「耳触りのいいその声が、好きだと思った」

結局のところきっかけなんてものは、些細であり単純なのだ。
ドラマチックな展開も、運命的な出会いでもない。
ただ、たった一つの要素が私の心を奪い、
彼をもっと知りたいと思わせた。


いくつかのデートを重ねて、私たちは結ばれた。
私の告白は彼にとっては予想外の内容だったのか、素っ頓狂な顔をしていたので思わず笑ってしまった。

時間を重ねるごとに彼を沢山知り、好きなところも沢山増えた。
普段は私のわがままを受け入れてくれるのだが、変なところで頑固で、そういう時は絶対私が折れることになる。
ただ、彼は案外分かりやすく、最近は目を見ただけで何を考えているかわかるようになって誇らしく感じていた。
彼を一番理解しているのは私なんだと。


そんなある日、彼の親から電話があった。
「彼が病気で入院した」
あまりに突然のことで、それ以降は何も耳に入らなかった。
とても話せる状態ではなかったため、すぐに電話を切ってしまい呆然としていた。

しかししばらく経ってから、
「今一番辛いのは彼であり、それを支えるのは恋人である私なんだ。」
そう思い、一刻も早くそれを伝えるために、目元の赤みもそのままに彼の元へ向かった。


病室のベッドにいた彼は少し痩せているように見えた。
「元気?」
気丈に振る舞おうと冗談混じりに声をかけると、彼はこっちを振り返り、私の顔を見て少し笑った。
「急に入院って言われてびっくりしたよ。
なにがあったの?」
彼は小さく首を振った後、少し目を細めてまた微笑んだ。

彼の瞳を見た時に私は全てを悟った。
そして、私は改めて彼のことが好きなんだと実感した。

あぁ、私の好きな優しくて頑固な彼だ。
一度決めた事は曲げない、いつだって私のことを一番に考えている素敵な彼だ。

(君なら、僕が何を考えているか分かるよね?)
そう"言って"いる彼に、私は頷くことしかできなかった。

彼はそれを見て満足そうにまた微笑んで、頷き返した。
黙って頷いたその瞳があんまり優しくて泣いてしまった。

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