教訓

最近の僕はというと
熱を出して自粛していた。
ご時世もご時世だったので、
もしや。と思い、近くの内科に駆け込んだ。

熱と言っても
「うわ、これやばいかも」程度の熱では無く、
38度の「やばいんだぁ」の熱だった。
だから近くの内科に駆け込んだ。

これは言葉の綾で実は駆け込んではいない。
でも、近くの内科には本当に行った。
近くの内科にゆっくりと歩いて行ったのだ。
その代わり、焦燥感はあった。
あってこその駆け込んだ。だ。
歩みは遅くとも、気持ちは急いでいた。
気持ちだけが先走り、体が追いつかない感じだ

言葉の綾だ。
実は気持ちも急いでいなかった。
急いでいたらcreepy nutsとかを聴く。
チェケラッチョのエキスパートを目指す。
でも僕はミスチルのバラードを聴いていた。
舐めるように聴いていた。
なんならほんのりと口ずさんでいた。
どうあがいてもしゃーない。
チェケラッチョのエキスパートの器じゃない。

PCR検査を受けようと内科へ。
僕よりひと回り半くらい年下の男の子が
僕の前に座っていた。
「こんなに小さいのに大変だなぁ。」
「PCR検査って何すんのかなぁ。」
「Uber eats今日くらい使ってもいいよなぁ」
とか考えていると
男の子が検査場へとお呼びを受けた。

さっきまでギャーギャー騒いで
僕がちょっと眉を顰めて見ていた男の子が
「ギャーギャー」騒ぎ始めた。
背筋が凍る、PCR検査とはなんなのだ。
耳を傾けて見ると。
「NO!!NO!!!!!」
と叫んでいる。純日本人では無かったのか。
そしてPCR検査。お前はいったい。

PCR検査がなんなのか考えてみる。
男の子の叫び方を見て、大抵の予想はつく。
管を入れるのだ。きっと管状の何かを。
身体中の何処かの穴に。

まず、思いついたのは鼻の穴だ。
インフルエンザの検査も棒のようなものを鼻に突っ込んで鼻に突っ込んでこねくり回す。
やめてくれ。大人子供関係ない。痛いんだ。
大人になったからって鼻の穴は鍛えられていない。急所なんだ。薄いんだ。粘膜なんだ。血管に1番近い場所なんだ。なんで傷になりやすいところを執拗にこねくるんだ。悪魔か。貴様らは。本当の悪魔は人間だ。絶対に目に物を見せてやりたい。そのために従業員の顔を1人ずつ覚えておくことにした。てめーらの顔覚えたからな。

次は耳の穴だ。
耳は良い。耳なら良い。
耳かきは気持ちが良い。
自分でするより
人にしてもらった方が格別にいい。
検査が耳かきだったらとても良い。
…でもインフルエンザの検査では
鼻の奥の奥までこねくり回された。
僕自身も鼻にそこまで奥がある事を
インフルエンザの検査で知ることが出来た。
奥は辞めてくれ。鼓膜がある。
まだ聞きたい声がある。聴きたい歌がある。
うずまき菅か。
お前らの目的は俺のうずまき菅だな。
外国に高くで売るつもりだな。
この侵略者め。顔、覚えたからな。

考えたくないが尻の穴もある。
考えたくないので考えるのをやめる。
意味がわからない。ナンセンス。

ちょっと逃げたくなったが22歳なので
涙を拭いて我慢した。
お父さん、息子さん我慢できる子ですよ。

男の子が帰ってきた。
やっぱり純日本人だった。
きめ細かやかな肌が涙の後で少し荒れていた。
お前はよく戦った。
心の中で二階級昇進させてあげた。

看護師が僕に声をかけてくる。
「米田さん」
待ってくれ、まだ心の準備が。
「ちょっと消毒するので待ってくださいね」と

「ふん、死ぬのが少し遅くなるだけだ」
って顔をしていた。

看護師の会話を聞いていると
「あんなに暴れられると困りますよね」
「全く、消毒液がいくつあっても足りないわ」
って会話をしていた。

この悪魔め。
勇敢にも闘った戦士を愚弄するか。
沸々と怒りが込み上げてくる。

しかし、怒りはすぐに不安へと変わる。
「もし、通す管が一つだけじゃ無かったら…」


「米田さん!!」


「はい!!」


反射で大声が出た。
これは中学の頃、ヤンキーの先輩に
「集合!!」と言われた時の悲しき習性だ。
殺されないために如何に疾く、
強く返事をするかが、
弱きものが生き残る術だ。

検査場で椅子に座ると
マニュアルが書いてある。
「今すぐ準備しますからね」と悪魔。
少しも時間はくれないか、
するとある一文がさっと目に入る。

「看護師さん!!」


「どうされました?」


「30分以内に何か食べてます!!」


えっ、どうしましょうと言わんばかりに
裏へと下がる悪魔。撃退。
実際、食べたのはのど飴のみだったが
飴だって食べ物だよ、なめんな。


「大丈夫みたいです」


大丈夫みたいだ。
さよならふるさと。




実際のPCR検査は
唾液をある程度出すというものだった。
ストローを通して。
皮肉にも僕はその作業が上手かった。
舌づかいが上手かった。
舌づかいを活かした外仕事待ってます。


結果は陰性だった。
よかった。関係者に迷惑がかからない。
肩の荷が降りた。

肩の荷が降りて、
陰性であったことをバイト先に報告することを忘れた。2月のシフトが全部空白になった。
ウケる。どうしたらいいですか?


でもこの一連の流れで学ぶことが出来た。
大人になっても学ぶことはある。
予習の大切さ(PCR検査とは何か?)
バイト先への連絡の大切さ
そして

お笑い出来る歓び。
久々に授業出たら楽しかった。
大きな声を出すって最高。サイエンコーウ!!

相方が気を使って、
時給3000円のアルコール撒くバイトを紹介してくれたが、なんか裏がありそうなので余裕を持って断った。

ZOZOTOWNのツケ払いがあるというのに




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