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お願いDJ! 2

第三幕/デジャ・ヴュ



 舞台は再び現実へ。 「紺野」と「寿」が登場。 「紺野」は頭に「HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)」を装着している。


寿 「どうです。 ジャックインして、ランかけて、アイスにインターしたの
は…?」
紺野「はっ?なんです? 」
寿 「あっ、どうも、専門用語が多すぎましたね」
紺野「わかんないよ」
寿 「ストレートにいうと『どうです、気分は…』」
紺野「わーっ、とってもわかりやすい」
寿 「ちゃかさないで、モニターしてくださいよ」
紺野「そうですね、学生時代を本当にまた体験しているような気がしましたよ」
寿 「ほう、そうですか、ふんふん、それで」
紺野「本当にこれがゲームなのかと思えますね」
寿 「心配しないでください。 これは間違いなくゲームです。 あなたは仮想の中で体験しているだけなのですから。 でっ、どうでした」
紺野「そうですね。女の子が不良に追われていたんです」
寿 「うんうん」
紺野「それを助けようとしたんです」
寿 「ここではヒーローになれるんですよ。 そういう体験ゲームなんですよ」
紺野「ただ…」
寿 「ただ?」
紺野「しいていえば…。 高杉晋作が出てきたということが…」
寿 「たかすぎしんさく?それはあの幕末に活躍した歴史的人物の?」
紺野「そう」
寿 「うーん、プログラミングがおかしいのかなぁ」
紺野「そして、彼が助けてくれたんです」
寿 「うーん、それは凄い」
紺野「どうして彼は現れたのでしょうか?」
寿 「普通ではないということですね、この世界は…」
紺野「なんでもありーのですか」
寿 「それは、『あいどる』ですね」
紺野「あいどる? 」
寿 「あっ、また専門用語を使ってしまいました。 つまり、それは偶像的、崇拝的なあなたの求めている象徴として現れたのだと思います」
紺野「僕の中にあるものがこのシステムの中で現実化されたとでも、なんかおかしいなぁ」
寿 「いや、そうですよ。 多分あなたのヒーロー像やそんなものがここで『高杉晋作』という形で現れたのですよ、きっと…」 



                                     
 「寿」再び「HMD」を「紺野」にセットする。
                                       
寿 「とにかく、まだ続けてください」
紺野「えーっ、まだ続けるんですか」
寿 「そうですよ。 チャネリング、チャネリング。 周波数チャンネルを合わせて…」
紺野「どこまでやるんですか」
寿 「それは…」 
                                      
 舞台は段々暗くなりファッションショーが始まる。 その中に「如月」もいる。彼女の登場にシャッター音は鳴りやまず。 フラッシュは激しさを増す。 「飛鳥」登場。 
                                       
飛鳥「うーん、思ったとおりだ。 あっと言う間に彼女は業界トップになっちまった。凄い。 しかし、もっと驚くことは彼女にはその認識がないということだ。私は今までいろんなタレントを見てきた。 それはどれもある程度有名になりたいとか、メジャーなところで目立ったことをやりたいという欲をもっているものだ。 しかし、彼女にはそれが感じられない。 なんか彼女はもっと先を見ている感じがする。 自然体っていう奴かな」


SV(女)A「はい、如月さん。 どうもありがとうございました。」

如月「おつかれさま」
                                      
 おつかれさまの声(SV.A~C)が響く。 「如月」の後ろに「飛鳥」が立っている。
                                       
飛鳥「いやぁ、よかったですよ如月ちゃん」
如月「そう」
                                      
 そのまま無視して去ろうとする「如月」。 呼び止める「飛鳥」
                                       
飛鳥「き、き、きさらぎちゃん、それがだけ…」
如月「ごめん。 次の仕事があってかまってられないの。 悪い。 じゃあ」
                                      
 あっさり行ってしまう「如月」

飛鳥「二四時間体制。  三六五日休みは一日だけ。 まるでキャリアウーマンの鏡のような娘だ」
                                      
 「飛鳥」退場。





 ラジオが流れるDJはリスナーのハガキをよんで、応えている。 「マスター」登場。 そしてマスターの店に「如月」が入ってくる 。
                                       
マスタ「おう、くみこ」
如月「あいかわらず、学生の頃とかわんないね」
マスタ「いまでも、おまえに似て、学校さぼってくる学生でいっぱいだよ」
如月「なんだか、ここだけ時間が止まっているみたい」
マスタ「出世したなぁ、おまえ」
如月「そうかしら」
マスタ「かわらないなぁ」
如月「そうかしら」
マスタ「…」
如月「…」
マスタ「あぁ、おまえも歌だしたら流してやるよ」
如月「わたしのはここで使えるのじゃないわよ」
マスタ「ふふふ…」
如月「…」
マスタ「…」
如月「ねぇ。」
マスタ「なんだい」
如月「マスターの夢は何?」
マスタ「へっ?」
如月「夢よ?」
マスタ「夢か。そういえばそんなものもあったなぁ。 夢をみていたころが…」
如月「もうかなえちゃったのかなぁ。 今の仕事がそうなのかなぁ」
マスタ「確かにこれもそうだけど…」
如月「だけど?」
マスタ「自由じゃないな」
如月「……」
マスタ「おまえにはあるのかよ」
如月「わたしにはあるわよ」
マスタ「なんだよ?」
如月「言わない」
マスタ「なんでだよ?」
如月「だって、言ってしまうとかなわないかもしれないから」
マスタ「じゃぁ、聞くなよ」
如月「わたしの夢、それは…な・い・し・ょ」
マスタ「でも、俺にはわかってたよ」
如月「なにが…」
マスタ「おまえはズーット向こうを見ているやつだって」
如月「…」
マスタ「俺にはわかってたお前の苦しみが…」
如月「苦しみ」
マスタ「おまえの苦しみは天才というのではなく。 誰よりも愛するがゆえのものだろうよ。 真剣に取り組んでいるから落ち込むこともあるだろうよ。 お前と同じくらい自分の限界ぎりぎりまで取り組むやつはそうはいないさ。 お前はその先にあるものをちゃんと見つめつづけている情熱をもった娘さ」
如月「私はチャランポランなだけよ」
マスタ「おまえは真剣さ。自分に気がつけ」
                  

                   


 「如月」ひとりになり、ポケットからポストカードをだす 。
                                       
如月「もう、精神の限界をはるかに越えているようだ。 思ったほど、夢を追うのも甘くない。 もしかしたら、僕の夢は叶わないかもしれない、なんてそう思えてきた、DJへ」
                                      
 その時、再び声が…
                                        
SV(男)A「だめだ」
SV(女)A「希望を捨てちゃだめ」
SV(男)B「まだまだだよ」
SV(女)A「まだ、いけるよ」
SV(男)C「情熱をもって」

如月「情熱を…」

SV(男)A~C「夢よ立ち上がれ」
SV(女)A~C「夢よ立ち上がれ」

如月「夢よ立ち上がれ?」

 「如月」退場。





 坊主姿の「高杉」登場。 「紺野」は加護の中で登場。
                                        
紺野「えっ、どうしたんだ。 ここは…」
高杉「西へいく人を慕うて東行く。 我が心をば神や知るらん」
紺野「あっ、高杉さん」
高杉「私は高杉ではない、その名はもう捨てた。 私は『東行』と名を変えたのだ」
紺野「とうぎゅう?」
高杉「わたしは人間に絶望したんだ」
紺野「えっ?」
高杉「この馬鹿馬鹿しい人間の為に働くのが馬鹿馬鹿しくなったんだよ」
紺野「どういうことです」
高杉「昔、わたしには『吉田松陰』という偉い恩師がいました。その先生のお陰でわたしの眼は開け、それから生きる道を教えられたように思えます。 世界や国のあり方を導いてもらい、僕らがどう生きるかを教えてくれました。 でも、今の『幕府』のあり方はどうか、ただいいところにいって、いい役職につくだけの勉強をおしえ、本当の自由な生き方を教えていない。 そんな人間が次の世の中を作ろうとしているのだから…」
紺野「そんなことで絶望だなんて…」
高杉「君は、犬を殺す子供たちを見たことはあるかね」
紺野「いいえ」
高杉「わたしはあるのだよ。五 ~六人の子供が犬に向かって石を投げつけ、いたぶっている光景を…。 子供たちは笑いながら、その犬を『いじめ』ていた。 それは恐ろしい光景だったよ」
紺野「……」
高杉「それは数年前、多分その子たちも今では成人しているだろう。 もしかしたら、その中の何人かはもうすでに親になっているかも。 その親が果して自分の子供に何を伝えているのか…」
紺野「高杉さん、いや、東行さん、それで絶望するのは間違いですよ」
高杉「そうか」
紺野「そうですよ。 ある偉人の人がこんなことを言ってましたよ。 『痛みの分だけ人に優しく、自分が受けた痛みを人にぶつけるのではなく、他の人がその痛みで苦しまないように今度は手助けをするのだ』と。 東行さんあなたの受けたその痛み、その痛みで苦しんでいる人は他にもいます。 今その痛みであなたのような人が絶望すれば、誰がその痛みをみれる人がいるでしょうか」
高杉「そうか」
紺野「あなたは人の意見をいれないときでも、決してその意見を無視はしない人だと聞きました」
高杉「松陰先生もそういっていたなぁ」
紺野「そうですよ」
高杉「この世の中、なんでもかんでも計算どおりっていうことではなく、全ては天によって皆に平等である。 それが天命にかなっていれば、必ず成功する。 成功しなければそれは天に見捨てられたこと、天を恨まずただ死するのみ。 うん、そうだなぁ、君のいうとおりだ。 ありがとう、迷いが解けたよ」
紺野「よかった」
高杉「そうとわかれば…」
紺野「どこへ…」
高杉「おんな遊びだ。しのぶちゃーーーーーん」

 「高杉」退場。





 その向こうからキャバレーのアナウンスが聞こえてくる。

SV(男)C「しのぶちゃん、しのぶちゃん、三 番テーブルご指名。 三 番テーブルご指名です」
SV(女)A「あーら、たーさん、まってたわよ」

 ひとり加護に残る「紺野」
                                      
紺野「この生臭坊主。破滅しろーっ。 くそーっ俺をおいて遊びにいきやがって…。 ところで、どうして俺はここにいるのだ。 う~ん、時々意識がなくなるような感じがする。 まるで、その間、違う所にいるような、そんな感じが…」

 「紺野」の加護に近づく影あり、それは「沢渡敦子」だった。

沢渡「紺野さん」
紺野「あっ、敦子さん」
沢渡「大丈夫ですか」
紺野「大丈夫ですよ」
沢渡「よかった…」
                                      
 ふところからおにぎりを包んだ包みを出す。
                                        
沢渡「はい、おにぎり」
紺野「ありがとう」
沢渡「それを食べて元気になってね」
紺野「えっ?、助けてくれないのですか?」
沢渡「ええ、今、外はあれほうだいなのです。 学内は殺伐としています。特に禁門の変で薩摩と会津が、長州と激突し、敗北して以来、幕府の追撃が後を立ちません。 多くの仲間が命を落としました。 今はこの牢の中の方がかえって安全だと思います。 どうかしばらく時期がくるまで、がまんしてください」
紺野「そうなんですか」
沢渡「では…」
紺野「まって、あなたは…」
                                     
 「沢渡」にこりと「紺野」に微笑み退場。
                                        
紺野「くそーっ、出せ、出せーっ。 彼女が命をかけて戦おうとしているのに…。 俺は命がけで守ることができないのか…」

 「紺野」退場。 「高杉」ゆっくり歩いて登場(ただし顔中女性の口紅だらけだが…)。 その前をふさぐ「刺客」

刺客「高杉晋作どのとお見受けいたす」
高杉「いや、わしは東行という坊主だ。 あなたは勘違いしておる」
刺客「東行か。 名前などどうでもいい」
高杉「どこの手の者か…。 長州高校の幕府側の刺客か」
                                     
 「刺客」刀を構え「高杉」に詰め寄る。

高杉「あぁ、久坂は死に 桂は行方不明、そしてクラスメート同志で『ばとるろわいある(殺し合い)』か。 なさけない」
                                      
 「刺客」の刀を逃げながらよける「高杉」
                                       
刺客「逃げるとは卑怯な。戦かわんかい」
高杉「はははは、おれは卑怯ものだからな。 今は自分の命が惜しいと思っている。 こんなところで命をかけるのは馬鹿らしいと思っているんだよ」
刺客「何?」
高杉「死すべきところで死ぬ。 その時は喜んで命を投げ出すつもりだ。 それまでは、たった一つの命、大切にせんとな。 それがおれの『ぽりしい』なんだよ。 あばよ」
刺客「あっ、待て…」

 さっさと逃げてしまう「高杉」。 それを追う「刺客」。


 暗 転。








第四幕/鏡の中の生態系


 「飛鳥」登場。「マスター」と「紺野」がラジオをきいている。

飛鳥「今回、如月に歌を歌わせようと思うですが、えっ、そうですよ。 歌詞は私がかきますよ。 いやーぁ、そんな謙遜しないでください社長。 彼女は私の期待を、いや期待以上の成果を出してくれていますよ。 彼女にはなんだか、まだまだやってくれそうな気がするんですよ。 彼女は普通のタイプではないと思います。 いえいえ、これはお世辞じゃありません」

 「飛鳥」退場。 そこへ紅色の傘と着物を着た「如月」が登場。




 

如月「私の好きな人は、一生懸命な人です。 何でもできるようだけど実は浅くかじっているだけで何もできない見せ掛けだけでなく、友達に自慢できるくらいのものをもっている人、それでもって、私の声援にちゃんと応えてくれる人なのです。 勝負に負けてヘラヘラしている人じゃだめ、悔しさで体中を震わしている、涙で顔中をくしゃくしゃしている、そんな姿に私は母性本能をくすぐられちゃうんです。 『別に… 厳しすぎると息苦しいよ。 楽しくみんなでワイワイ騒げればいいじゃん、遊びなんだから、そうしないとついてくる奴なんていないぜ』という意見もあります。 それはそれで『正しい』と思いますが、なんだか、とても諦めているようでつまんない。 やるからには『勝つ』。 徹底的にやる。 うまくなるためにじたばたもがく。 もう駄目だ俺なんでこんなことやってるんだろうといいながら、次の日にはまたやってきて、『無我夢中』でやっている。 そうやって自分を磨いている人に私ってまいっちゃうんです。 真剣に自分の魂と遊んでいる…あなたの姿に…」 
                                       
 一方では「マスター」と「紺野」がラジオを聞きながら、もう一方では「如月」が写真撮影をしている。


紺野「俺、この放送すきだなぁ」
マスタ「そうか」
紺野「俺、この声何処かできいたことあるような気がする」
マスタ「あぁ、この娘はおれの知り合いなんだよ」
紺野「えっ、マスターに有名人の知り合いがいたの?」
マスタ「あぁ、この娘はいい『言魂』をもっているよ」
紺野「言魂?」
マスタ「そう、言葉に魂が宿ることをいうのさ。 偉人は一言一言が言魂だから、一言一言が重みをますんだ。」
紺野「へーっ?????」
マスタ「DJにはそれがあると思う」
紺野「……」
マスタ「何故なら、彼らの一言一言がリスナーを力づけてくれるからさ。 魂のない言葉など偽りに他ならない」
紺野「……」
マスタ「人はだれでも言魂をもっているものさ。 でも、自分の言葉の大切さ、責任の大きさを知らない。 自分の言葉の起こす『奇跡』を知らないんだ」
紺野「奇跡?」
マスタ「君は奇跡に出会ったことがあるかい」
紺野「えっ、いえ」
マスタ「そうか、まだか、でもいつかきっと出会えるよ」
紺野「そうですか?」
マスタ「人間の知識の中に封じ込めている間はうまくいかないことであっても、ある時、絶望や諦めで投げ出してしまいがちになる。 そんな時、自分の知識を離れた時、予期せぬことが起きるんだよ。」
紺野「予期せぬこと?」
マスタ「自分の知らないところでそれは、動きだすんだよ」
紺野「動き出す?」
マスタ「まぁ、いい、君も早く出会えることを祈るよ」
紺野「ねぇ、マスター」
マスタ「うん?」
紺野「マスターって、ラジオのDJみたいだねぇ」
マスタ「そうか」


 「紺野」と「マスター」のところ暗転。
 「如月」の撮影終了。 舞台(の舞台)をおりる。 彼女は酸素ボンベを口にあてる。

如月「すーっ、はーっ、すーっ、はーっ…」

SV(男)C「くみちゃん、出番ですよ」
如月「はーい」
                                       
 酸素ボンベをとり、次の舞台へいく「如月」

如月「さぁ、『如月くみこ』というブランドを着る時間だわ」

「如月」そのまま舞台で立ち止まっている。





 「紺野」「寿」登場。 再び実験室に戻る。
                                       
寿 「どうです。気分は…」
紺野「あっ、いや…」
寿 「お顔の色が優れませんね」
紺野「いや、ちょっと、何か…」
寿 「えっ?」
紺野「坊さんが出てきたような」
寿 「坊主ですか…今度は…」
紺野「そう、なんでしょう?」
寿 「それはあなたの未熟な心を成長させようとする象徴として生まれたのかも」
紺野「そうなんですか。 なんだか、この中に出てくる人はみんな僕のような気がする」
寿 「そうですよ。全てあなた自信ですよ。 他人だけど、みんな自分。 彼らは自分の持っている何かから生み出されたものですよ」
紺野「そうですか」
寿 「まぁ、少し休みましょう」
                                       
 お茶(又は缶ジュースが出てくる)


紺野「あの頃は…怒りをもっていた。 でも、絶望の怒りだった」
寿 「絶望?」
紺野「あぁ、あの頃、ノストラダムスの大予言っていうのが流行って、子供心に人類は一九九九年に滅亡するんだとおもって…」
寿 「へーっ、それで絶望」
紺野「あぁ、予測できる未来はつまんないと思っていた」
寿 「確かに…」
紺野「いい高校いって、いい大学にいって、いい会社にいって、いい老後を送る」
寿 「それは、誰でもできる予言だ」
紺野「それまでの未来は予測できた未来だった」
寿 「確かに…」
紺野「だから、つまんないと思っていた。死んでいた、死んでるように生きていた」
寿 「ゾンビ人間か」
紺野「そんな時だ、信じてもらえないかもしれないが、僕はある声を聞いた」
寿 「声?」
紺野「わかんないが、なんか、言葉にすれば『出してくれー』って いっているような感じだったんだ」
寿 「へーっ」
紺野「その後だ。自分のヒーローに出会ったのは…」
寿 「ヒーロー」
紺野「彼は僕に夢見ることの大切さを教えてくれ、そして生きる方向をしめしてくれた」
寿 「へーっ」
紺野「衝撃的だった。 電気でうたれたようだったよ」
寿 「…」
紺野「そこから僕は本当に生まれたんだ、生きはじめたんだ」
寿 「ヒーローか」
紺野「それからさ予測不能なことが起こりはじめたのは…」
寿 「カオスの世界」
紺野「いろいろ予測できないから、不安だけど おもしろいもんさ」
寿 「面白いことはいいことだ」
紺野「一〇一回目の家出の時、おれはバイクで東京にきたんだ」
寿 「バイクで…」
紺野「それはもう、金もなく、宛もなく、疲れたけど…楽しかった。 自由さがあった」
寿 「自由…」
紺野「東京にきて、宛といったら、年の近い親戚か福岡にいたとき友人に紹介してもらった友人の友達だけさ」
寿 「…」
紺野「そいつは丁度、東京から帰省してて、僕は『もし、東京にいったら留めてくれ』と頼んだんだ。 そして本当に実行した。 そいつもまさか本当にくるとはとは思っていたらしく、驚いていたよ。 なんせたった一回しか逢ったことがなかっのだから…」
寿 「あつかましい」
紺野「そう思うよ」
寿 「その友人とは…」
紺野「わかんなくなった。名前もあまり覚えてなかったし、場所もその頃は東京は始めてだったから。 おまけに故郷の紹介してくれた友人も行方不明になって、もう…、まっいいかって思ったね」
寿 「おまえ、性格わるいなぁ」
紺野「それだけ、無茶だったけど、まぁ、なんとか生きてこれたよ。 その後いとこのところに転がりこんでたけどね」
寿 「根性あるなぁ」
紺野「俺って、いつもこうなんだ。 旅をするとトラブルが多いんだ。 アメリカに行った時なんて乗換の飛行機に乗り遅れて迷子になったり。 街中を金もないのに歩き回ったり。 旅行なのかトラブルに行くのかわからない。 まぁ、それが旅行の面白さかもしれないけどね」
寿 「僕は、旅行っていってもいつも同じだよ。 京都やハワイなんていってもいつもいいところ、美しいところ、観光観光している。 そこで写真を撮ったり、お土産を買ってもどってくる。 そして写真をスクラップして、後で見て楽しむんだ。 ただそれだけワクワクすることやトラブルなんてない安定した旅行。 まるで自分の人生と同じ」
紺野「人生?」
寿 「そうさ、きみはいつもトラブルな人生を好むね」
紺野「好きじゃないよ」
寿 「でも、ワクワクするだろう」
紺野「うーん」
寿 「僕は、だからこの会社に入ったんだ。 自分じゃできないから、せいぜい人のワクワクするのを見てワクワクしようと思って。 このバーチャル装置の中に入る人達の情報を眺めているだけで…」
                                      
 「HMD」を磨く「寿」(黄昏ている)


紺野「やりたいんだろ」
寿 「傷つきたくないんだ」
紺野「またぁ、どこかの恋に怖がっているやつみたいなこというな」
寿 「きみのようにズタズタになりたくないんだよ」
紺野「うーっ、ハートブレイク。夢に失恋してしまった」 
                                      
 「紺野」倒れる。


寿 「だいょうぶか」
紺野「初恋とはありあまる好奇心と少量のおろかさ!」
寿 「バーナードショーからの盗作だな、それ」
紺野「どうして戦わないんだ」
寿 「戦う?」
紺野「逃げ回ってばかりいる」
寿 「僕には僕の考えがある」
紺野「ここで戦わないならどこでも同じだよ」
寿 「過激になってきたな。この装置のせいか?」
紺野「えっ」
寿 「本能に目覚めてきたのか」
紺野「そんなことはない。俺は…」
                                        
 「紺野」後づさりする(退場)。





 「如月」にスポットがあたる。 ラジオのチューナー雑音が鳴りひびく、そこから声が聞こえる。

SV(男)A「なんや、いきなりいっしょにうたえないって…」
SV(男)B「そうや、そうや、売れてるからっていいきになるなよ」

如月「あなたたちとは、出来ないのよ」

SV(男)C「どうしてだ」

如月「とっても、楽しいの」

SV(男)A「理由になってない」
SV(男)C「そうや、それならよけいいいじゃないか」

如月「私たちはプロよ」

SV(男)B「そうや」

如月「あなたたちは、自分たちのやりたいことをやっている」

SV(男)B「それがあたりまえや」

如月「まわりの迷惑を考えてない」

SV(男)C「ロッカーはそうなんや」

如月「雑音だけでいい迷惑よ」

SV(男)A「なんやて…」

如月「バンドは調和が必要なのよ。 ひとり、ひとりのテクニックの表現の場じゃないわ」

SV(男)B「そんなことはない俺たちはちゃんと…」

如月「昔、高校時代にバスケをやっていたとき、キャプテンがこういったのを思い出したわ。 私たちはみんな旨いチーム。 個人個人、県でもレベルは高いわ、でも、どうして勝てないと思う。 楽しくバスケをして、そして勝てない。 楽しくバスケをしてそして勝てない。 勝つことに欲がないのよ。 私たちは同好会といっしょよって」

SV(男)A「ど、ど、どうこうかい」

如月「彼女はこうも言ってた『本当は私が引っ張らないといけないけど、私にはできないと何故ならそれが一番私にかけいるものだから』と、あの時の意味がやっとわかったような気がする。 飛鳥は見栄えのいい見せ掛けだけの音楽をつくろうとしてたのね。 でも、やっとわかったわ、あなた達のおかげで…」

SV(男)B「なに」

如月「意識ね。アマチュアバンドからきた貴方達のおかげで見えたわ」

SV(男)A「でていけ…」

如月「私は人形じゃない。 自分の人生は自分で行きたいの。 他人に踊らされる人生なんてまっぴらなのよ。 さようなら…」

  「如月」カードをとりだし、読む。

如月「一生懸命生きてるから落ち込むことだってあるんだよ。 だって今まで俺、落ち込んだことなかったんだ。 それだけ一生懸命でなかったのかも ・・・DJへ」

 「如月」退場。

 暗 転。




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