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科学的根拠って何ですか?

 新型コロナウイルス感染が拡大してきた2020年、いわゆる「空間除菌グッズ」が各社から販売されていた。二酸化塩素などの塩素化合物を放出して、自分の身辺のウイルスを除菌するという商品である。
 代表的なのは大幸薬品から販売されているクレベリンシリーズで、室内に置いて二酸化塩素を発生させ、室内の除菌をするというものが主流であった。
 2020年にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染者が出て、船内で次々と感染が拡大、多くの方が尊い命を失ったのを覚えている方も多いだろう。そのころ大幸薬品の柴田社長が、「ダイヤモンド・プリンセス号にクレベリンを無償で提供します、と対策本部に申し入れたけれど受け入れてくれなかった。もし受け入れてくれていればあんなにたくさんの感染者を出さずに済んだはずだ」と息巻いていた。対策本部が受け入れるはずはない。クレベリンは医薬品でも医薬部外品でもなく、雑貨として売られているものである。厚生労働省も効果を認めておらず、実際私が大幸薬品の商品説明を読んでも、効果があるとはどうしても思えなかった。確かに塩素は水道水やプールなどの殺菌に使われている。しかし室内のウイルスを瞬時に除菌できるほどの塩素化合物を室内に充満させると中にいる人間も害を受けるほどの濃度になるはずである。クレベリンで健康被害が出たことも報告されているくらいである。
 実は私の家でも、妻が買いこんできて、いろいろなところにクレベリンを置き、首からかけるタイプのものを、私に「使いなさい」と渡してきた。私が「科学的に効果が示されていない」と言ったところで、怒りだすだけなので、黙って受け取って首から下げていた。二酸化塩素も、塩素ガスも、空気の倍くらいの重さがある。首から下げてもガスは下に落ちていくだけで、絶対に顔の周りには上がってこない。ましてや、広いバスの車内やコンコースで、小さな空間除菌グッズから放出されるガスは、あっという間に拡散して効果がない濃度になってしまう。もし、メーカーが言う通りの効果があるのなら、厚労省が医薬品あるいは医薬部外品として認定するのではないか。
 それでも、人はいろいろな商品に飛びついてしまう。「藁にもすがる思い」とはこういうことを言うのだろう。大阪府の吉村知事が、「イソジンでうがいしてからコロナの検査をすると陽性にならない。」と発言したことで、店頭からイソジンが消えたという事件があった。少し考えれば、イソジンでうがいすれば唾液の中のウイルスは殺菌されてしまうのだから、唾液で検査しても陽性になるわけがない。うろ覚えで申し訳ないが、吉村知事はイソジンでコロナにかからなくなるとは言っていないと記憶している。
 確かに、新型コロナ感染症は「ただの風邪」ではない。志村けんが亡くなり、岡江久美子が亡くなってショックを受けた人も多いだろう。毎日のように感染者数や死亡者数が発表され、「自分はかかりたくない」と誰しもが思っていたはずである。私も昨年11月に感染したが、熱ものどの痛みもすぐになくなったが、倦怠感がとれず、1週間ほぼ寝たきりであった。感染させる心配がなくなった1週間後、出勤したが教壇に立って授業することができず、黒板の前に座って授業していた。パワーポイントを使って授業するようになっていたので、それで何とかなったが。
 「空間除菌グッズ」位なら、それほど害はないのかもしれない。しかし、人の弱みにつけこんで、さも科学的に効果があるように装った商品を売り出す会社が出てくるのである。今はネットでいろいろな情報が飛び交う時代である。「科学的根拠があるっていっているから効果がある」ではなく、「それ科学的に正しい根拠なのか」を見分ける力が必要な時代となっているのである。


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