マガジンのカバー画像

Poem 333

56
ブログ・電子書籍・コンクール入選・・・既発詩から厳選して採取採集。
運営しているクリエイター

#文芸祭

若者時代世代

肯定も否定もされず 曖昧な「いいと思うよ」で ぬるま湯の中 認められも許されもしないまま 漂い続けている たぶんこれからもそんな予感 時代 といってしまえばそれまでだが 世代 といってしまえばそれまでだが 少子化や晩婚化を背景に 草食と肉食に振り分けられてしまいがちでも その本質で蠢いている雑食精神 内向きやら受け身やらなんやらと レッテルを貼られがちな氷河期にあっても その深淵には燃え滾る暖炉がある 悲観しようと思えば いくらでも悲観できてしまう 絶望しようと思えば

透明な黄金色の額縁

ニット帽の幼女 白髪交じりの老女 スクロールする駐車場で 台本でもあるかのように立ち止まる 言語なき会話 紡がれる身振り手振りの無重力 窓越しに観察する月曜日のわたし 縁取る午前の陽光 遮り始めた厚い灰色の雲 促されるようにして 幼女の母はマフラー片手にやって来る 水たまりもないアスファルトにも関わらず 陽光はプリズムと見紛うばかりの細やかさで 透明な黄金色の額縁そのものとなり その三人を静かに縁取っていく 世界は わたしが想うほど 素晴らしいものではないのだと 世界

シャッターだけが降り注いでいた

ひまわりを背に 端正な顔立ちがしっとりと崩れてゆく シャッターの音が シャッターの音だけが あたり一面に 静かに 降り注いでゆく 火曜の午後 思いつくまま講義をすっぽかし キミを連れてやって来た 壮大なひまわり畑 夏はまだまだこれからと 自分で自分に言い聞かせたくて 雑誌カメラマンを真似て その儚さを 永遠にしようと想った 振り切るように 思い出すように ふいに走り出すなめらかな被写体 その姿を追ううちに 撮ることが どんどんカタルシスに どこに行くかさえ聞かず 黙っ

帰れない帰りたい

「帰りたい。  もう一度帰りたい」 顔を合わせるたび 口に出る台詞 帰れない 当分、帰れない 下手すれば 一生、帰れない わかっているから なんとなくでもわかっているから 口にせずにはいられない 「帰りたい」とくり返さずにはいられない 幼くても 周りの大人やら テレビのニュースやら 学校での噂やらなんやらから 敏感に 嗅ぎ取っているのだろう どれだけ除いても どれだけ洗っても あの頃の風景は帰ってこないと あの頃の世界にはもう帰れないと 自然と 口癖になったのではな

土曜日の虹

梅雨を経て 伸びに伸びきった芝生 さすがにそろそろ刈らなければと 精を出した 真夏手前の土曜日 芝刈り機を 買うほどでもないスペースに身を屈め 剪定バサミで チョキチョキ、こつこつと芝を整えていく とことん綺麗にしても すぐにボウボウと元通りになる季節 あまり神経質になりすぎず 大まかに芝の高さを揃えていく 休憩を挟まず 一時間くらいかかって まあまあの見栄えが完成 汗や風とともに 散髪に行った後のような爽快感が流れる 剪定バサミを片づけ ほうきで刈った芝を集め 可燃

北東の水族館

「キレイ」 そう指差す先にあるものを 同じように キレイと思えなくなって久しい 自分で精一杯 半径1メートルの事さえボンヤリ そんな時にも 作為のない共感で 「ほんとキレイだね」と 相槌を打っていた自分がちょっと懐かしい 帰りの地下鉄で 僕らの前に座っていた五十過ぎの男性 両手に荷物をもったおばあさんが来るなり さっと立ち上がって 無言の右手で席に座るよう促し 隣の車両へ歩いていった あんな風に 器用に スマートに これから僕は キミのために 誰かのために 何かを 真っ

パラノイア・セッション

ずっと 近づけば近づくほど 絡まって 離れれば離れるほど 解けてゆく そう、信じていた それが突然、真逆へと雪崩れこむ 近づけば近づくほど 解けて 離れれば離れるほど 絡まってゆく 深い窓を見つめながら ネオンの背中を撫で 懐かしい あたらしい 自分と出逢い 細い夜を越えながら 涅槃の吐息を重ね 知らなかった 知っていた あなたと出逢う 幸せとは何かと 考えられる幸せに包まれたまま この時の代償を 今日も世界のどこかで 誰かが 何かが 被っていること 忘れそうになる

あの日から

「大丈夫ですか?」と聞かれ 「大丈夫ですよ」と答えるばかり 勢いで 喜怒哀楽を漏らして 記憶の海原に投げ出されるくらいなら 1つも残さず グッと呑み込み しまっておいた方がまだいい 何もかも 誰も彼も つけられる はずだった無数の句読点を置き去りにして・・・ いっそ あの日に物語という物語が      おわってくれていたら           楽になれたのかな・・・ 不謹慎? そうかもね。 でもね。 そう、思わずにはいられないんだよ・・・ 前を見つめる眼差しに 上を

知らずに済んだフクシマ

ミリシーベルト、ミリシーベルト、ミリシ・・・ 一生、知るはずのなかった言葉 ベクレル、ベクレル、ベクレル、ベクレル・・・ 一生、知らずに済んだはずの言葉 一大キャンペーンのように バラ撒かれた バラ撒かれた 津々浦々にバラ撒かれた 無知は黙認に等しく 無関心と何ら変わりないこと 痛切に実感した 福島がフクシマになってしまってようやく 数値に求められ 毒気を抜かれたリスクとコスト 一つの天秤に乗せられ 維持を前提とし 見え透いた古典原能を誇大踏襲 「今、福島原発はどうなっ

君がいなきゃ

君がいなきゃ                            醤油さしがどこにあるかわからない 君がいなきゃ                            大好物の中トロもさほどおいしくない 君がいなきゃ                            窓の花もそんなに綺麗と思えない 君がいなきゃ                            チャンネルの取り合いもできない 君がいなきゃ   

真っ黒な整列

指先に残る感触 現実感以上の幻想感 痺れるような弛緩が止まない直後 人差し指と親指が反射した いや、決断した 正義という大義の下で 防衛という前提の下で   なされた 論理的な思考とも思えぬ一連の帰結 感情的な思考とも思えぬ一連の帰結 理性的な思考とも思えぬ一連の帰結 人間的な思考とも思えぬ一連の帰結 刹那  突っ伏した背中 刹那  湧き上がった安堵 刹那  淀んだ背景色         ( 第49回 大垣市文芸祭 詩の部 佳作 ) ----------------