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セカンド・スパンクハッピー・レトロスペクティヴ <DJ premier jour> 4/12 代官山UNIT

開場の五分後ぐらいの時間に代官山UNITに着いて目にしたのは道を埋め尽くす人だかり。「令和の時代にスパンクハッピーに行列ができるんですか!?」という衝撃がまずあった。
幸いにも一桁代の番号のチケットだったので、バーカウンターでジントニックを注文し、喫煙所で煙草を一本吸った後でもフロア右前方のけっこういい位置を確保することができた。

しばらくして、まだライトアップされていないステージの暗がりに黒のドレスシャツにデニムというラフな格好の菊地成孔が現れる。短いMCを挟んだあと、「ジャンニ・ヴェルサーチ暗殺」からセカンド・スパンクハッピーの音源オンリーのDJが始まった。

フロアに爆音で流れるのは学生時代、現実逃避にiPod touchで繰り返し聴いていた曲たちである。しかし音源にはリマスタリングが施されており、慣れ親しんだものとは質感がやや変わっていて、決して安易にノスタルジーに浸るようなことはさせてくれない。

リマスタリングはクラブ用途にも耐えられるよう、主に低音をビルドアップする形で行われたらしい。満員のライブハウスの空間で、かつ低音がバキバキになったトラックで密室的で倒錯的なスパンクハッピーの歌詞を聞くというのは、まるで公衆の面前でいきなり裸に剥かれるような、目眩のするようなむしろ新鮮な喜びがあったように思う(特に「フロイドと夜桜」のサビの低音が物凄く、スピーカーの近くで聴いていると意識がブッ飛びそうになるほどだった)。

この日何度かマイクを握った菊地成孔が強調して語ったことを要約すると、歌詞の意味を理解せず全くの感情を込めずに歌う岩澤瞳こそ、来たるAI時代のシンガーの先駆けであったということだった。かくしてレトロスペクティヴが安易なレトロスペクティヴにならず、否が応にも現代(もしくは不可視の未来)と接続してしまう所がまさしく菊地成孔が菊地成孔たる所以であり、彼の活動をもう十年以上も追い続けている理由なんだろうなと思うのでした。

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