議院内閣制と大統領制

 先日、衆議院が解散され、総選挙に突入しました。今回の解散は、憲法7条3号に基づいて行われました。憲法は、7条3号と69条で衆議院の解散を規定しています。このうち69条は衆議院で内閣不信任決議案が可決された場合に関する規定なので、今回は適用がありません。今回の解散は7条3号に基づき解散です。7条3号は天皇の国事行為である衆議院の解散について規定していますが、これは7条に内閣の助言と承認に基づいて行うと規定されているので、内閣は7条3号に基づき衆議院を解散することができると解釈されています。

 衆議院が解散されると、40日以内に総選挙が行われ、その選挙の日から30日以内に国会が召集されます(憲法54条1項)。そして、内閣は、衆議院議員総選挙の後に初めて国会が召集されたときは総辞職し(憲法70条)、国会は国会議員の中から内閣総理大臣を指名します(憲法67条1項)。内閣総理大臣の指名が衆議院と参議院とで異なる場合には衆議院の指名が優先する(憲法67条2項)ので、衆議院で何かく総理大臣に指名された者が天皇により内閣総理大臣に任命されます(憲法6条1項)。日本では国会が国会議員の中から内閣総理大臣を選出する制度を採用しています。また、内閣総理大臣が任命する国務大臣(いわゆる大臣)の過半数は国会議員でなければなりません(憲法68条1項)。そして、憲法69条1項は衆議院に内閣不信任決議を可決する権限を有し、内閣はこれが可決された場合、10日以内に衆議院を解散しない限り、総辞職しなければなりません。

 このように日本では国会が行政権の長である内閣総理大臣を指名するほか、衆議院には内閣総辞職という法的効果を発生させる内閣不信任決議権が認められていることから、内閣は国会の信任に基づいて行政権を行使する制度が採用されています。これを議院内閣制といいます。

 これに対して、アメリカでは国民が大統領選挙人を選出して、大統領選挙人の投票により行政権の長である大統領が選出されます。また、日本の国会に当たる連邦議会には大統領不信任決議権はなく、大統領には連邦議会の上院、下院いずれの解散権もありません。このように大統領が議会の信任に基づかずに行政権を行使する制度を大統領制といいます。

 ときおり、日本でもアメリカのように国民が直接内閣総理大臣を選出できるようにするべきだという意見が述べられます。このような制度を首相公選制ということもあります。しかし、日本とアメリカとで行政権の長の選出方法に本質的な違いはあるのでしょうか? アメリカでは国民は大統領選挙人を選出しますが、大統領選挙人はあらかじめどの候補者に投票するかを明らかにしています。つまり、アメリカでは国民は大統領選挙人がどの候補者に投票するか知ったうえで投票しています。日本では、衆議院総選挙後の国会で内閣総理大臣が指名されるので、衆議院総選挙は誰が次の内閣総理大臣かを決める選挙でもあります。各政党の候補者は、召集された国会で行われる内閣総理大臣の指名選挙では、所属する政党のトップ、あるいは政策協定等を結んだ政党のトップに投票することは明らかです。すると、同でしょうか? 衆議院議員を内閣総理大臣選挙人と見た場合、アメリカの大統領選挙人による大統領選出とほぼ同じだと思いませんか? 少なくとも、行政権の長の選出過程は、議院内閣制と大統領制とではそれほど違わないと思いませんか?

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