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お願いDJ! 3

第五幕 LOVING GAME
             

 舞台は再び仮想世界の中。ラジオ放送が聞こえる。 喫茶店/「高杉」「伊藤俊輔」「中岡慎太郎」がいる。 「マスター」黙ってコップを拭く。

伊藤「高杉さん、そ、それは…」
中岡「えっ、ええええ、、、、まっまじい」
高杉「志士に二言はない」
伊藤「高杉さんも無謀ですね」
中岡「いや、以外といったほうがいいな」

 そこへ「紺野」が登場。異様な三人に気がつく。

紺野「マスター、なんですあれ…」
マスタ「いやぁ、さっきからあの三人なにやら悪巧みをしているらしいんだよ」
紺野「また、どこかと…」
マスタ「いまは、情勢がよくないから表だった行動にはでないそうだ。 あの中岡が裏で『朝廷』と画策しているらしいと聞いているけど」
紺野「中岡慎太郎。 あいつがか…」
高杉「おう、紺野くん」
紺野「ぎくっ」
高杉「きてたのか」
紺野「…(無視)」
高杉「どうしたんだよ」
紺野「あっ、この前はどうも…(軽い会釈)」
高杉「この前?」
紺野「檻の中のことですよ」
高杉「あぁ、あれ。 忘れてた」
紺野「なんと…、あなたという人は…」
高杉「それより、紺野君。友人を紹介しょう」
紺野「いきなり」
高杉「みんな、これが友人の紺野晴弥くんだ」
中岡/伊藤「よろしく」
高杉「紺野君、こいつらは中岡慎太郎と伊藤俊輔だ。」
紺野「よろしく」
中岡「どうです。紺野くん。 今大事な話をしているんです。仲間にはいりませんか」
紺野「えっ!なんか、またやばいことに巻き込まれるんじゃ」
中岡「そんなことないですよ」
伊藤「そうですよ」
高杉「かまへん、かまへん」
紺野「今度は何をたくらんでるんですか」
高杉「実は…」
紺野「フンフン…」
高杉「みんなで好きな娘を言い合っているんだ」
紺野「えーっ!!なんてこった。 まじめに何を話しているのかと思ったら…」
中岡「幕府転覆の計画でも話ていたとおもったかい」
紺野「えっ、、ええ」
伊藤「こんなおおっぴらなところじゃ、だめですよ」
紺野「しかし、信じられない。 純情なんですね。 みなさん」
高杉「ははははは、俺たちはいつも女のことを忘れたことはないぜ」
中岡「人間だれしも、異性に興味がないものはいないということ」
高杉「きみは真剣におなごに恋をしたことがあるか」
紺野「えっ、まぁ、一度や二度は…」
高杉「ほんとうに好きになったことがあるかい」
紺野「えぇ、えぇ…」
高杉「その娘に一言『好きだ』といったのかよ」
紺野「えぇ、それはもちろん」
高杉「じゃ、『愛してる』ってのは言ったことがあるのかよ」
紺野「えっ?」
高杉「『好きだ』と『愛してる』は似てるようで、ぜーんぜん違うからなぁ」
紺野「えっ、まぁ、愛なんて、めったにいう言葉じゃないですよ」
伊藤「『あとで…』の後だね」
紺野「えっ?」
伊藤「『あとで、話すよ』っていう言葉の後にあるだよね」
紺野「そんな」
高杉「まぁ、これも経験か」
中岡「高杉は、半端じゃないもんな」
高杉「おれは、ふたり、真剣になったことあるぜ」
伊藤「でも、こっぱみじんに粉砕されてしまったんだろ」
高杉「そのことは『あとではなすよ』」
伊藤「ほら、言った」

 おもわずしまったという顔をして口を押さえる「高杉」

伊藤「ところで紺野くん、いま、みんな一人一人自分の好きな娘の名をいっているんだ」
中岡「君は…」
紺野「えーっ、…はずかしいなぁ」
                                      
 もじもじする「紺野」
                                       
高杉「純情ぶるなよ」
紺野「僕の好きな人というか。 昔から気になる女性の名があるんですよ」
中岡「なんて名なんだ」
紺野「そのなまえは『くみこ』っていうんですよ」
伊藤「くみこ?」
紺野「何故だか知らないけど、小さい頃から頭の中にある名前なんですよ。 今まで、その名の女性と行き合ったことはないし、クラスにも心当たりはないし、でも小さい頃からあるものなんです」
中岡「それは、きっと、前世にでも逢った人じゃないのかい」
紺野「そうですか」
伊藤「それとも、まだ幼いときで忘れたけど、いっしょに遊んでいた女の子の名じゃないんですか」
紺野「うーん、そんな記憶はないが」
高杉「それは、それ、今は、今。 紺野君、そんなことでこの場を凌ごうとしてもだめだ」
紺野「そんなんじゃ」
高杉「おれは、知っている君の好きな娘」
紺野「誰です」
高杉「それは…」
中岡/伊藤「それは…」
高杉「沢渡敦子」
紺野「えぇ…」
高杉「ずぼしだろう」
紺野「いえ(きっぱり)」
高杉「えっ?」
紺野「別に…」
中岡「なーんだ、また、高杉の無謀な推理か」
高杉「そんな、はずはない、そんな」

 「高杉」ポケットからひものついた五円をだして「紺野」の前で揺らす。
                                        
高杉「きみは、沢渡を好きになる。 きみは、沢渡をすきになる…」
紺野「高杉さん、はずかしくないですか…」
高杉「ない」
紺野「でも、まぁ、いい娘ですよね」
高杉「そうだ、そうだ」
伊藤「か、か、かかってる、いやかかりはじめている」
中岡「しーっ、だまってろ俊輔」
高杉「かかれ、かかれ…」
                                        
 そこへ「沢渡」がやってくる。
                                       
高杉「あっ、沢渡だ」
                                    
 「沢渡」ひとりコーヒーを飲む。
                                       
中岡「どうやら、ひとりのようだな」
高杉「何を企む、しんちゃん」
中岡「どうだ、ここでゲームをしないか」
伊藤「何を…」
中岡「だれかが彼女に声をかけてナンパする」
紺野「だれがです…」
高杉「おもしろい」
中岡「じゃぁ、じゃんけんしよう」
                                      
 じゃんけんする4人。 「中岡」が負ける。
                                       
伊藤「だいたい、言い出しっぺが負けるんですよ」
中岡「くそーっ」
                                      
 「沢渡」のところに向かう「中岡」
                                       
中岡「あのーっ…」
沢渡「はい?」
中岡「あの…」
                                     
 「中岡」みんなのところに引き返す。
                                        
中岡「おーっ、い、い、言えないよ。 口から心臓がでてくるくらいドキドキだぜ」
紺野「がんばれ、自分でいいだしたんだろう」
伊藤「そうそう、ゲームですよ、ゲーム」
中岡「なんて、言えばいいんだろう」
高杉「まず、すわっていいですかなんて言葉で人間関係をつくる」
中岡「そうか」
                                     
 「中岡」再び、沢渡のところにいく。
                                       
中岡「あのー」
沢渡「はい?」
中岡「あのー…」
沢渡「なんです」
中岡「あのーっ」
沢渡「…」
中岡「やりたいんだ」
                                     
 「中岡」「沢渡」に抱きつこうとする。
                                       
高杉「あの馬鹿、前を飛び越して、いきなり確信からいきやがった」
                                     
 「中岡」をひきはなし「マスター」から片手だけ大きなボクシンググローブをつけてもらう「沢渡」。 それが「中岡」の顔にヒットする。 ふっとぶ「中岡」。無視して立ち去る「沢渡」





紺野「大丈夫ですかね」

伊藤「本能のまま行動しますからね」
高杉「どんな緻密なやつも感情に走ると失敗するといういい例だ」
紺野「高杉さん、あなたがいうとおかしいですね」
                                       
 起き上がる「中岡」

紺野「大丈夫ですか」
中岡「あっ、あぁ」
紺野「本当に?」
中岡「おれ…あの娘に惚れちゃったよ。 まじで…」
高杉「どうやら 催眠術にかかったのは中岡のようだな」
伊藤「えっ?」
高杉「恋の催眠術にだよ…はははは…」
伊藤「うまい!」
                                  
 「如月」登場。 「マスター」と話だす。
                                       
如月「ねぇ、わたし やめたい」 
                                      
 「マスター」「如月」を静かに見る。
                                        
如月「ねぇ、何かいって…」
マスタ「なぐさめて、どうなるもんじゃないと思う」
如月「だって…」
マスタ「いろんな人たちが、得られないチャンスを得ていて、贅沢だぜ。 おまえより、すごいやつはいっぱいいるんだぜ」
如月「夢見るほうがいいわね。 それになるまでずっと見つづけられる」
マスタ「かなわないやつもいる」
如月「夢って素敵な言葉ね」
マスタ「そして残酷な言葉でもある」
如月「からむわねぇ」
マスタ「きみの場合は、叶ってからの苦労なんだ。 夢は叶った時から夢じゃない。 現実になる。 そしてそれに真剣に取り組まなければならなくなる。 責任は大きいからね」
如月「わたしは夢見る乙女でいたいの」
マスタ「それはかってだけど、弁護士になるため、せっせと勉強して、合格して、そして3日目で死んだっていうやつもいるんだ。 その人にとって夢をかなえるまでが、その人の人生だったんだ。そんなのつまらんと思わないかい。 君は夢の中で生きているんじゃない、自分の人生の中で生きているんだ。」
如月「わかってるわよ、でも…あーっ、やめたい」
マスタ「勝手にやめたら…」
如月「やめたい、やめたい、やめたい…」
                                     
 涙が「如月」の頬を伝わる。
                                       
マスタ「おまえが仕舞い込んでいたものか」
如月「やめたい、やめたい、やめたい…」
マスタ「いいたくても、言えない言葉があってもいいじゃないか。 そして、それをいってもいいじゃないか」
如月「やめたい、やめたーーーーーー.い(大声) 」
マスタ「打ち止めか」
                                      
 首をたてにふる「如月」
                                   如月「あーっ、すっきりした」マスタ「そうらしいなぁ、おまえが人前でそういうのは珍しいからなぁ」

如月「ゲロ吐いたみたい」

マスタ「ふふふ。 いいやつだよ。 おまえ」

如月「あんたもよ」

マスタ「俺、おまえに似てるいいやつを知ってるぜ」

如月「だれ? 」

マスタ「紺野晴弥っていうんだ」

如月「ふーん」                                 マスタ「やつはこうなんていうか、本物をもっているんだなぁ」

如月「本物って…」

マスタ「そうだなぁ、魂の叫びっていうものかなぁ」

如月「魂?」

マスタ「じたばたもがきながらも、あいつの感性は研ぎ澄まされているよ。  ナイフのように」

如月「…」

マスタ「あいつは世の中に認められれば、間違いなく天才になるね」

如月「じゃ、ならなかったら…」

マスタ「単なる馬鹿だ」

如月「ふーん」


                                    
 「如月」おかしな顔をする。
                                        
マスタ「どうしたんだ? 」
如月「いや、なんだか…」
マスタ「そうか、どこかであったことあるのか」
如月「えっ、なんだか、知っているような…か・ん・じ…がしたの…」
マスタ「知ってるって…。 そうだなぁ。 あいつはよくこの辺にいるから、会っていても不思議ではないか」
如月「いや、そうでないの…、なんていうか。ピンってくる感じ。 なにか自分の中のキーワードのようなものにひっかかる感じがするのよ」
マスタ「変なこというな」
如月「マスターには経験がない。 道を歩いていて異常に道端の花が気になるの。 そのときは別にと思っていても、あとで花をもった人が自分にとって大事なメッセージを伝えに訪れたりするの」
マスタ「超能力か?なにかの予兆を感じる…というのか」
如月「そういう特別なものじゃないけれども… たしかにサインね。 どこからかのサインのようなものを感じるときがあるのよ。 それがなんなのかはわからないけれども、ただあとで『ああ、あのときサインがきていったのね』って思うの」

 「如月」ひとりになる。





如月「仮想現実体験。 バーチャルリアリティ。 それはま最近はやりのコンピュータの中の出来事だと思いますが、僕は東京という名の幻の中に生きているようです。 この空間こそ現実のようで幻では、そこで、誰かの夢を体験しているのです。 でも、それもいつかは消える。 幻の如く・・・DJへ」
                                     
 「如月」カードを破る。


如月「どこかへ行こう…」

 「如月」「マスター」退場。 「紺野」「寿」が立っている。

寿 「どうでした」
紺野「えっ、まぁ」
寿 「なにがあったんですか」
紺野「まぁ、初恋のことをおもいだしていたんです」
寿 「初恋?」
紺野「ばかげたゲームですよ」
寿 「ゲーム」
紺野「男が何人か集まって、好きな女の子の名前を言い合う」
寿 「名前?」
紺野「そして、ひとりづつその娘にアタックする」
寿 「それが『ゲーム』なんですか?」
紺野「いま考えれば…」
寿 「あのーっ」
紺野「なんです」
寿 「わたしも混ぜていただけませんか…そのゲームに…」
紺野「えっ?」
寿 「わたしも混ぜてほしいのです」
紺野「これは学生時代のこと。 それにこれは装置の中の出来事」
寿 「できるのです」
紺野「できる?」
寿 「あなたの『仮想』の中にわたしも体験できるのです」
紺野「えっ?」
寿 「もう一つのHMDをジャックインさせれば私の意識も貴方の意識の中にフリップさせられるのですよ」
紺野「そんなことが可能なので…」
寿 「わたしは直に見たいのです」
紺野「見たい?」
寿 「直に体験したいのです」
紺野「体験?」
寿 「もう、人の情報をただながめているだけで、ワクワクするのはいやなのです」
紺野「…」
寿 「恋することを怖がっているのはいやなのです」
紺野「そうですか」
                                       
 ふたり「HMD」をつける。 装置が作動する。
                                       
寿 「ははははははは」
紺野「どうしたんですか?」
寿 「眩しいんです。眩しいんですよ、これが仮想現実、仮想現実なのか、これがバーチャルリアリティなんだ。 これがバーチャルリアリティなんだ」
紺野「寿!」
寿 「この光をどこまでもいくと、君の中にいくんだぜ。 おーっ、とてつもなく広くてなんてでっかいんだ。 なんでもある。 なんて暖かいんだ。 どうだい、バーチャルリアリティを見にいかないかい。 バーチャルリアリティを…」

 仮想の中ひとり「紺野」がたたずむ。





 「飛鳥」「如月」登場。 ラジオがなりだす。

飛鳥「くみちゃん、OKだよ」
如月「まだよ。もう一回」
飛鳥「大丈夫だよ。 こっちでエコーかけるから」
如月「だめ、納得しない」
飛鳥「そう」
如月「うまいだけじゃ、だめなの…」
紺野「まだやってるのか(飛鳥に向かって) 」
如月「こんどは真剣よ。 ソロでやる一発目のやつだからね」
飛鳥「何かが見えてきたんだろ(紺野に向かって) 」
如月「ねぇ、晴弥には会ってきたってほんと」
飛鳥「あぁ」
如月「でっ、どうだった」
飛鳥「やつなら、心配ない。 あいつは本物をもっているから」
如月「めずらしい、彼をほめて…」
飛鳥「あんだけ、一生懸命な馬鹿もめずらしいなだけさ」

 「飛鳥」ゆっくり退場。

如月「はじめて出会った時は…最悪だった」
紺野「そうか」
如月「印象良かったと思ってるの?」
紺野「いやぁ」
如月「あなたは、わたしがいないとだらしないと思ったのよ」
紺野「ボランティアか?」
如月「そうよ」
                                     
 きっぱり言う「如月」。 顔を見合わせるふたり。 吹き出し、笑い会う。
                                       
如月「わたしたち、似合ってるわね」
紺野「そうだね」
                                        
 傘を出しあいあい傘のふたり。 ふたりの愛らしさを語るような、バラードとスローダンス。 ふたりはゆっくりと離れる「未来」のふたりは「現実」にもどるのだ。


紺野/ 如月(同時) 「この装置で、仮想の体に入った自分。 そして今僕(私) は本当の『ボディー』がないのを感じています。 我々はこの星で自分の殻が現れるのを待っていた。 それは数十万年、数億年…、そして、進化していった。 我々は、飛びたいと思えば、鉄の鳥をつくり、速く走りたいと思えば、鉄の馬をつくり、楽に泳ぎたいと思えば、鉄の魚などと、ある程度のものをこの世に作り出すことができました。 それは単なるつくりものでなく、何かインプットされたものをイメージという装置で現実化してきたのです。 そして今、我々はこの『現実』を現実化しようとしているのです。 真実の現実を。 本当の現実!(誰かに話しているように)本当の現実って…。 仮想だっていうんじゃ。 我々は自分がイメージして作りだしたものをただ体験するだけ。 崩れる、崩れる、僕(私)の知っている現実が崩れる。 この崩れるゆく『ボディー』に自分という人格がへばりついている」





紺野「僕の乗物は、竜を倒す騎士や、宇宙の侵略者と戦う戦士でもない。 ただの作家、二八才の作家さ!でも、ほんうとにそうなのだろうか。 他の自分が今の自分をどこかで体験しているだけかも、この『装置』を使って…」


 「如月」はまだレコーディングをしている 。
                                       
如月「見つけたい…わたしだけの音を…。 感じたい…私の魂の鼓動を…」                                


 暗 転。








第六幕 ソウル・メイツ
              

 

 「紺野」「マスター」登場。 ラジオはなっている(バラード・ミュージック)
                                       
マスタ「誕生日、おめでとう」
紺野「ありがとう」
マスタ「で、何才だ」
紺野「二八だ」
マスタ「もうおじさんだなぁ」
紺野「うるせえ」
マスタ「まぁ、このお子さんにもいろいろありましたが、無事めでたく二八才になりました」
紺野「いろいろあったな」
マスタ「今じゃ、なんでもこなす作家になりました…か」
紺野「十年か」
マスタ「なにが…」
紺野「夢を追って…」
マスタ「しぶとく、追ったな」
紺野「あぁ」
マスタ「そのエネルギーを少しは女の方にむけたらなぁ」
紺野「そんな余裕なんてなかったよ」
マスタ「おまえは、奥手なんだよ」
紺野「あの頃は、夢なんてなかった。 ただ生きているだけだった。 死んでるように生きていた。 その時、あの『声』が聞こえたんだ」
マスタ「声? 」





 「飛鳥」「寿」「高杉」「中岡」「伊藤」「沢渡」登場。 ふたりの後ろに立つ。


紺野「あぁ、『夢よ立ち上がれ』って、僕はそれを追いはじめた。 その時、僕は始めて、『生きはじめた』んだ」
沢渡「まるで、映画『フィールド・オブ・ドリームス』ね」
紺野「僕もあれ見たよ。あの時、同じだと思った。 そして、このままでいいって、力づけてもらったよ」
飛鳥「やめたくなかったか」
紺野「毎日」
寿 「じゃあ、なぜ?やめなかった」
紺野「泥沼さ。あと一歩、これを最後の一歩にするんだって思いながら、毎日をいたんだ。 多分、その一歩が出せなくなった時、自分は終わりだと感じていたけどね」
高杉「ずいぶん、苦労したんだね」
紺野「そうでもないさ。これが俺の生き方なのさ。 自分でも不器用だと思うよ。 こういう、生き方しかできないのだから、スリルあるぜ」
寿 「俺には真似できないね。 楽しく生きていくのがおれのルールだから…」
紺野「僕はいつも掟を破っていきたいっておもってるね」
                                        
 全員笑う。


中岡「一番印象に残った出来事は…」
紺野「二 、三年前にはアメリカにいったとき、迷子になったことかなぁ」
伊藤「迷子?どんな」
紺野「最悪のシチュエーションで、エージェントのミスで乗り継ぎの飛行機には乗り遅れたんだ。 もうそれからどうなるやら。 はたして日本に戻れるかなぁって思ったよ」
寿 「英語は…」
紺野「しゃべれないから、よけい最悪。 でも、たまたま、僕らの中に休暇をとっていたシチュワーデスの女性がいて助かったよ。 その後食事もできて、仲良くなったけどね」
寿 「…あっ、そう」
紺野「でも、今度はお金がなくなって…」
中岡「で、どうした」
紺野「歩いたよ、サンフランシスコの街を。 フロリダやニューヨークに言ったときも金がなくてぶらぶらしてたよ。 まっ、おもしろかったけどね」
飛鳥「おまえっていつもそんなんだなぁ。 金がなくてよく外国いけるよ」
紺野「何かをさがしてんだろう」
伊藤「何を…」
紺野「自分探しを…」
飛鳥「自分探し…。 最近はやってるなぁ」
紺野「自分が嫌いだんたんだ。 だから好きな自分を探していたんだと思う」
沢渡「そうか」
紺野「でも、それも終わりだ。 僕は今ここにいる。好きとか嫌いではなく。 ただ自分はこれでいいと思うんだ。 今から自分を応援しようと思うよ。 自分のファンになるんだ」
伊藤「そいつはいい」
紺野「これからは自分の宝物を大切にするよ」
寿 「宝物?」
紺野「僕は親に反抗して家をでたんだ。 そして、いつも親を越えてやると思っていた。 でも、いろんな事があり、やっとこの歳になって、彼らの気持ちが分かってきたよ」
中岡「気持ち」
紺野「僕の親は金持ちじゃないけど、いつも僕のそばにいてくれた。 いつも…、俺はあまりその事に気がつかなかったよ。 家族の絆を…」
飛鳥「家族」
紺野「自分を未来に導いてくれる家族ってありがたいって思ってたよ」
伊藤「そうか」

 「紺野」はこの「亡霊達」にではなく「マスター」に話をしているのだ。 「マスター」黙って「紺野」の話を聞いている。

紺野「僕のこれからの作家としてテーマは変革つまり『イノベーション』を追っていこうと思うんだ」
寿 「イノベーション?」
紺野「そう、意識革命というのかなぁ、ここ数年いろんな人との繋がりでなんだか大きな変革がおきるような気がしてきたんだ」
飛鳥「えーっ、それは戦争か」
紺野「いや、そうじゃないような気がする。 それは人の意識の中のものさ」
伊藤「意識の中…」
紺野「でも、それは小さいものでもある。誰もが知っているものかもしれない」
沢渡「どういうこと?」
紺野「ある人が言っていた言葉を使うとね。 『世の中を変えようとすることが変革でなく、自分が常に何かに挑戦することが変革なんだ』と。 そうさ、それはその人だけでなく自分にも言えることだとその時思ったよ。」
高杉「今まで社会が便利さや合理的なシステムでできあがってしまった。 それはそれで、よかったと思うよ。 この僕らの豊かさはそのお蔭で成り立っているし、多くの人が身を犠牲にして未来に貢献してくれた。 僕らはひとつの『幸福の型』を手に入れることができた」
紺野「でも、その手にした『幸福』のおかしさに気がつきはじめた人が、出始めたんだと思うよ」
中岡「多くの状況が止まった水の中にいたんだ。 その水が腐り始めたことを知っていながら、『システムの流れ』に安住するあり方を選んだ。 中には挑戦的な人もいたけどね」
伊藤「でも、その水も流れようとしている。しかもその行く先はまだ誰も知らない」
飛鳥「誰もが闇の中に生きようとしている。 いや、もともとこの世の中は闇だったのかもしれない、輝かしい幻想の光を真実の世界だと思い込んでいたのかもしれない」
沢渡「誰もが新しい領域に踏み出そうとしているんだわ」
寿 「ひとりひとりがチャレンジに生きていく時代。 自分自身の革命をおこしていく時代(とき)」
紺野「そんな人々が多く出始めている」
中岡/伊藤「だから、意識の変革がおきると…」
紺野「そうだ。 僕らの次にやることは多くの人々が創りだしてくれたこの物質的な豊かさから意識的な豊かさを創りだすことだはと思うよ」
寿 「それは…ひとりじゃできないよ」
紺野「僕はそれを追って、この目で見、体験し、それを作品にしていくんだ。 より多くの人々の『目覚め』にインパクトを与えるために…」
高杉「革命だ。 革命だ」
寿 「あぁいう風にはならないように…」
高杉「暴力だけでは解決しない、そんなの子供の喧嘩、気の小さいやつらのすることさ。 もっと大きく考えろよ、世界はこんなに大きいんだぜ。 見ろ『世界の夜明けは近い』ぞ」
寿 「それじゃ、坂本竜馬のパクリだぜ」
高杉「ついでに、この前ファミコンのやりすぎで自分の夜も開けてしまったよ。 雀がちゅんちゅん鳴いていたよ」

 全員爆笑。

紺野「ここまでいろいろあったよ。 人と人との出会いの中で俺はいろいろな事を学んだ」
沢渡「どんなことを?」
紺野「『出会い』さ。 人と人との出会いは『ビリヤード』のようなものだなぁって」
伊藤「ビリヤード?」
紺野「そう、多くの人との慈愛が僕の人生を変えてきたんだ。 そして僕との『出会い』で相手の人生も変わっていく。 それは『ビリヤード』に似ていると思わないかい」
飛鳥「『共時性』だよな。 それは…」
紺野「共時性?」
飛鳥「偶然おこりそうもない『偶然』がおこることさ」
紺野「…」
飛鳥「僕らの『出会い』は繋がっているんだ。 人々はそれを縁というけどね」
紺野「それが僕らを導いてくれるのか」
寿 「いい方に行けばいいけど…」
高杉「悪い方にいっちまうのもいる」
沢渡「それも、その世の常ね」
中岡「しかし中にはこんな『アメリカン・クラッカー』なのもいるぜ」
紺野「クラッカー?」

 「中岡」アメリカン・クラッカーを出し、遊びだす。 紐は「紅」だ。





中岡「一本の紐に結ばれ、ついたり離れたりする」
沢渡「紐は『紅い糸』ね」
伊藤「互いにひかれあい、そしてぶつかり合う関係」

 「中岡」アメリカン・クラッカーを強く鳴らす。

中岡「よく、最初はお互いの印象が悪いから、ぶつかりあったりする…が、じつは深いところではつながっている」

 「中岡」さらにクラッカーを激しく音を鳴らす。

沢渡「いい音ね。こう…魂に響くっていうか。 魂のぶつかるごとに互いに進化をしていく感じがするね」
飛鳥「そしてひとつになる」
沢渡「だめ、ひとつになっちゃ」
寿 「どうして?」
沢渡「二つの人格と二つのエゴがひとつになると、喧嘩になってしまうから。 お互いが相手を支配しようとするから…」
中岡「だから、これでいいんだよ。 ひとつひとつが丸のまんまで…」
高杉「互いにひかれあい、そしてぶつかり合う関係」
飛鳥「ぶつかり合うごとに互いを成長させていく感じがする」
伊藤「いつか、波長があったら…」
紺野「いつか、波長があったら…」
沢渡「出会えると思うよ。 『約束の地』で…」
紺野「約束の地?」
中岡「そう、それが君に伝える『メッセージ』なのさ」
紺野「ありがとう。 俺は今多くの宝物をもっているのに気がついたよ」
寿 「そう」
紺野「マスター『ありがとう』」
マスタ「何が…」
紺野「その事に気づかせていくれて…」
マスタ「てれるなぁ」
紺野「あなたは最高のDJさ」
全員「ありがとう」
                                       
 「紺野」ポケットからポストカードを出す。

紺野「私は不器用だとおもう。 こういう生き方しかできないから。 それはいいことなのか悪いことなのかわからない。 ただ、生活するだけに生きたくない。 ただ、死んでるように生きたくない。 生かされているんじゃなく、生きるんだ。 自分の足で立っていたい…KUMIKOより」
                                     
 「紺野」の後ろに「如月」が座っている。 最初のシーンのようにぼろぼろの服だ。

如月「あなたは、人を愛したことがありますか」

 暗転。
 大砲の音。 銃声音が鳴り響く。 舞台は刺客が志士を暗殺していく(殺陣・ダンス)「中岡」「伊藤」が逃げていく。

伊藤「中岡さん、ここはもうだめです」
中岡「そうか」
伊藤「我々は外国に破れ、幕府軍もいままさにここへ侵攻しつつあります」
中岡「きみはどうする」
伊藤「わたしも脱出します」
中岡「では、また、生きていたら…」
伊藤「生きていたら…」
                                       
 ふたり脱出をする。





そこへ「紺野」「寿」が登場する。
                                       
寿 「なんかへんですね」
紺野「なんかへんですね」
寿 「あなたのモニターあてになりませんね。金返せ」
紺野「そんなことはない、前はもっと…」

 「寿」調査装置(ポケットラジオのような型)をとりだす。

寿 「う~ん」
紺野「どうしたんで…」
寿 「これは…?」
紺野「なんだ?」
寿 「イノベーションだ」
紺野「変革?」
寿 「時代が変わろうとしている」
紺野「時代」
寿 「きみの中に何かが変わりつつある」
紺野「なぜ?」

 ふたりみつめあい。 首をかしげる「寿」

寿 「何かが生まれようとしている。 彼の中で何かが…。 しかし、変な界だなぁ」
紺野「大きなおせわだ」
寿 「幕末と学生時代がごっちゃになっているなんて…」
紺野「すさんでいたんだ」
寿 「…」
紺野「こんな年でこんなことをいうのはおかしいかもしれないけど、最近になってユーミンが好きになったりして…」
寿 「…」
紺野「なんでって!人を好きになることを覚えたからだよ。 それまでユーミンの曲なんてなんとも思っていなかったから…」

 「刺客」登場。
                                       
紺野「だれだ」
刺客「…」
紺野「怪しいやつ」
刺客「…」
寿 「大丈夫。 ここでは安全システムが作動している。 彼らは我々にはかなわないはず」
                                     
 「寿」「刺客」の前に立ちはだかる。

寿 「さぁ、来い」
                                    
 涼しい顔をしている「寿」。 斬りつける「刺客」。 「刺客」の剣が「寿」を斬る。

寿 「うわーっ、そ、そんな…」
紺野「寿ーっ」
寿 「そんな、ば・か・なぁ」
                                     
 その場に倒れる「寿」。 「刺客」次は「紺野」を狙い斬りつけようとした瞬間、銃声が鳴り響き「刺客」は倒れこむ。 盛大な音楽が鳴り響き「高杉」登場。
                                       
高杉「高杉晋作 WITH 奇兵隊参上」
紺野「高杉さん」
高杉「紺野くん、大丈夫ですか」
紺野「えぇ、私はでも…」
高杉「また、勇士がひとり…」
寿 「うぅぅぅ…」
紺野「寿…」
寿 「紺野さん」
紺野「寿!」
寿 「おれ、もう、だめだ(声は弱弱しく)」
紺野「そ、そんなことは…」
寿 「気休めはやめてくれ…」
紺野「…」
高杉「寿君といったね。君の死は我々が受け継ごう。 我々志士の中で君の名は永遠に語り継がれよう」
寿 「…ありがとう」
紺野「寿さん」
寿 「いいんだ、紺野さん。 クリエイターは命を惜しまないが、名を惜しむ。 それは武士の魂と同じかも。自分の命でなく名を惜しむんだよ。 それは自分の誇りと、権利を重んじるということ。 だから、そのためには戦いもじさない」





                                  
 「寿」幻想か、妄想にとらわれたように…。
                                     
寿 「ちがう、この企画はおれのものじゃない。 おれのじゃ…。 もし、このままいくなら俺をテロップから外してくれーっ。 彼の世界からアウトさせてくれー」
紺野「もう、いいしゃべるな、寿」
                                    
 「寿」ぐったりなり、そして落ちつく。
                                       
寿 「うん、確かにおれのものさ。 俺が作ったもの、そしてプロは名を残す。 命は尽きるけど、名前は残る。 名前は生きつづけるんだ……。 永遠に… 」
                                    
 「寿」絶命。

紺野「寿ーーー.っ」
                                   
 「寿」いきなり起きる。
                                       
寿 「こんど生まれ変わる時はかっこいいDJになりたいよ…」

 「寿」再び絶命する。 「高杉」刀で「寿」をつんつんする。

紺野「それはあっという間の出来事でした。 彼は僕の親友でした。 彼の死を知らされたのは、彼が死んで何ヵ月もたってのことでした。 それはあまりのことで、ショックというものを通り越して出てきた言葉が…『何故』という言葉でした。 涙や怒りのかわりにこの『何故』彼が死ななけばならなかったという言葉が…」

 「寿」を抱いて泣き叫ぶ「紺野」。 そこへ「高杉」が…。
                                       
高杉「紺野くん、俺たちは多くの同志の屍を越えてきた。 今は別れを気にしている暇はない。 彼らの志を受け取り、前に進むだけなんだ」
紺野「高杉さん、それじゃ、彼らがかわいそうじゃ」
高杉「紺野くん、かわいそうというのは相手に失礼なことだとは思わないかね」
紺野「失礼」
高杉「それは、もうすでに、相手を弱いものだと軽蔑している言葉」
紺野「そんなんじゃ」
高杉「この世の中みんな平等、強いも弱いもない。 ただ自然界は強いものと弱いものをバランスよく生み出しているのだ。 強いものは弱いものから生かされ、弱いものは強いものから守られている。 ライオンとシマウマのおもしろい話がある。 シマウマは弱い動物だから、他の動物から身をまもるため、強いライオンを養っているというのだ。 つまり、シマウマたちにとって彼らはボディーガードなのさ。 そして、それら生命にあてはまることはただ一つ…『生きる』こと。 利己的な遺伝子たちは生きつづけるものだけを進化しつづけるのだよ」





紺野「高杉さん、あなた…」
高杉「いつまでもすねている暇はないんだ。 なぁ、寿君。彼らは彼ら僕らは僕らで行こう」

 「寿」が起き上がる。

紺野「あっ? 」
寿 「この社会もその自然界にあてはまる。 それは金だ。 それは人間を強い/弱いに区別するもの。 それは生き残りをかけて戦う権利の欲をあたえるもの。 自然界は人間に金というものを与えることで生命の生態系を作り出してきたのだ」
紺野「寿」
寿 「それは『生きつづける』こと。 この生態系の中で生き残ることを我々は認識した。 そして、ここで僕は生命の力を感じた。生のエネルギー。 命の尊さを…」
高杉「生命の基本のようなもの。 母ダコが子供たちを生んですぐ死んでしまう何のために、この母は生まれてきたのか、わからんと思うだろう。 しかし、この母は確かに次を作ったのだよ。 伝えたのだよ『生命』というものを…。 その『生命』を尊敬する心こそ彼らから伝えられ、そして未来に伝えていく物語。 そこに意味など存在しない。 何故ならそれが生きとし生けるものすべてに通じるコミュニケーションだからだ。 俺たちは、ただそれを次の人々に伝えるだけに生まれてきたのかも」





寿「…だから 自分でその命を絶つことは 生命の尊さを失っている」
紺野「寿」
高杉「…だから、他の生命をいじめたりするやつは 生命を尊厳を馬鹿にしている。 そういうやつはいずれ必ず。 生命からのしっぺ返しをうけるはずだ」
紺野「高杉さん」
寿 「たぶん、行き先はおまえたちと同じだ。俺の命なんておしくない。 死ぬときは皆いっしょさ」
紺野「何をいっているんだ」
高杉「どこでかけても命は一つ」
寿 「高杉さん、相手は手ごわいですぜ」
高杉「生まれた時から死ぬ覚悟で生きてきた」
寿 「いよいよおおずめですね、僕たちが『本物』になる時がきた」
高杉「あぁ」

 「高杉」「寿」立ち去ろうとする。
                                     
紺野「寿」
                                      
 ふりかえり「紺野」を見る「寿」

紺野「大丈夫なのか?」
寿 「あぁ、生命が生きろと言っているのか。 運命が戦えといっているのか。 ただ…」
紺野「ただ? 」
寿 「おれは、死んでからきみに生まれ変わったんだよ」
紺野「えっ?」
寿 「僕は寿太郎じゃない、君自信の命が作りだした…あ・い・ど・る」
紺野「あ・い・ど・る…」
寿 「君に中にいる、インナーチャイルド」
紺野「インナーチャイルド?」
寿 「きみ自身の潜在意識の…キ・オ・クの『アバター』だよ」
紺野「アバター?」
寿 「いや もしかしたら きみの方がそのアバターなのかもなぁ…」
                                      
 薄く微笑む「寿」

 暗 転。



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