私にとっては大きな事件ですよ。古代の化石を発見したっていう感じですよ。」
紺野「どうしてですか」
寿 「詳しいことはそちらで話ますよ」

 いきなり「紺野」の前に現れる「寿」

紺野「うわーっ!」
寿 「こんにちわ。飛び出す説明書です」
紺野「うわーっ、 誰だ? 」
寿 「私はこういうものです」

 名刺を出す。 いかにもサラリーマン形式行事的、ぺこぺこ頭を下げて、世間話から話題を始めようとする。

紺野「ナビゲーション・ライフ株式会社『寿 太郎』」
寿 「えぇ」
紺野「何の会社ですか」
寿 「情報とソフト開発をサポートする会社です」
紺野「どうしてここへ」
寿 「今われわれが開発しているバーチャルリアリティ『ビバ・リュウム』のモニターにになってもらいたくてうかがったのですよ」
紺野「ビバ、リュウム」

 ブラジルのリオのカーニバルのような音楽がながれる。 のりまくる「寿」





寿 「ビバ、ビバーッ」

 音楽がやみ、沈黙するふたり。

寿 「えぇ、今コンピュータ業界では仮想の生態系をつくる実験をしているのですよ。 われわれの開発しているのはそれをゲームに応用したタイプのものなのです」
紺野「あの映画『トータル・リコール』みたいな…」
寿 「イグザクトリー。まさにあれと同じものですよ。もう少したったらみんなの目にも実物が見れると思いますよ。 まぁ、今は実用化に向けて実験中だから、秘密ですけど」
紺野「それだけ言えば秘密でも何でもないですよ」
寿 「以前我社はふたりの『ちがう人達』にモニターとなってもらいました。 そして、今回は『同じ人たち』を対象にモニターをとることにしたのですよ」
紺野「同じ人達?」
寿 「そう同じ人達に…。 まずは、ここに住所・氏名・年齢・職業を書いてください」

 「紺野」アンケートに記入する。
                                       
寿 「紺野晴弥さん、二八才、作家ですか」
紺野「えぇ、まぁ」
寿 「ではまずはあなたは十年前のあなたと対話する」
紺野「えっ?」
寿 「…と、いっても、現実には十年前にはいけない。 そこで君は『ビバ・リュウム』を使って、仮想の中で一八才の体験をしてもらうというわなのですよ」
紺野「そんなことができるのですか?」
寿 「仮想ですよ、決して現実ではありませんよ」
紺野「あのー、あぶなくないですか」
寿 「この中に出てくるものたちはプレイヤーに危害をくわえないようにプログラミングされています。 逆に悪人たちをたおしてヒーローにもなれるんですよ」
紺野「へーっ」
寿 「大丈夫です。 使用上の注意はちゃんと読んでいますから…」

 使用注意書を取り出し、読み、くしゃくしゃにする「寿」

寿 「このメディアは子供の手に届くところに置かないでください…」
紺野「まるで、薬だなぁ」
寿 「このメディアはインタラクティヴで、あなたの未来と対話する新しいメディアです」
紺野「インタラクティヴってなんですか」
寿 「相互対話。 つまり、こっちがいったことに反応がかえってくるっていうもの」
紺野「電話のようなもの」
寿 「う~ん、一応、理にかなってるが…、もっと進歩したもの」
紺野「テレビ電話に、自動車電話」
寿 「そう、通信が神経のように張りめぐらされるんだよ」
紺野「テレビ、キャプテンシステム、ケーブルテレビ」
寿 「う~ん、情報性はいいが、一方通行で、相互性ではないからなぁ」
紺野「映画…、ビデオ…、テレビゲーム」
寿 「よーし、もう一声」
紺野「えーい、おおまけにまけてインターネットだ」
寿 「よし、買った」

 八百屋の叩き売りのように駆け引きをするふたり。
                                        
紺野「ラジオは…」
寿 「ラジオ?アナログだぜ、今世紀一番古いもう化石化しているメディアで
すぜ。 いまはバーチャルリアリティの時代だぜ。 あんちゃんよ」
紺野「でも」
寿 「でも?」
紺野「DJはいるのかい?」
寿 「DJ…?(クラブDJのレコードをまわす真似をする)」

 それを見て首を横にふる「紺野」。(「寿」「紺野」退場。)

 ラジオのチューニングの音。 段々街の音へと変わっていく。 舞台は薄暗くなり、都会の街の映像か流れる。 交差点(車のクラクション/街のざわめき音)。 青信号をわたる人達の音。 ネオンや看板の(灯)が点滅する。 音と色と光で舞台を都会の雰囲気につくりだす。 舞台はフェンスのある路上風景。 ぼろぼろの服をきて、帽子を深々とかぶった女「如月くみこ」が腰掛けている。 彼女は煙草を吸い、ビールを飲んでいる。

SV(女)A「はーい、くみ」※ソウルメイト・ボイス《言魂たち》(以下SVで省略)

 「如月」軽くあいさつする。
                                        
如月「はーい」

SV(男)A「へい、くみこ」

如月「……( ただ手をふるだけ) 」

SV(女)B「くみちゃん、元気でやってる」
SV(男)B「今日のダンスは最高だったぜ」
SV(男)C「たまには俺とディスコで踊ってくれよ」
SV(女)C「私にも踊りおしえて…」
SV(男)A「今度、ベッドの上で教えて…ね」

如月「うるせーんだよ」

 びびるSV(男)C。 笑う他のSVたち。
                                        
SV(女)A「はははは…くみちゃんに声かけようなんざぁ、一〇年はええっていうもんだよ」





 路上で座っている「如月」に「飛鳥 涼」が写真を撮る。
                                       
如月「なんですか?」
飛鳥「うーん、君はいいねぁ」
如月「……」
飛鳥「わたし、こういうものです」
如月「プロデューサー・飛鳥 涼。 あぁ、あぁ、あの…」
飛鳥「そう、はっきりいって有名です」
如月「そんで? 」
飛鳥「へっ? 」
如月「そんで、その有名人があたしの写真とって、何かようなの?」
飛鳥「いやぁ、きみ、いい雰囲気をもってるよ」
如月「あんがと」
飛鳥「世の中、人が腐るほどいるけど。 その中で人を引きつける魅力をもっている人は、数限りない。 君にはそれがあると思うよ」
如月「そう」

 色っぽいポーズをとる「如月」
                                        
如月「あんがと。業界の人は口がうまいって聞いてたけどホンとね」
飛鳥「ぎくっ」
如月「何が目的なの?」
飛鳥「いきなり、ポイントをついてきた」
如月「有名な人がこんなむさ苦しい人間に声をかけるんだ。 何かねらいがあ
ると思っても不思議じゃないでしょ」
飛鳥「そうか、ばれたか。 実はこの以前偶然この界隈で君をみかけて、今度
のCMにいいんじゃないかと思ったんだ。」
如月「どんなCM」
飛鳥「それがさぁ。 (なれなれしくなる)エステサロンのコマーシャルで、女性の自然な美しさを出したいと考えているんだ。 それにはナチュラルな感じを受ける役の娘が必要とされているんだ。 まさに君がぴったり」
如月「あたし、演技なんてできないぜ」
飛鳥「ナチュラル、ナチュラル、自然のままでいいんだよ。 それにセリフもないし、ナレーションで後から入れるからその点も大丈夫」
如月「そうね。でもあたし…。 ここで誰かをまっていなくちゃいけあいと思っていたのよ」
飛鳥「そうだろう。それがきっとこのことだよ」
如月「なんでだよ」
飛鳥「この出会いも偶然ではないからだよ」
如月「偶然ではない?」
飛鳥「そうだよ。共時性だよ」
如月「共時性?」
飛鳥「そうさ、偶然おこりそうもないことが偶然おこる」
如月「…」
飛鳥「自分の行きたい方向に、念が強いほどその流れは起こっていく。 そし
て人々は導かれていくんだよ」
如月「…」
飛鳥「僕らの出会いは繋がっているんだ。人々はそれを縁とかいうけどね」
如月「…」
飛鳥「僕らの行動の中には神秘的なものが隠れてくるんだよ」
如月「…」
飛鳥「僕らの出会いの中には霊的なものが隠れているんだよ」
如月「…」
飛鳥「僕らの偶然の一致、それは自分の人生を導いていく繋がりであるんだよ」
如月「それがこの偶然…」
飛鳥「そうさ。きみにとっても、チャンスだと思うよ」
如月「ふーん、チャンスね!」
飛鳥「そうだよ」
如月「でも、ねぇ…」





 乗り気のしない「如月」。 しかし、彼女の前にヴジョンが見える。 それは彼女だけにしか見えないものらしかった。 彼女は遠くを見つめている。 そこに不思議な光と音を感じる(デジャ・ヴュ)を見る。 そしてその彼女の前に「紺野(の幻想)」が現れる。

如月「なに…」

 「紺野」は何か言っているが、聞こえない。

如月「何を言っているの」
紺野「(口ぱく)××××」
如月「あなたは誰?」
紺野「××××」
如月「何を言っているの。 聞こえない」
紺野「××××」
如月「大きな声でいってよ」
紺野「××××」
如月「あたしたちまだ…。 同じところにはいないのね」

 「紺野」は消えてようとする。

如月「約束よ。 あたしここで待っている。 この『約束の地』で…」

 「如月」ゆっくり小指をだす。 「紺野」ゆっくりと消えていく。 現実にもどる「如月」。 そこには「飛鳥」がいる。

如月「そうね。なんだか、そっちの方へいったほうがいいみたいな気がして
きたわ。 それにそっちの方があたしの待っているものに会えるようなきがするわ」
飛鳥「でしょ」

 「飛鳥」「如月」の顔を覗き込む。
                                       
如月「業界の人は口がうまいって聞いてたけどホントね」 
                                      
 ふたり退場する。

 暗 転。







第二幕/ 明日なき未来(ゆめ)



            
 ラジオが流れる。 音楽/リスナーのハガキをよみ,応えるDJの声。 疲れ切った学生服の「紺野」が喫茶店に入ってくる。 それを優しく迎える「マスター」

マスタ「おいおい、どうしたんだよ」 ※これ以降マスターをマスタと略す
紺野「こけちまって」
マスタ「ほんとか」
紺野「あぁ、バイクはお釈迦だぜ」
マスタ「またか」
紺野「あぁ、今度こそお釈迦だぜ」
マスタ「そういって毎回おまえのバイクは蘇るからなぁ」
紺野「こんどなおったらフェニックス号って呼ぶよ」
マスタ「今日はあれてるなぁ」
紺野「親父と喧嘩して、家を出てきた。家出っていうやつかな」
                                     
 「マスター」店のカレンダーに「正」の一本を引き完成させる。 そして「紺野」にコーヒーを出す 。
                                      
マスタ「おめでとう。百回目だ」
紺野「……」 
                                      
 間があく。 「マスター」は皿を拭き。 「紺野」は寝そべっている。 静かな時間が流れる。
                                        
マスタ「これから、どうするんだ」
紺野「さぁなぁ、プロでもなろうかなぁ」
マスタ「何の? 」
紺野「何かの」
                                        
 間があく。 皿を拭く「マスター」。 眠り込む「紺野」 
                                       
マスタ「おいおい、どうしちまったんだいい若い者が、ぐたーっとなって」
紺野「わからない。 なんだか気が抜けて、何もしたくないんだ。 それでもって無性にバイクでぶっ飛ばしたかったんだ」
マスタ「何いってんだ一八にもなって、仕事でもしろよ」
紺野「ふ………ん」
マスタ「なら、ここを手伝ってみるか」
紺野「あんまり、忙しくないから人件費の無駄だよ」
マスタ「ばか、忙しい時には猫の手だってかりたいんだ」
紺野「ふーん、まっそれもいいか」
マスタ「とにかく、このコップを拭いてくれ」 
                                       
 コップと布巾をわたすマスター。 コップをながめる「紺野」
                                        
紺野「俺の未来もこのコップみたいに透明だぜ(しゃれのつもり) 」
マスタ「壊れないようにな(しゃれのつもり) 」 




                                
 「紺野」手を滑らせる。

SE:パリーン(コップの割れる音)

紺野「あーっ、おれの未来が…」

 沈黙するふたり。

マスタ「もういい、寝てろ」

紺野「いやぁ、始めてマスターと意見があいましたなぁ」 
                                      
 素直に従う「紺野」。 皿を拭く「マスター」。 眠り込む「紺野」。 ラジオの放送から

SVA~C 「HAPPY BIRTHDAY TO YOU!」 
                                     
 ふっときがつく「紺野」。 まわりを見回す。
                                       
紺野「聞こえた」
マスタ「何が? 」
紺野「声だよ。声」
マスタ「何にも」
紺野「そう」

 「紺野」さめたコーヒーを飲む。 
                                       
SV(男)A~C「誕生日おめでとう モトサト」
SV(女)A~C「誕生日おめでとう モトサト」

紺野「ほら、まちがいないよ。 『誕生日おめでとう』ってよ」
マスタ「おまえ、今日誕生日なのか」
紺野「えっ、いや」

SV(男)A~C「一八歳の誕生日おめでとう」
SV(女)A~C「二八歳の誕生日おめでとう」

紺野「あっ、まただ」
マスタ「はいはい、夢でも見ていたんでしょ」
紺野「夢、こんなにはっきり聞こえたのに」
マスタ「夢だよ、夢」
紺野「ゆ・め」
マスタ「きみは夢をみたことはないのかね」
紺野「夢なんて、かなわないものだから、みないことにしているのさ」
マスタ「君にはやりたいことがないのかね」

SVA~C 「僕の夢に負けないでほしい」

紺野「えっ? 」

SVA~C 「僕の夢に負けないでほしい」

紺野「ゆ・め」

 あたりは暗くなり「紺野」ひとり、その場に立ち尽くす。 後ろの方からよろよろの学生「沢渡」が逃げてくる。
                                        
沢渡「助けてください」
紺野「えっ?」
沢渡「追われているんです」
紺野「誰に?」 
                                       
 その「沢渡」の後を追ってくる不良グループ。 木刀を持ち、上は学生服、下はジーパンだ。





不良A「やい、そこのやつ、そいつをよこせ」
沢渡「何? 」
不良B「そいつは、俺たちに眼を飛ばすんで、焼き入れてやるんだ」
沢渡「うそよ。君達は学校にジーパンなんかはいてくるから、いけないと
言っただけだよ」
不良A「そいつがよけいなお節介だというのさ」
紺野「なんか知らないけど。やばいような」
不良C「おとなしく、そいつを渡さないと」
紺野「たしか、ここでは、相手はユーザーに危害をくわえないといってた
なぁ」

 木刀を上段に構える「不良A」
                                        
紺野「はい、どうぞ」
                                     
 「沢渡」の後ろにまわる「紺野」

沢渡「そんな…」
紺野「口は災いのもと。 相手をみて行動するんだよ」                                      

 弱腰の「紺野」

沢渡「わかったわよ。女とおもってなめんなよ」 
                                      
 帽子を脱ぐと女性だと分かる。 それを見る男ども。
                                       
紺野「きみ、おんな?」
沢渡「そうよ」
不良C「まぶいスケだぜ」
不良A「こりゃ、木刀で傷をつけるのやめにして…」
不良B「俺たちとつきあうんだったら、ゆるしてやるぜ」
沢渡「だれが…」 
                                     
 不良たち「沢渡」に近づこうとする。 「紺野」今度は彼女の前に出てくる。 
                                       
紺野「やめろ! これ以上彼女に近づくな」
不良A「何! いたいめに会いたいのかよ」
不良C「女を傷つけるかわりに、こいつにこの鬱憤(うっぷん)をぶつけていいよなぁ」
                                      
 不良たち、木刀を構える。 そして、じりっ、じりっと近づく。

沢渡「いいよ。あんたには関係ないから」
紺野「俺に助けを求めてきて、それはないぜ。 乗りかかった船だ、付き合
うぜ」
沢渡「かっこつけんなよ」
高杉「まったーーーーーっ」

 舞台中央(又は客席から) 「高杉晋作」登場。




                                   
高杉「まったーっ」
                                    
 紺野たちと不良たちの間に入る「高杉」
                                      
高杉「拙者、長州高校・高杉晋作。この喧嘩にもの申す」
不良B「おう、あの松下村塾のあばれ牛」
不良C「この前の学園闘争でも先頭きって相手の大将を撃滅した」
不良A「こいつは、やばい」
                                       
 あとづさりする不良たち。
                                       
高杉「この喧嘩偶然。 向こうの客席から伺っていた。(客席に手をふる)
俺には何も関係ないことで、本来なら俺のくちだすことではないが…」
                                        
 鋭い刀を抜く「高杉」。 それと自分の持っている木刀を見比べる不良たち。

高杉「武器をもって女を襲おうなんていう奴らを見つけると無性に血が騒ぐんで…ね」

                                    
 「高杉」の眼光鋭く不良たちを睨む。

不良C「いやっ、ちがうんですよ。 これ孫の手ですよ」
                                    
 突然 木刀で背中をかく。

不良A「あぁ、かいいなぁ…」
不良B「ほんと、ほんと」
不良A「高杉さん、早とちりですよ。 僕ら善良な不良がそんなアホな真似
するはずないでしょが…」
高杉「そうか。 はははは、すまん、すまん」
不良ABC「あーっ、かいい、かいい」





 不良たち、木刀で背中をかきながら退場。
                                        
沢渡「うそよ」
高杉「まぁ、いいではないか。 戦わずして勝つ、これ兵法の最上の策」
沢渡「どうも、ありがとうございました」
高杉「いや、いや」
紺野「あのーっ?」
高杉「ン?」
紺野「あなたは、あの『高杉晋作』さんで…」
高杉「『あの』っていうぐらい有名か。 いやぁ、てれるなぁ、ははははは」
紺野「いや、そうではなくて…、どうして、ここにいるのかと」
高杉「偶然、歩いててなぁ。 ははははは…」
紺野「だめだ。話がかみ合わない」
沢渡「お噂は伺っています。世の中、受験戦争。校内暴力、学園紛争。 そしていじめなどと、殺伐としています。そんな時、あなたのような人がもっと多くいてくれたらと思っておりました」
高杉「君も気をつけてな」
沢渡「はい」

高杉「お前もしっかり彼女を守れよ」
                                     
 「紺野」の背中を力強くたたく。 むせる「紺野」
                                       
紺野「そんなんじゃ」
高杉「赤くなってら…」
                                     
 赤くなる「沢渡」
                                       
高杉「はははは…。 やっぱりおなごはそうでなけりゃ、可愛くないのおー。 ははは…、どうじゃ、ついでだ、いっしょに茶でも飲んでいかんか」
沢渡「はい」
                                      
 「高杉」「沢渡」退場。

紺野「うーん、さりげないナンパ。 あなどれない」

 「紺野」退場。 それと入れ替わって「如月」登場。 中央に立ち にこっと笑う。

如月「絶対、きれいになってやるんだから」
飛鳥「カーット」
                                       
 「飛鳥」メガホンをもって登場。
                                        
飛鳥「うん、いいよ、凄い。君は…。 ( ためて) すっごい」
如月「…」
飛鳥「あのCMが受けて君の人気はグングングングン。 この第二段でさらにグングングングン」
如月「別に興味はないよ」
飛鳥「なにをいってるんだ。 その人気なら君は『スター』、スターになれるんだぞ。 それに君には、女優の話や、歌の話まできているじゃないか」
如月「歌なんてうまくないよ」
飛鳥「大丈夫。多少旨くなくても、君の人気でカバーできるさ。 この業界そんなもんさ」
如月「へんなの」
飛鳥「君にはバンドをつけよう、ロックンローラーで売り出すんだ」
如月「めんどくさいなぁ。 グループ活動なんて」
飛鳥「ついこの間まで、渋谷・六本木をうろついていた女の子が一瞬にして業界のスターになる。 現代のシンデレラ。そしてプリティーウーマンだ。 ファンはそういう君に集まってくるのは間違いない」

 ひとり浮かれている「飛鳥」を尻目に「如月」はひとりになる。

如月「まいったなぁ。 ついOKして一回だけだと思っていたのに。 あっという間のできごと…、もうどうしようもないっていう感じ…」
                                       
 「如月」ポケットからポストカードを出して読みだす。
                                       
如月「最近、感動しないんです、わたし。 如月くみこより、DJへ」

 「如月」そのカードを破り、浮かれる「飛鳥」の前を素通りして退場。

 暗 転 。





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