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Poem 333

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ブログ・電子書籍・コンクール入選・・・既発詩から厳選して採取採集。
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2021年5月の記事一覧

永劫回帰命題

振り返る べき時じゃない時に振り返り ああでもない こうでもない 結論なき迷路へと進んで迷い込む 何もかもが 芳しい手招きで誘っている 目移りさせていては消失の一途だよ 何を犠牲にして 何を無駄にして ここまで来たのかなんて考えても それらしい答えなど それらしい応えなど 永劫回帰を思わせるしぶとさで 命題は巡り巡って さっき昇ったばかりの陽を落としていく その横顔だけで満たされたなら こんなに悩まずに済んだのかもしれない 時間軸に犯されてしまった 「孤独」とはもう呼

深紅のトースター

何をやってるんだ 何がしたいんだ 続く晦渋の自問自答が虚空に響く 嘘で塗り固めた経歴は 当人でさえもいつからか どこからどこまでが嘘なのか 真実と見分けがつかなくなってしまった 身勝手な原罪意識がもたげ 相槌を打つことさえ 打算に過ぎないのではと躊躇わせる 白銀の摩天楼 焦がれた思春期の残像 齧り倒した喪失の初春の名残 狂おしい濃度で畳み掛けるすべては 走馬灯のようにもったいぶった加速度で あらゆる神経を瓦解させ 深海へと不埒に寄せては返していく 五感が不感症を患って久

若者時代世代

肯定も否定もされず 曖昧な「いいと思うよ」で ぬるま湯の中 認められも許されもしないまま 漂い続けている たぶんこれからもそんな予感 時代 といってしまえばそれまでだが 世代 といってしまえばそれまでだが 少子化や晩婚化を背景に 草食と肉食に振り分けられてしまいがちでも その本質で蠢いている雑食精神 内向きやら受け身やらなんやらと レッテルを貼られがちな氷河期にあっても その深淵には燃え滾る暖炉がある 悲観しようと思えば いくらでも悲観できてしまう 絶望しようと思えば

透明な黄金色の額縁

ニット帽の幼女 白髪交じりの老女 スクロールする駐車場で 台本でもあるかのように立ち止まる 言語なき会話 紡がれる身振り手振りの無重力 窓越しに観察する月曜日のわたし 縁取る午前の陽光 遮り始めた厚い灰色の雲 促されるようにして 幼女の母はマフラー片手にやって来る 水たまりもないアスファルトにも関わらず 陽光はプリズムと見紛うばかりの細やかさで 透明な黄金色の額縁そのものとなり その三人を静かに縁取っていく 世界は わたしが想うほど 素晴らしいものではないのだと 世界

シャッターだけが降り注いでいた

ひまわりを背に 端正な顔立ちがしっとりと崩れてゆく シャッターの音が シャッターの音だけが あたり一面に 静かに 降り注いでゆく 火曜の午後 思いつくまま講義をすっぽかし キミを連れてやって来た 壮大なひまわり畑 夏はまだまだこれからと 自分で自分に言い聞かせたくて 雑誌カメラマンを真似て その儚さを 永遠にしようと想った 振り切るように 思い出すように ふいに走り出すなめらかな被写体 その姿を追ううちに 撮ることが どんどんカタルシスに どこに行くかさえ聞かず 黙っ

つまり、月夜に追憶27

つまらなさを嘆き つまらなさに沈み つまらなさを助長し つくべき嘘をつかずに つかなくてもいい嘘をつき 強がることに慣れ つながることを恐れ ついたて越しのよそよそしさで つんつんとした殻を被り つくづく心だけ幼いまま つくづく体だけ老いながら 付け焼き刃な涙を添えて つぶらないつかの瞳 艶やかないつかの仕草 つんざくようないつかの歓喜 つまびらかな追憶に 追憶を重ね重ね 付かず離れずな陰影くっきり 追従する受け身を引き摺りながら 追悼するような謙虚を忘却したまま 月夜に つ