わたげ

昨日、東京体育館で車いすラグビーのアジア・オセアニア国際大会を観戦してきた。

私が見た試合は、日本対ニュージーランドだった。
ニュージーランドに伝わる、伝統的なハカと呼ばれるダンスは圧巻だった。
普段みかんを貪りながら鼻くそをほじって、テレビ中継から流されるハカしか見てこなかった私にとって、それは貴重な体験だった。


観戦後大学に戻った私は、この感動をいち早く友人にも伝えたく、必死になって説明した。「、、、それで黒いユニフォームを着たごりごりのイケメンたちが、、、」ここまで喋ったところで、友人が突然話を遮った。


そして「鼻毛出てるよ」と一言私に告げたのだった。


とてつもない熱量と今自分は鼻毛が出ている状況の温度差に戸惑った私は、”オッケー”と”えへへ”が混同した「え、あ、まじ?おけけけけけ」と毛を連発させる謎の返答をしてしまった。


それを見かねた友人がハサミあるよと気を遣って言ってくれたが、数少ない私のモラルたちが伸ばしかけた手にストップをかけたことにより、人のハサミで鼻毛を切るという奇行には至らなかった。


よってその場は押し込むという荒技でなんとか凌いだが、その後さらに私を追い詰めたのは、試合を観戦してから、友人に話すまでのどの段階から出ていたのかがわからないことだった。


観戦後、なぜか多くの人に感謝を伝えたくなった私は、スタッフの方に「ありがとうございました。めちゃくちゃ興奮しました‼︎」と声高に伝えたからだ。もしこの時既に出ていたのであれば、スタッフの方は「点数が入る度、鼻息を上げて喜んだのだろうな」と思われていただろう。


また一つ、自分の理に反して生えてくる毛に恨みを抱くこととなったが、熱心に友人に語っていた最中に飛び出たのだろうという解釈に至ることで、落ち着いた。


帰宅後、押し込まれた毛たちをカットしていると、カットされた毛の一本に、小さなわたげがついていた。



東京体育館の周りには、植物が生い茂っていたことをふと思い出した。


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